ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

文字の大きさ
上 下
844 / 1,171
取り敢えず南へ編

1時間待ってやる

しおりを挟む
『『『ザッ!』』』

「あ、あたしが一応この村の村長をやっているアレイよ…
悪いけど、あんた達の申し出に応じる事は出来ないわ…
皆生活が掛かっているのだもの…(アレイ)」

(あ、村長だったんだ。)

「付き添いの冒険者だ。(ザラット)」

「同じく付き添いの冒険者です。」


″【勇者】軍″はこの場に居るだけで100人近くは見える。
最初こそ意気込んでいたアレイだったが、数と何とも言えない笑みを浮かべた集団の圧にやられ、オドオドとしていた。


そこに付き添ってきたザラットとノアは、その圧に負ける事無くアレイの両脇に佇んでいた。




「あれ?お前試験街テスタに″1人″で居た冒険者だろ?(ハイン)」

「あぁ。
君はテスタでパーティから抜けさせられた冒険者だったね。
確か″毎回倒したモンスターに過剰攻撃を加えて素材をダメにして

「う、うるせぇ!
お前こそ1人で彷徨ってこの村に来たんだろう!この村とは無関係だろ!
邪魔だ!どっか行け!(ハイン)」

「悪いが朝御飯を頂いた恩を返せていないのでね、悪いがここに居させて貰うよ。」

「こ、この…「新入り!さっさとしろ!」

「は、はい!(ハイン)」


ハインがウダウダ話している事に業を煮やした″【勇者】軍″の1人がハインに発破を掛ける。


スラッ!

「……。」

「ははっ!恐いだろう!
良いか?刺されると痛いんだぜ?
俺達″【勇者】軍″は御協力願えない″背信者に罰を与える権限″がある。
それは新入りの俺すらもなぁ!(ハイン)」

「今こっちは100人位しか居ねぇが、山の麓には仲間が200人、明日には追加で200人、300人の″【勇者】軍″がやって来るだろう。
それを断ると言う事がどういう事か分かるだろう?」

「そ、それは…(アレイ)」


ハインに続いて集団の中から装備の整った傭兵らしき人物もやって来てアレイに交渉し出した。

だが交渉と言うよりも脅迫に近い物言いに更に萎縮するアレイ。


「聞きたいのだが、その″【勇者】軍″の行いは周辺の国々は了承しているのか?(ザラット)」

「了承しているかしていないかは問題では無い。″【魔王】討伐を成し得る【勇者】軍がそう言っているのだ″!
これらの行いは全て不問とされるのだぁ!」

「自分達で勝手に作ったルールを正しいとしているだけじゃん。」

「つまり″無許可″だな。
下らん、そして降らん。(ザラット)」


イグレージャ・オシデンタルが勝手に制定して勝手に公布したこの宣言は、勿論の事何処の国も了承しておらず、体良く″検討する″に止まっている。

だがそれを″【勇者】軍″は承認される前から実行している為タチが悪い。
本人達は正しい行いだとしても、世界的にみればただの犯罪行為であるのだから。

それらを声高らかに宣言した装備の整った傭兵の言葉を切り捨てたノアとザラットに、ハインは青筋を立て


「良いか!猶予を、考える時間を1時間だけ与えてやる!
我ら″【勇者】軍″は寛大だからなぁ!
それまでにこの村を明け渡さない場合、こうなると思えっ!(ハイン)」

ビュンッ!


と、交渉が通用しないとみるや、ハインは先程抜いた剣でノアへと斬り掛かる。


「これは見せ『ガヂィンッ!』しめだぁっ!
…あ、あれ?(ハイン)」


見せしめと言いつつ斬り掛かったハインだが、その手に剣は残っていなかった。
落ちた形跡も無く、足下を見渡していたが、隣に居た装備の整った傭兵が絶句している事に気が付いた。


カキ…

「何ふぁこのへん、刃ほぼれしまふっへへふかい物にならはいじゃないふぁ(何だこの剣、刃零れしまくってて使い物にならないじゃないか)『ミキキキ…ビキンッ!』
何?こんな物で僕を殺そうとした訳?」

