ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

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王都編

交通整理真っ只中のクロラとロゼ

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丁度その頃、試合場から6区画先で交通整理真っ只中のクロラとロゼは、後方から時折聞こえる爆発音や、爆煙が立ち昇る度に不安そうな表情を浮かべていた。

冒険者や隊員達の交通整理のお陰で特に大きな問題は起こらず、滞りなく避難が進んでいた。


「…凄い戦闘音…ここまで聞こえてくる…」

「うん…心配だけど、持ち場を離れる訳にはいかないしねー…」

「そんなに心配なら見てきて良いわよ?」

「「え?あ、ライリさん。」」


2人の隣にはいつの間にか隊員のライリが立っており、その更に後方には他の隊員達が続々と集結してきていた。


「キエフの私兵捕縛が殆ど完了したから、交通整理は私達が引き継ぐわ。
でも試合場内には入らないでね?あの中は今激戦区になってるから。」

「「は、はい!」」


そうしてライリや隊員達が冒険者との引き継ぎを行っている時だった。

ビシャァァァアアッ!

「きゃあっ!?」
「うわっ!?」
「何だっ!?」


試合場上空から直径100メルもある光の塊が降り注ぎ、試合場に着弾する。
辺りは一瞬目が眩む程の光量に満たされ、直後轟音と揺れに見舞われる。
観客席の上半分が崩落し、試合場内の様子が多少見易くなった。


「な、何っ!?今の!?」

「あ、あれは王の広域殲滅魔法…所謂必殺技よ。」

「ラ、ライリさん!それでは後の事お願いします!」

「え、ええ…」


後の事をライリに託したクロラとロゼは試合場を目指して駆け出す。
周囲を見やると、彼女らと同様に数多くの冒険者が建物や路地を駆け、試合場を目指していた。








ガラガラ…ズズンッ!ズンッ!
ゴォオオオ…


「ノア君は…無事か…?
う、ぐぬぬ…この短期間で大技など連発する物では無いな…」

「王よ、大丈夫ですか!?」

「ちょ、ちょっとだいじょーぶ?」

「魔力枯渇気味ね、待ってて、マナポーションあったハズ…」


ジャロルの元で魔力を提供していたポーラがアイテムボックスからマナポーションを取り出して手渡す。


「す、すまないな…」ぐびっ

「わ、妾にもくれんか…も、もー無理じゃ、何も出来ん…」


今までひたすら結界を張り続けていたジャロルは、その場に座り込み、項垂れてしまった。
ポーラはマナポーションを直ぐ様取り出して手渡すと、ジャロルは一気に煽った。


「ぷはーっ…い、生き返ったのじゃ…」

ブゥウウンッ!

漸く試合場の結界が発動した様だ。


「…今更かい…」

「遅いっつーの…」

「うぬぬ…これは改良しなければな…」

「…して王よ、どうかのぅ、奴を屠れたかや?」

「…エルベストも同様の大技で屠ったが、奴の底が知れんので念を入れて全力で放った。
昔『不老竜エルダードラゴン』もこれで討伐したが、これで駄目なら打つ手は…無…い…」


爆煙が徐々に晴れ、試合場の全貌が露になると王を含め、その場にいる全員が絶望の表情を浮かべるのだった。








「…すーごい威力だったな…」 

(『あぁ…この防具じゃなけりゃ消し炭だったな…』)

「…逆にアレ受けて大丈夫なこの防具凄ぇな…デオさんとガーラさんに感謝だな、っと…」

ガラガラ…

爆風で吹き飛ばされたノアが、体の上に乗っかった瓦礫を退かして立ち上がると、防具に付いた砂を払い落とす。

その時に気付いたが、心なしか暗めの深海色であった防具が薄らと青色に変わってきていた。

ブゥウウンッ!

