ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

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獣人国編~【勇者】アーク・ダンジョン『時の迷宮』~

強制労働1時間目

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~『時の迷宮』~

「これからあなたが2ヶ月間強制労働をする事になる『時の迷宮』はこちらになります。」

ヂャラ…

「んだここは?
地下に連れて来たかと思えば、灯り代わりの蝋燭と台座に置かれた水晶があるだけで、ダンジョンの入口所か扉も無ぇじゃねぇか。」


手足に枷を嵌められた【勇者】アークが連れて来られたのは、本当にダンジョンがあるのか?と疑ってしまいそうなただの穴蔵であった。

同行者である『犬姫』のハナと部下のリーバーは、いぶかしんでいるアークを他所に、『時の迷宮』について説明を開始した。


「疑うのも無理無いが、正真正銘ここは『時の迷宮』入口だ。
そこにある水晶を通して『時の迷宮』内に突入するのだ。」

「『時の迷宮』内は外と時間の流れが"少し"違います。
そして"外での"1時間が来たら強制的に弾き出されますので、再度突入。
これを1日10回繰り返して頂きます。
そしてあなたには第4層で素材採取とモンスターの討伐を行って貰います。」

「へいへい分かったよ、昨日何度も羊皮紙の内容確認させ『ガシッ!』むごっ!?」


真面目に聞かないアークに対して、部下であるリーバーがアークの口を鷲掴みにした。


「よく聞け腐れ外道め!
団長が丁寧に説明をしているだろうが!
言っておくが私は団長程優しくは無いから覚悟しておけ!」

ブンッ!ドザッ!

「うげっ!?」


それだけ言うとリーバーはゴミを捨てるかの様にアークを投げ飛ばした。


「その辺にしておきなさいリーバー。」

「はっ!申し訳ありません。」


注意するのみで止めに入らない辺り、ハナもある程度リーバーの行いを黙認している様だ。


「あなたの国の騎士方も言っていたでしょう?
"良い機会ですので、この間に改心なさると良い"と…
裏を返せば、改心しない様なら今度こそ見限られると考えて良いでしょうね。」

「はっ、それはどうかな?
俺は【勇者】だ、【魔王】の討伐には【勇者】の存在が必要不可欠。
最後の最後には"俺"と言う存在無しではどうしようも無くなる。
改心なんざ必要無ぇよ。」

「そうですか。
ならその気概がいつまで続くか楽しみです。」


そう言って話を終わらせたハナだが、実際の所
それ以上言い返せないが為に話を区切ったに過ぎない。

アークの故郷イグレージャ・オシデンタルは【勇者】と【聖女】誕生の恩恵で発展した国である為、思う所がどれだけあろうとアークを見限る事は決してない事は明白であり、アーク自身もそれが分かっている為、態度を一切改めるつもりが無いのである。

その考えを改めさせるには、根底がひっくり返される程の"何か"が発生しない限り無理であろう。


「取り敢えず続きは中に入ってから話しましょう。そこにある水晶に触れて下さい。」

「へいへ『ガシッ!』むぐっ!?」


なので当分の間、アークはリーバーに顔面を掴まれ続ける事になるだろう。





チュンチュン、チチチチチ…

「「「きょ、今日も精神力強化の特訓お願いします!」」」

「はい、宜しくお願いします。」


早朝、【勇者】パーティのミミシラとヴォルフスティ、アックスレイの3人は薄靄立ち込める滅びの森に集まっていた。

そこには既にノアが佇んでおり、3人が来るのを待っていた様だ。


「昨日はただひたすら殺気に耐えるだけでしたけど、今日は少し実戦形式で行いましょう。」

「実戦形式ですか?」

「えぇ。
昨日も話しましたが、精神力を鍛えていく事で有用なスキルを取得する事が出来ます。
ですが、昨日みたくただ殺気に耐えているだけだと全員同じスキルしか取得出来ません。
実戦形式を取って動きを取り入れた方がその人の【適正】に応じたスキルを取得する事が出来ます。」


