ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

文字の大きさ
上 下
307 / 1,172
王都編

主従関係

しおりを挟む
「へぇ~じゃあ2人は主従関係じゃなくて、ただ預かってるだけなのね。」

「ええ、獣人の国『ヴァーリアスフェアレス』で"色々"と行った後に別れる予定ですよ。」


事情を知らなかったディオとマールに経緯を話したノアは、今後の予定を少しだけ話す。
その発言にディオが更に質問を飛ばす。


「ヒュマノ…ヴァーリアスフェアレス…なぁノア君。
もしかして昨日王都の冒険者ギルドに貼り出されていた"超特殊依頼(仮)"、まさかあの依頼主ってノア君じゃないか?」

「ええ、そうですよ。」

「え?あっ!"あの依頼"の事ね!」


ディオの発言を横で聞いていたマールも、思い出したかの様に声を上げる。


「【適正】縛りのある依頼だから皆驚いてたわよ。
ディオ確か【適正】該当していたから依頼内容見れたわよね?
アレ、どんな依頼だったの?」


そう話を振られたディオは凄く困った顔をする。


「いや~…アレは申し訳無いがおいそれと口には出せないぞ。
それにまだ"仮"だしな…」

「今王都を含めた10の大きな街や国にも同様の依頼を出して参加者を募っていますよ。」

「その様だな。
一応俺も参加する予定だが、昨日の段階で162人の参加希望者が募っているみたいだ。
…なぁノア君、"あの依頼内容"マジでアレやるのか?」

「ええ、僕は本気ですよ。
どうします?辞退しますか?」

「ハッ!寧ろ俄然やる気になったぜ!」

「では依頼が確定されたらその時は宜しくお願いします。」

「ねぇディオ、ノア君!その依頼が確定したらどんな内容なのか教えてね!?」


ノアとディオがお互いニマリと笑顔を見せる中、全く情報が無いマールはやきもきしていた。







その後も川を横目に上流を目指す事30分。
小高い丘を越えた所で視線の先にある山の中腹に滝の様な物が見えた。

すると

キュルルル!キュキュキュッ!

「"見えた!あの滝の所にボクの住み処があるよ!"と言ってます。」

「おー、あの辺りか。
…しかし、木でよく見えないな…ちょっくら木に登ってもう少し高い所から見てみるか。」

タッ!トンッ!トトッ!


そう言ってノアが近くにあった背の高い木に登りだすと、デカピパラ以外の全員が樹上の更に上を目指す。

ヴァモス、ベレーザは先程の襲撃によって練習する時間は少なかったにも関わらず、スルスルと登っていく。

恐らく獣人は元から木登り自体は得意なのかもしれない。


「うーん…登っては見たけど、それでも少し見辛いな…
距離は目測で300メル位しか離れてないから実際に足を運んでみる…ん?何だ?あれ。」

「砂埃が上がってるが…よく見えねぇな…」

「ホント…それなら私、飛んで見てこようか?」


ノアとディオが視界の端に何かを捉えた様だが、背の高い木と砂埃とでそれが何なのかが分からないと言った様子。

するとマールが偵察に向かうと言い出した。


「え?"飛んで"って…マールさん飛べるんですか?」

「フフフ、良くぞ聞いてくれたねノア君。
こう見えて私は【精霊魔法使い】、空を飛ぶ事なぞ造作も無い事なのさ。
あ、でも飛ぶのには集中力使うんだけどね。」

(なる程、ローブを着てたから【魔法使い】かなと思っていたけどまさか【精霊魔法使い】とはね、初めて見たな…)



【精霊魔法使い】…【魔法使い】を極めていく中で精霊に気に入られた、若しくは長く接した事で力を貸して貰える様になった者だけがなれる【適正】である。
自身の魔力を使って発動する魔法に比べ、純粋な魔力を保有する精霊から魔法を行使できる為
応用、威力、範囲等が【魔法使い】の時に比べ格段に上昇している。
尚、精霊自体【精霊◯◯】と付く適正以外は見えない存在の為、狙って【精霊魔法使い】になるのは困難を極めるという。



