ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

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再びアルバラスト編

閑話 【勇者】ミユキの居候生活7日目~襲撃1回目④~

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~現在夜中の2時頃~

冷たい地面の上で座り込むマドリックは、ミユキの動きを見て素直に驚いていた。

(…人は戦いの中で成長していくモノだ、と何処かの誰かが言ってた気がするが…
ミユキのヤツ、7回目の蘇生を受けた辺りから露骨に成長し過ぎじゃないか…?)

ダダンッ!「はぁぁっ!」ブォンッ!

ガキンッ!「26。」

マドリックの周囲に立つ大木を縦横無尽に駆け、頭上から<渾身>を乗せた兜割りを繰り出すも爪の先で受け流され、弾かれてしまう。




「シッ!」

ビュオッ!『キンッ!』「27。」
ブンッ!『ギンッ!』「28。」
ヒュバッ!『ガキュッ!』「29。」

弾かれた剣を返す形で斬り上げ、振り下ろし、横薙ぎの3連撃を繰り出す。

全て爪の先で弾かれてしまったが、先程よりも明らかに手数が増えていた。


「はぁああっ!
私が元居た世界の漫画の技を食らえっ!」

ヒュバババババババババッ!


と、突如ミユキが気合いの声と共に唐竹割り、袈裟斬り、右薙、右斬上、逆風、左斬上、左薙、逆袈裟、刺突の9連撃を繰り出す。


ガガゴゴゴガゴガガッ!

「30、31、32、33、34、35、36、37、38…
何だ?ただの9連撃じゃないか、変に期待させやがって。」

「くぅぅ…あの技をやるには速さが足りないか…」


何の技をやりたかったかは知らないが、ミユキの反応からして満足のいく出来では無かった様だ。

(うーむ…さっきまでと比べて攻撃力や移動速度、反応速度が上がってるな…
その為か、多少他の事を考えられるだけの余裕が出来てきたな。
俺のアドバイスだけでここまでの成長はありえん、切っ掛けは分からんが、傾向としては良い方向に向かっているな…)


『襲撃』の本来の目的は、実戦での"臨機応変な対応力"を養う目的の為に行っている。

幾ら圧倒的な攻撃力を持っていようが、突発の事象に対応出来なければただの宝の持ち腐れである。


次の目的として"立ち回りの矯正"である。

剣術の指導を受ける時に、よく"脇を閉めろ"と言われる事があるが、これは体の被弾面積を減らす目的と、技の出だしを相手に悟られない様にする為と言われている。

対応力があったとしても、被弾が多かったり、相手に次の動きを読まれてしまったら元も子も無い。

冒頭にも出たが、戦いの中で成長していく中で、立ち回りの方も強制的に矯正させていくのが目的である。


だがミユキの場合、そう言った部分の成長が著し過ぎるのである。


(…コレは…恐らく【勇者】に由来したスキルか何かの影響だろうな…)


などとマドリックが思考を巡らせている間にも


「ふぅぅうっ!」ボッ!

ガギギギッ!「99。」

ミユキが放った突きをマドリックは右手の爪先で挟んで受け止める。


「惜しかったな、剣筋、動き共に最初に比べて大分良くなった。
だが予備動作がでかすぎて次の一手が見え見えだ、次はその辺りを考慮するんだな。」

「うぅ…最初に比べて大分マシになったと思ったのに…」


因みに今現在のミユキの死亡回数は8回。
最初こそ死ぬ事に対して思う所があったミユキだが、5回目を過ぎると、もう流れの一部として捉えている様だ。


「…よいしょっと…」ズシャッ


すると今まで座り込んでいたマドリックが徐に立ち上がる。


「さて、次で蘇生薬が尽きるから当初の『襲撃』のやり方に戻すとしよう。
お前さんの動きも明らかに良くなってる事だしな。」

「…って事は実戦形式で、という事よね…」

「まぁ本来はそっちが目的だし、今までのはただの打ち込みに過ぎないからな?」

「ぜ、善処します…」

「ほれ、さっさと打ち込んで次いくぞ次!」

「えぇ!」ボッ!

カキンッ!「100、っとな。」シュピッ!


