ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

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獣人国編~ダンジョン『宝物庫』~

"何者"かの声

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~ラインハード達が"何者"かの声を聞いている頃まで遡る~


『さて、あっちはあっちで時間が掛かりそうだからこっちも用事を済ませちまおう。
俺に聞きたい事があったんじゃなかったか?』

「…まぁ確かに…」チラッ、チラッ…


目の前に座る姿形が自分そっくりの人物。
ただ、鋭い一本角、赤黒い肌、漆黒に染まった目に金色の瞳。
4本腕、服代わりの【鬼鎧殻】、白髪…


「正直どこから突っ込んでいけば良いやら…」

『聞かれりゃ何でも答えるぞ。』

「…じゃあ今更だけど『俺』だよね?」

『本当に今更だな…
あぁ、いつも中から話し掛けてた『俺』だぜ。』

「口調からして年上だと思ってただけに、まさか瓜二つな姿の人物が出てきたもので…」

『俺は主の中で力の根源として宿る存在。
元々姿形は決まってないさ。』

「それで僕の姿に…?」

『気になるんなら何処の誰とも分からない、昼間っから酒飲んでぐーたらしてそうなおっさんの姿「止めて!このままの姿でお願いします!」


自身の姿が嫌という訳でも無いが、だからと言って別の姿が思い付く訳でも無かったので取り敢えずノアの姿形のままで妥協する事になった。


「…その角からして、『鬼』…だよね?」

『おぅ。改めて紹介するが、鬼系種族最上位存在の『鬼神』だ。』

「まぁ鬼人族のラーベさんやラベルタさんの反応からしてそうなんじゃないかな、とは思ってたけどさ…
何でそんな存在が中に?」

『それだけ本来の【ソロ】は不遇だからさ。
何もかもを1人でこなさなければ弱体化しちまうからな。
この世界は1人で生きていくには辛過ぎる、せめて攻撃力だけでも突き抜けて無いと釣り合わない。
だが主みたいな奴は例外も例外よ。
このまま鍛えていきゃあ【勇者】レベルに匹敵するんじゃねぇか?』

「まぁ【勇者】云々は置いといて、確かに『鬼神』ならあの攻撃力は納得だし、ラーベさんやラベルタさんが妙に平身低頭な理由も分かるな…」

『あの娘っ子の反応は過剰過ぎるんだよ、俺はああいった対応は好まん。
吸血鬼の嬢ちゃん位に落ち着いてくれると良いんだがな。
まぁ今度直談判して「止めてぇ、余計に縮こまっちゃうから止めてあげてぇ…」


