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旅立ち~オードゥス出立まで

紛れもなくバッツとガッツ

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僅かな希望を胸にギルドの扉を開けるが目の前には紛れもなくバッツとガッツが立っていた。


「お、お前は朝のクソガキ!」
「お前のせいで俺らがどんな目にあったか!」


そんな事を喚き立てるバッツとガッツをスルーしてカウンターに向かうノア。


「すいません。クエストの報告に来ました。」


スルーされた事が頭に来た2人は更に喚く。


「おい、無視すんな!こっち見ろ!」
「姑息な手で俺等を眠らせやがって!」


「ウルフと熊の依頼完了しました。解体依頼も出しているので確認お願いします。(ん?眠らせやがって?)」


職員の女性が奥の職員に確認を頼む。奥にいる何人かの職員も心配そうにこちらを伺っている。


「俺等と面と向かって戦えないから姑息な手段を選んだってか!」
「冒険者の風上にも置けないヤツだ!」


(あー、そうか、こいつら殴り掛かってきた瞬間に気絶させたから何されたか分かってないのか~。)


「か、確認が取れました。素材の方はどうされますか…?」
「そのまま売却でお願いします。」


「無視すんじゃねぇって言ってんだろうが!」

そう言って大振りで背後から殴り掛かってきたので当たるギリギリまで待ち、少し横にずれる。

ゴッ!  モキッ 

「がぁああっ!」

(うわ、痛そう…)

カウンターをぶん殴る形になったバッツ(以下略)が声にならない声を上げ悶える。

「てめぇ、何動いてんだ!」

(無茶言うなよ…)


未だに後ろを向いてるノアの背後から肩を掴んでくるバッツ。
頭を倒し肩と頭で手を固定する。そのまましゃがむとバッツが前のめりになったので直ぐ様立ち上がる。
後頭部に「ぐちっ」と嫌な音が響く。

(後で頭拭こう…)

「おごごごご…」ビタタッ 


(音からして鼻に当たって鼻血出たかな。)


「くっ…このクソガキ…おい!お前まだパーティ組んでないそうじゃねぇか!」

バッツの片割れがノアにそう叫ぶ。


「そ、そうだ!今すぐ謝ればお前を俺等のパーティに入れてやっても良いぞ!」

(は?)


目の前の職員さんも「ええ…」とでも言いたげな顔をする。

「お前はどうやら見込みがありそうだ、お前が謝っ「あー、いーです。いーです。」」 


食い気味に断りを入れると2人がピタリと停止する。

「お、お前自分で何言ってんのか分かってんのか?」
「俺等はお前に慈悲を与えてやってんだぞ!」


「あれ?聞こえませんでした?御二人のパーティに入るのは、いーやーでーす。って言ったの!」


明確に拒否の意を示したがそれでも食い下がって来るお二方。

「お前1人で何が出来るってんだ!」

「背後から殴ってくる卑怯な輩を軽くあしらう事位は出来ますよ。」

「1人じゃ大した稼ぎも出来ねぇだろ!俺等が手助けしてやるって言ってんだ!」

「やめてくれよ、足枷が2つ増えるだけじゃないか。そんなのゴメンだね。
あ、解体依頼の結果って来てますか?」

お二方の発言に応じつつ職員に依頼結果を聞く。

「あ、はい。もう出ています。」


「は!姑息な手しか使えない奴がこの先冒険者としてやっていけるかねぇ!」

「明日にはお前は路頭に迷うことになるぞ!」


目の前にいる職員に小声で話し掛け、目で後ろのお二方の方をチラリと見る。

「依頼報告お願いしても良いですか?」

職員も察してくれた様で報告を始める。


「おい聞いて「ノア様の解体依頼の報告を致します。ノア様が依頼しました鹿2頭、ウルフ22頭、 熊2頭、猪1頭ですが解体費用、荷物持ちの依頼代等を引かせて頂きましてノア様の報酬は13万ガルになります。」」


「は…?」
「13…え?」


「えー、続けさせて頂きます。更に前日ノア様が依頼されたウルフ10頭、鹿を3頭、野鳥8羽の肉の買取が完了されました。占めて3万ガルになります。
そして依頼されたウルフと熊のクエスト報酬が1万8千ガルになりますので合計で17万8千ガルになります。」


職員の報告を呆然とした顔で聞くお二方。
職員が今言った金額をカウンターに出すとノアはその金貨、銀貨を雑に腰のポーチに落としていく。
その光景をお二方が食い入る様に見つめていたのでそんなお二方に向け、ノアは口元を歪めてしたり顔で話す。


「まぁお聞きの通り、自分1人が生きていく分には充分な稼ぎがあるのでね。
お二方みたいにたかが猪を俺に押し付けなきゃいけない程度の腕前の奴なんてそれこそ俺には相応しくない。
お二方が言う『姑息な手』を使って、せめて俺と同じ舞台に立ってからパーティ加入を頼みに来な。雑用位は考えてあげるよ。」


ノアはわざとらしく吐き捨てる。
言ってる本人が恥ずかしくなる位の下手な演技ではあるがお二方には効果があった様で

「だ、誰がお前なんかとパーティを組むか!」
「そ、そんな端金位俺等で稼いでやるわ!」


「おやぁ、いらないんですか?コレ。」

そう言ってノアはポーチに手を入れ、金貨を取り出し、指で金貨を弾き足元に転がす。

するとお二方が緩んだ顔で金貨の所まで駆け出し、屈んで拾おうとしてハッとなる。


前に立つノアはそのお二方をニヤニヤした顔で見下す。

「どうしたんですか?拾わないの?あぁそっか、端金だからいらないんでしたっけ?」

そう言いながら金貨を拾い上げる。

「コレくらいお二方で稼げるんですもんね。頑張って下さい。」


そしてお二方は何も言えず顔を真っ赤にしてギルドから出ていった。
手を軽く振って送り出すノアは少ししてから



「あー、やだやだ…演技とはいえこんな事やりたくないなー…
職員さんもありがとうございました。こちらの意図を読んで貰って。」


深い深ーいため息を吐きながら愚痴を言う。


「なかなか様になっていましたよ。」


「よして下さい…何故か自分たちの方が上、って考え方とやたら金銭面で煽って来たのでこちらも実力と金銭面で煽っただけの事ですよ。
ああいう輩は何故か自分の立場が少しでも下になるのを異様に嫌がりますからね。
金貨を見せびらかしたのもその為です。」


「なるほどね、稼ぎがあなたの額を越えないと凄く文句言いそうですものね。」


「あ、そうだ。金貨で思い出した。
すいません、稼ぎの内2万ガルは手元に置いて、残りは預かって貰って良いですか?やっぱり手元に大金を置くのは不安なので。」

「はい、構いませんよ。」

「金貨も銀貨に交換して下さい!」

「はいはい。」

そんな会話を職員としていると聞き慣れた声が聞こえてきた。
ダンジョンから戻ってきたクロラとジェイル達のパーティだ。


ガチャッ


「あ、ノア君!今バッツとガッツがすごい剣幕でそこを…ノア君大丈夫?疲れた顔してるよ?」

 
見知った顔を見て安心したからか余計にどっと疲れが出たのだろう。


「ホント、慣れないことはするもんじゃないな…」
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