ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

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獣人国編

30分もしない内に

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ノアが謎の扉に入ってから30分もしない内に再び扉が開かれ、ノアが姿を現した。

パタパタ… 

そこにこの店の主である老狸獣人の主人が小走りで駆けてきた。


「話は済んだ様で…」

「えぇ、集まった皆さんとも打ち合わせが済んだので出てきました。
…そういえば3人の姿がありませんが…」

「その事なのですが、3人をただ待たせる訳にもいかなかったので、お茶と菓子をお出ししてお待ち頂いたのですが…
少々問題が発生致しまして…」

「問題?」


<…『ガヤガヤ』嫌…にゃ『ガヤガヤ』…>
<『ザワザワ』…断っ『ザワザワ』…よ…>


老主人から言われ、<聞き耳>に意識を集中して探ってみると、喧騒で聞き取り辛いがベレーザの何やら嫌がっている声とヴァモスの声が聞こえた。

ダッ!

何かトラブルが発生した様なので、急ぎカウンターの方まで駆け出した。






「…やにゃ。止めてにゃ…」

タタタタタ、ズサッ!

「2人共、何かあったのか!?」


来た通路を戻り、ベレーザの声が聞こえた方に声を掛けると


「君のその煌めく炎の様な毛並み、君を見た瞬間私の心はときめいた。
私と結婚を前提にお付き合いを!」

「いいや!是非とも俺と友達から!」

「君の愛くるしい瞳に僕の心は奪われた!
絶対に君を幸せにする!だから…」


「いぃい、嫌にゃ嫌にゃ嫌にゃ!
目が合っただけの人と結婚前提の話するのなんて絶対に嫌にゃぁ!」


ズルッ…ゴン。

想像していたよりも大した事の無さそうな内容(当の本人は全力で嫌がってるが)に、気の抜けたノアは珍しく足を滑らせて近くの棚に頭を打った。





「大丈夫ですか、ノア様? 」

「あ、ヴァンディットさん。
聞く必要も無いと思うけど、僕が居ない間に何があったんですか?」


頭を強かに打ったノアを心配し、子狼状態のブラッツを抱いたヴァンディットがノアの元へ。


「えーっと、ノア様が先程の扉から中へ入られた後、店主の方にお茶菓子等頂いてたら…」


「「「是非共お名前だけでも!」」」

「嫌にゃ~!何か嫌にゃ~!」


「あの様に…」

(本当に聞く必要も無かった…)

あまりにもそのまんまな内容に、ノアは思わず両手で顔を覆ってしまった。





「あのー、その子が嫌がってますのでその辺にして頂けませんか?」

「にゃ!?ノア様!戻ってきたんですね!?」

シタタッ!

