ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

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獣人国編~御前試合の代表決め~

ミユミユとユウユウ

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~獣人国・西門~ 

「よし、荷に不審な物は無い様だ。行ってヨシ。(兵士1)」

「ご苦労様です。(商人)」

ガラガラ…

「さて、次の…ん?(兵士2)」


獣人国・西門で門兵の仕事に従事していた兵士が不審な3人組を見付ける。

如何にも怪しい人物かと言われればそういう事は無く、父母娘の親子3人家族にしか見えない。
だが、娘の方は兎も角、父母の服装が普段着なのである。

この国の周辺にある1番近い村でさえ歩いて半日はあるし、近年巡回等の強化によって比較的野盗の類は少なくなったとは言え、普段着で外を出歩くのは不用心であった。

見た所父母の方は帯剣していなかったので、兵士はある予測が頭に浮かんだ。


(…もしかして何処かの村が襲われて、着の身着の儘でここまで辿り着いたのでは)無いから安心してくれ。(レドリック)」

「え?ええ!?(兵士2)」


兵士が3人を見て予想立てをしていたのを察し、レドリックが兵士の下へやって来て兵士の考えを否定した。


「俺達が普段着だったから、何処かから逃げてきたんじゃ、みたいな事を考えていた感じだったからね。
まぁ思い立って着の身着の儘でここまで来たのは本当だが、武器や防具は街に預けてあるからそこまで心配しないでくれ。
はい、冒険者カード。(レドリック)」

「私達、元々冒険者やってたから、別に野盗の類が出て来ても大丈夫よ。
はい、これ冒険者カード。(アミスティア)」

「そ、そうですか…では拝見致します…
えーっと、【神出弓士】のレドリックさんと【殲滅剣士】のアミスティアさんですね。
それでそちらの娘さんは身分証等はありませんか…?(兵士1)」

ビクッ。


身分証の提示を求められ、2人の後ろで待機していた少女がビクッと体を震わせる。


「この娘は【山菜採り】でね。冒険者カードやら身分証の類は持ち合わせていないんだ。
だが俺ら同様普段着で外を彷徨かせる訳にもいかないから防具を着けさせたんだ。(レドリック)」

「ほら″ミユミユ″、後ろでビクビクしてないで兵士さんに顔を見せてやりなさい。(アミスティア)」

「へ、へぁぃっ!(ミユミユ)」

「済まないね兵士さん、″ミユミユ″はここみたいな大きな街や、体の大きな獣人が犇めく場所に来た事が無くってビクついてんだ。(レドリック)」

「なる程…因みにここへは観光に訪れたのですか?(兵士1)」

「まぁそんな所ね。
この辺りをうろうろ彷徨ってみようかな~、ってね。(アミスティア)」

「まぁ式典までまだまだ日はありますから、のんびりされると良いでしょう。(兵士1)」

「「ん?式典?(レドリックとアミスティア)」」

「あれ?御存知無かったですか?(兵士1)」


その後兵士から約2週間後に行われる海洋種との国交式典の話を知らされた3人であった。

ちなみに″ミユミユ″こと美幸は、元上級冒険者であるレドリック、アミスティア付き添いである事を考慮し、獣人国への入国が許可された。





「新種族との国交式典か~。
まさか今の時分で新しい種族にお目に掛かれるとはなぁ″ミユミユ″。(レドリック)」

「ちょ、あの…(ミユミユ)」

「それよりもレド、街に来たんだから先ずは装備を取りに冒険者ギルドに向かいましょ。
で、その後に″ミユミユ″用の防具も見繕ってあげましょう。(アミスティア)」

「あ、あの2人共…?(ミユミユ)」

「何だい?(レドリック)」
「なーに?(アミスティア)」

「その″ミユミユ″って呼び方やっぱ止めません…?(ミユミユ)」


ミユミユ(美幸)は、獣人国に入るにあたり、本名であるミユキ呼びは止めて″ミユミユ″とした。
そして【勇者】では無く、冒険者ギルドに登録不要な適正である【山菜採り】という事にした。

