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王都編

今日はここまで

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「まだ夕方の4~5時位ですが、暗くなってきたので今日はここまでとしましょう。」


森を抜けた一行は山道を進み、少し開けた場所に出る。
その段階で既に空が薄暗くなって来た為、早目に野営を張る事にした。


「さて、レイルは俺と一緒に薪拾ってこよう、ドリーは先程の猪の処理を頼む。
兄さん、テント宜しく。」

「おぅよ。皆チャッチャとやってしまおう。」


クック、クリス指示の元、皆キビキビと準備を進めていく。
ノアは、解体を任され、場所を探しているドリーの所に向かう。


「ドリーさん、場所はここ使って下さい。」


そう言ってノアは地面に魔力を流して大きな台を作成。


「あ、ありがとう。」

「取り出した内臓はこちらで処分しますのでそのまま放置で。」

「え?良いんですか?」

「ええ。」


普通内臓を放置すると臭いに誘われた動物やモンスターが寄ってきてしまうので、完全に燃やすか、深めに穴を掘って埋めるのが主流である。

ただこの時ノアは<殺気放出>しっ放しだったので大丈夫だろうと判断した。


「あ、あれ?木が湿気ってて火が点かない…」

「うーん…割と乾いた薪を持ってきたハズなんだがな…」

「まぁ、仕方無いですね、僕に任せて下さい。」


そう言ってノアは、腰に下げていた荒鬼神を抜いて湿気った薪の山に刺して魔力を流す。

刀身が赤熱し、熱と共に眩しい光を放出、湿気った薪が瞬時に燃え上がる。


(『…俺、こう言う用途の為に魔剣にした訳じゃないんだが…』)

(追々本来の使い方するから…)


魔剣になってから初の発火能力を、まさか薪の着火に使われると思っていなかった『俺』は少しノアに対して愚痴る。
ただ、着火が非常に楽になったのは言うまでも無い。


「あ!熱っ!?」
「あっちぃ!」
「うわ!魔剣だぜこれ。初めて見た。」
「うわぁ…綺麗ねぇ。」
「え?この温度で刀身が何とも無いって何の金属使ってるんだ?」


等々声が上がるが、一先ず火が着いたので良しとしよう。
まだまだ夜は冷えるので皆火の周りに集まっている。


「ノ、ノアさん、猪の解体終わりましたよ。」

「お、ありがとうございます。
では、ドリーさんも火の方にどうぞ。」

「料理、手伝わなくて大丈夫ですか?」

「ええ。
それに先程から解体見てましたが、手が悴んでたみたいですから早く暖まって下さい。」


ドリーの手の先が震えていたのを見ていたノアは手を引いて焚き火の方へと連れて行く。

皆と一緒に暖まり、表情もほわっとなったのを確認し、少し離れた場所でアイテムボックスからキッチンを取り出し、その場で展開。


「ノ、ノア君!それって高級キッチンじゃん!何で持ってるの?」

「以前購入したんです、便利ですよ~。」

「え?それって因みにお幾ら万ガルしたの?」

「確か300万ガルはしましたね。」

「「「「「ひょぇ~。」」」」」


額に驚いてる一同を尻目に、キッチンに指示を出す。


「解体後の猪肉に行ったクリーンを、あとボールを2つと包丁を。」

「畏まりました。」

「おー、喋ってる。」
「スゲー、欲しいわー。」


などと、キッチンが喋る毎に驚きの声が上がる。

ノアはボール2つに薄く切った猪肉を入れ、両方のボールに酒を入れ、片方のボールに先程採っといた『クサミトリクサ』を入れる。


「ねぇノア君。何で片方にしか入れてないの?」

「この際ですからどれ位臭みが抜けるか、試してみたくありません?」

「ほほぅ、食べ比べか、良いな。」


そうして<調理時間短縮>を発動してしっかり酒に漬け込んだ肉と、酒と『クサミトリクサ』に漬け込んだ物を鍋で茹でる。


「はい、まずは酒のみです。」

ぱくっ!「…うんうん、噛んでくと奥にいるわね。」
ぱくっ!「解体の時に少し血が残ったかな…」
ぱくっ!「やっぱ吊しでやらないと残るか…」



「はい、次は酒と『クサミトリクサ』です。」

ぱくっ!「いや、もう口に入れる瞬間に分かるわ、臭み無いって。」
ぱくっ!「肉って甘いんだな…」
ぱくっ!「これは是非とも戻ったら…」
「皆まで言うな、そうするつもりだ。」ムグムグ


