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取り敢えず南へ編

名探偵ヴァンディット

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~約2時間後・アンテイカーのとある酒場~


「で、この状況は何ですか?」

「う、うーん…一体何処から話したら良いものか…(ヒューマ)」


洞窟の奥での激戦を終え、這う這うの体で帰還した一同。
門で番をしていた者達が酷く驚いていたが、一先ずシンプソンに事の顛末を報告しに酒場へとやって来た訳なのだが


「あっはっはっは!
おいジェンダ!その話しは蒸し返すなと言ったろうが!(シンプソン)」

〈うるせー!成仏する前に思い出話に華を咲かせて何が悪いか!〉


「あははっ!やだもーお婆ちゃん、私が結婚なんて無理だって!
こんな男勝りな女、貰い手なんて居ないよ。(ソシエール)」

〈そんな事無いよぉ。
裏手の肉屋の倅なんか良いんじゃないかぃ?〉


〈へー、アンタ【聖騎士(パラディン)】だったんだな。〉

〈通りで少し雰囲気違うと思ったわ。〉

〈堅物のおっさんだと思ってたわ。〉

「おっさ…(ヒューガ)」


街を発つ前まで幽霊が″視える″様になったが為に思い詰めていたシンプソン、ソシエール、ヒューガの3人が、いつの間にか酒を片手に上機嫌で幽霊達と普通に会話をしていた。

視えない者からすれば酒場内に人魂がフヨフヨと漂っている様に見える事だろう。

ノアとしては最低でも2日3日時間を与えないと持ち直さないと考えていただけに、これ程短時間でこの状況に至った事にとても驚いていた。

すると


「おぅ坊。何処にも居らんと思ってたらもう既に何かやらかした後じゃったか。(バド)」

「3人共何かやつれとるのぅ。(ルド)」

「気付けに一杯やるか?(ロイ)」

「″やらかした″って人聞きの悪い…
…まぁ否定はしないけども…」


ノアと1日遅れでアンテイカーに到着したドワーフ3人組が酒瓶片手にやって来た。


「儂らが酒場にやって来た時にショボくれた状態で呑んじょったから少し話を聞いてやったんじゃ。(ルド)」

「すったら、霊が視える様になった代わりに街に居る霊達から成仏させちょくれ、と言われて落ち込んどったらしい。(ロイ)」

「″ヌシ等ばそういう適正なんじゃから腹括れ!霊共も腹括って、最期の頼みの綱としてヌシ等を頼っとんのじゃぞ!
自分優先で物考えんな、霊共の気持ちに立って物考えぃ!″
って檄飛ばしてやったんじゃ。(バド)」

「うおぉ…荒療治ぃ…」


ノアはあまり介入せず、本人達が時間を掛けて悩んだ末に気持ちの整理をつけさせるのに対し、ドワーフ達はズンズン話を進めるタイプの様だが、彼等にはそれが効果的だったらしい。


「ほんで、酒場の窓ぜーんぶ開け放って外に居るっちゅう霊に呼び掛けたんじゃ。
″こん教会の者がウジウジしとるから腹ぁ割って話してくれんか″、ってな。(バド)」

「「そしたらこうなった。」」

「…そういう訳です…(ヒューマ)」

「うおぉ…荒療治ぃぃ…」


ドワーフ達の強引さと酒による酔いと一時的な思考低下で上手くいっている様に見えるが、素面に戻ったらどうなるか心配ではある。

だが何もしないよりかは断然良い方向に向かっていると思いたい。





「それよりも坊、何があったか色々聞きたい所ではあるが、先に″あっち″の用事を済ましとくと良い。(バド)」

「え?用事?」

「おぅ、1時間位前からニッコニコ顔で待っちょったぞ。(ルド)」


(⌒‐⌒)(ニッコニコ顔のヴァンディット)


「あ、ヴァンディットさん…」

(『何か貼り付けた様な笑顔してんなぁ…
バレたんじゃね?』)

