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混沌による侵食編
第183話 改良案と調査員
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ロイはソフィアに連れられて、王城のとある一室へと案内された。
数ある国賓用の部屋と同じで、贅を尽くされた豪華絢爛な部屋。その中心にあるソファに腰かけていたのは、紫のローブを身に纏った怪しげな男……伝承保管機関から調査員として派遣されてきたアウリスだった。
ロイの視線が冷たいものに変わるのを感じて、ソフィアが訝しげな表情を浮かべた。
「もしかすると、ううん……もしかしなくても知り合いだったりするかしら?」
ロイは静かに頷いた。特に何かされたわけでもなく、むしろ情報の横流しをしてくれた存在なのだが、どうにも怪しさが拭えない。
一見すると、フレミーと同じ文官に見えなくもないけど、クリミナルについて語る時の眼光は今も覚えている。憎しみと侮蔑、それらが入り交じった漆黒の光を宿していた。
今は鳴りを潜めたその視線はロイへと向けられており、片手を上げて「やぁ」と軽く応対してきた。
「俺とこの人は一度会っている。名前はアウリス、だったよな?」
「はい、覚えて頂けたとは、光栄の至りにございます」
「てか、ソフィアが知り合いだったことの方が意外だったぞ」
「ロイが部屋にこもっている間、食堂で私達と会うことが多かったから、少しだけ世間話をした程度よ。ロイこそ、アウリスさんと面識があったのね」
「……俺がまだパルコの死を引きずってる時に、無遠慮にも今回の経緯を聞きに来たんだよ」
思わぬ繋がりに少しだけ驚いていたソフィアだったが、すぐに本題へと話を移した。
「アウリスさん、私達のテスティードについて改良案があると仰っていたでしょう? 今日はロイの体調も良いから連れてきたのだけれど、話をお聞かせ願えないかしら?」
「ええ、そのつもりです」
そう言い切ったあと、一枚の紙をテーブルに置いた。
「これは異界に存在する【装甲車】という戦車を書き写したものです。外見を再現することは出来ても、その性能を再現することは叶わなかった……。しかし、聖王国グランツ防衛戦の報告書に目を通していた私は、テスティードの存在を知って驚きました」
「伝承保管機関より先に異界の物を再現した例なんて無いもんな」
「そうです。発展改良はよくあることですが、再現は今までに無かったことです。そこで私は"何故?"という疑問に対して追及することにしました。これが出来るとすれば、異界の文字を読めて、尚且つその知識を正しく理解する存在が不可欠。思い当たるに、一年前に起きた異世界召喚が関係するのではないか? 私はそう考えたのです」
ほぼ当たっている。別に隠してるつもりはないが、ユキノ達が異世界人なのはバレているな、これは。
話が脱線し始めたので、話を逸らす意味も込めて先を促すことにした。
「それで、改良案ってのは?」
「改良案と言えるかはわかりませんが、これをご覧下さい」
アウリスはもう一枚の紙をテーブルの上に置いた。
手に取って確認してみると、青銀色の装甲に黄色のラインが入ったテスティードが描かれていた。
オリハルコンの部分使用により強度を向上させ、一部の金属を敢えてランクダウンさせ、市場で手に入りやすく軟性の強い物へ変更。
他にも細かな部分について、吹き出しで事細かに記載されていた。
「ロイ殿、いかがでしょうか?」
「テスティードはサスペンションを搭載して悪路を走行しやすくなった。それでもマシになったレベルだ。これを採用すれば、移動が今まで以上に楽になるな……」
ロイの隣で一緒に見ていたソフィアが口を挟んだ。
「ちょっといいかしら?」
「構いません、何か落ち度でもありますかな?」
「まず一点、オリハルコンは市場では滅多に出回らないはず。ドワーフの国に行くか、ドワーフを雇って未開の鉱山を堀当てるかしないと、見付からないはずだけど」
「……普通ならそうでしょう。ですが、我々は伝承保管機関です。世界中のあらゆる伝承と技術、さらには遺物までもが我等の下へ集まってきます。オリハルコンを持ち出すことはできませんが、ドワーフを派遣することなら容易いかと」
「つまり、ドワーフを派遣するから自分達で掘ってこいってことかしら?」
