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獣人国編~森の番人~

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「…んで、気ぃ失った坊を連れた嬢ちゃん達がワシらん所にやって来たかと思ったら…」

「樹上でとんでもない大爆発が発生したんじゃ…
えれぇ光放っとったし、馬鹿みたいに揺れた故、噴火かと思ったわい…」

「本当…腰抜かしたのなんて何年振りかしら…」

「うむ…確かにあの時私達は王城に居たが、ここまで爆発による地揺れと衝撃波が伝わってきたな…
冒険者時代の時もあの規模の物は見た事が無かった…」


ドワーフのバトとルド、エルフのエスメラルダ、獣人国国王ローグ・ラグナーは、5日前の当時の事を思い出して語り合っていた。

ドワーフ3人組とエスメラルダは戦闘の後、獣人国に1日滞在し、ノアが目覚めるのを待っていた。

だが目覚めなかったので、一時的にスロア領に戻り、本来の目的であった子供達の仮設住居の建設に戻っていた。

そうして3日経ち、建設を終えて戻ってくるとノアが目を覚まし、快方に向かっている事を知り、軽い宴会となった。

その翌日、王城から感謝を述べたいと遣いがやって来て今に至ると言う事である。


「…それに熱波もかなりのもんじゃった。
あの龍が防がんかったら大火傷程度じゃ済まんかったろうな…」

「「じゃな。」」「そうね…」


ドワーフ3人組とエスメラルダは、窓の外に見える『滅びの森』上空を優雅に舞う翼龍『亞龍・プロスペリダージ』を見て安堵の声を漏らす。







バサッ!バサッ!

[うん、今日もこの森に異常無し、っと…]

バリボリバリボリ…

《巡回ご苦労様、プロス。
でもそんな毎日巡回しなくても『森のシリーズ』はそんな直ぐに出現しない、とマドリックが言ってたでしょう?》

[それはそうですが、グリード様から受けた"『滅びの森』新たな統治者"の命、しかと遂行する為には、毎日の巡回は欠かせません。]

ムシャムシャ…

(《うーん…そんな大層な命令を課したつもりじゃなく、"『森のシリーズ』が出現したり、この森に暮らすモンスターが悪さしない様に定期的に見て回って"としか言って無いんだけどなぁ…》)


グリードからしてみればちょっとしたお願いみたいなものであったが、上位存在からの言葉と言う事もあってか"命令"として捉えたのかも知れない。


バリバリボリボリ…

《でも良かったの?
あなた、召喚される前に棲んでた森の近くの村の人間達と仲良くしてたんでしょ?》

[ご心配なさらず。
元居た場所には分体を置いていますので、子供達の遊び相手位であればそれで十分事足ります。]

《そう…そう言う事ならお願いするわ。
それにあなた、中々良い線いってるから心配無さそうね。》

[え?]

《ホラ、あの時…
私がレントと産まれた子供を蒸発させるつもりで放ったプラズマレーザーで発生した大爆発の衝撃波を、風の障壁で防いでくれたじゃない?
しかも熱波を遮断する為に二重構造にしてくれたでしょ?
咄嗟の出来事であれだけ機転が利くなら十分よ。
お陰で主様の仲間が焼かれずに済んだわ。》

[いえいえ、あの程度の事、造作も御座いませんよ。]

([…本当は防がなかったら自分の身が焼かれると思ったから死に物狂いだった、とは言えないな…])


『亞龍・プロスペリダージ』は一応植物系の龍種である為、耐性スキルを持っているとはいえ、火や熱に弱い。

当時は自身の為に行った行動ではあるが、結果的にはグリードに褒められたので言わないでおいた。 




ムシャムシャ…

[…それよりもグリード様、この木は全部お食べになるつもりで?]

バリバリ…

《え?そのつもりよ?
変に残してても危ないし、モンスターが棲み付いたら面倒でしょ?》

[…であれば私の棲み家にしても良いでしょうか?]