「ひ…ぇぇ…(ハイン)」

「な、何…」


本日2回目となる、歯で剣を受け止めたノアは、質の悪い剣をそのまま噛み砕いてしまった。
その光景に、ハインと傭兵、その後方に居る集団が僅かながらに固まった。


「…取り敢えずそちらが名乗ってこちらが名乗らないのは宜しくないから紹介しておくよ。
僕は中級冒険者のノア。
世間的には【鬼神】の通り名で知られていると思うけど、後ろの方々にはこう言った方が良いかな?
僕は″野盗200人殺し″のノア、アルバラストでアンタらの様な犯罪集団を数多く捕縛した張本人だ。
この村に攻め行ってみろ?″【勇者】軍″だろうが″神″だろうが全員纏めてぶっ潰してやるよ。」

「き、君が″【鬼神】″…?(ザラット)」

「や、″野盗200人殺し″ってあんた…(アレイ)」

「は?…え?きじん…?(ハイン)」

「う、嘘だろ…」


ノアの二つ名と通り名を聞いて各々驚きの表情を見せる。
唯一ハインは、南方からこの地にやって来た為、ノアの二つ名を聞いてもピンと来ていなかった。


「は、ハッタリだぁ!」
「こんな村にそんな奴ぁ居るわけねぇ!」
「さっきのも何か仕込みがあったに違いねぇ!」
「良いか!俺ら″【勇者】軍″に楯突いたらどうなるか

ズズズズ…『黙れ。』メキメキメキメキ…

「「「「「「「ひっ!?」」」」」」」

「お、おお…(アレイ)」

「…マジか…(ザラット)」


ノアの発言を信じようとしない連中が声を荒げる中、力の制御を解除して殺気を放出しつつ赤黒いオーラと腕を生やして威圧感を増加させるノア。

やはり相手に圧を与えるのならこの形態が最も効果的であろう。


『良いか?考える時間を1時間だけ与えてやる。
【鬼神】は寛大だからなぁ。
″【勇者】軍″をイグレージャ・オシデンタルまで後退させろ、さもなくば潰す。』

「い、1時間…!?そんな無茶な…」

『その無茶をこちらにも強いたんだ、″お相子″だろう?』

「わ、分かった、話を付けて、来よう…」


とんでもない殺気を振り撒いてそう″お願い″するノアに、装備の整った傭兵は了承せざるを得なかった。

結果的にこの地に訪れた″【勇者】軍″は、一時的に退く事になったのだった。





ズズズズ…

『…全く…』

「ぼ、坊や、アンタ…(アレイ)」

「…君があの…【鬼神】…なのか…?
それなら色々と合点が行くが…(ザラット)」


オーラで形成した腕を引っ込めつつ嘆息するノアに、アレイとザラットが声を掛ける。


「な?その坊を連れて正解じゃったろ?(バド)」
「こん坊はその手のプロじゃき、上手ーく退けたじゃろ。(ルド)」

「ですがノア殿…(クリストフ)」

『あぁ、そうだね。』

「ん?どうしたんだい坊や…?(アレイ)」


村の方で待機していたドワーフ3人組とクリストフ、村人達も3人の下へやって来た。
村人達はノアの変貌ぶりに驚きを露にしていた。

そんな中、クリストフが何やら不安そうな声を上げ、ノアもそれに同意していた。


『一時的に奴等は退いていきましたが、″【勇者】軍″が″軍″である以上、1時間後に必ず戻ってきます。
村人達皆の総意を聞きたいですし、それによっては色々と準備をしなければいけません。』

「「「「な、何だって!?」」」」

「だろうな。(ザラット)」

「だろうの。(ルド)」
「「じゃろうな。(バドとロイ)」」


″【勇者】軍″の総数が先程の集団のみであれば、ノアの脅しを受けて迂回、もしくは後退するのだろうが、″明日には追加で200人、300人の″【勇者】軍″がやって来る″と言っていた。

