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出逢い、覚醒編
宇宙人の憂鬱 4.
しおりを挟む休憩時間早めのお戻りは、匡子さんだった。
長屋 匡子、わたしよりも3年先輩の既婚者。
先ほどの少女と同じくらいの年の子供が1人いるはず。
彼女は途中入社で、わたしよりも6歳年上の29歳。
更に、学生時代のできちゃった結婚だって言っていたから、子供は7歳くらいらしい。
わたしには、縁のない世界だ。
「たまには私たちと休憩しない?」
わたしに気さくに話し掛けてくれるのは、匡子さんだけ、ではないが、匡子さんが1番多い。
「ありがとう御座います。今度お願いいたします」
堅苦しい返事に、匡子さんは、わたしの背中をポンポンと叩いて、
「堅い!堅いよ。魚子ちゃん」
と言った。
「堅い、ですか」
「ですかじゃねぇよ。魚子、オレの女なら、もっとこう、軽い乗りで!」
匡子さんは言いながらわたしの右となりの自分の席に座った。
「オレの女ですか」
わたしはまた、ぎこちない笑顔で答える。
「そうだよ、オメェはオレの大事な女なんだぜ~」
そう言いながら、匡子さんはわたしの肩に手を回してきた。
いやらしさはなく、ガッと腕を回されたので、なんとなくいい気持ちになった。
「アンタはなんかこう、楽しめてない気がするね」
匡子は腕を離し、わたしの体から離れて、じっとわたしを見つめる。
「人生楽しまないと損だよ」
休憩時間はあと僅か、早めに仕事を始めた。
廊下で人の動く気配がしたかと思うと、残りの人数が、休憩から戻ってきた。
わたしもサンドイッチの残りを、水筒のりんごジュースで流し込むと、まだ半分残った水筒を保冷バッグにしまい、サンドイッチを包んでいたラップを、右隣りのゴミ箱に入れた。
仕事が始まり、時間が流れて退社時刻になった。
その間、何もなかったわけではないが、まあ普通の勤務時間中の出来事だった。
わたしはいつもよりも早めに会社を出た。
今日はなんだか、早めに帰宅したかった。
わたしは、冷蔵庫の中身が少なくなっていることに気がついて、帰りがけに近くのスーパーへ寄り道をしなければならなかった。
冷蔵庫の中身が充実した代わりに、財布の中身が心細くなったことに、生活の大変さを実感した。
わたしの給料は決して高いものではない。
だから買い物と言っても、定番の野菜しか買わなかったし、肉と卵をほんの少し買っただけだった。
調味料はまだある。
わたしは就職が決まった時に一人で生活してみたくなって、今の部屋を借りたのだ。
実家はそんなに遠いところではなく、ほんの7駅ほどの距離であるから、何かあるごとに、まだ健在の両親が尋ねてきたり、自身で実家に帰ったりもしていた。
仕事場も、アパートから歩いて3キロ程度の距離であった。
わたしは3キロの距離を、いつも歩いて通っていた。
スーパーは中間点にある。
わたしがスーパーから出てきたところで、昼間あった女の子の姿が見えた。
女の子を見ても、不思議と怖いとか恐ろしいとかいう感情が浮かばなかった。
女の子はわたしを見て、ニッコリと笑った。
ぎこちない笑顔だが、楽しそうにさえ思えた。
この子、幽霊さんなんだよね。
わたしは自分に問い正す。
そんなわたしの思考が読めるのかどうかわからないが、女の子が言葉を送ってくる。
「あなたの言うところでは、幽霊ね」
にっこり微笑んで、頷く。
「やっぱりそうだったんだね」
わたしは少女に言った。
でもなぜ?
その答えはまだ得ることが出来なかった。
「わたしの名前はルクスと言うの」
自分のことを幽霊だという女の子が、名前を教えてくれた。
わたしも自分の名を教えた。
「わたしは下山魚子よ」
「ななこはどう書くの?」
「さかなの、子と書くのよ」
わたしが言うと、少女は楽しげに飛び跳ねた。
面白い名前だと思ったのだろう。
わたしは、そんなに笑わないでよと、少女を睨んで見せる。
少女はさらに笑い転げた。
明るい幽霊さん。
わたしは、彼女に、行きましょうと言って歩き始めた。
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