転移した世界がクソだったんで魔王を作る事にした。

DAKUNちょめ

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第一章

13ー漂流。

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俺は、通った記憶もない災害被害に遭った学園からの転校生というカタチで、都心から少し離れた場所にある学校に入った。


大災害の唯一の生存者として俺の存在はメディアで大きく取り上げられており、新しい学校でも俺を知らない者は居なかった。

だが本当の俺を知る者は、この世界に誰一人として居ない。



興味本位に悲惨な話を聞きたくて話し掛けて来る者、大変な目に遭った俺が精神的に傷付いているだろうと必要以上に親切心を見せる者。


反応は様々だ。


俺は誰とも会話をしなかった。
口がきけないほど精神的に参っているのだろうと思ってくれているならば、それで構わない。


誰とも馴れ合いたくなかった。
また、こことは違う何処かに飛ばされたら……
クラスメート同士での潰し合いが始まる可能性だってある。
俺は誰ともつるみたくないし、誰かを守る気も無い。

そうなったら俺は皆から距離を置き、単独で動きたい。


俺は常に臨戦態勢に入っていた。
いつ、どのように襲い掛かって来るか分からないが確実にその時は来る。
それだけは分かる。



━称号∶意思なき意志により流され漂う者。━



俺のステータス画面に表示された称号とやらが「俺」を物語るように、俺はまた流されて漂うのだろう……。

俺は、異世界への漂流者なのだ。


「武器になる物を持ち歩けないのは不便だよな…
あー使い慣れた刀…
葵にぶっ刺したまんま前の世界に置いて来たな…。」


以前異世界に飛ばされた時は、最初に持つ武器の入手が困難だった事を覚えている。
ホウキやモップが初期装備、それもクラスメート全員分は無い。

そうそう…大輔なんかでっかい三角定規を持っていたな。


「大輔………。
お前が生きていた世界はもう、どこにも無いけど…俺は絶対に倒れない。お前との約束は守る。
それが、お前が生きていた事の証となるなら。」


時々……大輔や葵と共に過ごしたあの教室は、現実では無かったのじゃないかと思ってしまう時がある。
大輔の存在自体が希薄になりそうな時がある。
だから大輔との約束を強く胸にいだく。

大輔は居た。ちょっと可笑しな厨二病な俺の親友は確かに存在したのだと。
また流されても飛ばされても俺は倒れない。
数多の世界を漂う理由を知っていそうな、葵を取っ捕まえるまでは……





違う世界に飛ばされる。
その時は、思ったより早く俺達に訪れた。


俺が転入して一ヶ月経った頃にはクラスメート……いや、教職員全て含めて学校内の誰もが俺から距離を置くようになった。

そっとしておいてあげよう━━そんな体で腫れ物扱いされる様になった俺は学校内で孤立状態となった。
そうなる様に仕向けていたので、それは構わないのだが……


「校門閉めるぞ!遅刻者になりたくなかったら走れ走れ!」


登校時間、もう殆どの生徒が校舎の中に入っており遅刻ギリギリで走って校門に滑り込む生徒達が十人ばかり。
俺は走ってはいなかったが、時間ギリギリで校門をくぐった。
その瞬間、聞き覚えのある甲高い……

世界が軋み、ひび割れる音を聞いた。



「!!!嘘だろう……こんな所で…」




━━━ヴォォン━━━━キィィン━━━



校門の辺り一帯に居た教師一人と学年もバラバラの生徒が十人。
俺を含む12人が、そのまま違う世界へ飛ばされた。













攻撃手段が欲しいと言うから銃を貸したダイが……

俺が渡したベレッタを構えて何度も角度やポーズを変えながら、撃つ真似をしている。
少しばかり、攻撃手段を持った自分に酔いしれている感じがする。


「止まれ!」「放つぞ!」「倒されたくなければ動くな!」


人間を攻撃したくないと言ったダイ。
だったら構えた相手はモンスターではないのか。
言葉は通じないだろ。
つか、構えたら撃つしかないと教えたろうが……。

それにしても、ダイにとって銃は魔法の杖みたいなモノだと思われているようだ。

撃つ、ではなく放つ。
まあ、好きに言えばいいが……どうせ言葉が通じないモノが相手なんだから。


ひとしきりポーズを決め、自分なりにカッコいい構え方が分かったのか、ダイが満足げにニンマリと笑んだ。
ひと仕事終えた様な顔をしている。


「ダイ、さっきも言ったが…そいつを構えたなら、相手は死ぬと思えよ。牽制には使えない武器だからな。
お前がそいつを制する強さを持たないと、構えた時点で相手を弾く。」

