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取り敢えず南へ編

『幽閉霊』

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~アンテイカーにあるダンジョン『幽閉霊』~ 


「えー、今日1日ゆっくりする目的と、ミダレさんとの親睦を深める為のデートをします。」

「は、はい。デ、デートっちゃね…(ミダレ)」

「そしたらシンプソンさんから何故かここ(ダンジョン『幽閉霊』)を勧められたので来ましたが、ミダレさん幽霊とか大丈夫?」

「う、うん、ノア君と一緒なら大丈夫っちゃよ…!(ミダレ)」

「よし、それなら入ろう。
どうやらこのダンジョン、死んだりする事は無いらしいからデートスポットとして有名なんだって。」

「へ、へぇ~…(ミダレ)」 


唐突に場面が変わり、現在ノアとミダレは街の奥にある『幽閉霊』と言うダンジョンに来ていた。

ドワーフ達から心身消耗を気取られ、休めと念を押されたノアに神父のシンプソンからこのダンジョンを勧められた。

なのでミダレと共に居たヴァンディットとミリア、工房に来ていたラインハードも誘ったが、ラインハードはドワーフ達と共に教会関係者へ聖霊銀(ミスリル)製の装飾製作をするらしく、ミリアはそれらの製作過程で目を養うと言う。

ヴァンディットはそんな2人に乗っかる形で「デートしてきたら良いじゃないですか」とノアとミダレの背中を押して今に至るのだった。

実際の所ノアは、前日に悪霊から見せられた過去のトラウマ(自身の衰弱した姿)による精神的ダメージが残っており、街に戻ってから未だに寝ていない。

健康体になった今でも過去のトラウマを夢で見るノアとしては、寝てしまえばより鮮明な形でトラウマを見てしまうのではと不安になってしまうのだった。





現在2人が居るダンジョン『幽閉霊』は、街に立ち並ぶ建物とは明らかに造りが異なり、今にも崩れそうな木造2階建てのあばら家で、ダンジョンでなければ直ぐにでも取り壊した方が良い見た目をしていた。


「ふぁぁ…如何にも出そうな佇まい…
この中に入って大丈夫なんやろか…(ミダレ)」

「うーん確かに…武器は外しといた方が良いかもなぁ…重みで床が抜けちゃいそうだし…」


見た目だけで言えば、風が吹くだけで家全体が軋みそうな程の寂れ具合の為、ノアは腰から荒鬼神ノ化身を外して中に入ろうとしていた。重いからね。




〝おや、彼氏連れかい。
うらやま…じゃなかった、うらめしや~。
見た目はアレだけど、造りは頑丈だから安心して~。〟

「うひゃぁあっ!?(ミダレ)」

「おわっ。
あれ?今まで反応無かったのに…。」


2人の後ろから幼子の声が掛かり、ミダレは飛び驚き、ノアも思わず肩を竦めた。

直ぐに背後を見てみると、そこには着物姿のおかっぱ頭の幼女が立っていた。
着物を見た時に思わず海洋種のリヴァイアを思い出したが、普通に考えて関係者では無いだろう。


〝やぁ、私はダンジョン『幽閉霊』の″ダンジョンマスター″識童子(シキワラシ)。
君達は涼を求めてここに来たのか、底冷えする様な本当の恐怖を体験しに来たのかしら?〟

「あ、いえいえ、今日はこの娘と親睦を深めようって事でやって来ました。
ね?ミダレさん。」

「う、うん。(ミダレ)」

〝ほうほう、そーかいそーかい…〟


着物姿の幼女であるダンジョンマスターの識童子(シキワラシ)は、2人に来場の経緯を聞き相槌を打つ。
すると識童子(シキワラシ)の目が鋭く光る。


ギュピーン!

(〝″親睦を深めに″ねぇ…
この少年は歳の割にしっかりしている様ね、言葉遣いも丁寧で彼女に対する振る舞いもちゃんとしている。
彼女さんが年上っぽそうだけど、年下の少年がいつもリードしてるっぽいわねぇ。
ぐふふ、こりゃ2人の甘々なダンジョン探索が拝めそうだねぇ…(この間僅か0.5秒)〟)


〝ウチのダンジョンはお客さんにアンケートを取ったり鑑定した上で、それに応じたシチュエーションを反映させる事が出来るのさ。
入口入った直ぐ横に用紙があるから記入して貰えるかな?〟

「はい。」

「は、はい。(ミダレ)」

〝それじゃまた後でね~。〟

フッ…


ダンジョンのコンセプトを話したダンジョンマスターの識童子(シキワラシ)は2人に手を振って姿を消した。


「取り敢えず中に入りましょうか。」

「う、うん。(ミダレ)」


2人はあばら家同然の建物に入り、言われた通りアンケートを記入するのであった。





~ダンジョン『幽閉霊』のサーバールーム~


〝ほうほう、2人はまだ付き合い初めて直ぐの初々しいカップルなんじゃな。
娘の方からの一目惚れとは、少年の方に何やら魅力があるのじゃろう。
娘の方は幽霊は苦手で少年の方は子供の幽霊が苦手?
やけにピンポイントじゃのう。〟


2人が書いたアンケートをミルク片手に確認する識童子(シキワラシ)。
ノアとミダレの関係にニヤニヤしつつ、ノアのピンポイントな要望を受けて別室で待機中のノアに鑑定を行う事にした。


〝…え?何このハイスペック少年は…
中に鬼神を宿し、外でも【鬼神】の二つ名を持ち合わせているとは…
昨日街の外が騒がしかったが、それを収めたのが彼じゃったのか…
いやー…娘の方もサキュバスで驚きはしたが、少年の前では霞む霞む…〟


2人を鑑定した識童子(シキワラシ)はノアのスペックを確認して唖然としていた。


〝え?しかも少年の方は過去が中々に壮絶でトラウマ持ちじゃないか…何でウチのダンジョン来たんじゃ…?
えぇ…定番の子供幽霊出せんでどうするか…
つーか幽霊出したら逝かされるじゃん…〟


トラウマ持ちのノアに困惑し、出し物をどうするか悩む童子。


〝取り敢えず待たせる訳にもいかんから進めながら考えるかの…〟

バタン。(サーバールームから出る音。)





~ダンジョン入口~


〝やっほー、お2人さん。
準備出来たから説明に入るよ~。〟

「わっ!ビックリしたっちゃ!(ミダレ)」

(また反応出来なかった…)


再び音も無く2人の前に現れた識童子(シキワラシ)はダンジョンの説明に入る。


〝本日は私が趣味で経営しているダンジョン『幽閉霊』に来てくれてありがとう。
お代はいらないからバンバン叫んでしっかり親睦を深めてらっしゃいな。〟

「え?お代は要らないんですか?」

〝えっへっへ、私ゃ君達みたいな初々しいカップォーがキャッキャウフフを繰り広げてるのを見るのが好きなんさ。
お代はそれで十分。ジャンジャン痴態を晒してくれたまえよ?〟

「「ひぃ…」」

(『良い趣味してんな、この幼女。』)


幼女がヨダレを拭いながらぐへへ笑いをしている姿に思わず短い悲鳴を上げるのだった。


〝さ、取り敢えず入った入った。
幽霊とかモンスターが出てくるけど、死ぬ事は無いから安心してね。〟

「は、はい…(ミダレ)」

(力強っ…)


無邪気な笑顔の識童子(シキワラシ)は、途轍も無い腕力で2人を引っ張り、ダンジョンの中へと押し込んだのであった。 
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