会話の直後という不意打ち気味な攻撃にも関わらずあっさりと突きを弾かれたミユキは、手首から先が全く見えないマドリックの手刀で首を斬られる。

ガッ!チャパパッ…

「…っはぁっ!これでラストね!」


首が斬り落とされる寸での所でミユキの頭を押さえたマドリックは、蘇生薬を振り掛けて即蘇生。

ミユキも即座に覚醒して次に備えている。

2人揃って死ぬ→蘇生が流れ作業となっていた。


ザッ、ザッ、ザッ…

徐にマドリックがミユキから距離をとる。


「んじゃあ仕掛けるぞ、最後の1回だ、気合い入れてやれ。」

「はい!」


ズドンッ!「オラッ!」

ガギギンッ!「くっ!!」


マドリックの強烈な踏み込みによる加速で放たれた右巨腕による突きを、ミユキは粗削りな受け流しで無理矢理弾く。

(ほぅ…粗いが弾いたか。
またもや僅かに反応速度が上がった様だな。
ではこれならどうかな?)

ドズゥッ!「っ!?」

ゴバァッ!「っっっ!!」

右巨腕を弾かれたマドリックは、左巨腕を地面に深々と突き刺すと、大量の土砂を巻き上げてミユキの視界を潰す。

ズザザッ!「はぁぁっ!」

(今度は避けたか。)

右側へ避けたミユキは勢いそのままに、振り上げた直後で硬直したマドリックの左半身側へと移動、がら空きとなった左脇腹へと斬り掛かる。

ダンッ!ギュルルッ!ブォンッ!

ギギンッ!ドガッ!「かはっ…!?」

マドリックは右足を踏み込み、遠心力を乗せた右巨腕の薙ぎ払いを繰り出す。
直撃寸前の所で剣で防御したミユキだが、それだけでは威力は殺せず、後方の大木に背中を強かに打ち付ける。


「背後には大木!さぁどうするミユキちゃんよ!」ブォンッ!

ダンッ!「くっ!!」ヒュォッ!「お?」


大木を背にするミユキに右巨腕の薙ぎ払いを繰り出したマドリックだが、飛び上がる事でコレを回避。

そのまま<壁走り>を発動したミユキは、器用な事に後ろ向きのまま大木を垂直に駆け上がる。


「器用な事するねぇ。だが良い判断だ!」ダンッ!


そう言ってミユキを追い掛ける様にマドリックも木を登る。


「そらそらそらそら!」ボボボボボッ!

「ぐぬぬっ…」ギギガギギンッ!


木を登りつつマドリックの繰り出す攻撃を何とか弾いていく。



「そらぁっ!」ベギャッ!

「うわっ!?」


巨腕を振り上げたマドリックは、ミユキとの中間地点に叩き付け破砕する。
当然空中に投げ出される形になるミユキ。

ガシッ!「あっ!」

ブォンッ!

ヒュォッ!ズザザザザッ!「…げ。」

胸ぐらを掴まれたミユキは、猛烈な力で引っ張られ、地面へと一直線に向かう。

が、何とか身を翻して勢いを殺したミユキが地面に滑り込む形で着地すると、大木の中程にへし折った大木に爪を突き刺してミユキを見るマドリックの姿があった。


「マ『ブォンッ!』ズイッ!!」

ズドッ!ボギャッ!!


強く地面を踏み込んで駆け出したミユキの背後で凄まじい早さで投げられた大木が叩き付けられ、破砕された音が響く。

何とか無事に回避出来たミユキが大木の上に居るであろうマドリックに視線を移す。



「…あれは本当にヤバそう…」


ミユキの視線の先では、飛び上がったマドリックの姿と、今まで左右どちらかの腕で戦っていたマドリックが両巨腕を振り上げながら落下してきていた。

見た目が熊なのだが、口元がニヤリと笑っている様に思われる。


「マドリック~…」


マドリックの間延びした声音とは裏腹に、アレを食らえば一堪りも無いだろう。


「あーもー、自棄だ!掛かって来なさい!」


剣を腰に戻して待ちの体勢を取るミユキ。

(自棄っパチになったか…いや、目は死んでないな…)

声では自棄になった風を取っているが目を見る限り何か狙っている様である。

(さて、どうでるかねぇ…)

「スマァッシュッ!!!」ドボァアアアッ!


マドリックは着地と同時に振り上げた両巨腕を地面に叩き付けると、地震と錯覚する程の揺れと衝撃波、土砂や木々が弾丸の様に前方へと飛び散る。

まるで爆裂魔法を放ったかの様な威力である。

だが


ボファッ!「どおぉおりゃぁあああっ!!」

(は!…防ぐでも回避するでも無く突っ込んで来たか!)


土砂の奥から、全身に傷を負いながらも剣を構えたミユキがマドリック目掛け一直線に飛び出してきた。

マドリックと剣との距離はあと1歩分。マドリックは技を放った状態のまま硬直していた。
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