ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

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フリアダビア前哨基地編

ハラハラドッキドキ

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ノアの影の中に潜むヴァンディットは、先程から展開されるハラハラドッキドキの戦闘風景に手に汗握っていた。
興奮によって普段は青白い頬に赤みがさし、端から見たら観劇している美少女と言った感じである。

ノアからは戦闘に参加しなくて良いとは言われていたものの、当初は半信半疑だったヴァンディット。

今回で4回目となる戦闘を目の当たりにして、虚勢で無い事は明白であった。
目紛るしく変わる光景に、自身の反応が追い付かず後半は「わ」と「キャーッ」しか言えずにいる。


「むむむ…ここのモンスターの攻撃は非常に厄介ですが、それに対応するノア様は流石としか言えませんね…」


今ヴァンディットが見た光景は、鬼鎧殻を纏ったノアの右足に噛み付く蜥蜴の首に阿羅亀噛が深々と突き刺さっている所であった。

しかし、背後からの気配を感じたノアが振り返るも、即座に炎のブレスが噴射され対応が遅れたノアが炎に飲み込まれる。


「あ!?ノア様!?」


影からその光景を見たヴァンディットが思わず叫ぶ。


スタッ!「失礼します!」ズダンッ! 

「あ、どうぞー。」


噴射された炎によって出来た自分の影を経由してヴァンディットの個人空間内に入ってきたノアは、蜥蜴の背後の影へと跳躍。

そんなノアに対してヴァンディットは手を振って送り出す。


フリアダビアに来る前の日に、深夜のアルバラストで練習していたのがこれである。
要は『ヴァンディットが行っている影から影への移動を自分も行えないか』という事である。

ヴァンディットの影から影への移動は、1度持ち前の空間魔法で作成した個人空間を介して移動している。

つまり今ノアが行ったのは個人空間の持ち主であるヴァンディットに許可を得て、通して貰っている状態である。

ただ急拵えでの戦術の為、幾つかの制約がある。


1つ目は、ヴァンディットが覚醒状態である事。
ヴァンディット個人の空間である為これは当たり前と言えば当たり前の事だろう。
先程から影の中から薄ら「わ」とか「キャーッ」とか聞こえていたので起きている事は確かだ。


2つ目に、移動出来るのは、起点となる影を中心に半径10メルの範囲内のみとなる事。
これはヴァンディットの個人空間が大体この大きさである事に関係する。
これ以上大きくすると、逆に空間を維持するのが難しくなるらしい。


3つ目に、侵入時の影は自分の影、若しくは自分の影より大きい事が条件である事。
入り口が同じか、大きくなければ出入りが出来ないからである。


4つ目は、出入りの際に魔力を1割程消費する。
つまり最大でも連続5回が限度である。
ある意味通行料の様な物だろう。



ズバァッ!ギュオッ!?

事切れた蜥蜴の死骸を前にして、ノアが冷や汗を流す。


「い、今のは危なかった…」

「大丈夫ですか、ノア様?」

「ええ…この戦術を考えて無かったら全身大火傷で済んだかどうか…お陰で助かりました。」


ヴァンディットへの礼もそこそこに、大蛇の顔面に足を掛けて阿羅亀噛を一気に引き抜く。

その間壁に右手が縫い付けられている蜥蜴は、上顎と下顎が串刺しになっている為ブレスを吐けないので、影魔法で尻尾を突き刺しに掛かるが、ヒラリと回避したノアによって首を両断される。


後方ではドワーフらのガハハ笑いと、ガントレットによる打撃音が響く。

ノアは前方からの反応が無い事に安堵しつつも、床に手を当てて魔力を流して通路に即席の壁を作っていく。

(確か20メルおきに格子状に通路が走ってるんだったな…)

そんな事を考えつつ通路に次々と壁を作っていく。


ガヂョンッ!グシャッ!

