ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

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ヴァリエンテ領・大規模氾濫掃討戦編~万死一生~

力が欲しいか?

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〔まずは坊やと坊やが召喚した″黒い巨人(『偽神闇鬼』)″が戦っていた正体不明のモンスター(『竜征趙』)なのだけど、現在″半封印状態″となってるのだわさ。〕

(…え?″黒い巨人″…?
僕そんなの召喚してないけど…
…それに″半″封印状態って、一体どうやって…?)

〔あら?
あの″黒い巨人(『偽神闇鬼』)″って坊やが召喚したのじゃ無いのだわさ?
てっきり坊やのだと…〕

(あ、待って、ちょっと確認してみる。
『鬼神』、ねぇ『鬼神』。僕が気絶してる間何かやったの?)

(『……。』)

(あれ?鬼神?居ないの?)


ステラから簡単に現在の状況を伝えられるノアだが、上手く飲み込めない情報が入ってきた為頭が混乱している。

そこでノアは『鬼神』なら知ってるのではと確認を取るも、『鬼神』からの返答は返ってこない。




〔んんん?坊や?誰と話してるのだわさ?
この部屋には私と坊やの2人だけなのだわさ。〕

(あ…えーっと、ごめん、そうだね…)


いつも中に居る『鬼神』と同じ話し方をしてしまうと″テレパス″実行中のステラにも話が伝わってしまい、ややこしい事になる。

取り敢えず″黒い巨人(『偽神闇鬼』)″の件は恐らく『鬼神』が召喚したモノだろうと仮定し、ノアは一先ず『鬼神』への声掛けを止めてステラとの情報共有に努める事にした。





クピクピ…(マナポーションクピクピ。)

〔えっと、″半封印状態″って言うのはね、ハーピー族を介して『天空大陸』で待機しているリューさん(四季龍インヴェルノ)に取り次いで貰って氷漬けにして貰ってるのだわさ。〕

(四季龍インヴェルノさんに?
でも確かあっちが介入したら被害が大きくなるから、って事で大氾濫には参加しないハズじゃ…?)

〔そうも言ってられない規模と相手だったのだわさ。
確かにリューさん(四季龍インヴェルノ)が介入したら被害は広範囲に渡っちゃうけど、正体不明のモンスター(『竜征趙』)が誰も居ない空に飛び上がった時を狙ったモノだったから被害は0なのだわさ。〕


ステラの言う『天空大陸』とは、この広大な大地の最奥にある山の更に頂上付近にあると言う天空大陸・第3諸島『ハルモニア』の事で、ステラはそこからやって来て交流を図った経緯がある。

その後にハーピー族が色々とやらかし、今回の大氾濫に援軍として送って貰ったが、戦況はそれでも酷いものだった。

結果ステラからの要請を受けた四季龍インヴェルノが助太刀に入り、今に至るとの事なのだが


〔それでもあのモンスター(『竜征趙』)の生命力は脅威と言わざるを得ないのだわさ。
リューさんの氷は″絶対零度″。
生物である以上生きてはいけないハズなのに、動きを封じるだけで精一杯だったのだわさ。〕

(動きを…?あ、だから″半″封印状態なのね。)


ステラの話では、四季龍インヴェルノによって『竜征趙』は″絶対零度の牢獄″に閉じ込めてはいるが、完全に凍結していないとの事。

眼はギョロギョロと動き周囲を見回し、心の臓は脈打ち、生命活動を続けている。
とは言え極低温の最中である為再生能力は格段に落ち、未だ肉塊同然な見た目をしているとか。

四季龍インヴェルノは『竜征趙』に張り付き、氷漬けの状態を維持し続けなければならず、今も莫大な魔力を消費して継続しているが、それも残り4時間程度が限度だと言う。


(でも不完全とはいえ、奴(『竜征趙』)の動きを止めてるならやり様はあるんじゃないの?
ほら、グリードが居るじゃない?)

〔確かにその案は提案されて、坊やが意識を失っている間に実行はしたのだけど、近付いただけで『発狂湧き』が起こってそれ所じゃなくなってしまったのだわさ。〕

(えぇ…)

〔しかもそこから誰も近付けさせないかの様に、途切れ無く虫を投下し続ける様になっちゃったのだわさ…〕

(えぇぇ…)


半封印状態である『竜征趙』は、ノアを排除した後の脅威対象をグリードに設定。
一定範囲に接近しただけで『発狂湧き』を発生させ一切の接近を許さなかった。

『発狂湧き』は計2回実行され、そのどちらもグリードが主だって対処にあたった事で仲間の犠牲を容認してまで攻めてくる存在では無いと認識され、以降継続的に虫の投下が行われる様になってしまったと言う。





~現在の防壁上~


「南西の防壁に人を回してくれ!虫共がまた集まってきた!(戦闘職1)」

「こちらのクランから人員を回す!
サブ!人員を見繕って南西の防壁に向かえ!(冒険者1)」

「「「お、おぅ!」」」



「もう撃てるバリスタが無いぞ!(兵士1)」
「くそっ!いつまで続くんだ!(兵士2)」
「武器の消耗が激し過ぎる!そろそろ持たないぞ!(兵士3)」

 

ギギェエエエッ!

