ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

文字の大きさ
上 下
793 / 1,171
獣人国編~国交式典・解放・擬似的大氾濫~

解放

しおりを挟む
【…と、少し話過ぎたな。
我らについての詳しい話は、地下から逃げ延びた者達が話してくれよう。
俺は新天地へ旅立つのでな。】


『あ、待

ボッ!

「待てぃ、そこな怪しき者よっ!(クリストフ)」


未だ爆煙立ち込める中、ノア達の後方から何かが放たれた直後に傷だらけのクリストフとナサケが駆け込んできた。

どうやらクリストフは、槍状の物をエボル・バトフライの上に立つ【魔王】アクロスに向けて放った様だ。

だが


パキョッ!

【…少なくとも人間サイズのキノコに″怪しき者″などと言われる筋合いは無いな。】


容易く槍状の物を手で払われ、クリストフの攻撃はアッサリと処理されてしまった。





「ぐぬぬ…(クリストフ)」

『…クリストフ、ナサケさんを庇ってくれてありがとう。
すまないな、手加減出来なくて。』

「何を仰います。この位怪我の内に入りませぬぞ。(クリストフ)」


クリストフは到着早々ノアから謝罪を受けたが、本当に痛覚が無い様で全く気にする素振りを見せなかった。

ナサケは、自分以外が重症である事に少し負い目を感じている様であった。





【おや?先程逃げ延びたというのに、性懲りも無くまた戻ってきたのか?】


「…異世界の【魔王】よ!″先程″の話が本当であれば全世界が貴様の敵となるのだぞ!



【″考え直せ″、か?
人間を滅ぼす為に【魔王】として産み出されたと言うのに、その目的を達成出来ぬまま、全てを捨てて1からやり直せるとでも?
そんな事では、ここまで尽力して死して逝った者達に顔向け出来ん。
考え直すのは達成した後にでも考える事にしよう。ではな。】


「待!」


今度こそとばかりに【魔王】は身を翻して一同の前から姿を消そうとしたが、ナサケは尚も説得を試みようとする。




【エボル・バトフライ″放卵″の準備を始めろ。】

[ギギギギギ…]

『『『『『グヂュグヂュグヂュ…』』』』』


「なっ!?(ナサケ)」


【魔王】アクロスが足下のエボル・バトフライに何やら呼び掛けると、巨大な翅の全面が変化を開始。

通常蝶の翅には鱗粉が備わっているものだが、エボル・バトフライの翅には、″球状″の物体が次々に形成されていった。


「な、何


【一言も喋るな。
今このエボル・バトフライの翅に夥しい量の″卵″を出現させた。
次に何か喋れば、これらの″卵″を半径10キロメルの範囲内に拡散させる。
そこの少年はエボル・バトフライに植え付けた″造魔核″を知っている様だから皆まで言わずとも分かるだろうが、″コイツ″が″この数″増える事になるぞ?】



エボル・バトフライ…通称″進化の蝶″。
本来は翼長30セメル程の少し大きめな蝶なのだが、″極限環境下(超高温・超低温・無酸素・真空等)で生存する為、自身の身体を造り変える″事が可能で、その場所場所で違った特性のエボル・バトフライを見る事が可能。

今回の場合、そんな特性を持った蝶エボル・バトフライに″造魔核″を搭載した事で【魔王】アクロスが新天地に向かう為の足、後に″苗床″として活用する為に造り出された。



たった今翅の全面に出現した″卵″だが、その半透明な球体の中には既にエボル・バトフライの幼体らしき黒い紐状の生き物が蠢いていた。


【今コイツは俺の制御下にある故、このまま静かに出立を見送ってくれれば″放卵″しないと誓おう。
だが、時間稼ぎと取れる説得や邪魔立てを続けると言うなら容赦しない。
即高高度まで上昇して広範囲に″放卵″するから覚悟しろ?】


〔『……っ…』〕
〔……。〕
『……っ』
「……っ!」
「………」


本当に【魔王】が″造魔核に汚染された卵を放卵″しない保証は無いが、その場に居た全員は従わざるを得なかった。

だがノアは。【魔王】の言動から″従っていれば最悪の行動は取らない″と漠然と感じ取っていた。

それはノアの持つスキル<虫の知らせ>が一切反応していなかったからであるのだが、殆ど″勘″と言って差し支えないモノであった。


【賢明な判断、感謝する。
元居た世界の人間はいつも感情に身を任せた″交渉″とも取れない行動を取る故、強攻策を取らせて貰った。
その代わりと言っては何だが、少し情報を与えよう。】


(((〔『〔情報…?〕』〕)))