「おぅ、坊!何しとるんか?」

「取り敢えず奪還出来た範囲に壁を作っていってます。」

「なる程のぅ、奪還してもまた彷徨かれたら敵わんしのぅ。
どれ、後はワシらがやっておこう、坊は休んどれ。」

「え?でも…」

「さっき坊の方から凄まじい熱気と光が発せられとったからの、なかなかの激戦だったハズじゃ。」

「若ぇもんが馬車馬の様に働いとるんじゃ、爺が働かんでどうする。」

「それにワシらドワーフは土や岩、鉱石等の扱いには長けとる。
後なお前さん、魔力切れし掛かっとるぞ?
働き過ぎじゃな。」


そう言われたノアは無意識に発動していた<痩せ我慢>を解除、全身の脱力感と共に魔力減少による頭痛と吐き気、疲労感が襲い座り込む。


「ぐっ…ぅえっ…」

「お前さんの戦い方は圧倒的じゃが、命を磨り減らしてる様に思うのぉ…」


ドワーフがそう呟いた直後、座り込むノアの影が揺らめく。

ドワーフ3人が身構えるもノアが手を翳して制す。


「大丈夫、僕の仲間です…」


直後、影から青と黄色の液体が入った小瓶を持って慌てて飛び出すヴァンディット。


「大丈夫ですかノア様!」

「落ち着いてヴァンディットさん…魔力切れと疲労で気絶寸前なだけだから。」

「それは大丈夫とは言いません!
青の小瓶がマナポーション、黄色の小瓶が疲労回復薬ですのでお飲み下さい。」


影から出てきた美少女に目を丸くしていたドワーフ達は、ヴァンディットの肌を見て種族に気付いた様だ。


「…!その肌…もしやお嬢ちゃん、吸血鬼か?」


ノアが薬品を飲んだのを確認した後にドワーフ達に向き直ったヴァンディットは、黒のドレスの裾を摘まんで御辞儀をする。


「初めまして、ノア様にお仕えしておりますヴァンディットと申します。
今仰られた様に、私の種族は吸血鬼になります。」

「ほほぅ…吸血鬼とは珍しい…」

「こりゃまたえらい別嬪さんじゃのぅ…」

「お仕え?彼女さんかと思ったわい。」

「いえいえ、ノア様の彼女など恐れ多い…」

「でもこん坊はなかなか有望株ぞ?
そこら辺の碌でもない者に取られるかも知れんのはええんか?」

「ノア様には心に決めた方がおられる様なので…」

「うん?こん国は確か稼ぎと度量さえありゃ一夫多妻可やったんじゃなかっとったかのぉ?」

「え?」

「そうじゃったそうじゃった、後で知っちょる者に聞くとええぞ。
色々手続きはいるが、割とすんなり認めて貰えるぞい。」

「す、すいません、そこの所詳しく…」


何処からともなく紙とペンを取り出したヴァンディットがドワーフから色々と聞きたそうにしている。

その間ノアはと言うと、その手の話しにどう入っていったら良いか分からず、ドワーフ達とヴァンディットの周りをウロウロしていた。




ズズン!ズドォン!パラパラ…


「…っと、上の方も激しく戦っとるみたいじゃのぅ…」

「あれ?街にはまだ住人がおるんじゃなかったか?派手に戦ってて良いのかのぅ?」

「ん?ちょっと待って下さい…何か聞こえるな…」

<…馬…止め…>
<うるさ…指…な!>
<きゃあっ…>
<…ぐぁ…>

「マズイぞ!悲鳴の様な物が聞こえる、上に急ぎましょう!」


魔力切れが回復し、疲労もある程度回復したノアは<痩せ我慢>を発動して立ち上がり、地上へと向かう。

ヴァンディットは影に戻り、ドワーフ達は酒瓶を仕舞ってノアに続く。

ノアの<気配感知>の範囲内に相当数のモンスターの反応が現れ始めていた。
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