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ヴァリエンテ領・大規模氾濫掃討戦編~街(前哨基地)建設~

奴隷だけの街(前哨基地)

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~ヴァリエンテ領奥地・名も無き広大な大地・『比較的安全圏』~


「でも凄い策を考えましたね、″奴隷だけの街(前哨基地)を造る″なんて。(ヴァンディット)」

「奴隷の大半は″元野盗″や何かしらの罪を犯した″犯罪者″だから絶対に街の人達から了承を貰う必要があった訳っちゃね。(ミダレ)」

「時期が悪いのもありますよね。
直近で旧イグレージャ・オシデンタルから端を発した【勇者】軍、その大半を占めていた″野盗″により各地で多大な被害が出ていますからね。
″奴隷だけの街(前哨基地)を造る″なんて言ったら反感を買うのは仕方の無い事ですもの。(ミリア)」

「でもアミスティアさん、″奴隷だけの街(前哨基地)″って上手くいくの?(美幸)」

「勿論ただ奴隷を集めただけじゃ上手くいかないわ。
ちなみにミユキちゃん、奴隷は幾つかの区分に分かれているのは知ってるかしら?(アミスティア)」

「えっと、ラノベ…じゃなかった、私が知ってる範囲だと『犯罪奴隷』『借金奴隷』『戦争奴隷』とかですが…(美幸)」



『犯罪奴隷』…犯罪を犯した者がなる奴隷区分。
罪の軽さ・重さは関係無く、等しく『犯罪奴隷』一括りで呼称する。

軽犯罪…盗みや傷害、人に対するモンスターの押し付け。

中犯罪…無資格での殺人。

重犯罪…多数の殺人、街や国に対するモンスターの押し付け。


『借金奴隷』…何らかの理由で多額の借金を背負ってしまった、或いは背負わされてしまった者達がなる奴隷区分。
『借金奴隷』の大半は親が作った物。
その借金の形として子供が奴隷商に売られる場合が殆ど。


『戦争奴隷』…戦争孤児やその二次被害で家族を亡くした者等。
稀に他国の捕虜等もこの区分に入る事がある。



「そうね、その区分で大体間違いないわ。
ちなみに『犯罪奴隷』は軽犯罪~重犯罪まで区分分けされているのだけど、今回ここに連れてきて貰うのは『軽犯罪』の者達。
それと『借金奴隷』の者。
その中でも″借金を背負わされてしまった者″をここに呼ぶ事にしたわ。(アミスティア)」


広大な大地とヴァリエンテ領・兵舎区画とを隔てる強固な門の前で話をする一行。

この辺りは″比較的安全圏″と言われており、凶暴なモンスターは少ないと言う。

理由としては、広大な大地は非常になだらかな窪地になっており、奥に行く程魔素の濃度が濃くなっている。

それに応じて強力なモンスターが数多く生息している為、弱い、若しくは温厚なモンスターは必然的になだらかな窪地の頂上、坂の上辺りに位置する門の近くを棲息域にしていると思われる。

″比較的安全圏″とは言え、モンスターが跋扈しているので、見張りとしてアミスティアが居る訳である。

女性3人寄れば何とやら(それ以上居るけど)ただ待っているのも何なので、皆此度の強行策について話していたのであった。


今回この名も無き広大な大地にて行う策は今皆が話した通り″奴隷だけの街(前哨基地)を造る″事である。

ヴァリエンテ・ルルイエ伯爵は当初、志願兵を募り、訓練等を施した後に兵を広大な大地に送り、簡単な基礎を造った上で徐々に街の者を送って街としての機能を造っていこうとした。

これではその間の補給はヴァリエンテ領に戻らないと行えなくなるので、非常に時間が掛かり、下手をすれば大氾濫に間に合わなくなってしまい共倒れとなってしまう事も予想された。



「ジョー達に向かって貰ったのは″アルフレッド・レイドって言う伯爵家が傘下にしている奴隷商館″でね、教育の行き届いた奴隷を数多く取り扱っている所で有名なの。
こう言ったらアレだけど、貴族連中の中では比較的全うに商いをしている部類の人なの。(アミスティア)」