『『ドズッ!』』(胸を貫かれる)

「が…ふっ…(ゼーヴィス)」
「ゼーヴィス!?(スカーレット)」

『『ザシュッ!』』

「スカーレット!ゼーヴィスを救助して!
私はコイツを…!
誰か!蘇生薬を持ってない!?(アリッサ)」

「受け取れぇっ!!(兵士4)」



ドドンッ…『ドォン…』ズドンッ!(防壁の外で何かが着弾)

「また虫の卵だ!数は3つ!
今来ている連中をさっさと片付けて備えるぞ!(有志1)」

「「「お、おぅ…!」」」



「くっ、これが最後のマナポーション…
後は自然回復でやりくりするしかないか…!(冒険者2)」

「無茶はするなよ!蘇生薬は残り10本も無いし各種薬品ももう僅か…
撤退も視野にいれないとな…(有志2)」

「「「「「「……。」」」」」」



ドドンッ…『ドォン…』ズドンッ!(防壁の外で虫の卵が着弾)

ギリギリギリ…(グリードの歯軋り)





~再びとある一室~


〔計2回に及ぶ『発狂湧き』に継続的な虫モンスターの投下で皆の体力、魔力はピークに達し、防衛設備や物資もそろそろ底をついて来たのだわさ。
これを受けてカルルちゃんはこの街の住人である母子を全員隣領に避難。
その父親達には希望を募って同じく隣領に避難していったのだわさ。〕


戦闘職の殆どは残ったが、現状を鑑みて避難を申し出たのは最終的に200人に上った。

だが誰一人としてその者達を引き止める者は居らず、寧ろ一人一人声を掛けて見送っていったと言う。

皆この状況を分かっているのだ。
徐々にジリ貧に追いやられ、次第に物量に圧されて潰されていく負け戦である事を。


〔…粘るだけ粘りはするけども、このまま事態が膠着し続ける様なら、段階的に避難を開始してこの地を放棄しよう、という考えが出て来てるのだわさ。〕

(…街を放棄…か…
それで済む話では無いけど、皆が助かるには他に手がある訳でも無いし…)


ステラの話を聞いてそこまで考えが至っていた所で


バンッ!(扉が勢いよく開かれる)

〔だわさ!?〕
「?」


ステラとノアの間で重い空気が流れていたが、それを打ち破る様に長屋の扉が開かれ、数人中に雪崩れ込んできた。


「ゼーヴィス!しっかりして!
蘇生薬で助かったとは言え″衰弱状態″よ!
気を失わない様に暫くはここで休んでなさい!(アリッサ)」

「あ、あぁ…済まない、不意を突かれて…(ゼーヴィス)」

「出血が酷かったからチノアラシの針で輸血しましょ!顔色が酷いわ!
…っあ!ステラさん!ここに居たんですね!
すいません、お借りしますね!(スカーレット)」


〔は、はいなのだわさ…〕


慌ただしく入室してきたのは、先程防壁上で虫モンスターを相手にし、胸を貫かれて一度命を落としたゼーヴィスと、学友であるアリッサとスカーレットの2人であった。

ゼーヴィスの胸の辺りには虫の鋭い脚で貫かれた痕と、その際に噴き出した血液が残されており、失血により顔は青ざめ意識も朦朧としていた。

そんな中、3人はノアの存在に漸く気付いた様で


「あ!ノア君意識を取り戻したのね!良かっ…(アリッサ)」


″良かった″と言い掛けて思わず口ごもるアリッサ。何故ならノアの状態を見たからである。

度重なる戦闘により治療中であった右腕の大火傷が露となり視覚的に痛々しく、『竜征趙』との再戦で新たに付けられた顔の左半分の雷撃痕によって自分達以上に満身創痍となったノアの姿を見て絶句してしまったのだった。
  

「「「……」」」

「…ぞ、ぞ…とのじょ…」

(話題変えましょステラさん、外の状況聞いて!)

