ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

文字の大きさ
上 下
446 / 1,172
獣人国編~救出作戦~

性懲りも無くまた来たんだ?

しおりを挟む
〝性懲りも無くまた来たんだ?
おや?この間正規ルートを突破した少年じゃないか。
ははぁん、自分達ではクリア出来ないからって少年にお願いしたんだね?〟


約束の1時間が間近になったので『宝物庫』の直ぐ近くに行くと、動き易さ重視の革鎧に、背中と両腕に小盾を装備した大勢の調査隊と、いつも騎士鎧を身に付けている『犬姫』の3人が、同じく革鎧と肌にピッタリと張り付いている肌着(スパッツとか言う物)を着用し、屈伸運動をしていた。

ただ、『宝物庫』前で待機している一同に対して機械音じみた声で煽りを受けていた。

何も言い返せない一同は「ぐぬぬ」顔をするのみであった。


〝お、この前『宝物庫』を攻略した少年じゃないか、大変な事に巻き込まれたねぇ。
良ければ君だけ直通でラインハードの下まで送るけどどうする?〟

「「「「「「「え?」」」」」」」」

 
相変わらず何処から状況を見ているか分からないが、突然の『宝物庫』側からの提案に驚きを隠せない一同。
確かにダンジョンによっては1度でもクリアすれば好きな階層から潜れる所もあると聞く。

だがそうなると、指名依頼の意味が無くなってしまう。


「いや、お気遣い無く。
今回は先導する様に頼まれたので、その義務は果たさないといけませんからね。」

〝律儀だねぇ。
そうなると"皆と条件が同じ"になってしまうけど良いかな?〟

「?…えぇ、良いですよ。」


何か気になる事を言っていたが、取り敢えず『宝物庫』前の大扉に移動する。


〝それじゃあせめてもの助力として、いきなり2層まで送ってあげよう。
流石にここに居る面子は全員1層は楽にクリア出来るだろうからね。〟


と、気前の良い『宝物庫』からそう提案され、素直に応じるノア。


ゴゴンッ…

「さて、向かいましょうか。」

「「「「「「「おぅ。」」」」」」」

ぞろぞろ…

大扉が開放されたので中へと進む。
すると直ぐ様、この間来た時と同様の薄暗い石造りの室内に移動していた。

部屋の左側には麻袋が山積みになっており、右端には1メル幅の如何にもな古びた宝箱が2つ設置されている。

前回来た時は麻袋を回収した所、部屋の中に轟音と火の手がまわり、部屋の奥にある罠たっぷりの扉の中へ逃げ込まざるを得なくなったのであった。





ガシッ、ポイッ、ガシッ、ポイッ…

「さてと…準備は良いですか?」

「「「「「「「「おぅ。」」」」」」」」


キーとなる麻袋の回収を始めたノアは、残り1個迄回収した所で全員に確認を取る。

残りを回収すれば罠が作動し、罠たっぷりの部屋に駆け込むのである、調査隊は罠の配置を覚えてるだろうから良いが、『犬姫』の3人は初なので"準備は良いか?"と言う意味で確認を取っているのだ。

『犬姫』の3人は緊張した面持ちながらコクりと頷いて"準備は良いです"と返事を返した。

という訳で

ガシッ、ポイッ…







「「「「「「「「あれ?」」」」」」」」


部屋の中に静寂が流れた直後、困惑の声が響き渡る。
前回の様に罠が作動しないのである。

スタスタスタ…

が、取り敢えず部屋の奥にある扉の方へと向かうと

キィ…

「あ、開いてる。」

「「「「「「えぇ…」」」」」」


今までと違う事態にざわつく一行だが


「どーしました?行きますよ?」


何回も挑戦している調査隊にとっては困惑の種なのだろうが、ノアにとってはまだ2回目である為、然程気になる事では無い。

カチャ…

ノアは警戒しつつも扉を開けて中に入る。
それに続けと調査隊も中に入る事に。

すると







「え?」

「え?」
「は?」
「「何これ?」」
「え?え?」
「え、外?」


扉の中に入って来た者達が口々に困惑の声を上げ、中には驚きのあまり声が出せない者も居る。
今までであれば扉の奥に進めば罠たっぷりの通路があったが、今回はまるっきり違う。


