ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

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獣人国編~救出作戦~

作戦立案の経緯

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奴隷子獣人救出作戦立案の経緯を話すとしよう。

時間をヴァモスとベレーザの2人に名付けをした日(タイトル『どうやって助けるつもりだい?』の所)、"物的証拠"を発見すればヒュマノ聖王国に介入出来ると言うのを諜報部の局長に聞かされた直後まで遡る。









「ダメ元な話なんですけど、ヒュマノに居る奴隷を助けるって事は出来ませんか?」

「その口振りだと、もしかしなくても"全員"って意味だよね?」

「…えぇ、まぁ。」


ノアは諜報部局長の意見を窺う。


「まぁ無理だね。
アイツら(ノアが精神操作した2人)が言うには現在のヒュマノの人口はざっと1万。
その者達ほぼ全てに奴隷が3~4人付いていると言う。
4万にも及ぶ奴隷を助けれたとして、受け入れる国が先ず無いだろう。
勿論獣人の国だとしても、だな。」

「まぁ、そうです…よね…」


分かっていた事とは言え多少諦めきれないと言った表情のノア。


「だが"限定的な部類"なら話は別だろうな。」

「"限定的な部類"?」

「あぁ、アイツらの話を信じるならヒュマノには現在子供の獣人が4千人居るらしい。
4千人なら分散すれば受け入れる事は可能だ。
その子達はヒュマノの"所有物"だ。
表立って連れ去る訳にもいかないだろう。」

「そうですよね。
表立っては無理ですよね…」

「うん。」

「……。」

「……。」


お互い無言になって少し間が空く。


「つまりは"そう言う事"だね?」

「えぇ、"そう言う事"です。」

「分かった、王に聞いてみよう。
だが無理だと一蹴されるかも知れないぞ?」

「そうなったらそうなったで当初仰ってた100人程の奴隷達を気付かれる事無くヒュマノから救出しつつ、"物的証拠"を探し求めてみようかな、とね。」

「君の場合、それ位の事なら本当にやってのけそうなのが恐いですねぇ…」


こうしてダメ元で話してみた事が王へと行き、ヒュマノの連中から抜き取った情報を獣人国に提供。
その後協議した結果、"実現可能"であると判断された。

そして【適正】を限定し、"超特殊依頼"という形で人員の募集を掛けた所、信じられない数の募集が掛かる事になった。






「作戦決行は本日の夜10時。
閉鎖してある東門の外から最短距離にある"滅びの森"を抜け、一直線にヒュマノを目指す。
目標である子供の獣人はヒュマノ国内にある4ヶ所の尖塔最下層の牢屋に閉じ込めているとの情報だ。
見張りは同じく奴隷の獣人。『強制隷属の首輪』を装着されてるとの事で、極力戦闘は避け、無力化に努めて欲しい。」



『強制隷属の首輪』…ヴァモスとベレーザが王都に来る際に付けられていた首輪。
自身の意志に関係無く問答無用で隷属させる程の強制力のある物で、現在世界的に製造が禁止されている物である。
製造が発覚すれば法的に介入し、処罰する事が可能。



「…と、偉そうに言ってはいるが、この作戦に参加する獣人はごく少数しか居ないのだがな…」

「獣人さん達にとってアイツらに対する怨恨は相当根深いものです。
幾らその辺りを割り切っていたとしても、いざ現場で凄惨な状況を見て冷静でいられるのか?
と、考えて判断させて頂きました。
今のヴァモス、ベレーザは元気にやっていますが、アイツらに飼われていた時の枯れ枝の様な腕、痩せ細った体の2人をこき使って虐げていたのを見て当時の僕ですら怒り心頭でしたから…」

「う、む…確かにそれは否定出来ない…
獣人は同族に対する愛情が強い…だがそれがかえって足枷になるだろうな…
だからなのであろう?救った子供の獣人を一時的に"スロア領"に預ける様にと提案したのは。」