「んじゃマール、慣れてない内で悪ぃけど見てきてくれ。」

「はいはーい、"ピーナス・ディファーダ(妖精の羽)"」


マールが呪文の様なものを唱えると、背中に淡く光輝く羽が形成される。
その羽をはためかせたマールは光の帯を残しつつ上空へと上がっていった。


「おー…凄い、本当に飛んだ…」

「俺らには見えないが、光の精霊が羽を形作って、風の精霊が気流を作ってるとか何とか…
最近【精霊魔法使い】になったもんだからまだその辺りの調整に慣れてないらしい。」

「それで"慣れてない内で悪ぃ"と言ったんですね?」

「あぁ、流石に俺は飛べないから、慣れてなくてもこういう時はマールに頼むしかないんだ。」


未だ遠くに見える森の中では砂埃が上がり、何かが暴れているのか、時折轟音が響き渡っている。

上空に上がっていくマールを、ディオは心配そうに見上げていた。





パタパタ…

「何かしらアレ…長い…蛇…?でもそれにしては胴体が長い様な…」


上空に上がったマールだが、木々が邪魔で森の中で暴れている存在が何なのか見当が付いていなかった。


「仕方無い、もう少し高度を上げますか…」パタパタ…


「ん?おいマール、高く上がり過ぎだ、そんな高さじゃあっちからも見られるぞ!」

「あ、ごめん。見えなかったからつい…」


ディオから注意された為、マールは高度を下げる事にした。

メキメキメキ…

「「ん?何の音だ…?」」

辺りには…具体的には砂埃が上がっている方向から木の軋む様な音が響き渡っていた。







ブゴッ…フゴゴ…

森の一角に3メルを優に越える程丸々と肥えたホーミングボアが息も絶え絶えに横たわっていた。

ホーミングボアの胴体には、大木に叩き付けられたかの様な陥没痕がくっきりと残っており、威力の大きさを物語っている。

針金の様な体毛、生半可な刀剣では貫き通せない程の皮膚に、豊富な食糧によって蓄えられた分厚い脂肪、巨体を自由自在に稼働させる為に搭載された強靭な筋肉等の強固な鎧を易々と突破し、ホーミングボアの内臓や骨はたった一撃で粉砕された。

だがこの攻撃を繰り出した"何か"にとっては、小腹が空いた所に近くを通ったホーミングボアの動きを止める為に放った、何て事無い一撃であった。

フ、フゴ『ガブジュッ!!ベキボキミシッ!ゴグンッ。』

ガフゥッ…

苦悶の声を上げるホーミングボアを一口で容赦無な顎で圧殺し、そのまま嚥下した。

ゴルルルル…

ふと木々の隙間から、空に浮遊している淡い光りを放つ物体を視認した"何か"は、大木の様に太く、大蛇の様に長く、岩山の如くゴツゴツとした尻尾を操り、近くの大木を締め付けつつ引っこ抜く。

メキメキメキ…グボッ。

ズグッ、ズググッ…

バキバキッ!ビュオンッ!

地面を這っている"何か"は、地面に鋭い爪を食い込ませて体を固定させると、長い尻尾を振り回し淡く光る物体へ向け、周囲にある大木を薙ぎ倒しながらぶん投げた。

有り得ない速度で射出された大木が一直線にマールの元へと向かう。


「ム、ムールチプラス・ヴァフェイラス(多重障壁)!」

ヴォン!ヴォン!ヴォン!

焦りながらも自身の正面10メル先に障壁を展開したマールだが

ゴババババババッ!

「嘘…」


射出された大木は障壁を易々と突破。
速度が落ちる事無く信じられない、と言った表情のマールの元へと向かう。
しおりを挟む
感想 1,251

あなたにおすすめの小説

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろうでも公開しています。 2025年1月18日、内容を一部修正しました。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

処理中です...