先程の薄暗い部屋とは打って変わって、どんよりとしているが空があり、だだっ広い平原のど真ん中に東の大陸にある"天守閣"と言う10階建ての建物が聳えている。

屋根の大棟の所々に凶悪そうな魚の置物が置いてあったり、城の周囲を守護する様に人形の石像が鎮座している。

"天守閣"へと続く道の両脇には同様の石像が等間隔で並べられており、その形相は般若の如き威圧感を放っていた。

言ってしまえば魔王城(和風)な造りをしており、入ったダンジョンを間違えたのでは?と思わせるには十分であった。


「こりゃまた…
…え?どうなってるの…?」


と、ノアですら困惑していると


〝やっほー!ノア君数日ぶりー!〟


この魔王城(和風)なステージに似合わない快活そうな声が響く。
だが周囲を見回しても誰の姿も見えない。
が、ノアにとっては聞き覚えのある声であった。

サラサラ…

「お?」


すると、ノア達の直ぐ近くに鎮座していた石像が砂の様にサラサラと崩れたかと思うと、再び再構築されて人型を取る。

サラサラ…

最初はザックリとした人型であったが、徐々に精密な造りとなっていき、黒髪を束ねて簪で留めてた着物姿の女性へと変化していった。


「あれ?ラインハードさん?」

「うふふ、そうなんですよ、良く分かりましたね?
どうです?ダンジョンマスターの権限が私に移ったので衣装や髪型なんかも思いのままなんですよ。」くるくる。


着物姿のラインハードは嬉しそうにしつつ、くるりと1回転していた。


「えぇ、凄く似合ってますよ。
…ですが、これは一体どういう事ですか?
前回来た時とは全く別物ですし、空もある…ここは外ですか?」

「いえいえ、ちゃんと『宝物庫』の内部ですよ。
今度リニューアルオープンする『新・宝物庫』の新ステージになりますわ。
まだ所々作り込みが行き届いてませんが、この平原には城下町を作る予定なのですよ。」

「「「「「「し、新ステージ…?」」」」」」


調査の為に訪れた者達も、ラインハードの説明に困惑の色を隠せない様子である。
というか僅か数日でステージが別物になるとは、流石ダンジョンマスターである。


「それはそうと、後ろの団体さんは一体…?」

「あぁ、この間正規ルートを攻略したじゃないですか?
その調査の為に来た人達ですよ。」

「あぁ、旧ステージがやたら騒がしかったのはその為なのですね。
でもすいません、旧ステージは破棄させて頂きました。」

「「「「「「「えええっ!?」」」」」」」


何と調査隊が必死こいて攻略に励んでいた3層~最奥5層のステージは、調査が中断された後、誰も居ない時を狙って破棄したとの事。

理由としては、正規ルートは本来ラインハードが凶刃に倒れる事が終了条件となっていた。

いくらそれがダンジョンの仕様と言えど、凶刃に倒れるのはラインハード本人である。
今の所ノアしか攻略していないが、挑戦者が来る度に死ぬ恐怖を味わうのは御免被りたかったので、ダンジョンマスターとなった今、終了条件の改変を行う為、旧ステージは破棄する事にした様だ。


「それでここが新ステージですか…」

「何れは1~2層にも手を加えようと思ってますが、取り敢えず現状維持ですかね。
ここに城下町を造るとなると中々に骨が折れますので…」

「確かに城の作り込みとか凄いですものね。
あのクオリティで町造るとなったらそりゃ大変でしょうからね。」


平原の広さは縦横1ケメル程あり、中央部に"天守閣"もとい魔王城(和風)が建っている。
平原全てが城下町になるとすればいくらダンジョンマスターと言えど骨が折れる事だろう。

調査に来た者達が「どうしたものか…」と言った表情をしていると、ラインハードが突然こんな提案をしてきた。


「そうだ!まだ未完成ではありますが、新ステージを体験して行ってはどうでしょうか?」

「「「「「「「え?」」」」」」」
しおりを挟む
感想 1,251

あなたにおすすめの小説

鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸
ファンタジー
【あらすじ】  ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。  キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。  しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。  つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。  お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。  この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。  これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

処理中です...