求婚を願い出ていた獣人3人組を止めるべく前に出ると、安堵感で顔を綻ばせたベレーザが素早い動きでノアの後ろに隠れる。


「あ!君はその可憐な子の仲間か!?」


と聞いてきたのは、最初にベレーザの毛並みを褒めていた獅子獣人(獅子寄り)。


「仲間兼一時的な保護者です。」

「であれば君にお願いしたい!その子との交際を認めてくれ!」


と言ってきたのは、堅実にお友達から、と願い出ていたゴリラ獣人(ゴリラ寄り)。


「いやいや、そう言うのは本人の気持ちの問題でしょ…
僕にお願いするのはお門違いでしょうに…」

「う、うむ…」

「そう言う事なら私の「さ、用事も済んだし何処かで食事でも行こうか。」

「「「はーい。」」」

「ねぇお願い喋らせて!」


最後に、ベレーザの瞳に心を奪われたとか抜かした犬獣人(人間寄り)の言葉をスルーしてやり過ごそうとするも叶わなかった。


「…本人の気持ちもそうですが、この子は僕と殆ど年齢は変わらないのでそういった話はまだ早いでしょうに…」

「そ、そうにゃ!早いにゃ!」


するとやり取りを見ていた老狸獣人の主人がノアとベレーザに耳打ちをしてきた。


「あのですなノア殿、ベレーザちゃん、獣人の結婚適齢期は13歳~になります…」

「…え?そんなに早いんですか?」

「へ?」


追々知る事になるが、獣人は全体的に成熟が早く、それに伴って婚期も早まるらしい。

それを聞いたベレーザは、逃げ道が徐々に狭まっていく様な感覚を覚え


「そ、それでも嫌にゃものは嫌にゃ!」


今後の獣人国での方針の一部となる発言をベレーザが発する事になる。


「最低でもノア様位強い人じゃないと絶対に嫌なのにゃ!」

「へ?(ノア)」
「ちょ…(ヴァモス)」
「あら…(ヴァンディット)」
ワゥ。


ベレーザの澄んだ声が大通りの方まで響き渡る。
するとベレーザに求婚していた3人はノアの方を向き


「ふ、やはり最後は獣人らしく実力で勝ち取れ、と言う事か…」

「獣人国の男たるもの、腕っぷしが強く無いとな!」

「通りに居る者達聞いたか?
素手喧嘩(ステゴロ)の始まりだ!場所を作れぃ!」

「「「「「「うぉおおおおー!(大通りに居た市民達一同)」」」」」」


「え?ちょ、待っ…」


 ノアをほったらかしにしたままドンドンと話は進み、何故か喧嘩をする流れに。

普通なら騒ぎになる流れのハズなのだが、やり取りを見守っていた通りの市民達も何故か乗り気で自らが壁を形成し、通りに即席の円形の試合場が出来上がる。

その円形の試合場の中に求婚してきた3人、巡回中の兵士、何故か鍋とお玉を持った小さな栗鼠獣人が現れ


「ファイトッ!」コーンッ!

「「「「「わぁあああっ!(通りの市民一同)」」」」」

「その子を嫁にするのは俺だぁ!」

「待って、誰か説明して。
何で僕この国来て1時間も経ってないのに喧嘩する流れになってるの?」


嫌な意味でのトントン拍子に頭が着いていかないノア。

そんなノアの疑問に、これまた老狸獣人の主人が耳打ちしてきた。


「…あのですな、ノア殿。
獣人国の男に最終的に求められるのは"腕っぷし"の強さになります。
異性の者に自身の強さをアピールして目を向けて貰おうという、謂わば礼儀的な意味合いがあります。
尚見届け人、不正が無いかの確認として兵士も立ち会います。」

「あー…何か何処かで聞いた気がする…」

「分かりやすく言うなら『娘さんを僕に下さい』『お前の様な奴に娘はやらん!』と言うやり取りの最中に"素手喧嘩(ステゴロ)"を挟む様なものです。」

「あー…アレかー…」

「えぇ、アレです。」


何かの物語で聞いた気がするやり取りを、まさか15の歳で経験するとは思わなかったノア。

礼儀的なものなら仕方無いか、と半分諦め、構えた姿勢のままの相手に向き直る。


「…素手喧嘩(ステゴロ)と言うからには武器無しですよね。」


ノアの向かいに居る獅子獣人に確認を取る。


「ふふ、人族は身体能力が獣人よりも劣るから別に武器有りでも一向に構わんぞ。
その上で君に勝ち、その子との交際をする"権利"を勝ち取ってみせよう!」

「あ、ベレーザと付き合う"権利"を得る為の喧嘩なのね。」

「君が先程言ったであろう?付き合う云々は"本人の気持ちの問題"と。」

(あ、ちゃんとその辺りは弁えてるのね。)


ベレーザを奪い取る勢いの獣人達であったが、割と段階を踏んでくれる様だ。


「まぁそう言う事なら受けて立ちましょう。
それと、こちらからも言わせて貰いますが、あなたは武器無しで良いのですか?」

「ぬ!?」

「この子の保護者代わりになってまだ日が浅いですが、それでも大事な仲間の1人なのでね、ダンジョンボスを相手にするつもりで掛かってきな。」

「言ってくれるなぁ、坊や!」

「「「「おおおおおおおっ!(通りの市民一同)」」」」


ノアの言葉に沸き立つ市民一同、対する獅子獣人は目をギラ付かせる。


「良い啖呵だ!俺は人族の少年に塊肉のステーキを賭けるぜ!」
「何おぅ!なら、俺は獅子にエールを5杯賭けてやるぞ!」

(あ、賭けの対価は食べ物なのね。
と言うか獣人達、絶対こう言ったお祭り事好きな種族だろ…)


円形試合場の周りでは賭け事が行われているが、賭けてる物が食べ物の辺り、割と平和的である。


「はーい、じゃあ再開しますよー!」

コーンッ!

小さな栗鼠獣人が再び手に持つ鍋にお玉をぶつけ、試合開始の合図を出す。


「ぅおおらぁっ!」ブォンッ!


獅子獣人の強烈な左拳がノアの顔面に迫る。

パシッ。

「へ?」


獅子獣人が気の抜けた声を発する。


「ふふ、1度このセリフ言ってみたかったんですよね。
"お前の様な奴に娘(ベレーザ)はやらん!"」

ズムンッ!

「うぶっ…」


獅子獣人の強靭な腹部にノアの強烈な右拳がめり込み、獅子獣人はそのまま崩れ落ちたのだった。
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