蒼き英雄(旧)

雨宮結城

文字の大きさ
上 下
16 / 78
第二章

Part2

しおりを挟む
ユキは目の前にあるドアの前まで行き、ドアを開けようとした瞬間、部屋の外から銃声が聞こえた。

「っ!?」

ユキは、この施設にいるであろう敵に気づかれないよう、ゆっくりとドアを開けた。

「…」

声を出さず、慎重に動いた。行く道に曲がり角があれば、しっかりと敵がいないか確認しながら、施設を歩きまわった。

「…(ここもいない)さっきの銃声、一体何が」

「キャー!」

「っ!」

ユキは遠くから、女子の叫ぶ声が聞こえ、その方へと向かった。

「…」

角を曲がろうとした時、曲がった先に、叫んだであろう女子と白衣を着た男がいた。ユキは気づかれぬよう、一旦角に隠れた。向こうを覗き、どうすれば良いかを考えた。何せ白衣の男が拳銃を持っていたからである。

「や、めて、殺さないで」

よく見ると、その女の子の服は、少し血に染まっていた。恐らく目の前で誰かが殺されてしまったのだろう、ユキはそう推測した。

「(っどうすれば、!?そう言えば)」

ユキはこの世界に帰ってくる前、つまり向こうの世界で、アスタとある話しをしたことを思い出した。

〈回想〉

「…あ、ユキ、ちょっといいか」

「えっ、うん」

二人はミユキとヒナの元から少し離れた。

「どうしたの?アスタ」

「実は、ユキには言わなきゃいけない事があるんだ」

「ボクに?」

「あぁ」

「ユキ、ユキには、この世界から帰った後の事を話しておきたいんだ」

「帰った、後のこと」

「あぁ、ユキ、これを飲んでくれないか」

「?コレは何?アスタ」

「コレは、向こうの世界に戻っても、一定期間の間なら、向こうでも魔力が使えるっていうドリンクなんだ」

「そうなんだ。でも、どうしてコレを?」

「イナイさんに言われた事があってな、仮に向こうの世界に帰れても、ゲータに操られた人間に襲われる可能性があるって。しかも相手は恐らく武器を持ってる、だからコレを飲んで対抗しようって訳なんだ。もちろん殺す為じゃない、相手を気絶させる程度でいい、俺も戻ったら対抗するが、万が一俺が戻れなかったら、ユキ、君に全てを託すことになってしまうけど」

「え…アスタが、戻れないってどういう事?」

「相手はゲータだ。どんな事をしてくるか分からない。万が一も考えないといけないんだ。でももちろん、俺は勝って、皆を帰して、俺も帰るつもりでいる。でも、でももし、俺が帰れなかったら、ユキ一人でも戻ったなら、皆を、守ってほしい」

「アスタ…」

「…」

「うん、分かったよ」

「ユキ…」

ユキは、アスタが向こうへ帰れないと言うことを聞いて、不安になったが、アスタがこうして、何でも一人で背負ってきたアスタが、自分に頼ってきてくれている、その事にユキは嬉しさを感じ、ドリンクを飲んだ。

「これでいい?」

「あぁ、ありがとう、ユキ」

「うん」

「じゃあ、戻ろう。二人が心配するからな」

「アスタ」

「ん?」

「…絶対、勝ってよね」

「おう!」

ユキは、勝ってほしいという気持ちと、アスタも帰ってきてほしい。その二つの気持ちがあったが、帰ってきてほしいに至っては、アスタの覚悟を聞いた手前、言うことができなかった。だが、ユキは心のどこかで信じていた、きっとアスタも帰ってくると。

そして話し終えた二人は、ミユキとヒナの元に戻り、四人それぞれが、己の責務を全うした。そしてこのやり取りを思い出したユキは、拳銃に対抗する為、向こうの世界でユキが使っていた剣を出現させることができるか、試してみることにした。

〈現在〉

「…」

集中するユキ、女の子を早く助ける為、時間がない中、本来であれば誰もが焦ってしまう中、ユキは焦らず、集中し、剣を出現させることに成功した。

「(よし、できた)」

剣を出現させることができたユキは、静かにゆっくり接近して助ける方法より、バレてもいいから、急いで近づき、女の子を助ける方法を選んだ。

「死ね」

「いや、いやー!」

白衣の男が、拳銃の引き金を引こうとした瞬間、後ろからユキが男に近づき、剣で気絶させた。

「…ふっ!」

「うっ!」

「え…」

「大丈夫」

「…」

「…ごめん、キツいよね、こんな状況だし。でも、ボクは君の味方だから、安心して」

ユキはこんな状況でも、笑顔で少女に答えた。そうすることで、この少女も、安心して、話すことができた。

「は、はい」

「…ボクの名前はユキ。君の名前は?」

「私の、名前は、…真由美(マユミ)です」

「真由美(マユミ)ちゃんか、可愛い名前だね」

「…ありがとう、ございます」

「真由美ちゃん、ボクは今から、他にも真由美ちゃんみたいに、困っている子がいないか見てくるけど、真由美ちゃんはどうする」

「え、私、私は」

「良かったら、一緒に来ない?」

「え…」

「もちろん、無理強いはしないけど」

「わ、私も、ユキさんと、連れていってくれませんか」

「分かった。一緒に行こう」

「はい!」

ユキと一緒に、真由美も行動することになったが、ユキはそれで安心していた。なぜなら、真由美と共にいた方が、真由美の事を守れるからだ。でもそんなユキも、心配している点があった。

それは、アスタやサオリに早く会いたいというのもあるが、妹であるミユキが無事かどうかが、ユキが一番心配している点であった。

「(ミユキ、無事でいてね)」

そして、ユキが少女を救った同じ頃、別の部屋で、ミユキも目を覚ましていた。

「…!?ここは…ここが、現実世界」

ミユキはカプセルから起き上がり、記憶を思い出していた。

「…お姉ちゃん、アスタさん、それに、フェイさん、サオリさんも…これは、向こうの世界で思い出した記憶だ、?」

ミユキは、向こうの世界で思い出した記憶を改めて、現実世界に戻ってきたことにより、思い出していた、だが、もう一つ、ミユキが思い出せなかった記憶も、思い出していた。

「なに、コレ」

それは、ミユキを庇って、姉であるユキが、母親の美智瑠に虐待されていた時の記憶だった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

処理中です...