ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

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獣人国編~国交式典・解放・擬似的大氾濫~

切り札その1

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ギュッ…ズリ…


徐にノアは自身の血を両手の親指に付け、両目の目頭から目尻に掛けて下瞼に血を塗っていく。

所謂″戦化粧″である。

これに関してはスキルとかの類いでは無いが、母であるアミスティアが大きな戦いに望む時には決まって施していたと言う。

何でも″ゾーン″に入れるのだとか。


『『ギュリッ!』』

ズルッ…『『『『ジャキッ!』』』』


戦化粧を施し、霧散していた腕を再度生やし、荒鬼神ノ化身4本を手にしたノアが身構える。


(〔『準備完了…と言う訳か…
<人化>を施しても尚細心の注意を払わねば踏み潰してしまいそうな存在にこれ程脅威と感じるとは…』〕)


ノアは構えの姿勢のまま動かず、迎撃の体勢を取っていた。


(〔『何か策がある様だ。
普通なら様子を見るものだろうが、あの様に″掛かって来い″と言わんばかりの眼差しを向けられては乗るのが通りであろう…』〕)

ドゥンッ!

〔『なぁっ!』〕ガガンッ!ガガガガガッ!


再びエルダークラーケンは触手を総動員して迎撃体勢を取っているノアの下へと向かう。


<血乏>と<洗練>によって精神が研ぎ清まされ、体感時間が引き伸ばされたノアは微動だにしない。


〔『『エクスポーザオ…』』〕ギリリッ!


接近しながらエルダークラーケンは拳を固め、再び上から4段階目の威力を誇る『エクスポーザオ・ヌークレア(核爆発)』を放とうとしていた。


ユラッ…ザッ!ザキッ!ザッザガッ!

〔『!』〕


徐にノアは闘技場の床に荒鬼神ノ化身を次々と刺していき、まるで盾の様にし出した。


(〔『…直撃させない事を事前に予知したか…?』〕)


拳を固めはしたが、直撃させるつもりは端から無い。直撃させたら幾ら何でもノアの身体がもたないからだ。

なので膨大な水で形成された闘技場の水を衝撃波と共に拡散させ、間接的に切り刻む攻撃を仕掛けようとしていた。

ノアの行動は、それをエルダークラーケンの動きから事前に察知した事によるモノであった。


〔『だが即席の盾で防ぎきれる程、儂の攻撃は甘くないぞ!
『エクスポーザオ・ヌークレア(核爆発)!』』〕


『『ドゴォアッ!』』

ズバァアアアアアッ!バヂヂヂヂヂヂッ!


再びノアの直ぐ近くで『エクスポーザオ・ヌークレア(核爆発)』を炸裂させ、衝撃波と共に水刃と空気の壁がノアを襲う。


バヂヂヂヂヂヂッ!

バッ!ズバッ!ザンッ!ズバッ!


即席の盾で耐えるノアだったが、オーラで形作った腕は水刃や空気の壁によりズタズタに引き裂かれ、幾つかは霧散していた。


ズババッ!『ドバッ!』

(〔『…耐え抜きおったか!!』〕)


始まりがあれば終りもある。

衝撃波・水刃・空気の壁の最終波が迫る中、それを断ち斬り、荒鬼神ノ化身を振り抜いた姿勢でノアが飛び出してきた。

完全に防ぎきった訳では無く、右目の下には大きく裂けた傷が深々と刻み込まれていた。

それと戦化粧が相まって鬼気迫る形相を形作っていた。


ゴォッ!〔『しまっ…』〕


そんな鬼気迫るノアの気配に当てられたのか、それとも海洋最強種としての無意識の反応か、鉄塊を彷彿とさせる頑強な拳をノアに振るっていた。

自身でも思ってもみなかった行動だからか、振り抜いた直後に漸く気付いたと言った様子であった。




(<躱身>、<一閃>!<躱身>、<一閃>!<躱身>、<一閃>!<躱身>、<一閃>ッ!!)

