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王都編

不発だったらごめんなさい

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『さーてぇ!全ての準備は整った!
ここまでお膳立てして貰ったんだ、不発だったらごめんなさいじゃ済まないからなぁ!!
『エルプシオン・ヴォルカニカ』!!』


ノアが叫んだ直後、纏っていた防具の青い光が更に増したかと思うと、ノアを中心に強烈な衝撃波が全方位に発生。
途端に地面が波打つ感覚が襲う。

ズォッ!!グジャッ!

地面に押し付けているヒュドラ変異体の体表が一瞬でグシャグシャに粉砕。

"ぐおっ!?"   グルルォッ!?

近くに居たグリードも巻き添えを食らい、龍鱗が砕け、体の至る所から血を噴き出す。


『逃げろグリード!』グルルッ!


ノアが逃げるよう促すと、脱兎の如く魔法陣を展開してこの場から離脱するグリード。

しかし

"く、くく…何やら大技を仕掛けた様だが、この程度では我は殺せんぞ?"


衝撃波の威力は凄まじく、変異して強度がかなり上がったヒュドラ変異体の体を押し潰したのだが、致命傷とまではいかなかった。

既に再生が始まり、ヒュドラ変異体は余裕の笑みを浮かべる。が


『あぁ、承知しているさ、心配しなくとも本番はこれかららしいぞ?』

"何っ!?"


そう言った直後、青く発光していたノアの防具が徐々に紫色に光出し、鳴動を開始。

ブォン…ブォン…ブォン…

シュボッ!"ぐおあっ!?"


鳴動が行われる毎に、ノアから発せられる熱量も上昇。
ヒュドラ変異体の体表が自然発火し出す。


"ぐっ、放せ!"

ジュォッ!"がぁあああっ!?"


押さえ付けられているヒュドラ変異体がどうにか逃れようと拳や足を用いて攻撃を繰り出すも、ノアの体に届く前に発火し、灰塵と化していく。

ブォン!ブォン!ブォン!ズドォッ!

ジュドォッ!"あぁああああっ!!"

先程よりも強力な衝撃波と共に高温の熱波が超至近距離で押さえ付けられているヒュドラ変異体を襲い、この一撃で体組織の8割方が吹き飛ばされる。

ヒュドラの特性として、生命の危機に瀕すると
圧倒的な迄の生命力と再生力が発揮されるが、再生箇所が瞬時に焼かれ、灰となる程の破壊力が再生力を凌駕。
徐々にではあるが、ヒュドラ変異体が滅びへと突き進んで行っている状態であった。

ブォン…ブォン…ブォン…

ノアの防具が再び鳴動を開始。
紫色に発光していた防具が溶けた鉄の様に赤熱化し、恐ろしい程の熱量を放出。
一部は白く発光し、目を開けていられない程だ。
押さえ付けられているヒュドラ変異体は既に製鉄途中の鉄鉱石の様に赤熱化し、融解が始まっており、再生力が全く機能していない状態である。

周囲の地面所か観客席の方まで赤熱化が起こり始め、表面がガラス化していく。

ブォン…ブォン、ブォン…

"は、はな、放せ!我、はごんな所で死ぬ様なぞんざいでは無い!"

『正直な所言うと、声を手に入れる前の方が得体の知れない生物感あったし、何考えてんのか読めなくてさっきの方が十分脅威だったよ。』

"な、何…"

『コモンの細胞を手に入れたお陰か、妙に人間臭くなって、動きも読み易くなった。
その上お前の宿主同様、力を得た途端ペラペラとよく喋る様になったしな。』

ブォン!ブォン!ブォン!

"……っ。"

『お前の敗因は、"人間の力を得た事で人間の持つ『傲慢さ』"まで手に入れてしまった事だ。
傲らずにさっさと俺にトドメを刺しておけば良かったのにな。』

ジュボォアアッ!!"く、そ『ドバァアッ! 』

ノアから3波目の超高温の熱波と衝撃波が綯い交ぜになった光の波が発せられると、ヒュドラ変異体は即融解、即蒸発して消滅。

光の波は数秒の後に消え去り、辺りは赤熱化し、表面がガラス化した地面や焼け落ちた観客席だけが残り、高温の熱気と静寂に満たされていた。

あまりに静かだったので、試合場の外を見てみると十数にも及ぶ結界の後ろに、巨大な水の壁で試合場が覆われていた。

どうやらその水の壁で音や熱、衝撃波等を防いでいたのだろう。

ぱしゃん、と音を立て水の壁や結界が解除されると、辺りは水蒸気が立ち込み、それと同時に外の喧騒が聞こえて来た。

<気配が消えた…>
<終わったのか…>
<…熱っ!?>

等の声が聞こえて来るので、皆に知らせる為にも外に出るとしよう。
未だ試合場内は高温状態の為、ノアは【鬼鎧殻】を発動したまま、熱々に熱せられた荒鬼神を手に持って試合場の端へと向かう。

丁度観客席の一部が崩壊し、外に出られる様になっているので瓦礫を足場にして出る事にした。








時間は少し戻って、ノアが『エルプシオン・ヴォルカニカ』を発動した直後まで遡る。

ズォッ!ズズズズズズズンッ!

