ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

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再びアルバラスト編

戦闘開始30分

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戦闘開始30分、本格的にノアが暴れだし、この短時間の間に輩共は当初の半数以下の90人にまで数を減らす。

その穴を埋めるかの様に中級、上級冒険者の参加が増加し、討伐依頼から一種のお祭りの様な展開へと変化しつつあった。

その最中、【忍】のリーダーが八岐大蛇を口寄せで召喚。
直径50メルを越える巨大な陣からは、大木の様な図太い足と竜を彷彿とさせる鳴き声が幾重にも聞こえてくる。


『『『『『オオオオオオーッ!』』』』』


大型のモンスターの出現を予感させる尋常ではない殺気の放出に、この戦いを開戦直後から北門の上や即席の観客席から見ていた者達、ノア達の後方に居る輩共や、前線にこれから向かおうとしている他の冒険者らは沸きに沸いていた。


"この放たれている尋常ではない殺気が、ヤマタノオロチの物では無いとも知らず"…





ズルリ…
ズズッ…ズシンッ…

カロロロロロッ…
グルルルォウ…
ギシャアアアッ!


現在巨大な陣の中から巨大な2本の前足を使い、地面をよじ登る形でヤマタノオロチが出現してきている。

ガロロロロッ!

たった今4本目の頭が出て来た所だ。
ヤマタノオロチの首も足も図太く、その上金色に輝く竜鱗で全身を覆っている。

頭にはうねりが付いた角や鋭い表皮、ギョロっとした眼で喚び寄せた主諸とも周囲の者達を睨め付けている。

放たれている殺気は中々の物で、周囲に居る者達はその殺気に当てられ、動けない様である。

そんな殺気の渦の中を、平然とした面持ちで出現を見守っている者が1人と1体。







『でもクラーケンや変異したキエフ、グリード程ではないがね。』

《うふふふ、そうですわね。》

『…と言うかグリード…メスだったんだね…』

(『俺もびっくりだわ…
前まで人語を覚えたてで酒焼けした様な声だったのに、今では滅茶苦茶流暢だものな…』)

《ふふ、調声に苦労しましたわ。
それと私は産まれたばかりの頃は雌雄はハッキリしていません。
主様の影響を色濃く受けて追々決まる様です。》

(『んじゃあ、主が女を欲してたからグリードがメスに『語弊を生む様な事を言うんじゃない。』


などと、流暢に話せる様になったグリードと他愛の無い話をしていると


「…そ、その喋る蛇は一体何だ!?
見た事も無い種だが、それ以上に何だその尋常ではない殺気は!?」


ヤマタノオロチを召喚した事で魔力が欠乏し、全身から脂汗を噴き出している【忍】の男性が
何とか意識を保ちつつノアに問い掛ける。


『契約獣のグリードだ。』

《それと、『蛇』では無く『龍』ですわ。
『竜』では無く『龍』です、お間違えの無い様。》

「…は…はぁっ!?」


そう言ってペコリと頭を下げる。
見た目が厳つい為か口調と見た目が合わずどうも混乱している様だ。


『…まぁこの姿だから仕方無いか…』

《やはり何れは<人化>も覚えないといけないでしょうね。》

『え?人間みたいになれるの?』

《ええ、段階を幾つか踏めば何れ…
その時まで乞う御期待と言う事で。》



ズンッ!ズズンッ!

『『『『『『『『グルルォアアアアアアアアアアアアアアッ!!』』』』』』』』


遂に陣の中から姿を現したヤマタノオロチがノアとグリードに向かって吼え掛かる。

1本の首の長さは50メル、翼は無く巨木の様な強靭な手足を使い巨大な躰を支えている。
そしてどうやらヤマタノオロチは尻尾も8本ある様で、それぞれが独立した動きを見せており、もしこれを自由自在に使えるのであれば非常に厄介だろう。

頭の天辺から尻尾の先までで凡そ200メル以上はあり、幅も50メル以上もある超大物だ。
そんなヤマタノオロチが"敵"と判断し、ただひたすらに吼え掛かっているのだが


《いつも通りの感じで宜しいのですか?》

『そうだね、後はこんな機会中々無いだろうから色々と試してみようかね。』


巨大なヤマタノオロチを前にして普段通りに戦闘前の打ち合わせを行うノアとグリード。


スッ、スラッ!
シュピッ、ギリリッ…
シュリィンッ!