「う、うん分かった……。
ねーニイチャン、ニイチャンって…この世界に一人で来たんじゃないよね。他の人は?」


いきなり何だ。この質問は。


「ああ、何人かと飛ばされて来たが…なぜ、そんな事を聞く。」


「今までも何人か異世界から来た人を見たけど、一人で来た人は居なかったしさ。
……それで……神殿から追い出されて俺の村に辿り着き奴隷にされた異世界人は、一緒に来た仲間をひどく憎んでいた。」


「そうか。俺は別に憎んだり恨んだりしてない。
だが情も一切無いからな。
俺を狙って来るならば、それなりの対処をするだけだ。」


「殺すの!?」


「俺を殺しに来るのならばな。
ま、追い出された俺を憎んだり恨んだりはお門違いも良い所だろうがな。」


俺は自分が座っていた木箱に、ダイの分のペットボトルの水とシリアルバーを置いてその場を離れた。
ダイが、消える前にと急いでそれらを口にする。


異世界から勇者となり得る者達を喚び出し、その資格を有しない者は追放。
だが証拠を残さない為か、城にて監視出来ない勇者のなり損ないは追放と見せて秘密裏に抹殺するのがバーロン王のやり方。


今まではそうしてきたのだろうが、あのアホの王は今なお逞しく生き長らえている俺の力の一端を知り、監視までつけ今は戦力として連れ戻したがっている。


連れ戻せるワケが無い。俺を手駒にするのも無理だ。
何を都合の良い夢を見てんだか。
アホの極みだな。













「なぁ、アオイさんよ。
王様から渡された、この首輪を真神達の首に付ければいいんだな?」


「そうです。それは魔力を抑える効果があり、何らかの魔法を使うマカミテイトや、二人の少女の人間離れした力を封じ込められます。
そして、隷属させる効果がある。」


「はは、そんなの楽勝じゃん。
で?真神は生きたまま連れ帰って…
美少女ちゃん達二人は俺のって事でいいんだよな?」


アオイは乗馬の出来ない田上を馬上で後ろに乗せ、振り落とさない程度の速さで馬を走らせる。
アオイは背後の田上の言葉を聞こえなかった事にして返事をしなかった。
田上と共に城を出発してから一週間程、何度か魔獣や魔物、追い剥ぎに襲われたが、その際の戦闘において田上がアオイの役に立った事は無かった。
腰に下げた剣に手を掛ける事も無く、かと言って魔法を使うでも無く。
ずっと隠れてやり過ごし、戦闘が終わるのを待つのみ。

いや、魔法は子どもの火遊び程度しか使えないと事前に聞いていた。
剣もろくに扱えやしないとも。

そんな体たらくで有りながら、なぜマカミテイトに敗ける自分の姿を想像出来ないのか。
その根拠の無い自信は何処から来るのか。


「俺もレベル上がっちゃってんじゃないの?」


戦闘が終わる度に毎回、田上がそう言っていた。
アオイには何の事だか分からない。

だが、田上にはそのレベルとやらが上がったかどうかを確認する術が無い様だ。

田上は時折、何も無い場所に向け呪文の様な何かを言っているが、満足のいく結果は得られてないらしい。
アオイは宙に向け、忌々しげに舌打ちする田上を何度か見た。

彼は、一体何を……







「末町が言っていたが……
真神は、本当にステータスオープンなんて言ってたのか?
アイツが出来てなんなら、俺にだって出来るだろうがよ。
だいたい、アイツは魔法を使えなかったハズなんだからな。
あー、俺も自分のステータス見てぇ!!」


━━こちらの世界に来てから、俺達は少しずつ変わってった。

恭弥なんか態度デケェし、ふてぶてしいけどノリのいい面白いヤツだったハズが、段々慎重になってクソつまんねー奴になっちまった。

しまいにゃ俺に説教みてぇな事まで言いやがる。

真神が強いって?アイツが強いワケねぇじゃん。
俺達のサンドバッグだぞ?抵抗しなかったじゃん。

強い事を隠してたって??何でだよ。

強いわけないんだよ。
弱いにきまってるんだよ。

俺の方が強くてあたりまえだから。
まけない。おれのがつよい。
ダカラ……?

