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獣人国編~森の番人~

『灰塵』仮拠点にて

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~『灰塵』仮拠点にて~

「うーっす、戻ったぞ。」

「お帰りなさい。」
「お帰りー。」
「お疲れさまっす。」

「イビルは出てったか?」

「えぇ、相当渋ってましたが…それより【鬼神】の方はどうでしたか?」

「ノア君が言ってたが、もう特に気にしてないみたいたぞ。」

「「「「「「よ、良かった…」」」」」」


ギュラドスカルからの報告を受けたクラン『灰塵』のメンバー達は、皆一様に安堵の声を漏らしていた。

実はクランメンバーは魔蛸の眼石以外にも欲しい素材があったので、それを求めて獣人国を訪れていた。

それがギュラドスカルが言っていたモンスター『ドーピングマッシュルーム』である。



『ドーピングマッシュルーム』…数多くの自己強化成分を備えている"キノコ型"モンスター。
非常に知能が高く、相手から受けた攻撃を学習して自身の形態を変化させる為、短期決着が望まれる。

"キノコ型"とは言ったが、見た目がキノコというだけで本当の正体は誰も分からない。
何処かのレイドパーティからは、形態がドラゴンの様に変化した、という報告も上がっている。



「それでは明日の『ドーピングマッシュルーム』討伐に向けた作戦会議を行おう。
参加パーティはミツルギ、お前の所の『侍衆』とミリリカの『高機動兵団』。
そして俺ん所の『ハーレム』の合計3パーティで向かうものとする。
実際に『ドーピングマッシュルーム』と対敵するのは俺で、短期決着で倒す予定だから皆は周囲に跋扈するモンスターの相手をして欲しい。」

「「「「「はい!」」」」」


ミツルギと言う【侍】を筆頭とするパーティ『侍衆』は、文字通り【侍】のみの編成とする4人組パーティである。

続いてミリリカと言う【騎士】を筆頭とし、こちらも全員【騎士】と言う、6人組の女性冒険者パーティである。
戦闘と回復を同時に行えるので、非常に安定感のあるパーティである。


「今日はもう夜遅いし、明日の昼頃『滅びの森』へと向かう事にしよう。」

「「「「「はい!」」」」」


その後、ざっくりとした作戦会議を終えた『灰塵』のメンバー達は、各々準備を行う為、方々に散っていったのであった。








ぐー…すぴー…ぐー…すぴー…

「帰ってくるなり寝ちゃいましたね。」

「仕方無いよヴァンディットさん。
ベレーザは踊り疲れて、ヴァモスは給仕として覚える事が沢山あって、大分頭使ってたみたいだし。」


宿に戻ってきたヴァモスとベレーザの2人は、ノアに『ラーマの館』で正式に働く事を伝えた後、2人仲良く寝に入った。


「ふふ、それにしても初めてですね。
2人自らの意思で行動を起こすなんて。」

「そうだねぇ。
事ある毎に"ノア様、ノア様"って言ってきてたから、それに比べたら大分自立してきたと思うよ。」

「…となると、そろそろ2人ともお別れと言う事になるのでしょうか…」

「…うん…そうなるのかな…」


あくまで2人の一時的な保護者として王都から獣人国に送る事が当初の目的だったが、何だかんだ生きていく為の術を学ばせたり、職探し等にも付き合ったりした。

期間としては2週間程の付き合いではあるが、中々濃密な時間を共に過ごした様に思う。

暫くは獣人国に居る予定だが、何れはまた別の国に向かうつもりである。
親離れとは少し違うが、保護者離れが必要になってくるかも知れないな、と思うノアであった。


「そうなると、また静かな旅になりそうですね。」

「はは、そうだ…
…あ、いや、そんな事は無いかな?」

「?というと?」

「実は近い内に僕らの旅に同行する人が増える予定なんだ。」

「へ~。一体どんな方なのでしょうか?」

「えっとね…
ダンジョン『宝物庫』にラインハードさんって人が居た、って話したじゃないですか。」

「えぇ。
ダンジョン内に私は入れませんでしたので御会い出来てませんが、ノア様が攻略した今、ダンジョンマスターになられたのですよね。」

「うんそう。
その人が今度僕らの旅に同行する予定。」

「へー。…………………へぇ?」


ノアの言っている事がイマイチ分からず、素っ頓狂な声を上げるヴァンディットであった。









〝おや?こんな朝早くにどうしたんだい攻略者の少年よ。
しかも今回は美人さん同伴とは…〟

「この方は僕の旅に同行して貰ってる従者の方です。今回来たのは"例の件"で来ました。」


ノアはまだ陽が出ていない真っ暗な時間帯に、ヴァンディットとブラッツを連れ立って『宝物庫』前の門に来ていた。

『宝物庫』前の人通りは皆無に等しく、巡回していた兵士に一言伝えたらすんなりと通してくれた。

門の前に立つと、相変わらず何処からともなく流暢な機械音声が響き、さも当然の様にノアと会話をしだした。


〝なる程ね。
ダンジョンマスターとなった場合、中で暮らす分には不自由無いけど、外に出るとなれば話は別だしね。
ラインハードならさっき丁度作業を終えて一息入れてる所だ。
そこの美人さんはこのダンジョン初めてだろうから直通で工房まで送ってあげようと思うけど、どうだい?〟

「お手数でなければお願いします。」

〝よし、そうと決まれば話は早い。
門を潜れば工房に繋がる様に設定しておいたよ。〟

ゴ、ゴンッ…

「ありがとうございます。それでは…」

「お邪魔します~。」


重々しい扉が開かれ、2人は中へと入っていった。







「ノア君いらっしゃ~い。
おや?後ろの方はノア君のお姉さんですか?」

「お邪魔しますラインハードさん。
こちらは僕の旅に同行してる従者のヴァンディットさんです。」

「は、初めまして。
ノア様の従者をしています『ボワンッ!』吸血鬼のヴァンディットです。」ペコッ。


目の前に突然現れた着物姿のラインハードに、慌てて日焼け対策用のロングコート姿からドレス姿へと変化し、ドレスの裾を摘まんで丁寧に御辞儀をするヴァンディット。


「あ、これはどうも丁寧に『ササッ、スッスッ…』現在『宝物庫』の管理権限を持っております、ダンジョンマスターのラインハードと申します。
ノア君には大変、たいへーんお世話になりました。」ペコッ。


ヴァンディットから丁寧な御辞儀をされたラインハードは、自身の髪飾りや着物の裾を直してペコリと頭を下げる。

こうして見ると、他国のご令嬢同士の挨拶回りを見てるみたいで、ノアは少し場違いな気持ちを抱いていた。


「それでノア君、今日ここに来たのは"例の件"で、ですよね?」

「えぇ。その後、進捗の方はどうでしょうか?」

「むふふん、丁度今さっき最終調整が終わった所で、いつでも外に出れます。
先ずは見てみて下さい。」


ラインハードは少し興奮気味になりつつノアとヴァンディットを工房の奥へと誘う。

すると工房の奥には、身長150セメル程の精巧な少女の機兵が佇んでいた。

しかもその顔の造りは、ラインハードを少し幼くした様な感じであった。
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