どうやら反応は良い様だ。


「それで、これで何作るの?」

「僕のいた村では猪が取れたら鍋物にしてるので、それにならって鍋物にする予定です。」  

「鍋物か~良いね。でも肉だけ?」

「実は元から鍋物にする予定だったので街で幾つか野菜買ってきましたし、幾つか野草も採っときましたのでそれを使います。」

「え?いつの間に採ってたの?」

「ふふん、僕も時たま料理する身ですからね。
隙間時間を見付けては食材調達してるのですよ。」


そう言いながらアイテムボックスからいつの間にか採取していた『特大土筆』『強者ニンニク』『ユリ根』『大群生ニラ』を取り出す。

更に街で購入していた『薄菜』と『長ネギ』、自前の無限キノコを取り出し纏めてクリーンを掛ける。


「ボールを2つ共クリーン。
大きな寸胴鍋と小さな鍋に水を張って強火に掛けて。」

「了解しました。」


ノアは寸胴鍋に出汁を投入、小さな鍋に根や不要な部分を除去したユリ根を入れて下茹でを行う。

続けて他の野菜やキノコ、野草も下処理を行って一旦避けておく。


(あ、ウルフが近くに彷徨いてるな…グリードいる?)

グル!

(ウルフや猪等の敵意を持って襲ってくるモンスターが20メル以内に近付いて来たら食っちゃって良いぞ。
野盗…人間の場合はこちらで対処する。)

グル…ルォゥ。

(ん?グリード大丈夫かい?)

ル、ルォゥン。

いつもと違う反応に違和感を覚えつつも、体調が悪い訳ではなさそうだ。



頭を切り替えたノアは猪肉を次々に薄く切り始める。
一通り切り終えた肉はボールに移し、酒と『クサミトリクサ』を投入。

全体的に馴染ませる様に混ぜ、臭みを取る。

下茹でが終わった『ユリ根』や切り終えた各種野菜、キノコ、野草を投入。
臭みが取れた肉を取り出し、軽く洗い落として鍋にどんどんと投入。


「後はこのまま肉に火を通しつつ時折灰汁を取るだけ、鍋物は簡単で良いね。
さ、そろそろ出来上がるので皿を…準備出来てますね…」


待機している一同の方を見ると既に皿とフォークを用意して、今か今かと待ちわびている様だ。

あまりにも皆の圧が凄かったので<調理時間短縮>を発動し、チャッチャと灰汁を取って完成を早めた。


「はい、出来ました。
よそいますので皿を渡して下さい。」


言うや否や次々と皿を渡され、次々とよそう。
皆渡された皿に鼻を近付け匂いを嗅ぎ、皆がよそわれるのを待つ。
ドリーに至ってはジーッと皿を凝視し、御預けを食らった犬の様である。






「それじゃあ皆、手を合わせて。」

「「「「「「頂きま~す。」」」」」」

ハグッ
あむっ
ずずずっ

「あー、うめぇ…」
「おいしー!」
「うおぉぉぉっ…」


皆の反応を見るに味は問題無いだろう。
ノアも少しよそって食べる事に。


「うん、味も問題無いし、食事効果もこんな物だろう。」


食事効果:体力上昇(中)、スタミナ回復(中)、寒さ耐性(中)、体力継続回復


「ノ、ノア君!この食事効果は何だ!?
調理している所を見てたが、そこまで特別な事はしてなかったハズだが…」


食事効果に驚いたクックが、皿を片手にノアに詰め寄ってきた。


「ああ、僕の【適正】の影響で、1人で調理すると食事効果が出やすいんですよ。」

「それにしたって効果が4つも…うむむ…」

「まぁ良いじゃないか、クック。
今は食事を楽しむとしようじゃないか。
時にノア君、このキノコは無限キノコじゃないか?」

「ええ、そうです。
木に栄養がある限り無限に生えてくる割に、結構美味しいですよね?」

「ああ、これは旨い。
街で長く暮らしているが、市場でも見掛けた事はなかったな。
どこで手に入れたんだい?」

「僕出身の村の近くにあったオードゥスって街のダンジョンで歩く茸に貰いました。」

「何?あそこでか!」

「そんな近くにあったのか…
知ってたら妹に採ってきて貰えば良かったな…」

「あれ?クックさんとクリスさんに妹居たんですね。」

「ああ、本当だったら2年目なんだが、家の事情で今年新人冒険者として旅立つとの事だ。
この間手紙が来て、そろそろ王都に着くらしく、今から楽しみだ。」

「であれば今からオードゥス戻るのは大変でしょう、街に戻ったら一株あげますよ。」

「え!?良いのか?」

「ええ。
さ、冷めてしまうので食事を続けましょ。」

「あ、ああ、そうだな。」


ノアは色々と興奮状態のクックやクリス達を落ち着かせ、食事を促す事にした。
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