(かもねぇ…)


※ヴァンディットの為を思い、現在悪霊に乗っ取られた事を黙って、熱中症であると皆で口裏を合わせてます。


ルドが指差す方向を見ると、テーブル席の所にニッコニコ顔のヴァンディットが座し、ラインハードやミダレ等も付き添いとして一緒に座っていた。

何処と無く気まずい空気が流れていた様だが、ノアが酒場に戻ってきたのを見て安堵の表情を浮かべている。

ヴァンディットのニッコニコ顔と皆の空気から、留守にしている間に何があったか大体読めたが、ノアはみんなの下に向かうのであった。





~テーブル席~


「お帰り~ノア君。(ラインハード)」
「おかえり、何かやつれてるっちゃよ?(ミダレ)」
「お帰りです、ノアさん。(ミリア)」

「あぁ、うん、ただいま。
…ヴァンディットさん熱ち「悪霊の方は退治出来ましたか?(ヴァンディット)」…はい…出来ました…」


ヴァンディットの口から″悪霊″の二文字が飛び出した事で、口裏を合わせていた事とノアが留守にしていた理由がバレていた事が確定したのだった。


「…隠してて悪かったよ。
真面目なヴァンディットの事だから自分の事を責めるんじゃないかと思ったんだよ。」

「だからって皆で黙ってたのは酷いです。
しっかり受け止めた上で今後は精進致しますのに。(ヴァンディット)」


ノアとしては気を利かせたつもりだったが、要らぬ気遣いだった様だ。





「…それで、どの辺で気付いたの?」

「ノア様を見て気付きましたわ。(ヴァンディット)」

「え?僕?」

「ノア様恐らく私が作製した薬品類を使わず、街売りのポーションをがぶ飲みしたのではないですか?(ヴァンディット)」

「そ、そうだけど…もしかして見てたの?」

「いえ、私が作った薬品と街売りポーションとでは傷の治り方が違うので、そこから察しました。(ヴァンディット)」

「えぇ…」


ポーションは使用した素材によって使用者の自然治癒力を大幅に引き上げて回復するのに対し、ヴァンディットが作製した薬品類は自然治癒力に加え、煮溶かした魔力を触媒にして傷を治している為、よーく見れば傷の治り方に違いが出るらしい。

日頃からボロボロになっては治療に励むヴァンディットだからこそ見分ける事が出来た変化なのであった。


「以後、こういった事があったら隠し事しない様にします…」

「はい、それでは許します。(ヴァンディット)」

「セリフだけ聞いたら浮気バレした亭主みたいですな。(クリストフ)」


恐い位ニッコニコだったヴァンディットは普段の朗らかな笑顔に変わり、漸くノアを許すのだった。





「それじゃあ取り敢えずシンプソンさん達に報告しに行って

「あっはっはー!ノア殿居たのですかぁ?戻ってきてたのなら言ってくれれば良かったのにぃ!(酔っ払いシンプソン)」

「あははっ!3人共ボッロボロじゃん!
風呂入ってきたらぁ?あははっ!(酔っ払いソシエール)」

「ヒュージャァ!何処に行ってっふぁんぶお?
ふんぬむる、えりぐりる?(酔っ払い解読不能ヒューガ)」

「あかん、飲み過ぎじゃな。(バド)」

「コ、コイツら、人の気も知らんで…(ヒュージャ)」ワナワナ…

「すまない、本当にすまない…(ヒューマ)」

「ま、まぁ結果的には良い方向に向かったから良しとしようよ…
取り敢えず明日また出直しますよ。」


結果的に″視える″様になったシンプソン、ソシエール、ヒューガの3人は、その後も霊達と酒瓶片手に語り、笑い合う事となった。

翌日、ヒュージャから語られた事の顛末を聞き、二日酔いによる頭痛も吹き飛ぶ程の衝撃を受けたのは言うまでもなかった。


皆もお酒はホドホドに。
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