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獣人国編

戻ってきた

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「爵位が戻ってきた?」

「正確には"戻された"の方が正しいな。
ウチの領地は微妙な位置にあるからな、誰もやりたくないんだろう。」


『新鋭の翼』のデミが言うには、当初、父であるコモン・スロアによる王都での一連の騒動があって一時的に爵位を取り消しとなり、デミ・スロアは"ただの"デミとなった。

コモン・スロアの治めていた領地は、近隣の領地に取り込まれる予定であったが、何処も手を上げなかったらしい。

聞けばコモン・スロアの領地の一部が、ヒュマノ聖王国と獣人の国ヴァーリアスフェアレス両方に接している。

どの領主からも嫌われている国と接してる上に、戦争秒読み段階に入っている為、必ずと言って良い程巻き込まれる領地を誰も手にしたく無い様だ。

その結果、諜報部の人間からも『シロ』と判断された1人息子のデミに領地を任せれば良いのでは?という事になった様だ。

普通領地経営をする場合、何年も前から引き継ぎをするものだが、色々すっ飛ばしての領主となる事に、デミの心中を察するに余りある。

幸いな事にコモン・スロアが"新事業"と称して作っていた『造魔核』の作製に関わっていたのは闇ギルドの【研究者】と極少数の家臣のみで、コモンがその"新事業"で留守にしている間、実質的に領地経営をしていた女性執事がデミの指南役になるそうだ。


「それに、知らなかったとは言えヒュマノから奴隷を定期的に融通して貰ってた様だし、獣人の国からも白い目で見られるだろうな…」


これからの事を考え、少し遠い目で空を見詰めるデミ。
するとクロラ達に自己紹介を行っていた他の『新鋭の翼』メンバーのリナ、ミミ、ララ、ガドラ、ノンがやって来る。


「なーに始まる前から思い詰めてるの!」

「「御前試合の時の威勢はどこ行ったのよ?」」

「1人で背負うな、その為の俺達だろ?」

「私達も出来る限り協力するからさ。」

「み、皆…」


当初、デミが領主に任命された際『新鋭の翼』を解散しデミのみ戻るハズだったが、"領地経営が軌道に乗るまでは一緒にいる"との事で全員付いてきた様だ。

ノアは王都でのデミしか知らない為、詳しい事は分からないが、長い付き合いの5人としては解散する事に躊躇いがあるのだろう。


「済まない、また1人で思い詰めてしまったな…」


このデミの口振りからして、何度も悩みを吐露し、その度に仲間が元気付けている様で、仲間達もデミのそういった部分を心配して付いてきたのだろう。


「「それはそうと、ノア君はどうしてこっち(ヴァーリアスフェアレス)方面に来てるの?」」


ミミとララは、ここでノアと出会した事に疑問を持っている様だ。


「僕はこの子達を獣人の国に送ってあげる事と、ちょっとした依頼を行いに行く所です。」


と説明すると、思い当たる節があるのかミミが聞き返してくる。


「あ!もしかしてノア君も"例の大規模作戦"に参加するの?」

「待ってララ、あの依頼【義賊】【盗賊】【忍】【隠密】限定、しかも通常募集じゃなかったからノア君は受けれないハズよ。」

「あ、そっか。そう言えばそうだね。」ポンッ


と、"例の大規模作戦"とやらにノアの【適正】的に参加出来ないと言う事をミミがララに伝えると手を叩いて納得していた。




するとノアは


「うーん…」グッパッ、グッパッ。

「「え…?」」


突然ノアが伸びを行い、手を2回閉じたり開いたりを繰り返す。
周りからすれば体を解しているのだろうと思わせる動作だが…


「え、まさか…」プラプラ…
「…嘘でしょ…」こねくり、こねくり…


ミミとララの2人も手足を解すかの様に足先を振ったり、手を組んで回したりしていると


「ゴホン。」


と、ノアが咳き込む。すると


「「……えっ?」」

「……。」コクコク。

「……?」スッ、サッサッ。
「……!」サッ、ススッ、スッ。


「3人共どしたの?声帯死んだの?」


ノアが咳き込んで以降、ミミとララの2人は身振り手振りで何やら意志疎通を取っている。

そんな3人にリナがツッコミを入れるも、身振り手振りで無言の会話が3往復位続き…


「「なる程、そう言う事ね…」」

「そう言う事です。」

「「「「「「「「「「どういう事だよ…」」」」」」」」」」


全員訳が分からなかったが、取り敢えずミミとララの2人が納得した事で、この謎のやり取りが終了した。







その後、『新鋭の翼』も途中まで道は同じと言う事で同行する形を取る。

道中、特に問題も無く進んでいたが、本道から80メル程外れた野原にウルフが1頭彷徨っているのを視認。

ノアは歩みを止めると


「ヴァンディットさん、ウルフを見付けましたけどどうしましょう、捕らえますか?」

「あ、お願いします。
ただ血を流さない様に仕留めて頂けないでしょうか?」

「了解。」バチンッ!


と、ノアが徐に荒鬼神を腰から外し、投擲の構えを取る。

後ろを歩いていた『新鋭の翼』達は、足元から声が聞こえた事に驚いている様子であった。

ブォンッ!バシュッ!

<渾身><投擲術>を発動してウルフの頭上高く投擲したノアは、荒鬼神の所まで直ぐに転移した。

スゥウウウ…

その後落下していくノアは、体の向きや手足を使い位置を調整。

ストッ。ガシッ!ゴギンッ!

<忍び足>を発動させて殆ど音も無く着地したノアは、即座にウルフの首に手を回して凄まじい力でへし折った。

ウルフは叫び声を上げる事も無く地面に崩れ落ちた。





「…俺らの知ってる狩り方じゃない…」
「あれ、もう【暗殺】の域よ…」

「まぁ、その、慣れて下さい…」

「皆あの子とは友達なのよね?
彼、一体どんな訓練受けたらあんな動き出来るの?」

「ほら、クロラ、旦那の事聞かれてるわよ?」

「だだだだ、旦那ってポーラちゃん…
…私もそこまで詳しく聞いた事は無いんですけど、両親からかなり厳しい訓練を受けたみたいです…」

「「「「どんな両親だよ…」」」」


全員の視線の先では、ノアが仕留めたウルフを影の中に入れている所である。


「アレ、さっきの声の人にあげてるんだよね、多分…」
「あぁ、そうだろうな。」
「声からして女性みたいだけど…」
「…あれ?仲間のウルフかな、ノア君の方に向かってってるね。」


ララが目を凝らして見てみると、ノアの後方から3頭のウルフが駆けて来ている。
ノアは一瞬その3頭に視線を送り、何やら一言言った直後、地面からグリードが飛び出して3頭纏めて食らい付き、地面の中に引きずり込んでいった。


「「「「「「……。」」」」」」


グリードの姿を見た6人は、驚きで声も出ない、と言った様子である。


「「「「「「アレ何…」」」」」」


御前試合の直後、避難していた6人としては、初めて見るグリードの姿に困惑していた。
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