〔あ、あにょ、外!
坊やが外の状況知りたいらしいのだわさ!
私ずっとここに居たから最新の状況が知りたいのだわさ!〕

「…あ、う、うん…(アリッサ)」


居たたまれない空気になったので話題を変えようと、外の状況を聞き出すノア。
とは言え未だ喋り難いのでステラを介して聞き出して貰った。

とは言え、先程ステラが言っていた事と大差無い内容


・『竜征趙』は半封印状態
・四季龍インヴェルノが封印を維持(タイムリミットは約3時間半程)
・グリードが近寄れば即『発狂湧き』
・継続的な虫モンスターの投下(現在46波)
・2度の『発狂湧き』を経て防衛設備や物資の面でほぼ枯渇状態(持って2時間程)
・現在はノア周りの者達が奮闘


ではあったが、限界が近付いていると言う事実は変わり無かった。


(…となると…)

ギシ…

「ちょ、ノアさん!?(スカーレット)」

〔あ!坊や安静にしてないとダメなのだわさ!〕


外の状況を聞いたノアは意を決した様に左手を床に付けてゆっくりと体を起こす。
だが目に見えて動きが緩慢で、見るからに万全ではないのは明らかであった。


<痩せ我慢>発動
<苦痛耐性>発動
<激痛耐性>発動

「なぁ、に…ごちとら″ぐぐっだ死ぜんの数が違うん、ぁ″…
ごぁい″満ぞくな″らやぃ様はあぅ″。(なに、こちとら潜った死線の数が違うんだ、五体満足ならやり様はある)。」

〔とてもそうは見えないのだわさ!〕


ノアは回復してきた魔力を使用して各種耐性系スキルを総発動。
踏ん張りの効かない足に無理矢理力を籠めて立ち上がり、文字通りこの場に居る全員に″痩せ我慢″してみせた。





(…とは言え、僕が行って事態が好転するかと言われれば保証は全く無い。
奴(『竜征趙』)に仕掛けた攻撃の殆どは通用しなくなったし、必殺技とも言える『龍神邪火』も無効化された…)


立ち上がったノアだが、手札の全てが通用しなくなった手前心の中で途方に暮れる。

だがせめてこの場に居る皆には気取られてはいけない。
気取られれば不安を煽る事に繋がってしまうからだ。

と心の中で独白するノアだが


〔″…必殺技とも言える『龍神邪火』も無効化された…
何も策は無い…あぁどうしよう…″って思ってるのだわさ。〕

「「「あぁ…」」」

(し、しまった…!)

※ステラ″テレパス″実行中です。


ステラと″テレパス″で繋がっている為、ノアの心の声はずっとステラに筒抜けである。
先程からステラを介して皆に話をしていた為、単純に切り忘れていたのであった。

だがこれによって打開策がノアへと伝えられる事となるのだった。





「実は、ね。
私達策が無い訳じゃ無いの。(アリッサ)」

(え?)

「奴(『竜征趙』)を脅威たらしめている元凶とも言える、核の魔石。
あれを排除出来れば流石の奴でも大幅に弱体化するハズ。
だからあの魔石を利用してやろう、って考えなんだけど…(アリッサ)」

(お、教えて教えて!)

〔教えて欲しいみたいなのだわさ。〕


アリッサが立てた策、それは至って単純な話で『莫大な魔力を消費して強大な存在を召喚する』と言うモノであった。

『竜征趙』でも厄介なハズなのに、その上追加で強大な存在を喚び出すのか?

と思うかも知れないが、大幅な弱体化が実現出来れば『発狂湧き』の縛りが無くなって即グリードに処理して貰えるだろう、と言うのが彼女の見立てらしい。

とは言え、そんなぽっと出の案を一個人が決め、実行するのは非常に難しく、そもそも誰がそれを実行するのか、という話である。

ノアですら『竜征趙』に接近するのに苦労している現状、万全ではないノアが再接近するのは至難の技であろう。

それに『竜征趙』に到達したとて″何を召喚するか″が最も問題だ。

『竜征趙』よりはマシな存在であるかも知れないが、もっと厄介な存在かも知れない。

召喚対象が遠方に居れば距離に比例して魔力の消費量も増加するだろうが、そんな遠方のモンスターなど誰も心当たりは無い。





…無い。

…無い?

無かったっけ?

どっかで見なかったっけ?


(…見た気がするし、見なかった気もする。
そもそも誰が戦うんだ、そんな相手と。
耐性系使って何とか立ててる僕じゃ厳しいぞ。)

(『主で良いだろ。』)

(だから僕じゃ厳しいだろって言ったろ。
父さんや母さんならまだ力が有り余ってるだろうし、グリードやクリストフにお願いして…)

(『主なら大丈夫だ。』)

(…何を根拠に…)





(え?)

(『″力が欲しいか?
対話の準備は出来ている、話し合いといかねぇか?″』)
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