「お、やっと結界が発動したか…さて、奴はどうなったか…」

ザッ、ザッ、ザッ…

ノアは一先ず試合場中央へと向け歩きだす。

ザッ、ザッ、ザ…ザッザッザッザッ

試合場中央から嫌な気配を感じ、歩を進める。


「はぁ…さっきのでくたばっといてくれよ…」


試合場中央には体表が炭化し、腕や腹等の一部が欠損しつつも立ち上がり、高速再生真っ最中のヒュドラ変異体がそこにいた。

バキンッ!ボロボロ…

炭化した体表が剥がれ落ちると、中から新しく金属質の表皮が顔を出す。

だがその直後ヒュドラ変異体に新たな変化が訪れる。

ビキッゴキッバキバキバキンッ!ズヂュルッ…

先程まで細くしなやかだが、凄まじい筋量を誇る腕や足が、筋量を増やした上で太く、強靭に発達させた。

更に背骨から生えていた背鰭が、全身を覆う様に変化させて生体鎧を形成。
首の周りにはクラーケンの様に分厚い甲殻が生え、見た目は重鎧を着込んだ竜人である。

そして背中から追加で4本、合計八本の触手を生やし、ウネウネと蠢いている。


(本体の首も合わせれば9本…)

(『ヒュドラ要素の名残だが…ありゃもう別種だな…』)


ジュォオアアアアアアアアアアアアアアッ!


王都全域にまで響き渡る程の咆哮を上げ、辺りに殺気を振り撒く。

今までの事の成り行きを見続けていた避難者や冒険者らも、更に変異したヒュドラ変異体を見てどうしたら良いのか考えあぐねていた。


「ノア君今すぐ逃げるんだ!あれはもう打つ手が無い!
せめて我が道連れに『おいコラ、何勝手に諦めてんだ?』


ノアから発せられた言葉にポカンとする一同。
慌ててポーラが止めに入る。


「しょ、少年、王に向かって何を…」

『ポーラはちょっと黙ってて。
さっきの発言、そっくりそのまま返すぞ!
今すぐこっから脱出してくれないか?
奴を抹殺出来るかもしれない手がこちらには2つある。
巻き込んじまうといけねぇからさっさとご退場願おう。』

「し、しかし…」

『ヴァンディット、王や皆を安全な所へ。』

「畏まりました。」

「「「「え?ちょっ、待」」」」

ズルン…

流石にこの場に冒険者を残すのを躊躇った王だが、ノアはヴァンディットの影移動を使って強制的にご退場願った。

後で何か言われるだろう事は覚悟した。


「ノア様、ご武運を。」

『ああ、任せとけ。』

影の中からヴァンディットが声を掛け、ノアはそれに手短に答える。

チラリと観客席を確認すると、既に全員の避難は完了し、この場にはヒュドラ変異体とノアだけとなった。


ジュォオアアアアアアアアアアアアアアッ!

ズドォンッ!

ヒュドラ変異体が咆哮を上げて地面を踏み砕きながらノアへ向け接近を図る。


『さて、ここに居るのは俺らだけだ、思う存分殺るぞ!
姿形は違うが2週間位前に食った奴と同種、食い溜めしておけよグリード!』


グルォオオオオオオオオオオオオオオオッ!

ガブジュッ!ジュォアアアアッ!?


ノアの足元から飛び出したグリードは、接近を図っていたヒュドラ変異体の両足に食らい付く。

先程よりも強固に、より強靭に発達させた筋肉の上に重鎧の様な生体鎧を纏わせたヒュドラ変異体だが、それを容易く噛み砕いたグリードに動揺している様だ。


ジュォアアアアッ!!!

バシュッ!シュバッ!シュバッ!バシュッ!

ズドゴゴゴゴゴゴゴッ!


噛み付いたグリードを引き剥がそうと、集束ブレスを次々にグリードに撃ち込んでいる。

ブヂブヂブヂッ!グルルォオッ!

ヒュドラ変異体の左足を引き千切り、その場から離れるグリードの身体を見ると、ブレスが命中した部分が少し赤熱している。

明らかに集束ブレスの威力が上がっている様だ。

ノアはヒュドラ変異体の左足をムシャるグリードの元へと向かい、声を掛ける。


『大丈夫かグリード?』

グルルオゥッ!ムシャムシャ…

様子を見るにそこまでダメージは入っていない様だ。


『やる事はいつも通りだ、俺が居ようが関係無く攻撃を仕掛けるんだ、良いな?』

ルルォァアッ

『…この間から何か返事がおかしいが大丈夫か?』

ルォゥルァ、ルァゥ。

グリードの返答を聞いたノアだが、より一層違和感が生まれただけだった。
本人(?)が大丈夫と言うのだから大丈夫なのだろうが、この戦いが終わって落ち着いた時にでも聞いてみる事にしよう。

一先ずこの戦いを終わらせる事だけ考えるとしよう。
 
ズドンッ!

ノアとグリードは、同時にヒュドラ変異体の元へと駆け出して行った。
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