ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

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アルバラスト編

宜しくお願いします

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「女性にここまで言って貰って断ろう物なら男が廃るってものです、こちらこそ宜しくお願いします。」


話が一段落した所でゴルダがヴァンディットの元へ。


「ヴァンディット…すまないな貴女の本心に気付け無くて…」

「良いのよ、ゴルダさん。
私は先々代に命を救われた恩でここにいるのだから。」

「貴女のお陰で良い子を輩出する事が出来た。本当に感謝しかない、これからは貴女の人生だ、ノア君と第2の人生を謳歌しなさい。」

「ふふっ、良い子を輩出してきたのは貴方がこれまで全うに商いをしてきたからじゃない、買い被り過ぎよ。
でも御言葉に甘えさせて頂くわ。」


そんな2人の会話に子供達も加わる。


「ねぇヴァーちゃん。どっかいっちゃうの?」

「ごめんなさいね、私このお兄さんと旅に出る事になったの。やっぱり寂しいかしら?」

「うん、さみしー。
でもヴァーちゃん、いままででいちばんたのしそうにしてるからだいじょーぶ、あんしんして。」

「…全く、子供には敵わないわね…」





「それではヴァンディットの代金ですが…」


現在ノアとジョー、ルーシー姉妹はゴルダと共に応接室に来て、中央にあるテーブルに対面で座り、商談の話を進めていた。

ヴァンディットは従業員や他の奴隷達に挨拶をしに行っているとの事。
時折啜り泣く声が聞こえてきた為、流石のノアも<聞き耳>を切る事にした。

奴隷商に来たのだから仕方の無い事ではあるが、やはり人を『買う』と言うのは抵抗があるものだ。

ヴァンディットは奴隷としては珍しく吸血鬼であり、錬金術や医療に長けているとの事なので相当の額を覚悟している。


「200万ガルになります。」

「……。」

「……。」

「……。」

「…どうされましたか?」

「…いえ、値は張ってるのですが、想像よりも大分安かったので驚いています。」

「元々、先々代が戦争で半死半生状態であった彼女を助けた事が切っ掛けでこの商会に来ました。
彼女は教養があったので子供達にとって先生であり、母親代わりでもありました。
この商会に大分尽力して下さりましたのでこのお値段とさせて貰いました。」

「分かりました。支払いは冒険者カードで大丈夫でしょうか?」

「ええ、構いません。」


暫くして冒険者カードに登録を行った様だ。

原理はイマイチ分からないが、冒険者カードに奴隷購入の登録をした上で冒険者ギルドに行くと、後日金貨で支払いが行えるらしい。
勿論の事だがカードに登録する段階で残高が無い場合購入不可となる。


「はい、これで成立となります。
近い内に冒険者ギルドに向かって頂く様お願いします。」

「はい、分かりました。」


恙無く事が運んだ所で挨拶回りが終わったヴァンディットがやって来た。
目元が赤くなっているので、ヴァンディットとしても皆と離れるのは寂しい事だろう。
ゴルダもそれを察してか敢えて普段通りに話し掛ける。


「今、ノア様と話が済んだ所だ。
貴女から何かノア様に伝える事は無いかな?」

「そうですね…
私は吸血鬼ではあるけども、幼少の頃からこの商会にいるので戦闘経験は皆無です。
ただ、種族的に影に潜んだり闇に紛れたりするのは得意です。
ですが、日の光が非常に苦手で下手すると消滅してしまうでしょう。
ですので文字通り、陰ながら貴方様を支えたいと思います。」

「そうですか…それは僕にとっては好都合です。
僕の【適正】は特殊なので戦闘は基本的に僕が行います。
ただ、日の光が苦手と言う事ですが、普段の行動はどうしましょうか…」

「それなら問題ありません。」


そう言ってヴァンディットは、応接室の中にある棚の影まで行くと、足から影の中に入って行った。

少しして「よっこいしょ」と言いながらテーブルの下の影からヴァンディットが出てくる。


「この様に影から影へと移動する事が出来ます。」


さらりと行っているが凄まじい能力である。
要は影がある所なら何処でも移動可能なのだ。


「更に個人的な部屋の様な物が影の中にあります。
錬金術で薬品を作製する場合その部屋の中で行いますので手間は掛けさせません。
ですが道具があまり揃ってないので高位の薬品を作る場合は専門施設に行くか、器具を購入しないといけません。」

「分かりました。もし欲しい物があったら言って下さい。」

「ありがとうございます。
ちなみに日中でも曇りや雨の日、暗所であれば表に出れます。」

「そうですか、まぁどの程度で出てこれるかは追々探っていきましょう。」


その後も色々意見交換を行った2人はいよいよ商会を出る事に。

ヴァンディットは商会の扉の影に入ったのを確認したノアがいざ外に出ようとした所で足元の影から声が上がる。


「あ、あの、ノア様、少し、ゆっくりと外に出て頂けないでしょうか…?」


言われてノアは気付く。
普段から暗い地下で生活していたヴァンディットにとって外は死地も同然だ。
影の中とはいえ流石に心構えが必要なのだろう。


「分かった。ゆっくり行きますね。」


ノアは外にじわりじわりと足を出していく。
日の光にノアの脛辺りが照らされると足元に影が出来ていく。


「…暖かい。外に出るなんていつ振りでしょう…
色々な音が聞こえますね、風の音、木々の葉が擦れる音、人の話し声、鳥の囀ずり…
…はっ!も、申し訳ありません、時間を取ってしまって…」

「はは、気にしないで下さい。
僕も元々体が弱くて久々外に出た時感動しましたから。」


暫しの間、商会の前をうろうろしたり、日が当たる所を歩いたりしてヴァンディットの反応を確かめる。

影の中ではあるが「お~」とか「わー!」等反応は様々である。


「ふぅ…少し満足しました。
すいません皆様もお時間を取らせてしまって…」

「はっはっは、構わないさ。
僕も似た様な光景を見た事あるからねぇ。」


ジョーがチラリとルーシー姉妹を見ると、視線を受けた姉妹は気恥ずかしそうにしている。


「「も、もうジョー様、余計な事言わなくて良いですから早く街に戻りましょう!」」


ジョーは姉妹の反応に笑いつつも懐から手帳を取り出し、魔法陣を展開。


「ノア様、これから何処に向かわれるのでしょうか?」

「一先ず僕が滞在しているアルバラストって言う街に向かうんだ。
人が多いから迷わない様にね。」

「畏まりました。」


視界がグニャリと変わり、アルバラストへ転移を開始した。
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