頭が…少しボーっとする。
真神の事を考えようとすると時々頭が混乱したみたいになる…。

そう、末町も何か変わったよな。
アイツ……顎に手を当て小指の爪を噛むとか…

時々、オンナみたいな仕草をする様にナッて……。
ナンデ…?











「末町……?お前、爪噛むって、そんな変な癖あったっけ…?」


「爪を噛むから何だってんだよ。
こんな、訳の分からない世界に来てさー不安で仕方ないんだよ。
爪を噛んだ位で文句言うなよ、恭弥。」


末町は、恭弥に文句を言う姿さえ何処か女らしさを感じさせる様になっていた。
恭弥は、この世界に来てから、この世界のコトワリに侵食された様に…あるいは箍が外された様に人格が変わった者が居たことを思い出した。
田上もそうだ。
あそこまで話を聞かない奴じゃなかった。
だが一番は……


「ミチル…コッチに来て、アイツが一番変わったが……お前も……」


「ミチル?ああ、アレは素だよな。
自我が解放されたとゆーか。
モラルって枷が無くなったお陰で、抑え込んでたミチルの本質が表に出ただけ。
変わったワケじゃない、彼女のまんまだ。

ちなみに俺はそういうのとは違うよ?ワカル?」


末町の手がスルリと伸びて恭弥の頬を撫でる。
その指使いと表情は艶めかしく、姿かたちは末町のままであるのにゾクリとする程に妖艶で恐ろしい。
恭弥は言葉も発せずに、カタカタと小さく震え出した。


「そんな怯えるなよー恭弥。俺達、友達じゃん。
俺さ、こんな世界に飛ばされてまだ、正気を保ってる恭弥ってスゴイなって思ってんだ。
色んなカタチで壊れていく人が多い中でさ。」


「す、す、末町……末町は………?」


歯の根が合わず、言葉をうまく紡げない。
壊れていく人が多い━━その中には末町も入っているのだろうか。
だとしたら、眼の前に居る末町は一体、何なんだろうか。
生来の人格が壊れた後に出た、別人格とでも言うのだろうか。
別人格……?いや、違うだろう……?


末町は恭弥が訊ねようとしている問い掛けを理解し、閉じた唇の端を上げて何も答えずにクスリと微笑んだ。


━━彼ならもう死にたいって言ったから食べてあげたわ━━











田上がアオイと共に城を出た翌日、末町と恭弥も城から姿を消した。


バーロン王は、残念ぶった口調で「仕方ないのう。」と楽しげに言い、城の兵士に末町と恭弥の二人の口を封じるよう脱落勇者狩りを命じた。


「もうそろそろ処分時かと思ってましたが…。
こちらから放逐する手間が省けましたね。」


「陛下、いいのですかぁ?
せっかく異世界から召喚した勇者を殺してしまって。」


「ミチルがおるし、マカミテイトも手に入れば、勇者という駒が二体も揃う。
一回の召喚で全員が使いものにならない事もあるのだから、結果としては良い方だろう。
勇者の価値もない異世界人など、狩る楽しみを得るしか価値が無いじゃろうが。」




城を出た恭弥と末町は、城を出た当日の晩から追手の兵士数人に命を狙われた。

末町によって半ば強引に城から連れ出された恭弥は、自分達を追って来た兵士に助けを求めかけたが、兵士達は恭弥の言葉に耳を傾ける様子も見せず、即座に攻撃を仕掛けてきた。


「な、何で……!?何で俺が斬られ…!!」


自身に対して振り下ろされた剣の刃に、身を守ろうとした恭弥は反射的に両腕を前に出した。

兵士の剣が恭弥の腕に到達する瞬間、ギュッと目を閉じた恭弥の耳に、つんざく様に凄まじい絶叫が聞こえた。


「駄目だよ恭弥。
剣の前に腕なんか出したら危ないじゃないか。
斬り落とされる所だったよぉ。」


「す、末町………」


「あ、まさか城の兵士が迎えに来てくれたとでも思った?
あはは、そんなワケ無いじゃないか。
恭弥と俺は脱走兵なんだからさぁ。」


ニッコリと微笑んだ末町の足元には、四肢をもぎ取られた兵士が3人、泣き叫び、呻きながら地面に芋虫のように転がっていた。
末町は捻り切った兵士の腕を両手に持ち、お気に入りの玩具と戯れるようにスリスリと頬を擦り寄せていた。


