ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

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獣人国編

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「次。」

ズシャッ!

獅子獣人の左拳を離すと、そのまま地面に崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。

その光景に先程まで沸いていた市民も言葉を失う。

そんな中ノアが次の相手を催促している。


「お、俺が行こう…」


ゴリラ獣人が困惑しながらも進み出てきた。

すると


「お、おおおおっ!」ドコドコドコドコッ!


ゴリラ獣人が自分を鼓舞するかの様に胸を叩きドラミングを行っている。
するとゴリラ獣人の体、特に腕や胸が隆起し出し血管も浮き出てきた事から、どう見ても身体能力系の補助魔法でも発動した様に思われる。


「お、おいおい…人族相手に大丈夫かよ…」
「止めた方が良いんじゃないか…?」
「幾ら素手喧嘩っつっても…」

スタスタ…

「いや、それ程の相手だって事…お?」


ゴリラ獣人の身体強化にざわつく周囲の市民達。
見届け人として立ち会っていた兵士も介入しようかと思っている中、ノアがゴリラ獣人へと近付く。


「準備は良いですか?」

「あぁ!絶好調だぜ!」


目をギラ付かせてノアを見やる。


「ふーん。」ズムンッ!

「うご…おっ…」ズザザッ!


ノアが再び拳を振るいゴリラ獣人の腹に重い一撃を繰り出すと、苦悶の声を上げつつも僅かに後退したのみで何とか耐えきった。


「…はぁっ!はは、す、素晴らしい一撃、じゃないか!
だがこの程度じゃ俺『ズブンッ!』おげぇぁあああああああああっ!?」


先程よりも更に強烈な拳をぶちこまれたゴリラ獣人は凄まじい叫び声を上げて地面を転がった。


「あああああっ…がぁあぁああっ!!」

「どなたか彼に回復魔法を。」

「あ、あぁ…」
「ヒ、ヒール、<ヒール>!」


ゴリラ獣人の体がポゥッと光だし、回復が行われ出した所で、視線を3人目の犬獣人に向けるノア。


「最後はあなたで良いですね?」

「あ、降参しますワン…」

「あ、はい。」


と、最後は犬獣人の降参と言う形でこのやり取りは終わりを迎えた。

ハズだったが


「ほぅ、街の有力者の息子であるシシオとリラゴの2人を伸すとは中々やるじゃないか…」


ノアの背後から声が掛かると、周囲の市民達がざわつき始める。
そこには背中に白い体毛を生やしたゴリラ獣人(ゴリラ寄り)が立っていた。


「おい、アレって『獣人国素手喧嘩好き四天王』の1人、"シルバーバック"のコンゴじゃないか?」

「あぁ、喧嘩が好き過ぎて仕事場からよく抜け出す為、現場の監督からよく怒られてるらしいぜ…」

(仕事辞めさせられるだろうからしっかり仕事しようよ…
と言うか何だよ『獣人国素手喧嘩"好き"四天王』って…)

(『"最強"とかではないんだな。』)



「中々見所のある人族の少年だねぇ…」


今度は近くの建物伝いに猩々(オラウータン)獣人(オラウータン寄り)がやって来た。


「アレは『獣人国素手喧嘩好き四天王』の1人、"骨砕き"のラウーだ!」

「あぁ、常日頃握力強化に余念が無さ過ぎて奥さんから『食器壊すな』ってよく怒られてるらしいぜ…」

(あー分かる、力強くなると調整が難しいんだよね…)

(『主も昔母親に怒られてたものなぁ。』)



「ふふ、1、2発で仕留めるとはそれ即ち強者と見た。」 


今度は近くの屋台で焼き肉を食べつつ酒を呷っていた長尾驢(カンガルー)獣人(人間寄り)が進み出てきた。


「おいおい、アイツまで出てきたのかよ!
奴は『獣人国素手喧嘩好き四天王』の1人、"大酒飲み"のガルーじゃねえか!」

「あぁ。原因不明の胸焼けに苛まれ、素手喧嘩をやってる時だけが束の間の一時と豪語する根っからの喧嘩師!」

(それ、酒を断てば治るんじゃね?)

