ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず

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旅立ち~オードゥス出立まで

現段階最高の切り札

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「僕が持つ現段階最高の切り札です。」


【鎧袖一贖】…攻撃力のみ異常な程上昇する。他の能力値は本人の能力に依存。発動中は赤黒い闘気を纏う。
対象の討伐又は呼吸を十回行う間に戦闘を継続しなかった場合解除される。解除後に発動時間の分体力、攻撃力、スタミナ等減少。
※武器使用不可


「は!?武器使用不可だと!?ふざけるのも…」

そう言う事も予想していたのだろう、ノアの足元にはいつの間にかライルが座っており、ライルの鞄から殴り殺した鎧蜂の死骸を取り出す。
所々ノアの拳の形で陥没し割れていた。

その場にいる全員が絶句する。皆重鎧がどれ程強固で堅牢か理解している。

すると近くにいた調査隊員が気付く。

「しかもこれ一段階脱皮してるモノじゃないですか…」

ノアは今更知ったが鎧蜂は脱皮する事でより強固になるらしい。

(通りで3、4匹目はぶつけたら木っ端微塵になったのか…柔いと思った訳だ。)

「続けますよ?まぁスキル発動して鎧蜂処理したんですが背後で女鏖蜂の卵管突き付けられてて、咄嗟に避けたんですけど撃ち続けてられるのも面倒なので引き抜きました。
そしたら大顎で噛み付いて来たので顎を引き剥がして悶えてる間に頭と胸の隙間に入って頭を千切り取りました。」

そう言って鞄から女鏖蜂の頭を取り出し、下部にノアの手形があるのを見せる。


周囲は黙り、流石のベルドラッドも言葉が見付からない様だ。

「説明は以上です。もし何もなければ失礼しますが…」


「待った!」
 
待ったを掛けたのはベルドラッドだった。

「君の固有スキル【鎧袖一贖】だったか、長く王都にいるがそんなモノ聞いた事が無い。証言と物証も揃っているが実証が無いのでな、試させて貰いたい。」

「あー、名前は厳ついですが要は『攻撃力上昇』スキルですよ?ただ『武器使用不可』なだけで。」

そこまで平静を装っていたベルドラッドだったが『武器使用不可』の所で目が異様にギラつく。


「そう!それだよ君!『武器使用不可』つまりは拳のみ、剣を捨て、盾を捨て、最後に残るのは己が肉体と拳のみ!この"剛腕"【拳士】ベルドラッドにとってそれはそれはそそられる手合いなのだよ!」

高らかに拳を突き上げるベルドラッドの後ろでノアがエメラルダに質問をする。

「"剛腕"って何ですか?【適正】にありましたっけ?」

「"剛腕"って言うのは王都での彼の二つ名よ。王都での職員でありながら闘技場に足繁く通う物だから先月出禁になったわ。」

「え?って事は…」

「要は『闘いたいからやろうぜ』って事よ。」

エメラルダから要点を言われダメ元で周囲の隊員に「何とかしてよ」の目線を送るが全員から反らされた。


何故か訓練所の試合場が空いてるとの事だったのでそこで試合をする事になった。
重い足取りでギルドを出ると通りにクロラとジェイルパーティの面々が揃っていた。


「ノア君大丈夫だった?」

「あー、うん。大丈夫だったけど試合をする事になった…」

「「「試合!?」」」 

「何か僕が倒した実証(が1割、ただ闘いたい9割)がいるんだって。」

重い足取りのノアを見たポーラがクロラに耳打ちする。

とてとて歩きノアに近付きクロラはノアの手を握る。

「ま、負けないでね。」
「う、うん。」

 一言言ってクロラはパーティの元へ向かう。
そう言われたら負ける訳にはいかない。

(少し元気が出たな…後は向こうでニヤリ顔のロゼとポーラの顔が見えなければ申し分ないのだが…)

少し歩いてガーラの店の隣にある大きな建物に入る。
丸太や草束等を的にした弓や剣用の練習用具が置かれており室内の一角には床に魔方陣が描かれた区画がある。
恐らくそこが魔法の練習場なのだろう。


「試合場は下になります。」

エメラルダが訓練所の地下に誘導する。
下に下りると狭くもなく広すぎも無い丁度良い広さの試合場があった。
高さも割とあるのでぶつかる事は無いだろう。

「これから行うのは試合であって死合いではない!どちらかが降参するまで続けるぞ?」

「あの、僕の固有スキル発動して、はい終わりはダメですか?」

「ある程度君の実力も見ておきたいからな。多少は楽しませてくれぃ!」

(やっぱそっちが本命か…)

恐らくベルドラッドとは何があっても闘わなければならない流れになるだろう。
それはこの際良い。だが

「あの何で観客席に結構人入ってるんですか?」

「そこは俺に聞かれても分からん。」

試合場の隣に観客席らしき物があるのだが調査隊員とエメラルダ、ライルがいるのは良い。
だがジェイルパーティの面々とルドルフとミラのパーティ、あと何故か大剣持ちの男女パーティと昨日見た女性3人組のパーティがいた。

ノアが頭を捻っているとポーラが説明してきた。


「何か面白そうだから色々声を掛けてきた。」

「ポーラのその行動力は一体何なの?」

「まぁ良いじゃないか君、観客が多い方が盛り上がるぞ?」

「ガハハ」と笑いながら気にしない様子のベルドラッド。

「それともあれかい?負ける姿を見せたくない相手でもいるのかい?」

恐らく挑発の意味で言ってきてるのだろう。普段は乗る事も無いのだが今回は乗る事にする。

「そうですね。なるべくその人にかっこ悪い姿は見せたくないので正直こういうのは願い下げなんですが、負けないでってお願いされちゃったのでせめて膝つかせる位はやってやりますよ。」

ベルドラッドの眉がピクリと動く。

「そんじゃあ始めるか、少年。まずは一発殴ってきな。」

「良いんですか?」

「君の実力を把握したいんでね。これは俺なりの流儀なんだ。」

「流儀、ね。分かりました。」

ベルドラッドから少し離れた場所に立つノアはスキルは発動せずこのまま殴りに行くつもりの様だ。

対するベルドラッドも自然体のまま仁王立ちしている。
見馴れた光景なのだろう隊員達も特に気にする様子もない。

ノアが右の拳を握る。

「行きます。」

「おう。」

ドッ!

地面を蹴り駆け出す。スキルを使ってないとは言えノアの走り出しの初速は凄まじい物で観客席にいる冒険者達は一瞬姿が消えたと思っただろう。

ノアは低い体勢で駆け出し振り上げる形でベルドラッドの腹部に一撃を入れようとして

ガシィッ!

繰り出した拳を右手で掴まれ止められる。
ベルドラッドからの攻撃に備えるが一向に何か仕掛ける気配が無い。

ノアは不思議に思いつつも手を振り払い後ろに下がる。
観客席にいる隊員達は何故か驚いているが、当のベルドラッドが一番驚いている様だ。

ノアの拳を掴んだ右手を凝視するベルドラッド。

「どうしましたか?」

声を掛けられたベルドラッドは数瞬間を置きニヤリと笑う。
対するノアは「何のこっちゃ」と言う表情をする。

ベルドラッドは静かに呟く。

「この感覚は久しぶりだな…」
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