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第五の秘密

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 結局白石さんは電話に出ず、次の日も学校を休んだ。
 僕は考え続けた。なぜ白石さんは煙草や援助交際に手を染めなくてはいけなかったのか。彼女の闇を作り出した正体は何なのかを。
 思い当たるのは、援助交際をした理由を語った時に出た「家族からも虐げられている」というワードだ。まさか家庭内暴力を受けているのではないだろうか。それに家族から「も」と言っていた。つまり家族以外にも虐げられているのではないだろうか。ああ、どうしてもっと早く知ろうとしなかったのだろう。本当に僕は愚かだ。
 その次の日も白石さんは学校を休んだ。電話にも出ない。僕は決心して隣のクラスにいる黄木さんを訪ねた。
「あの、黄木さん、ちょっといい?」
 一言も会話をしたことがない僕に呼び出された黄木さんは、怯えにも似た表情を浮かべつつも、廊下に出てきてくれた。
「何?」
「白石さんについて知りたいんだ。黄木さん、白石さんと同じ中学校って聞いたから」
 正確には二人の会話を盗み聞きして知った情報だ。
「そうだけど、何を知りたいの? ってか、どうして知りたいの?」
「実は……僕たち付き合ってるんだ」
「はあ?」
 黄木さんの反応は当然だろう。本来はこんな陰気で不細工な男と白石さんが付き合うなんてあり得ないのだ。
「信じてもらえないかもしれないけど……本当なんだ」
 信じてほしい。と、僕は瞳で真剣に伝えた。それが功を奏したのか、黄木さんは小さくため息を吐きながら言った。
「それで、何が知りたいの?」
「白石さんがイジメにあっていないか。もしくは過去にイジメを受けたことはないか」
 家族からも虐げられている。つまり家族以外からも虐げられている。そう考えた時に一番に思いついたのが学校でのイジメだ。しかし、クラスでイジメられている様子はなかったので、部活内や過去にイジメられていたのではないかと考えた。
「もう一回聞くけど、本当に空と付き合ってるの?」
「うん」
「それじゃあ昼休みに家庭科室に来て」
 そう伝え、黄木さんは教室に戻っていった。あの様子だと、やはり白石さんはイジメに合っているもしくは合っていたのだろう。僕は約束通り、昼休みに家庭科室に入ると、すでに黄木さんが机に座って待っていた。僕も黄木さんの向かいに座ると、暫くの間沈黙が流れる。そして徐に黄木さんは口を開いた。
「どうしてあんなこと思ったの」
 あんなこととは、白石さんがイジメられているかどうかということだろう。
「白石さんと話している時に、なんとなくそんな気がしたんだ」
 援助交際について話すわけにもいかず、苦し紛れに曖昧な理由を伝えた。
「……イジメじゃないけど、空は元彼についてトラウマを持ってるの。中学校の時の空の彼氏がすごい嘘つきで、名前から年齢まで全て嘘でさ……」
 黄木さんは鼻を啜りながら続けた。
「空は中学校の時に吹奏楽部だったんだけど、部活の発表会に来ていた他校の生徒に声を掛けられたみたいで、優しくて誠実な人だからって空もその人のことを気に入って、付き合う事になったみたい。空って意外に恋愛体質でさ」
 過去の男のことなんて知りたくなかった。しかし、僕はもっと白石さんを知らなくてはならない。そして、絶対に救わなくてはならない。それが僕の贖罪だ。
「だけどその男がさっきも言った通り嘘つきで、他校の生徒って言ったのも嘘で、実は大学生だったの。中学生と言われてもおかしくはない童顔だったみたいなんだけど、名前も違ったみたいで」
「どうして分かったの?」
「ホテルで……その男がシャワーを浴びている時に、バッグからはみ出ていた定期入れをつい見ちゃったんだって……そこに大学の学生証があって、そこで名前と年齢を知ったみたい。……あ、えっと、その、シャワーを浴びている時に気付けたから、そういう行為はしていないらしいよ」
 一応今の彼氏である僕への配慮だろう。しかし、ショックは隠しきれない。確かに肉体関係はなかったのかもしれないが、シャワーを浴びる前にキスくらいはしただろう。なんだか吐き気を催してきた。
「大丈夫。それで?」
「うん、それで、その男に問い詰めたら、他の女子中学生にも手を出しているような最低な男って事を告白してきて、逆ギレして帰っていったらしいの。それでおしまい。きっと一人くらい手放しても大丈夫な程、遊んでいた男なんだろうね。本当に最低」
 本当に最低だ。その男も、そしてこの僕も。
「それから空は男の人を信じられなくなっちゃって。最近は大分立ち直ってきたみたいなんだけど、まさか彼氏まで作れてたなんて良かった」
 黄木さんは僕を見て安心したように微笑んで続けた。
「黒田くんは空を裏切らないよね?」
 裏切り。僕はもう白石さんを裏切った。彼女の弱みに付け込んで告白をして、半ば強引に付き合わせたのだ。だけど……。
「うん。僕が白石さん……空さんを裏切らない。絶対に彼女を幸せにしてみせる」
 そうだ。これから僕が彼女を精一杯幸せにして、秘密なんて当てにせずに僕のことを信頼してもらうんだ。
 白石さんはきっと、男性を信頼できず恨んでいた。だから援助交際なんてものに手を出して、男からお金を毟り取っていたのだ。
「ありがとう黄木さん。この事、他に知ってる人はいるの?」
「私と、あとは一部の仲の良かった子だけ……ああ、お姉ちゃんにも相談したことがある」
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