ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

文字の大きさ
上 下
503 / 1,171
獣人国編~【勇者】アーク・ダンジョン『時の迷宮』~

軽い仕返し

しおりを挟む
「ハッ!?ここは何処だ!?
なっ!?暗っ!?目隠しかっ!?」

「目覚めて早々騒がしい人ですねぇ…
まぁいくら叫んでも大丈夫ですよ?
"それ専用"に作られた場所ですからねぇ。」 


アークが目を覚ますと、何処かの場所で目隠しをされ、後ろ手に縛られた状態で座らされていた。

アークは状況に着いていけず、困惑していると


「なぁ少年よ、こいつらはもう解体(バラ)しちまって良いんだよなぁ?」

「ん?あぁ、良いですよ。
使える部分は切り取って残りは処分しちゃって下さい。」

「りょーかい『ズダンッ!ビチャチャッ!』」


アークの周囲には他に誰かが居り、刃物で何かを切断する音と、水音が響く。


「い、今のは何だ!?
おい!ミミシラ!ヴォルフスティ!アックスレイ!」

「あの3人ならもう居ないぞ。
色々と情報を聞き出そうとしたが大したモノが無かったのでね。」

「おい!俺にこんな事してタダで済むとおもってるのか!
良いか俺はなぁ…」

「【勇者】だろ?それ位知ってるぞ。」

「なっ…!?」


身動き取れないアークは、素性が既に知れている事に驚き身を強張らせる。


「【勇者】アーク。
西方にある国、イグレージャ・オシデンタルの生まれで、同郷の【聖女】ミミシラと共に【勇者】パーティとして仲間を集めつつ全国を練り歩いている途中と…
だがここ3年は大した実績も無く、【勇者】アーク自身の悪癖である女癖の悪さと、大抵のスキルを所持しているという【勇者】の特性を遺憾無く発揮した結果、仲間が中々集まらず、自国内でも悪評が流れ始め、歯止めが効かなくなってきた…
【聖女】の力の源とも言える自国の信者からの信仰力も衰えてきており、アークの両親は頭を抱える毎日…はぁ…良い点が1つも無い…」

「う、うるせぇ!何故お前がそれを知っているっ!」

「それだけじゃないぞ?
イグレージャ・オシデンタルでは現在、何とか自国での評価を上げようと、"とある冒険者"の戦績をアーク含めた【勇者】パーティの戦績として広めているが、数多くの商人が異を唱えた事で、逆に求心力が下がる事態に…」

「知った事か!それは国の仕出かした事で俺には何も関係が無ぇだろ!」

「まぁ聞きなって。
その結果、毎月送られて来ていた支援金が明日を以て停止。
また、今回の一件は揉み消す事が到底不可能な程の目撃者が出た為、獣人国からイグレージャ・オシデンタルに向けて強制送還指示を出すも、"今自国の恥部を国内に戻すと、今度こそ国内での求心力が破綻する"との理由で送還すら行われず、強制労働の任を2ヶ月受けるとの事。」

「はっ!?お前冒険者だろ!?何故そんな判断をお前に下されなきゃならないんだ!?」


自国内の事情だけならまだしも、何故か今後の予定を話されるアーク。


「言っておくが、別に俺は国に対して何か影響力がある訳でも無いし、告げ口するつもりも無い。
だが、これは今後の"アンタの予定"らしいぞ。」

(って、暦さんが言ってた。)




~タイトル:『暦の改変』の後~


〝えーっと、【勇者】パーティのプロフィールは何処にしまったかしら、っと〟

ガサガサ…

「……。」

〝あ、あったあった…『バサッ!』ああっ!?〟

バサササッ!


暦が胸元に手を突っ込み、メモの様な物を探していた様だが、出した弾みで落としてしまった。


〝ああ、メモを。
【勇者】パーティのプロフィールが書かれたメモを落としてしまいましたよー(棒)。〟

「……。」


何故か暦の発言が白々しく感じるノア。


「…これ見ちゃいけないものでは?」

〝ああ!【勇者】パーティのプロフィールに加えて、ここ数年前後の予定が書かれた、"他人に見られたらマズイ代物"を落としちゃったよおー(棒)。
見ないで。絶対に見て覚えないで下さいね?〟

あたふた…

「……。」ヒョイ。ペラペラ…


拾おうとしている様だが、中々手に取れない様子の暦。
ノアは明らかに"見ろ"と言われている様にしか聞こえなかった為、拾うついでにメモをペラペラ捲り、内容を確認する。


「…はい、これ。
…神様は直接介入出来ないからこんな回りくどい事を?」

〝何の事かなあ?(棒)〟





(あれ、絶対わざとだったよなぁ…)