赤黒いオーラで生成した腕4本に加え自前の手にそれぞれ荒鬼神2本、久々の使用である刺突武器2本、カランビットナイフ2本を持つノア。


(うーん、腕が6本あるなら今度デオとガーラさんに荒鬼神を追加で4本作って貰おうかな?)

(『流石にキレられるだろ。2本にして貰やれ。』)

(作って貰うのは確定なのね。)


ボッボッ、ボボボッ!


ヤマタノオロチの8本の首それぞれの口から紫電混じりの炎が上がり始めた。
周りに居たくノ一達も急いでその場を離れているので、どうやら火を吹いて来る様だ。


《主様、どうやら仕掛けて来る様です。》

『その様だ。俺は行くが、グリードは大丈夫か?』

《ふふ、御心配には及びません、丁度魔力を補給したい所で御座いましたしね。》

『そんじゃあ行ってくるよ。』

《御武運を。》


ゴバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!


そう言った直後、ヤマタノオロチは自身の直下に炎を吐き、前方に居るノアとグリード目掛けて放射状にブレスを吐く。

その規模は凄まじく、幅150メル、前方250メルに渡って放たれ、周辺を瞬時に焦土と化した。


バァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

「大蛇!おい!八岐大蛇!やり過ぎだ!言う事を聞け!
くそっ!いつもは言う事聞くのに、何故攻撃を止めない!
このままじゃ二次災害を引き起こすぞ!」


【忍】の男性は脂汗とはまた別の汗を流し、何故か言う事を聞かないヤマタノオロチに困惑していた。


《あらあら、躾のなっていない『蛇』だ事。
そんな適当な攻撃では私は愚か主様すら倒せませんよ?》

バァアアアアアオオオオオオオオッ!


グリードの澄んだ声が炎の中から聞こえてくると共に、ヤマタノオロチの吐くブレスの火力が1段階上がった気がする。

それでも

《あなたの主が言う通り二次被害が心配ですね、延焼しては大変ですので"頂く"としましょうか。》

ヒュゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

「お!?うぉっ!?」
「「きゃっ!?」」
「な、何!?」


グリードがそう言った直後、【忍】達の前方に向かって風が発生。
風と言うより、吸い込まれていると言うのが正しいだろう。

放射状に放たれた炎や、周囲に延焼し掛かっていた炎も纏めてみるみる内に中心に向かっていく。

ヒュゴォオオオオッ…バフッ!ボッボフッ!

《けぷっ、御馳走様。大量の魔力をありがとうございました。
さ、主様、心置き無く戦って下さいな。》

パリッ、パリン…

『うん…ありがとう…
それにしても、前の倍以上の広さが焼け野原に…
整備するの大変だったんだけどな…』


肌が露出している箇所を漏れなく【鬼鎧殻】で覆っていたノアは全くの無傷であったが、以前修繕作業に参加した路面が再び焦土と化した事にションボリと肩を落としつつガラス化した地面を踏み締める。


『と言う訳でそこの【忍】とくノ一さん達!
この戦いが終わったらここら辺の整備、手伝って下さいね!』

「「「「え?あ、はい…」」」」


意外とあっさりとした要求に、素直に了承する『不忍殺』一同。


グ、グルル…
ギャギギッ…
カロ、ロロ…


そんな中、8本纏めて放った炎が全く効いていない事に、露骨に動揺するヤマタノオロチ。


『先手は譲ったんだからもう良いだろ?
後続がまだまだ来そうだからさっさと屠らせて貰う、ぞ!』

ヒュボッ!

ギュォアアアッ…

ノアが手にしていた荒鬼神をぶん投げるのとグリードが口を開いて何やらチャージを開始したのはほぼ同時であった。
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