(『ただのアル中だな。』)



「ほぅ…君は強そうだのぅ、だが君の拳は儂には届く事は無いじゃろうがな。」


四天王と言うからにはこの人で最後だろう。
上空から梟の鳥人(梟寄り)が飛来してきた。


「おいマジかよ、本物中の本物が出てきやがった!
奴は空中という自分のテリトリーを生かした喧嘩殺法を得意とする『獣人国素手喧嘩好き四天王』最後の1人、"物忘れ"のホー!」

「奴の戦績は数知れず(本人も覚えてない)、度々『儂の右足の鉤爪が疼く』と左足の鉤爪を擦りながら呟く姿を街で見掛け、周囲をざわつかせているぜ!」

(鳥頭だな…)

(『いや、痴呆も少し入ってないか?』)



とまぁ、今までのやり取りを要約すると、喧嘩好きの4人が集まって来たと言うだけの話である。


「おいおい、どうするんだよ…
『獣人国素手喧嘩好き四天王』が一堂に会したんだ、あの少年、とんでもない目に遭うぞ!」


と、何と無く解説じみた市民の説明を終えた直後、聞き覚えのある女性の声が響いてきた。


「はい、そこまで!
そこの人族と獣人の方が困ってる様なのでこれ以上は見過ごせません!
直ちに解散しなさい!」


声を上げてきたのは、以前王都でフォルク第三王女の側に控えていた女性犬騎士(人間寄り)のハナであった。


「ほら、『獣人国素手喧嘩好き四天王』とか何とかと言ったな!
あなた達全員所帯持ちであろう!
さっさと家路に着かないと、ステゴロよりも先に奥方から捨てられるぞ!」

「「「「はーい、帰りまーす。」」」」すごすご…

(意外と素直だね。)

(『どこの国でも女は強いって事だな。』)



『獣人国素手喧嘩好き四天王』が蜘蛛の子を散らす様に家路に着き、第三王女専属の女性騎士が現れた事で、周囲の市民達も各々の当初の目的の為行動を開始し始めた。






「丁度良い所で介入してきて貰って助かりました、あのままじゃもっと大事になってた事でしょう。」

「実は20分程前、君のお友達のクロラさん達がフォルクお嬢様と王城で談笑していたら、急にここに来る様に言われたのだ。
"お兄ちゃんが困ってると【占い】で出たから助けに行ったげて"とね。」

「【占い】て…
もう予知の域じゃないですか、それ…」

「えぇ、それ程の精度と的中率を持つ【占い】を成される方なので、何れは腕の立つ【予知】へと昇華する事でしょう。」


話の流れで分かる通り、フォルク第三王女の【適正】は【占い】との事で、幼いながらも驚異の的中率を誇るらしい。

但し、10分~30分程先の出来事までしか占えない為、多少使い勝手が悪いと言う。





「ほぅ…後ろの2人が件の獣人ですね。
これは確かに…うぬぬ…」

「どうしたんです?何か問題でも?」


女性犬騎士のハナがノアの後ろに立つヴァモスとベレーザを見て、何やら口籠っていたので理由を聞いてみる事に。


「…その反応だと2人の容姿について気付いておられない様ですね…」

「容姿?…そうですね…可愛らしいとは思いますが…」


両名共に立派で綺麗でモッフモフな毛並み、時折見せる愛くるしい仕草、2週間程前まで枯れ枝の様な痩せ細っていた奴隷とはとても思えない変貌ぶりである。

そう考えると元気になったな、と熱いものが込み上げてくる気すらする。


「うむ…確かにそうではあるのだが、少し違う。
2人は獣人の中でもかなりの美男美女に当たるのだ。
そんな2人が大通りを歩いていたのだから騒ぎになるのは必然であろう…」

「「へー。」」
「へー。」

「…自覚無いのか…」


「そうなんですか?」位の反応の3人に頭を抱えるハナであった。
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