《私の食べ掛けだけど良いの?》

[寧ろ箔が付くでしょう。]


先程から響き渡っていた破砕音はグリードが立てていた物で、レントが樹状状態に移行した際の大木を食って除去していた所であった。

『亞龍・プロスペリダージ』から見れば寝床としても使えるし、大地と繋がっている事から魔力供給にも持ってこいらしい。


ズリ、ズリリ…[むっふっふ。]


地面まで30メル程まで迫っていた所でグリードから食い掛けの切り株を貰い受けたプロスペリダージは、何処か満足げだったと言う。






「…してマドリック殿よ、最終的なドドメはお主が刺したと聞いたのだが、その辺りについて聞いても良いかな?」

「…正直な所、あの大爆発の後では私の出る幕は無いと思ったのだが、念の為燃え盛る樹上に登ったのだが…」

(……。)


マドリックは徐に目を瞑り、燃え盛る樹上での光景を思い出す。


煌々とした炎を肩口から噴き出し、融けて煮えたぎった鉄の様な腕で炭化しかけたレントの"核"を握り締める鬼神と、自身の強靭な尻尾で首を絞め付け、身動き1つ取れなくした状態でレントの子供の口から体内の"核"目掛けてプラズマレーザーを撃ち込むグリードの姿が目蓋の裏に映し出される。


「…まぁ、自分が行った時には2人分の"核"が残されているだけで、鬼神とグリードが何をしたかまでは分からなかったよ。」

「ふむ…まぁあれだけの爆発だ。
いくらレントと言えど耐えられるモノでは無いか…」


詳しい内容を聞けなかったローグは顎に手をやり、仕方無いかと息を吐く。


「それにしても、何故ドドメをマドリック殿が行わなければならなかったのだ?」


龍種であるグリードが割と本気で齧ったハズなのに傷1つ付かなかったのだが、後に【樵(きこり)】であるマドリックが武器を振るい、"核"を処理した事で完全に破壊する事が出来た。

普通に考えればおかしな話である。


「失礼ですが王よ、"草むしり"をした事はおありで?」

「ん?"草むしり"?
…まぁ妻に頼まれて一度やった事はあるが…
根っ子を残してしまった事で結局は【庭師】に頼む事になってしまったがな。」

「言ってしまえばそう言う事です。」

「ん?」

「東の島国の言葉で"餅は餅屋"と言う言葉があります。
餅屋がついた餅は美味い事から、"仕事は専門家に任せるのが一番である"という意味です。
普通のモンスターであれば"専門家"とかは関係無しに冒険者の手で倒してしまっても何ら問題はありませんが、上位のモンスターを完全に倒す場合は"専門家"の手で適切に処理する必要があります。
レントとその子供の持つ"核"は、先程の話で言う所の"根っ子"と同じ役割も持ちます。
適切に処理しなければ完全に倒しきれませんし、容易に復活してしまいます。」

「なる程な…ノア君はそこまで考えてマドリック殿を要請したかは定かでは無いが、結果的には良い選択だったのだな…」

「まぁそうなりますね。
恐らくノアは【樵(きこり)】が植物系モンスターにとっての天敵職である事も知らないで呼んだと思いますよ?」


モンスターの属性や種族によっては天敵職と言うものが存在する。
その最たるモノが【魔王】に対しての【勇者】である。
【魔王】を完全に倒す場合は【勇者】の手でドドメを刺さなければならず、他の【適正】が倒せば容易に復活してしまうと言う。


「レントとその子供の持つ"核"の破壊は通常困難ですが、天敵職であれば普段の伐採と何ら変わりません。
それ故私がドドメを刺す必要があった訳です。」

「ふむ、天敵職か…そう言ったモノもあるのだな…
冒険者時代はそんな事考えずにいたな…」

「まぁ普通の冒険者パーティに【樵(きこり)】が居る事はまず無いので気付く事すら難しいでしょう。」


王は新たな発見が出来た、との事で今後の対策等に繋げていきたいと意気込んでいた。

その後話は討伐報酬に移るハズだったのだが、そこでちょっとした問題が発生した。
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