精神力を鍛えていくとまず最初に取得するスキルが<胆力>である。

ここから各【適正】によって派生し、【剣士】や【侍】は<明鏡止水>、【魔法使い】や【神官】は<思考加速>を取得しやすくなるのだと言う。


「取り敢えずお三方の【適正】はどれも聞いた事が無い物ばかりですので、"僕を滅びの森に生息しているモンスター"だと思って攻撃を仕掛けてきて下さい。」


そう言うとノアは3人の前で腕を組んで佇む。
腰に差している荒鬼神には手を掛けず、"さぁ掛かってこい"と言わんばかりな雰囲気である。


「じ、じゃあ私から…」スラッ…


【紅武士】のアックスレイが腰に差していた刀を抜きながらノアの前に進み出て来た。

だがノアは動く事無くアックスレイの出方を待っていると


「あ、あの、君は武器を手にしないの…?」

「えぇ。」

「流石に丸腰の人に攻撃を仕掛けるのは気が引けると言うか…」

「うーん…それならこれでどうでしょう。」


ノアは徐に無手のまま半身になり、右手を前に構え、動きを止める。
その右手は何かを握り込んでいる形をしている。


ズズズズ…

「「「!?」」」


すると少しして半透明の刀がノアの右手に出現し始めた。


「な、何ですかそれは…」

「【召喚】の類いですか…?」

「違うよ、アレ<無刀幻視>だ…
凄い、あのスキルを持ってる人初めて見た…」

「お、アックスレイさんは知ってるみたいですね。
その通りこれは<無刀幻視>と言うスキルです。本物の刀では無く<殺気放出>と<剣気>、それに加えて"それなり"の戦闘経験があれば取得出来ます。
取り敢えずこれで形だけでも武器を手にしました、これで良いですか?」

「お、お願いします!」ダッ!


<無刀幻視>を発動し、迎撃体勢を取っているノアへ向け、腰に差している刀をいつでも抜ける様、鯉口もたげつつアックスレイが駆け出した。


「はぁあああっ!」シュラッ!シュゴォオオッ!


アックスレイが刀を真一文字に抜き放つと、刀から炎が吹き出しノアを襲う。

だが


ボッ!ボファッ!

「うっ!?」ズザッ!


迫る炎に対して腕を振った際の風圧で逆にアックスレイに押し戻すノア。
返されると思っていなかったアックスレイは、咄嗟に右に回避する。




ぴとっ。

「ひっ!?」


回避したアックスレイの首元に<無刀幻視>の刀が押し当てられていた。


「うん、やはりアックスレイさんには<明鏡止水>がオススメですかね。
今みたく咄嗟の対応の際に有用となるので頑張って取得しましょうね。」

「は、はい…」


アックスレイは、動きを読まれた上に何も出来なかった事に愕然とし、地面に膝から崩れ落ちるのであった。






~再び『時の迷宮』~

ブゥンッ!

「はっ!はあっ!糞っ騙された!
何が"素材採取とモンスター討伐"だ!
ひたすらにモンスター討伐しかしてねぇじゃねぇか!」

「あなたの討伐速度が遅かった結果です。
さて、1時間目が終わりましたので2時間目に参りましょうか。」

「なっ!?2時間目!?
馬鹿言え、1日半以上は中に…」


そこまで言った所でアークは口を閉ざした。
『時の迷宮』に入る前に見た灯り代わりの蝋燭が半分も融けきっていなかったのである。


「ま、待て…2時間目って…まさか外では1時間位しか経っていないのか…?」

「漸く気付きましたか。
そうですよ、外と中とでは40倍時間の流れが違います。
さ、『時の迷宮』のギミックがほんのり理解出来た所で次行きましょう、次。」 

「や、嫌『ガシッ!』むががっ!?」

「ほらさっさと行くぞ腐れ外道。」


自身に課された強制労働の本当の意味を理解したアークが逃げ出そうとするも、再びリーバーに顔面を掴まれて『時の迷宮』内に引きずり込まれていった。
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