あと外見的な問題は、前髪を垂らして少しでも表情を晒さない様にと、目隠れスタイルにした。


「良いじゃないか、″ミユミユ″。(レドリック)」
「良いと思うわよ?″ミユミユ″。(アミスティア)」

「いや、あの…(ミユミユ)」

(言えない…悠君と付き合いたての頃に、ノリと勢いでお互いに『ユウユウ』『ミユミユ』と呼び合っていた黒歴史が呼び起こされるから、なんて言えない…(ミユミユ))


美幸と悠の2人が元の世界に居た頃、お互いに『ユウユウ』『ミユミユ』と呼び合っては恥ずかしさのあまり笑い合っていた事から、バカップル=『ユウユウ』『ミユミユ』=『ミュウミュウ』と言う言葉が生まれた程であった。

その後巡り巡ってお互いの両親に「アンタ『ミュウミュウ』なんて呼ばれてるんだって?」と軽く引かれた為、その呼び名は封印する事となったのだ。


「そんなに嫌なら、そこの売店に『獣人なりきり・猫耳・尻尾セット』ってのが売ってるから、それ着けて語尾を「にゃ」とか「にゅ」とか「あああ…ハロウィンの時の黒歴史が、あああ…(ミユミユ)」


黒歴史、それは人によって2つや3つあるモノである。

レドリックからの提案も、また別の黒歴史に繋がっている為か、結局″ミユミユ″のままでいく事となった。





~レドリック、アミスティア、ミユミユの前方100メル地点~


「さって、行くどお前んら。(バド)」

「「おぅ。(ルド、ロイ)」」
「っしゃ。(エスメラルダ)」

「…ねぇ、何度も聞いて申し訳ないんだけど、″ダックスフンド″を探しに行くんだよね?(悠)」

「「「「そうだよ、″ダックス憤怒″だよ。(一同)」」」」

「そう…だよねぇ…うーん…(悠)」


胴長短足の犬を探しに行くハズなのに、全員完全武装で、雰囲気も何処と無くピリついていた。

エスメラルダは薬品を出来るだけ調達し、矢もパンパンになる程用意してある。
ドワーフ3人組に至っては前日から酒を断っており、替えの斧を準備している程である。


「【テイム】故、殺さずに攻撃を加え、弱らせてからでないとテイム出来んらしい。(バド)」

「が、強敵相手に不殺を通すのは難しい。
もしこちらの命が危うくなったら手心加えず即殺すど。(ルド)」

「麻痺・鈍重・混乱・出血毒何かも揃えたし、広域ポーション等の回復系や、種子系アイテムも揃えたから前線でやり合う爺さん達、気兼ね無く言って頂戴。(エスメラルダ)」

「エスメラルダよ、あの吸血鬼の嬢ちゃんの薬は持ってきたか?(ロイ)」

「『三途の川』でしょ?勿論よ。
こちらの身が危なくなったら迷わず使うわ。
その代わり、完全に眠っちゃったらテイム出来なくなるけどね。(エスメラルダ)」

「ええ、ええ。命大事に、じゃ。(バド)」

(″ダックスフンド″だよね?本当にこれから″ダックスフンド″をテイムしに行くんだよね?(悠))


話の内容からして、どうにも悠が思っている″ダックスフンド″とはかけ離れている事に、焦りの色が隠せない悠であった。




″ミユミユ″…


バッ!「っ!?(悠)」

「んぉ?どうしたんじゃ、ユウ。そろそろ行くど?(ルド)」

「あ、いや、何でもない…
(い、今何処からとも無く″ミユミユ″って…いや、まさかね…
僕がノリと勢いで美幸に付けた愛称…まさかこの世界で黒歴史の一端を耳にするとは…(悠))」


何かの聞き間違いだ、と解釈した悠は、ブンブンと頭を振って気持ちを切り替え、4人の後に着いていった。

悠が待望の″ダックス憤怒″と出会うまであと1時間。
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