「えぇ。
今回はあくまで『救出』。
ですが助け出した子供達を直接ここに連れて来よう物なら、激怒した獣人達が開戦の狼煙を上げてしまうかも知れませんからね。
諜報部の話では元領主であったコモン・スロアはヒュマノとズブズブの関係であったのは明白。
王都での一件で「スロア領とは何の関係も無い」と自分から強制的に切り離しに掛かり、完全に縁を切ったとの事です。
今度、領主になる方は間接的にヒュマノを嫌い、獣人国と良好でありたいと願っている者の様ですしね。」

「うむむ…」

「まぁ直ぐに信用しろとは言いません。
先代はそれだけの事をやらかしたんですからね。
常に目を光らせておくと良いでしょう。」

「うむ、そのつもりだ。」


"あの"ヒュマノと関係があった国に、一時的とは言え預けるのだ、王としては苦渋の決断であろう。


「まぁもし本当に怪しい動きを見せたら言って下さい。
次期領主とは"何度も一方的にぶっ殺した"仲なので今度こそ本当に殺してやりますよ。
ははは。」

「あ、あぁ…その時はお願いするよ…」


ローグ・ラグナー王は、ハナが実際に王都で見たと言う御前試合の報告を思い返し、ノアがキエフ領の次期当主デミに行ったという"事柄"を頭に浮かべ、引きつった笑顔を向けていた。

と、ここで王の妻、キュオラ・ラグナーがノアに質問を投げ掛けてきた。


「今回の作戦は基本的に"非殺傷"で挑むのですか?」

「そうですね、この作戦自体大規模ですが、表には出せない極秘裏な物ですから"基本的には"非殺傷で行きます。
が、あまりにも目に余る場合は締めて拉致って情報を吐かせる為に拷問にでも掛けるか、2度と使い物にならない様にグシャグシャに…」

「「「「「「「……。」」」」」」」


落ち着いた声音で淡々と恐ろしい事を話すノアに、周りがシンと静まり返っている事に気付いたノアが


「嘘、嘘!(笑)」

(((((((…や、やりそうだ…)))))))


手をひらひらさせ、ニコッとした顔で冗談めかせて否定していたが、先程の目はマジだったので誰も信じてはいなかった。


「ノ、ノア様…」

「ん?」


するとここで今まで黙っていたヴァモスがノアに頼み事をしてきた。


「…今回のその作戦に、ボクも参「駄目だ。」


ノアはヴァモスからどんな頼みが来るか既に把握していたのか、言い切る前に断りを入れた。


「御願いします!ノア様のお陰でボクは"あの時"より強くなりました!
…精神面はまだ未熟ですが、お手間は掛けさせません!」

「僕がヴァモスに訓練をさせたのは、何もこの作戦に参加させる為じゃなく、これからの人生で困らない様、多少戦える様に鍛えただけだ。
それに索敵能力が未熟だ。
宿の外に居たハナさんに気付かなかったし、『宝物庫』の簡単な罠に気付けなかったろう?
そんなんじゃ、ヒュマノに侵入出来たとして、早々に捕まるのがオチだ。」

「か、覚悟は出来て「そう言う問題じゃない。
ヴァモスはそれで良いかも知れないが、この作戦で助け出す子供達は、まず"誰かが侵入した"と言うのを気取られないのが前提だ。
そんな場所に未熟な者を連れて行ける訳が無いだろう?」

「う、うぅ…」


ヴァモスは返す言葉が無いといった様子だが、納得は出来ていない様子。


「…ふぅ、全くヴァモスは頑固だなぁ…
覚悟はあるんだな?」

「は、はい!あります!」

「なら…」

シュリィンッ!


ノアはカランビットナイフを抜く。

スッ…

「え?」


ノアは抜いたカランビットナイフをヴァモスへ差し出す。


「ナイフを取れヴァモス。
目の前にはお前の侵入に気付いた敵が今にも大声を上げようとしている。
バレたら味方所か奴隷の子供達すら助けられずに退散するしか無い。
しかも君は獣人だ、真っ先にこの獣人国が疑われ、開戦が早まるやも知れない。
それを止めるなら今しか無い。
殺れ。
このナイフで目の前にいる俺を今すぐに刺せ。
"覚悟"があるんだろう?」
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