前日の出来事を思い出して1人ごちるノア。


「はっ!神様にでもなったつもりか?
良いか?俺様はこの世界の【勇者】だ。
ヒュマノが召喚したなんちゃって【勇者】とは訳が違う。
俺が"自国の恥部"?俺を失えばどれ程の損失になるか分かったもんじゃないぞ?」

「【勇者】…勇ましき者…ねぇ…
おかしいな、俺はずっと"浅ましき者"しか見てないがなぁ…」

「ぬ、ぐくく…
い、今に見てろ…ここから出たら【勇者】の恐ろしさをとくと見せ付けてやろう…」

「おー怖い怖い…
まぁ欲しい情報は特に無いし、早い所さっさと"処分"しちゃいますかね。」


ノアが"処分"と言った辺りでアークが何かを思い出す。


「ん?"処分"…?
そういやさっきお前、"あの3人ならもう居ない"と言わなかったか…?」

「何だ、漸く気付いたか…
あぁ、もう居ないよ、"処分"しちゃったからね。」

「な、何だと…?」


と、ここで目隠しされているアークは漸く周りの状況を確認し出す。


ダンッ!バチャッ!バチャチャッ!

ズルッ…ボタボタ…モワァ…

(何かを叩き割る音に、液体が流れる音…
それと何だこの臭い…まるで何かの生き物を殺…
ま、まさか…)

「お、おい待て!俺をどうするつもりだ!?」

「………。」


ノアは答えない。

だが


「なぁ少年、"そこの"も処分しちまって良いんだよなぁ?」

「えぇ、活きが良いので早い所済ませましょう。」

「な…待…」

「じゃあ自分の方で血抜きしておきましょうか?」

「お、頼むよ。」

「お、おい…!」


目隠しされているアークを置き去りにして、ノアともう1人の人物が何やら会話をしている。
だが内容からして宜しくない事が起こるのは明白であった。


スラッ…ツゥ…

「うおっ!?熱っ!?お、おい!今何しやがった!?」


アークの首に何やら熱い感触が伝わり、首筋に生温かい物が垂れる。
その感触に嫌な物を感じたアークはただただ叫ぶ。


「知ってます?人間って切られると"熱い"って感じるらしいんですよ。
まぁ冒険者やってるんだからその程度の事は知ってるでしょうがね…」

「え!?ええ!?じ、じゃあ今お前『ガシッ!』むぐぅっ!?」


アークが何か発しようとするも、ノアに口を塞がれてしまい、何も言えなくなってしまった。


「だーいじょうぶ。
直ぐにさっきの3人の元へ迎える様にしますよー、っと。」

ズッ、ズズズズズズ…

「むぐぅっ!ぐむむむむ、むぅっ…」


アークの抵抗虚しく、ノアは手にしたナイフを首筋に這わせ続けるのであった。









「…おい良いのか少年。
この【勇者】、気絶しちまったけど。」

「うーん…この程度で気を失うのか…
【勇者】としても冒険者としても程度が知れるなぁ…」


ノアと解体場のおっちゃんは、気絶してテーブルに突っ伏しているアークを見下ろしていた。


「僕はただ、お湯で温めたナイフを当ててただけなんだけどね。
まぁおっちゃんの協力あっての事ですけどね。」

「何言ってんだ、俺は2人の隣で魔蛸を解体してただけだぜ?」


そう、今ノアとアーク、見届け人である『犬姫』のハナが居るのは街の解体場である。

他の3人は冒険者ギルドに移動し、操られていた者達と一緒に治療中であった。


「さて、特に有益な情報も無かったのでハナさんに預けますね?」

「は、はい…
それよりもノア君さっきの話って…」


ハナは、さっきノアが言っていた内容の真偽を問い質している様だ。


「さぁ?
適当な事言っただけですよ。」
しおりを挟む
感想 1,251

あなたにおすすめの小説

ダンジョンで同棲生活始めました ひと回り年下の彼女と優雅に大豪邸でイチャイチャしてたら、勇者だの魔王だのと五月蝿い奴らが邪魔するんです

もぐすけ
ファンタジー
勇者に嵌められ、社会的に抹殺されてしまった元大魔法使いのライルは、普通には暮らしていけなくなり、ダンジョンのセーフティゾーンでホームレス生活を続けていた。 ある日、冒険者に襲われた少女ルシアがセーフティゾーンに逃げ込んできた。ライルは少女に頼まれ、冒険者を撃退したのだが、少女もダンジョン外で貧困生活を送っていたため、そのままセーフティゾーンで暮らすと言い出した。 ライルとルシアの奇妙な共同生活が始まった。

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...