【我らはこれより南にある″南獄大陸″へと向かい、そこを今後の活動拠点とする。
近くにはドワーフの暮らす『フェレイロ』があるが、戦争を吹っ掛けられない限りは友好な関係を築こうと思っている。
そこで暫くは地固めに取り組もうと思っているが、″人間による排除行動″が行われた場合、全力で応えようと思っている。以上だ。】

(((〔『〔……〕』〕)))


ここで下手に行動を取らずに【魔王】からの譲歩に応じた事で、今後の活動予定を自ら語ってくれた。

すると最後に【魔王】アクロスはノア達の方を向き


【そこな巨躯の海洋種よ、今日の国交式典御祝い申し上げる。
獣人国とは良好な関係を築ける様願っているが、人間との付き合いは慎重を期すると良い。
人間と関わった事で絶滅の危機に瀕した種族からの忠告だ。】


〔『……っ…』〕


【″停止″。】










気が付くと、一同の目の前から【魔王】とエボル・バトフライは忽然と姿を消しており、周囲一帯には静寂が広がっていた。

まるで今まで何事も無かったかの様な静けさであったが、焼け野原となり荒れ地と化した大地が広がっており、先程までの出来事が嘘では無い事が感じられた。


『『ドカッ!』』

『…っ痛ぅ…』

〔はぁ…〕

『『『ズズゥンッ!』』』

〔『…やれやれ…だな…』〕

「大丈夫ですか皆々様?(クリストフ)」


そしてずっと気を張っていたからか、今頃になって諸々の痛みがぶり返して来た為、思わず座り込んでしまった。


「…困った事になりましたな…
【魔王】の登場、しかもそれが異世界の…明らかに未来の存在とは…(クリストフ)」

〔『…一体奴は何だ。
廃都の地下で何を見聞きしたのだ?』〕

「その前に情報の整理をさせて下さい。
ツェド殿からの話と整合性を取らねば…
それにまずはリヴァイア殿や獣人国国王等、関係各所への説明が第一です。(ナサケ)」

〔『む…そうだな、済まん…先走ったわい。』〕

『…一先ず一度獣人国に戻りましょう…
皆心配してるでしょうし、正直怪我を早くどうにかしたいですしね…』

「そういえば獣人国は無事で…
まぁ皆さんが戻ったから大丈夫でしょう。(クリストフ)」


【魔王】が新天地である″南獄大陸″へと移動した為、一同は獣人国へと戻る事に。

ナサケの話では、国王にいの一番に報告、後日王都から調査隊を派遣して貰うそうだ。

″【魔王】出現″の報は全世界に轟く事となるのであった。


(『…そういや、【鬼哭崇崇】って解除したか…?』)

(『…あ…』)
しおりを挟む
感想 1,251

あなたにおすすめの小説

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

魔境育ちの全能冒険者は異世界で好き勝手生きる‼︎ 追い出したクセに戻ってこいだと?そんなの知るか‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
15歳になり成人を迎えたリュカは、念願の冒険者ギルドに登録して冒険者になった。 そこで、そこそこ名の知れた冒険者Dランクのチームの【烈火の羽ばたき】に誘われる。 そこでの生活は主に雑用ばかりで、冒険に行く時でも荷物持ちと管理しかさせて貰えなかった。 それに雑用だけならと給料も安く、何度申請しても値段が上がる事はなかった。 ある時、お前より役に立つ奴が加入すると言われて、チームを追い出される事になった。 散々こき使われたにも関わらず、退職金さえ貰えなかった。 そしてリュカは、ギルドの依頼をこなして行き… 【烈火の羽ばたき】より早くランクを上げる事になるのだが…? このリュカという少年は、チームで戦わせてもらえなかったけど… 魔女の祖母から魔法を習っていて、全属性の魔法が使え… 剣聖の祖父から剣術を習い、同時に鍛治を学んで武具が作れ… 研究者の父親から錬金術を学び、薬学や回復薬など自作出来て… 元料理人の母親から、全ての料理のレシピを叩き込まれ… 更に、母方の祖父がトレジャーハンターでダンジョンの知識を習い… 母方の祖母が魔道具製作者で魔道具製作を伝授された。 努力の先に掴んだチート能力… リュカは自らのに能力を駆使して冒険に旅立つ! リュカの活躍を乞うご期待! HOTランキングで1位になりました! 更に【ファンタジー・SF】でも1位です! 皆様の応援のお陰です! 本当にありがとうございます! HOTランキングに入った作品は幾つか有りましたが、いつも2桁で1桁は今回初です。 しかも…1位になれるなんて…夢じゃ無いかな?…と信じられない気持ちでいっぱいです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...