新人領主は死霊術師

タタクラリ

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6. リッチキングは心配性

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 リッチキングの朝は早い。そもそもリッチという種にとっての一日の周期は人間のそれとは異なるのだが、すくなくともその少女は朝日とともに起床するのを習慣にしていた。

「おはよう、父様……。父様……?」

 同じく朝のルーティンに父親への挨拶があるが、いつもと違いこの日は返事がなかった。開拓が始まってから数日の経過したリッチの寝殿における出来事である。
 少女の父が病に倒れたばかりだったこともあり、最悪の事態が頭をよぎった少女は寝殿中を走って探し回った。だが、少女の父がいるべき寝殿中のどこにも、その姿はなかった。

「寝室にも、食堂にも、どこにもいない……。父様、父様ー! 返事をして……!」

 寝殿はもはや過去の集落の遺物である。ほとんどが瓦礫となった石造りの建物群は、リッチキングとその父親が住まうやや大きめの住居を残すのみであり、すぐに屋外を探さなければならなくなった。
 どこに探しに行けばよいかわからず不安が募るまま少女が玄関を開くと、その軒先に父親はいた。少女は多大な安心感を得るとともに、屋外の捜索のためのエネルギーを父親の耳元で大声に変えて発散した。

「もう! 探したんだから! 体の調子が良くなるまで家から出ちゃダメじゃない!」
「ああ、すまない。ユスティナ。だが、居ても立っても居られなくてな。見ろ、あれを」

 影の落ちる軒先に置かれた椅子に座る、やせこけた白い髭の男は娘のユスティナにしわがれ声で語り掛け、太陽のもとで堂々と異彩を放つ木組みの小屋を指さした。決して見栄えの良くないその小屋の周りを、死霊術師の青年や女性の剣士、そして数人のグールが楽し気に取り囲んでいた。

「なによ、あの小屋。昨日まではあんなのなかったでしょう。この寝殿には見合わないんじゃない?」
「ああ、見合わないさ。このまま崩れ去るのを眺めているしかない遺構と、新たなネクロポリスの発展のために作り上げたあの小屋では」

 グールたちは一つ目の小屋を作った勢いのまま、切り出した木材で二つ目の建造に着手し始めた。

「クローデン君だったか。さっき彼と話した時、彼の夢を聞かせてもらったよ。死霊術を戦争に使うのではなく、死者に未来を取り戻させるために使う世にしたい、と。彼の創るネクロポリスで、私も死霊術を存分に発揮したいものだ」
「ネクロポリスね。だけどあんなみすぼらしい小屋がいくつも並んでるだけじゃ到底都市なんて呼べないわよ。それに、グールは火に弱いんだから火事になったら大惨事だわ。この寝殿のように石で建築するべきよ」
「近くに放棄された石切り場はあるが……石材の切り出しには人手が足りんだろう」
「へえ、そんなのあったのね。どうして放棄されたの?」
「事故さ。何百年も前、石切り場の入り口の岩盤が落ちて、何人もの作業員が閉じ込められた。その事故から石切り場は放棄され、今日まで誰も使用していない」

 石切り場は、かつてリッチの寝殿を含む集落を形作った石材を採取した場所である。

「あの時は……っ! ゴホッ、ゴホッ、うぁ……ゲホ……」
「父様!?」

 過去を懐かしむように石切場の事故を説明していた老人が、突然咳き込み出した。弱々しい体に似つかわしくない激しい咳である。それは二十秒以上も長く続いた。

「家に戻ってよ、父様……」
「すまん、ユスティナ。どうしても、彼らの姿を見ていたいんだ」

 老人は色の失った目で、じっと小屋の建造を眺めた。数人のグールが協力して、決して大きくない木造の小屋を建てている。
 あれでは都市と呼べるようになるまで数百年はかかる。先の長くない少女の父親がネクロポリスを目にすることなど……。もっと人数がいれば──ユスティナはふと、そう思った。
 ユスティナの足は、自然と石切り場跡地に向かおうとした。

「行くのか。当時の死者がまだ動かせるかはわからんぞ」
「……誰も、グール集めに行くだなんて言ってないでしょう。ちょっと観光に行くだけよ」
「ああ、気をつけてな。場所は──」

 父から石切り場の位置を聞き、ユスティナは単身で旧時代の跡地へ足を運んだ。
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