「な!何だ今の揺れは!?」
「地震!?」

ズドンッ!バシィィイインッ!

「うおわっ!?」
「ぬぐっ!?」
「きゃっ!?」
「何か始まったぞ!皆踏ん張れぇ!」


試合場を中心として地面が波打つ様な感覚が走った直後、結界に空気の塊がぶち当たる。

あまりの衝撃に、発動者数名が結界ごと押し返され、地面を転がる者が多々見受けられた。


「う、ぐぐ…何だったんだ今『…ォン…ォン…』

「『…ォン…』え?何この音『ブォン…』」

「この音『ブォン!』試合場の方からだよ?」


音の発生源である試合場に目をやると、謎の音が大きくなるに従って紫色の光が強さを増し、更に熱波までもが周囲に襲い掛かる。


「うわっ、熱っちぃ!?」
「中で何が起こってんのよ!?」
「知るかっつーの!!」
「うぬら!言い争ってる場合じゃ無い!来よるぞ!」

ズドォッ!ズバァアアアアアッ!

ジャロルが声を荒げた直後、結界を介しているにも関わらず、肌を焼く程の熱量を持った衝撃波が試合場を中心に放出される。

周囲に展開された結界のお陰で周囲に衝撃波が伝播する事は無かったが、逃げ場を求めて衝撃波と熱波は試合場直上に火柱となって天高く延びていく。
その光景を見た者は火山噴火を想起したであろう。


「ぐぉおおおおおっ!!」
「何じゃこりゃ…!」
「あ、熱…これ以上は無理よ…」

「ジャロルさん負担増えるけどごめん!
リン!フェイ!『水牢』を展開して熱波を防ぐわよ!!」

「あい!」

「さー!」


あまりの熱量に耐え兼ねて『槍サーの姫君』リーダーのヤンの指示の元、結界を閉じて水の膜で出来た防御壁を3方向から同時発動。
熱波を防ぐ手に出る。

ジュゴワワワワワワッ!

「ヤン!駄目だ!熱量が凄すぎて直ぐに蒸発しちゃう!」

「構わない!魔力の続く限り発動し続けて!」

「了!」

「解!」


熱波を辛うじて防ぐ事に成功したが『槍サーの姫君』3人が抜けた穴を埋めるべく、ジャロルが魔力を増幅させ、自身が発動している『竜陣』を強化。
強烈な衝撃波に耐えられる様に手の形状を竜のそれに変化させる。


「ぐ、ぬぬ…先程の魔力枯渇が治っとらん内にコレとはな…持って2、3分じゃぞ…」


他の冒険者や【魔術】ギルドの人間が総動員で抑えていたのだが、1波目で魔力をごっそり持っていかれ、2波目で3割程が脱落。
残るは上級冒険者とジャロル、一部の【魔術】ギルドの面々だけとなった。

ブォン…ブォン…ブォン…

「おい嘘だろ!?」
「まだ続くのか!?もう保たないぞ!」
「…待て待て、熱量が先程の比では無いぞ…」


流石のジャロルからも呆れ声が上がる。
するとジャロルの背後に居た青紫色の着物を着た女性が徐に呟く。


「うーむ…中の造魔の方は片が付くけど、街の方にも被害が出ちゃいそう…
流石に見過ごす訳にはいかないか…」


青紫色の着物を着た女性は、『水牢』を発動し続けているヤンの元に歩み寄る。


「お嬢さん、その水少し拝借させて貰うよ?」

「んえ?一体何を…」

「『海牢』。」

ズズズズズズズズズズズズズズズズズズッ…

女性がそう発すると、ヤンが展開していた水の膜が増幅され、厚さ10メル、直径200メル、高さ100メルの巨大な水球を発生させる。

それは試合場全体を覆うには十分過ぎる大きさで、先程感じていた熱波は愚か、試合場から発せられていた音も消え、周囲は静寂に包まれる。

その水球の中心部では、海中から太陽を見た時の様な白い光が煌めき、何とも神秘的な光景が広がっていた。


「す、凄い…この規模の結界を意図も簡単に…」


ヤンが感嘆の声を上げ、その光景に見とれている。

少しして一際白い光が煌めくと、水球が膨張。
中で強烈な衝撃波が暴れまわっているのだろう。


「…終わったみたいね。」


着物の女性がそう呟くと、光が徐々に収まっていき、それにつれて先程まで漂っていた嫌な殺気が霧散。

ぱしゃん。

と、音がしたかと思うと、巨大な水球が弾け、結界が解除される。
忽ち試合場は高温の水蒸気に包まれ、視界が塞がれる。

暫し待つと、水蒸気の中から人影が現れる。
深海色の防具に赤黒い兜の様な物を装着し、特徴的な2本の剣を持った少年の様だ。


「お!【鬼神】君だね。」
「っつー事は勝敗が付いたか!」
「やった!終わったのじゃ!
お主、助かったのじゃ、お主が居らねば最後どうなった事か…
あれ?…先程の女性は?」

「え?あれ?何処行った?」

「さっきまで居たんだけど…」


先程巨大な水球を発生させた青紫色の着物を着た女性は、忽然と姿を消していた。
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