「その通りです。聖王山ソーテリアで採掘された遺物の中に、オリハルコンを使われたものが多く、恐らく大昔はあの山で採掘されていたのでしょう」
ソフィアは顎に手を当てて少し考え込んだあと、続けて質問をした。
「メリットは? あなた方のメリットがないと思うの。あまりにも話が良すぎるし、何か裏があるんじゃないかと勘繰ってしまうのも無理ないと思うの」
「ごもっともです。ですが……我々はギルド職員と同じくお金には屈しない存在、それ故に目的が一般人のそれとは大きく異なるのです」
「テスティードの更なる発展、それ自体があなた方の目的ということ?」
ソフィアの問いかけにアウリスは静かに頷いた。言外に、これ以上の詮索は困る、そういう雰囲気を漂わせてくる。
ロイは「最後に」と付け加えて言った。
「テスティードの内部を公開しろっていう話は聞かないからな? あれはマナブとパルコが共同で作り上げた技術の結晶、易々と見せるわけにいかないし、あれを量産されて戦争そのものが激化することを俺達は望まない」
「正直な話、見てみたい気持ちはありますが、ロイ殿がそういうのでしたら控えさせて頂きます。我々も戦争を激化させたいわけじゃありませんからね。貴重な遺物が戦争で失われるのは……我々としても心が痛いのです……」
アウリスはどこまでいっても遺物の事しか考えてなかった。その思想を少し危険だと思いつつも、テスティードが強化されれば、乗り手が死亡する確率も大きく低下する。
リスクとリターンを天秤にかけた結果────。
「背に腹は代えられない、か」
「ご英断、ありがとうございます」
アウリスが恭しくお辞儀をする。遺物の伝承、そして発展……この手の人間は目的のためなら手段を選ばない傾向にある。
アウリスの行動には逐一気を配っておかないといけないな。
翌日、ロイ一行は聖王山ソーテリアに向かうこととなった。
Tips
聖王山ソーテリア
かつて巡礼の地であったフォルトゥナ教の崇める山。女神フォルトゥナが姿を消してからソーテリアで行われていた託宣も無くなり、わざわざ険しい道を通って巡礼する必要がなくなった。
新たな巡礼の地として現在の聖王国を建国し、子供から老人まで誰もが楽に巡礼を行うことが出来るようになった。
聖女だけは一年に一回、頂上にある旧大聖堂まで足を運んでいる。
数ある国賓用の部屋と同じで、贅を尽くされた豪華絢爛な部屋。その中心にあるソファに腰かけていたのは、紫のローブを身に纏った怪しげな男……伝承保管機関から調査員として派遣されてきたアウリスだった。
ロイの視線が冷たいものに変わるのを感じて、ソフィアが訝しげな表情を浮かべた。
「もしかすると、ううん……もしかしなくても知り合いだったりするかしら?」
ロイは静かに頷いた。特に何かされたわけでもなく、むしろ情報の横流しをしてくれた存在なのだが、どうにも怪しさが拭えない。
一見すると、フレミーと同じ文官に見えなくもないけど、クリミナルについて語る時の眼光は今も覚えている。憎しみと侮蔑、それらが入り交じった漆黒の光を宿していた。
今は鳴りを潜めたその視線はロイへと向けられており、片手を上げて「やぁ」と軽く応対してきた。
「俺とこの人は一度会っている。名前はアウリス、だったよな?」
「はい、覚えて頂けたとは、光栄の至りにございます」
「てか、ソフィアが知り合いだったことの方が意外だったぞ」
「ロイが部屋にこもっている間、食堂で私達と会うことが多かったから、少しだけ世間話をした程度よ。ロイこそ、アウリスさんと面識があったのね」
「……俺がまだパルコの死を引きずってる時に、無遠慮にも今回の経緯を聞きに来たんだよ」
思わぬ繋がりに少しだけ驚いていたソフィアだったが、すぐに本題へと話を移した。
「アウリスさん、私達のテスティードについて改良案があると仰っていたでしょう? 今日はロイの体調も良いから連れてきたのだけれど、話をお聞かせ願えないかしら?」
「ええ、そのつもりです」
そう言い切ったあと、一枚の紙をテーブルに置いた。
「これは異界に存在する【装甲車】という戦車を書き写したものです。外見を再現することは出来ても、その性能を再現することは叶わなかった……。しかし、聖王国グランツ防衛戦の報告書に目を通していた私は、テスティードの存在を知って驚きました」