「「「「へー。」」」」



だが教育の行き届いた奴隷を街(前哨基地)候補地に送り、街の基盤を早い段階で整える事で、街からの補給や派兵等をスムーズにしようとした訳である。

と、そこまで話していると、ノア達やルルイエ伯爵が立てた奴隷達の内訳が書かれた目録を眺めていたラインハードがポツリと


「あの、アミスティアさん。
『元冒険者』の『軽犯罪奴隷』200人。
『各種生産・技術職奴隷』各50人。
は分かるのですけど、この″直近で『軽犯罪奴隷』となった者達を可能な限り″と言うのはどういう事ですか?(ラインハード)」


目録の中に目を落としてみると、大氾濫と後々の街(前哨基地)の守りの要としてか『元冒険者の軽犯罪奴隷』という項目と、街の基盤を整える目的の『各種生産・技術職奴隷』という項目があった。

確かにどちらも必要なモノではあるが、その他に『直近で軽犯罪奴隷となった者達』という何とも漠然とした項目があった。

これが何を意図してかがラインハードには分からなかった。


「あ、それはノアちゃんが追加した項目なのよ。
漠然とし過ぎててどこまで費用が膨れ上がるか分かったモンじゃ無いわよ?って伝えたんだけど、頑として追加したモノだから理由を聞いたらルルイエ伯爵さんも納得していたわ。(アミスティア)」

「え?一体どういう理由だったんですか?(美幸)」

「それはね…」


アミスティアから『直近で軽犯罪奴隷となった者達』を追加したノアの意図を聞いた者達は、全員納得する事となるのだった。





~アルフレッド・レイド奴隷商館・男性棟~


「なぁ新入り。
お前さんはどういった経緯でこの奴隷商館に来る事になったんだ?(奴隷1)」

「…恐らく皆さん方と同じ経緯ですよ。
先日【勇者】軍に村を襲われまして、妻と娘共々碌に何も持たぬまま逃げる事となりました。
数日逃げ回って飢えと疲労で頭が回らず、思わず人家で盗みを…(奴隷2)」

「あぁ…お前さんもか…(奴隷3)」

「 つー事は別棟の母子はお前さんの…
どうしようも無いとはいえ、捕まえた方も見逃す訳にもいかなかったんだろうな…(奴隷1)」

「…自分の事だけならまだ良い…
妻と娘にも奴隷という枷を作ってしまった事が…うう…(奴隷2)」

「「「「……」」」」


ここはアルフレッド・レイド奴隷商館。
ここには直近に奴隷となった者達が数多く存在し、その数は約300にも昇ると言う。

皆に共通しているのは、″【勇者】軍に村を襲われた″という事である。

それによって逃げ惑い、渇きを潤す事は出来ても飢えを凌ぐ事が出来ずに思わず、といった経緯で盗み又は脅しをしまったというモノであった。

ただこれだけ聞くと、山や畑には食物が多くあるから飢える事は無いのでは?
と思うかもしれないが、人々が逃げ惑う騒ぎが同時多発的に数百件規模で発生した為、直ぐにそういった物は枯渇してしまったのだと思われる。


「…俺の娘もここに居る…
本当なら来年【適正】の儀を受けて冒険者となるハズだったのに…
人生これからって時に…何処の馬の骨とも言えん奴に買われるのだと思うと…っ…(奴隷1)」


ここに集っている者達の多くは表情が重い。
最近まで普通に暮らしていて今は奴隷である。

この先を悲観しない方がおかしいと言える。


「ううう…」
「ああああ…」
「ふっ…うう…」


身の上話をしていると、周りから嗚咽混じりの声が聞こえる。

どうやら周囲に居た者達も自身の事を思い返し、この先を悲観し出したのだろう。




「男性棟1~12までの皆さん!今から5分以内に中庭の方に出て来て下され!
大型の案件が舞い込んできましたので直ぐにお願いしますよ!(アルフレッド)」


奴隷商館の主人とも言えるアルフレッド・レイド伯爵の声が、男性棟の外の中庭の方から聞こえてきたのであった。
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