「ふふっコレ、ちぎったばかりだから、まだ温かいしビクビクしてる。
見てみなよ恭弥、面白いから。」


恭弥は末町から目をそらし、目の前の惨状から目を背けた。

末町は猫が鼠を弄ぶ様に、四肢をもいだ兵士で遊び出した。
兵士達の命をすぐには取らずに少しずつ身を削ぐ様にナイフで皮膚を切り落としながら、延々と嬲り続けている。


目を背けていても耳に入る阿鼻叫喚の声と、鼻腔から入る血の臭いが、恭弥の口の中に知りもしない血の滴る人間の生肉の味を想像させた。
今まで味わった事の無い激しい嫌悪感に、身体がその場での呼吸さえも拒絶する。
恭弥はその場で四つん這いになり、胃腸の内部を全て吐き出し空にする勢いで、激しく嘔吐した。


「ウップ!!!ゲエっ!!ゲェえっ!」


「あはは、吐いちゃったのか。汚いなー恭弥は。
ほら汚れた口もと拭いてあげるよ。」


末町は四つん這いの恭弥の横にしゃがみ、吐瀉物で汚れた恭弥の口元を拭う様に人差し指をツゥと走らせた。


捻りちぎった兵士の腕に付いた冷たくなった指先で。


「オエェっ!!ゲボッ!あああ!い、いっテェ……!」


「あはははははは!!おもしれーなぁ!いい反応するぅ!」


楽しそうに大笑いする末町の前で、四つん這いから地面に倒れた恭弥が、涙をボロボロ流しながら胸を掻きむしった。
無理矢理吐いたせいか、胃の辺りと喉が焼ける様に痛い。
この場の臭気漂う空気を取り込むのを身体が拒絶する為か、呼吸もままならずただただ苦しい。


「恭弥が死なないように俺が守るからさ、恭弥も俺を一人にさせたりすんなよ?
だって、友達だろー?あはははは!」


「ち、ちが…お前、末町じゃ……」


恭弥の言葉を待ち爛々と光る末町の目に、恭弥はそれ以上の追及をやめた。
━━お前は末町じゃない。━━
これはもう、確認するまでもなく分かりきった事だ。
それを敢えて口に出し問いただす。
相手を拒絶し、末町に成りすました者が言う「友達」の関係を自ら放棄する。

それは間違い無く自分が死ぬ選択だ。
この世界では選択ミスをすれば確実に死が訪れる。


「理解が早いね。順応力が高いのかしら。
そう、恭弥はもう俺と友達を続けるしかないんだよ。
少しでも長く生きていたかったらね。」


地面に横たえていた身体を起こした恭弥は一切の抵抗を諦め、反抗的な態度や言葉もしまい込み無言で何度も末町に頷いた。

恭弥には末町に成り代わった者の正体と目的が分からない。

城で勇者としての知識を学ばされた時に、この世に蔓延る魔物を倒すのが異世界から喚ばれた勇者の使命だと聞いた。

ではコイツは俺達、異世界からの勇者に倒されるべき魔物なのだろうか。

弱い俺はともかく、バーロン王より勇者としてのお墨付きを貰えたミチルならばコイツを倒せるのだろうか。
ミチルが来れば………俺をコイツから解放させてくれんのか?


いや…違う。
ミチルが俺達の元に来るとしたら、それは俺を助けるためじゃない。
バーロン王に指示され、城から逃げ出した俺と末町を異世界人の脱走兵として始末する為だ。
勇者としては無能な俺を救う理由が無い。━━━━


恭弥はそう、自分の立場を理解した。
もう城に戻る事は出来ない。
この世界で少しでも長く生き長らえるには、バーロンからもミチルからも逃げ続けるしかない。

それには、末町を名乗る得体の知れない者と行動を共にするしかない。

あとは、この猫の様に気まぐれそうな「末町」が、どこまで自分に興味を持って庇護対象としてくれるかだ。

恭弥がやつれた表情をして末町を見る。


末町は恭弥から離れた場所に、頭部以外の身体を削いでトルソーの様に小さくなった兵士達の屍を蹴って集めて放置した。

いたぶり甲斐の無くなった死んだ鼠には興味を無くした猫の様に。


「ふふっ…今は私と行動を共にするのが最良だと気付いたか。
やはり恭弥は理解が早くて助かる。

まぁ……ミチルごときに私が倒せるかも知れないなんて思っている所は、まだ理解が及ばない様だけれども。」


末町はほくそ笑むと顎に手を当て小指の爪を噛んだ。











チャイムが鳴り、校門が閉まるギリギリの時間。
駆け込む様に校門をくぐった生徒十人と、その場に立っていた教師一人。
そして俺を入れ12人が、あの世界から切り離された違う世界に流された。