『ギュリッ!』『ガシュッ!』『ズリッ!』『ザバッ!』

〔『おおおおっ!?』〕


エルダークラーケンの拳の一部を火花を散らしながら″外殻ごと″断ち斬り突き進むノア。

迫る拳に対し僅かに横にずれて<躱身>で回避し、踏み込みと共に<一閃>を放って斬り込みつつ再び<躱身>で回避、<一閃>の繰り返しで次々と斬り込んでいく。

勘違いして欲しくないのは、元々相当の地力を持ち、その上で多種多様な攻撃・ステータス上昇スキルを乗算していったノアだからこそ出来る芸当である。

流石に″外殻ごと″断ち斬られると思っていなかったエルダークラーケンだが、もう1人この事態に驚いている者が居た。


″『えっ!?うっそぉ!彼の外殻をぶった斬ったのぉっ!?(リヴァイア)』″


今まで黙って試合を見守っていたリヴァイアですら驚きの声を上げていた。
幾ら<人化>して全ステータスが1/100になったとてまさか人間の繰り出す攻撃でエルダークラーケンの外殻が突破されるとは思ってもみなかったらしい。

ちなみにエルダークラーケンの息子のクラーケンは、短く「だろうな。」と呟いていたらしい。 


(『っしゃあ!漸くあのくそ堅ぇ外殻を突破したなぁ主っ!』)

(あぁっ!だが、その下の肉まで到達したのは精々1、2撃!
これ以上乗せられるバフも無い!)

(『つー事は制御状態に以こ(待った待った、本当の切り札は最後まで取っておこう。
僕らにはまだ切っとくべき切り札があるだろう?)

(『へっ、良いねぇ!パーッと行こうじゃねえか!』)


外殻ごとエルダークラーケンの拳の一部を断ち斬る事は出来たものの、青い鮮血が吹き出しているのは2ヶ所程。
肉は斬れたが分厚い筋肉に阻まれている為、致命傷を与えるにはまだ程遠い。

なのでノアは″切り札の1つ″を切る事にしたのである。


〔『ぬぅんっ!』〕

ドゴッ!ゴガッ!ズドッ!ドゴッ!ズン!ズズンッ!


足元に居るノアへ向け、拳を打ち込んだり、踏みつけ、触手による連続攻撃を仕掛けるエルダークラーケン。

だがそれを縦横無尽に駆け回って悉く回避していくノア。


(やっぱりだ。
本来の姿同様、巨体故に物理特化の攻撃主体であった弊害で攻撃が″読みやすい″。
遠距離:触手、中距離:衝撃波、近距離:拳・触手の連続攻撃ってパターンが殆ど。)

(『勿論1発食らったら堪ったモノでは無いが、こうも単調だと嫌でも覚えるな。』)


本来は体長5000メルの超巨大種族であるエルダークラーケンは、これ程小型の存在相手に戦った事は無かったのだろう。

恐らく大体は拳1発、触手による薙ぎ払い程度で片が付く為、複雑な手の込んだ攻撃手段が無いのである。


ダッ!ダガッ!ダダダダダッ!


エルダークラーケンの猛攻を掻い潜り、岩礁の様な外殻を伝って頭部を目指すノア。




〔『ええい!これはあまり使いたくなかったが致し方無い!』〕

『『ガゴンッ!』』ドゥンッ…ゥンッ…

「ん?」
(『ん?』)


徐にエルダークラーケンが拳同士を打ち付け出す。今までであれば衝突箇所から衝撃波が生じるモノだがそれも無い。

だが、逃げ場を失ったかの様な光の奔流が拳から腕、腕から全身へと伝わっていく様子が窺えた。


(あ、これはマズイ…)
(『あ、これはマズイ…』)


と、2人同時に嫌な予感を感じた直後


『『『『ドゥ″ン″ッ″!』』』』

『「ぅ」『ゴバァッ!』』


エルダークラーケンの全身から衝撃波が発せられ、ノアはゼロ距離でそれをモロに食らってしまったのであった。

幸いな事に、全身から放出された為か威力は大分抑えられていた。

だがゼロ距離で食らった為、防具を装着していない露出した肌の所々は、まるでカミソリで斬られたかの様に切り裂かれていた。


(『今更だがクラーケン素材は″『吸収』と『衝撃波』″がセットだったな…
すっかり忘れてたぜ…!』)


ノアの防具=クラーケン素材を基に製作されている為、エルダークラーケンからの攻撃を幾分か『吸収』している。

つまりエルダークラーケンもそれに沿った能力は持っていて当然とも言えた。


「ぼ…くの…」『『『チャキッ!』』』


今の衝撃波でエルダークラーケンと20メル程離れてしまったが、それ位の距離では問題ないとでも言わんばかりにノアは荒鬼神ノ化身″3本″を構えつつ言葉を紡ぐ。


「…俺の喚び掛けに応じて姿を現せ!
【召喚獣:三刀】『龍神邪火(リュウジンジャッカ)』!」


『『『ゴオッ!』』』

〔『ぬぅっ!?』〕


『龍神邪火』
ノアがそう叫んだ直後、荒鬼神ノ化身の刀身の刻印が光り、目も眩む様な光の奔流が飛び出したのであった。
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