「伝承保管機関より先に異界の物を再現した例なんて無いもんな」
「そうです。発展改良はよくあることですが、再現は今までに無かったことです。そこで私は"何故?"という疑問に対して追及することにしました。これが出来るとすれば、異界の文字を読めて、尚且つその知識を正しく理解する存在が不可欠。思い当たるに、一年前に起きた異世界召喚が関係するのではないか? 私はそう考えたのです」
ほぼ当たっている。別に隠してるつもりはないが、ユキノ達が異世界人なのはバレているな、これは。
話が脱線し始めたので、話を逸らす意味も込めて先を促すことにした。
「それで、改良案ってのは?」
「改良案と言えるかはわかりませんが、これをご覧下さい」
アウリスはもう一枚の紙をテーブルの上に置いた。
手に取って確認してみると、青銀色の装甲に黄色のラインが入ったテスティードが描かれていた。
オリハルコンの部分使用により強度を向上させ、一部の金属を敢えてランクダウンさせ、市場で手に入りやすく軟性の強い物へ変更。
他にも細かな部分について、吹き出しで事細かに記載されていた。
「ロイ殿、いかがでしょうか?」
「テスティードはサスペンションを搭載して悪路を走行しやすくなった。それでもマシになったレベルだ。これを採用すれば、移動が今まで以上に楽になるな……」
ロイの隣で一緒に見ていたソフィアが口を挟んだ。
「ちょっといいかしら?」
「構いません、何か落ち度でもありますかな?」
「まず一点、オリハルコンは市場では滅多に出回らないはず。ドワーフの国に行くか、ドワーフを雇って未開の鉱山を堀当てるかしないと、見付からないはずだけど」
「……普通ならそうでしょう。ですが、我々は伝承保管機関です。世界中のあらゆる伝承と技術、さらには遺物までもが我等の下へ集まってきます。オリハルコンを持ち出すことはできませんが、ドワーフを派遣することなら容易いかと」
「つまり、ドワーフを派遣するから自分達で掘ってこいってことかしら?」
「その通りです。聖王山ソーテリアで採掘された遺物の中に、オリハルコンを使われたものが多く、恐らく大昔はあの山で採掘されていたのでしょう」
ソフィアは顎に手を当てて少し考え込んだあと、続けて質問をした。
「メリットは? あなた方のメリットがないと思うの。あまりにも話が良すぎるし、何か裏があるんじゃないかと勘繰ってしまうのも無理ないと思うの」
「ごもっともです。ですが……我々はギルド職員と同じくお金には屈しない存在、それ故に目的が一般人のそれとは大きく異なるのです」
「テスティードの更なる発展、それ自体があなた方の目的ということ?」
ソフィアの問いかけにアウリスは静かに頷いた。言外に、これ以上の詮索は困る、そういう雰囲気を漂わせてくる。
ロイは「最後に」と付け加えて言った。
「テスティードの内部を公開しろっていう話は聞かないからな? あれはマナブとパルコが共同で作り上げた技術の結晶、易々と見せるわけにいかないし、あれを量産されて戦争そのものが激化することを俺達は望まない」
「正直な話、見てみたい気持ちはありますが、ロイ殿がそういうのでしたら控えさせて頂きます。我々も戦争を激化させたいわけじゃありませんからね。貴重な遺物が戦争で失われるのは……我々としても心が痛いのです……」
アウリスはどこまでいっても遺物の事しか考えてなかった。その思想を少し危険だと思いつつも、テスティードが強化されれば、乗り手が死亡する確率も大きく低下する。
リスクとリターンを天秤にかけた結果────。
「背に腹は代えられない、か」
「ご英断、ありがとうございます」
アウリスが恭しくお辞儀をする。遺物の伝承、そして発展……この手の人間は目的のためなら手段を選ばない傾向にある。
アウリスの行動には逐一気を配っておかないといけないな。
翌日、ロイ一行は聖王山ソーテリアに向かうこととなった。
Tips
聖王山ソーテリア
かつて巡礼の地であったフォルトゥナ教の崇める山。女神フォルトゥナが姿を消してからソーテリアで行われていた託宣も無くなり、わざわざ険しい道を通って巡礼する必要がなくなった。
新たな巡礼の地として現在の聖王国を建国し、子供から老人まで誰もが楽に巡礼を行うことが出来るようになった。
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