━━そうか、建物ごと転移とは限らないのか……
そう言えば、葵を倒した後に俺一人だけ単体で次の世界に転移させられたもんな。━━


新たに飛ばされた世界は、地下シェルターの様な金属製の壁に囲まれた近未来的な施設だった。
その施設の、何階の何処だか分からない廊下に俺達はいきなり飛ばされた。

SF映画なんかでは、こういう場所で化け物に追いかけ回されるシーンを何度か見た。


どこまでも続く廊下には等間隔で明かりが灯っているが薄暗く、近未来的な施設である割には古びていて、滅びた未来都市にタイムスリップさせられた様な感覚になる。


「な、何だここは!!」

「やダァ!!ナニ、何なの!!」

「怖い!怖い!怖い!!」


皆がパニック状態になり、口々に騒ぎ出す。


俺はそれらを無視して、一番近くにあったドアの前に立ってみる。

シュン……SF映画やゲームで良く見る、未来的な金属製の自動ドアが開いた。
開いた途端にモンスターとエンカウントとか…ゲームではあったがな。

如何にも研究施設だった的な部屋の中を一人で回って物色する。
何だか本当に、自分が昔やっていたゲームの世界が現実化して現れた様な感じだ。


近未来的な建物だからなのか剣や刀は無かったが、拳銃を3丁入手した。
銃を持って部屋を出てみれば、まだ皆のパニックが収まっておらず、ギャーギャー騒いでいる。


あまり騒ぐと敵が現れると思うのだが……。
いきなり正体不明の敵に襲われるなんて事、思いもしないだろうな。


「みんな!騒ぐな!落ち着け!!きっと、助かる!
助けが来るまで待つんだ!!」


転校してから他人に興味を持たなかった俺は名前すら知らないが、校門に立っていた体育の教師が皆を落ち着かせるように懸命に声を掛けている。
俺は教師の側に行き、ボソッと小声で囁いた。


「………先生。これ、見付けたんで渡しときます。
このあと必要になると思いますんで。」


「あ?なにを……こ!!これは!!」


他の生徒達に見えにくい位置で教師の手に拳銃を3丁渡した。
拳銃を渡された教師は、信じられない物を見るかの様に俺と拳銃に何度も視線を行き来させる。


「武器と食料の調達は、この世界で生き残る為には必須です。
あと、この世界は食料難に陥り易いので少人数での行動を勧めます。
じゃ、俺は先に行くんで………。」


このダンジョンの造りは、葵と戦った世界の有り様に似ている気がする。

回復アイテムと食料は部屋の中でしか調達出来ず、大人数で行動すれば皆に食料が行き渡らずに食料難に陥りかねない。


「待て!お前!!この場所の事を何か知っているのか!」


その場を立ち去ろうとした俺の腕を教師に掴まれた。
俺と教師のやり取りを見ている生徒達が、固唾を呑む様に俺達を見ている。


「いえ、何も。ただ似たような場所に行った事があるんで。」


「か、帰る方法は!?帰る方法は無いのか!!」


━━無い。
この世界を脱出出来ても別の世界に飛ばされるだけだ。
だが、そんな一縷の望みさえ潰える様な事は言えない。

心病んで、唯一の生き残りだけが帰る事が出来るとかおかしな妄執に取り憑かれて殺し合いが始まっても面倒だ。



「同じ世界から来た者同士で殺し合わない事。
死なない事。それが最低条件ですかね。
入手出来る食料は少ないので、奪い合わない様にする為に少人数での行動が大事です。
………じゃ。」


俺は武器を手にしていない丸腰状態で廊下を走り出した。

背後で「待て」だの「置いて行かないで」だの聞こえたが全て無視した。
彼らとはもう、二度と生きて会う事は無いだろうから。

彼らが弱い敵と戦いながら一進一退を繰り返しいる間に俺は、出来るだけ先に行く。
この世界のラスボスを探す。


それが、葵である事を願って。



    
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