ダンジョンから出たら『鬼』関係の人物に声を掛ける事から始めないとな、と思うノアであった。







「そう言えば『鬼神さん』が出て来て共に戦う固有スキル【一神同体】はデメリットはある?」

『そうさなぁ…今みたくただ喋ってるだけなら何も問題は無いが、戦闘中となると話は別だ。
簡単に言えば"いつもの倍疲れる"って感じだな。』

「うわぁ…単純だけど一番しんどい奴だ…」

『後はお互いの距離が200メル以上離れると自動的に解除され、俺が主の体へと戻る形になる。』

「なる程ね。
それはそれで戦略の幅が広がるから良いか…」

『聞きたい事はそれだけか?』

「うーん…色々あるけど、それは追々という事で。まだ現実を飲み込めて無いからね…」

『それは慣れてくれ、としか言えないな。
…っと、あちらさんも話が終わりそうだぜ?』



~そして『鬼神』の紹介が終わった直後に戻る~


「そーですかー、『鬼神』さんですか…
という事はノア君は鬼人族の方だったのですね。
であればあれ程の強さも納得「あ、いや、僕は普通の人間ですよ…」

「え?でも何かこう…もやーっとしたオーラを漂わせてたり、人間とは思えない膂力や武力を持ってたり、それに腕も6本ありましたし…」

「ええっと、それはですね…」

『まぁザックリ言うと、『ポンッ』こっちが宿主。』


ノアの背を叩く『鬼神』。


『俺は中で間借りしている住人で、時折力を貸してるんだ。
こんな風にな。』

「あー、何と無く分かりました。」


ノアの背後に立った『鬼神』は、4本の腕をガッと広げる。
ラインハード視点で見ると『鬼神』が二人羽織をしており、6本腕のノアの完成である。


『そっちは何かしら言われてた様だが?』

「は、はい!
先ずは因果からの脱出に成功しておめでとうと…
その後に謝罪が来ました。
"貴女には辛い因果があったのは重々承知していたが、幾ら私でも因果を無視しての救済は難しい。
辛い想いをさせてしまって申し訳無かった。"と…
…どんな方かは分かりませんが、その礼としてこのダンジョンの全権を私に与えて下さいました。
破棄するも良し、根本から作り替えるも良し。
そして、機兵達が願い授かった第二の人生だ。
外に出て好きに生きるのも良し…と…」


そう言ったラインハードの表情は嬉しさ半分、困惑半分といった感じで、今まで共に過ごした機兵達と別れたくないと言う気持ちと、外へ出る事への期待とが混じっていた。

"何者"かの声を聞いた直後だからか、目が右往左往し、考えが纏まっていない様だ。


「まぁ、直ぐに決める訳でも無いですし、ゆっくりと決めると良いでしょう。」

「えぇ、皆と話し合って決める事とします。」

『そうすると良い。
さて、俺達はそろそろ外に戻るとしよう。
外に連れを待たせてるのでな。』

「そうでした。
今日の事はいつまでも忘れません。あなた方には感謝してもし切れな…あっ!」


事が済んだので、帰る流れになっていたのだが、ラインハードが何かを思い出したかの様に声を上げる。


「どうしたんですか?」
『どうしたよ、声張り上げて。』

「そうだ!そうですわ!すっかり忘れていました!
お二方、ここが何てダンジョンだったかお忘れですか?」

「『え?宝物庫でしょ?』」

「そうですわ!
お二方にここまでして頂いたのに金銀財宝の類いを何一つお与え出来ていません!」

「あ、別に構いませんよ?
2層で手に入れた砂金混じりの砂でそれなりに稼げそうですし、幾つかの宝石と、属性魔法が込められた魔石や先程の錬金石何かもありますから…」

『それに、もし外に出るつもりならそれなりに資金も入るだろう。
そういった物に充てると良いんじゃないか?』

「いえいえ、そう言う訳にはいきません!
大恩を与えて下さった方々に褒美の一つも出さないというのは、既に滅んだ国とは言え元女王の名折れになります!
『パンッ!』さ!我が城の宝物庫に向かいましょう!」

ズォォ…

ラインハードが手を叩くと、煌めく水面の様な空間が現れ、ラインハードはその中にズンズンと進んでいった。

ダンジョンの全権を握っているラインハードは、既に使い方を理解している様だ。

ノアと『鬼神』はやれやれといった感じで入ろうとした所、後ろに控えていた三機兵がの内の1体が2人を呼び止める。


〝長い事一緒に居ましたが、あれ程楽しそうにしておられる女王を見るのはいつ振りか…
今回ここに来て下さったのがあなた方2人で良かった…
もし女王が外に出られると申された場合、出来ればあなた方と共に…いや、先走り過ぎでしたな…〟

『…もしそうなったらアンタ達は良いのか?』

〝我ら本来の耐用年数を考えれば十分過ぎる程共に過ごされた…
眼を閉じれば女王の姿がありありと映し出される程に…
今回の事は我々の身勝手な願いで起こってしまった…
が、あと一つ願うとすれば女王…いえ、ラインハード様の第二の人生を多幸である様にと願うのみ。〟

「…そうですか…
もし彼女がそういう選択を取った場合はお任せ下さい。」

『だが、その話になったら前以て言っといてくれよ?
俺らの旅は行き着く暇も無い、ってな。』

〝えぇ、その時は。〟


金属製の部品で造られたハズの機兵達が、何処か笑みを浮かべているかの様に錯覚した。


「おーい!皆さーん!早く入ってきて下さーい!」


ラインハードが空間の中からノア達に向け声を掛ける。


〝さ、ラインハード様が呼んでおられます。
向かいましょうぞ。〟

「えぇ。」
『あぁ。』


そう言って2人と1体は煌めく空間の中へと入っていった。
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