明日以降数が増え、″【勇者】軍″の戦力が増大すれば再びこの村に攻め行って来るのは目に見えていた。


『攻め行らないにしても、僕がこの村を去った所を狙って再び攻め行って来る事も考えられますからね。』

「そんな…それじゃあ一体どうしたら良いんだい…(アレイ)」


この村に再び″【勇者】軍″が攻め行って来るのも時間の問題であると悟ったアレイは、どうしたものかと頭を悩ませていた。




『現在100…明日には2、300か…
クリストフ、森・山が主戦場になるがどうだ?』

「好都合ですぞ。(クリストフ)」

『そうか。
ヴァンディットさん、″魔眼″使えます?』

「勿論ですわ。(ヴァンディット)」

『よし。ラインハードさん、例の″魔装鉄甲の砲形態″って射程はどれ位になりますか?』

「遮蔽物有りで200、無しで300位なら狙えますが?(ラインハード)」

『なるほ「ちょ、ちょっと坊や、一体何をするってんだい?(アレイ)」


何やら戦術の様な物を立てているノアにアレイが問い掛ける。


『この村は″割に合わない″と思わせてやるんですよ。』

「「「「「「「はぁ?」」」」」」」
しおりを挟む
感想 1,251

あなたにおすすめの小説

異端の紅赤マギ

みどりのたぬき
ファンタジー
【なろう83000PV超え】 --------------------------------------------- その日、瀧田暖はいつもの様にコンビニへ夕食の調達に出掛けた。 いつもの街並みは、何故か真上から視線を感じて見上げた天上で暖を見る巨大な『眼』と視線を交わした瞬間激変した。 それまで見ていたいた街並みは巨大な『眼』を見た瞬間、全くの別物へと変貌を遂げていた。 「ここは異世界だ!!」 退屈な日常から解き放たれ、悠々自適の冒険者生活を期待した暖に襲いかかる絶望。 「冒険者なんて職業は存在しない!?」 「俺には魔力が無い!?」 これは自身の『能力』を使えばイージーモードなのに何故か超絶ヘルモードへと突き進む一人の人ならざる者の物語・・・ --------------------------------------------------------------------------- 「初投稿作品」で色々と至らない点、文章も稚拙だったりするかもしれませんが、一生懸命書いていきます。 また、時間があれば表現等見直しを行っていきたいと思っています。※特に1章辺りは大幅に表現等変更予定です、時間があれば・・・ ★次章執筆大幅に遅れています。 ★なんやかんやありまして...

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

魔境育ちの全能冒険者は異世界で好き勝手生きる‼︎ 追い出したクセに戻ってこいだと?そんなの知るか‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
15歳になり成人を迎えたリュカは、念願の冒険者ギルドに登録して冒険者になった。 そこで、そこそこ名の知れた冒険者Dランクのチームの【烈火の羽ばたき】に誘われる。 そこでの生活は主に雑用ばかりで、冒険に行く時でも荷物持ちと管理しかさせて貰えなかった。 それに雑用だけならと給料も安く、何度申請しても値段が上がる事はなかった。 ある時、お前より役に立つ奴が加入すると言われて、チームを追い出される事になった。 散々こき使われたにも関わらず、退職金さえ貰えなかった。 そしてリュカは、ギルドの依頼をこなして行き… 【烈火の羽ばたき】より早くランクを上げる事になるのだが…? このリュカという少年は、チームで戦わせてもらえなかったけど… 魔女の祖母から魔法を習っていて、全属性の魔法が使え… 剣聖の祖父から剣術を習い、同時に鍛治を学んで武具が作れ… 研究者の父親から錬金術を学び、薬学や回復薬など自作出来て… 元料理人の母親から、全ての料理のレシピを叩き込まれ… 更に、母方の祖父がトレジャーハンターでダンジョンの知識を習い… 母方の祖母が魔道具製作者で魔道具製作を伝授された。 努力の先に掴んだチート能力… リュカは自らのに能力を駆使して冒険に旅立つ! リュカの活躍を乞うご期待! HOTランキングで1位になりました! 更に【ファンタジー・SF】でも1位です! 皆様の応援のお陰です! 本当にありがとうございます! HOTランキングに入った作品は幾つか有りましたが、いつも2桁で1桁は今回初です。 しかも…1位になれるなんて…夢じゃ無いかな?…と信じられない気持ちでいっぱいです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...