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リーベ台頭 編
第147話 ルフィーナの慢心
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本来ならレグゼリア王国に入国して東に向かえば比較的舗装された道のりをテスティードの全速で突き進むことができるのだが、ほぼ確実に戦闘になることが予想されるので、帝国領内を東に進んで魔族領域へ侵入、そしてすぐに南下して聖王国グランツに入国する進路を取ることになった。
──帝都インペリウムを出発して1週間が過ぎた。
テスティード前方にゴブリンが3体ほど往生している。ロイは並走するテスティードに”止まれ”の合図を出して戦闘体勢に入った。
ゴブリンはすでにこちらに気付いているらしく、棍棒や錆びた剣を盾に打ち付けて喜んでいる。
ロイ達は降車してルフィーナ達に攻めるように指示を出した。
子供でも単体であれば何とかなるレベルの魔物、魔族領域に入る前にルフィーナの戦い方を把握しておきたかった。
「ここは私1人に任せて下さい。あの程度の小物、リーベスタの力を借りるほどでもありません!」
「おい、ちょっと待て!」
ルフィーナはロイの制止を聞かずに突貫した。
「はああああああああっ! 【ウインドブレード】!」
魔術剣士であるルフィーナは剣に風の魔力を付与して斬りつけた。「ぎゃっぎゃ!」とゴブリンは驚きながらもそれを木の盾で受ける。
当然ながら木の盾はバラバラに砕けてゴブリンの腕も傷を負った。よしっ! とルフィーナが追撃を加えようとした次の瞬間、右脚に鋭い痛みを感じて体勢を崩した。
傷んだ箇所を確認すると、矢が刺さっていた。さーっと血の気が引いていく、ここでルフィーナは気付いた。
──罠に嵌った、と。
体勢を崩したルフィーナに向けて2体目のゴブリンが棍棒を振り上げた。【ウインドシールド】で頭部を守ろうとするが、痛みと衝撃は脇腹に走った。
横合いに吹き飛んだルフィーナは”4体目”が岩陰にいるのが見えた。もっと慎重に行動していればこんなことにはならなかったのに……。
後悔も虚しく更に追撃を加えようとするゴブリン。だが、リーベスタが間に入ったことでルフィーナは致命傷を負うことはなかった。
「ルフィーナさんは早く体勢を立て直してください!」
「わ、わかった!」
起き上がり、バックステップしたあとポーションで応急処置を行った。ゴブリンに殺されかけたという恥辱を首を振って払拭し、剣を構えた。
リーベスタ達は剣と棍棒、そして盾のゴブリンを攻撃している。ならば、自分が狙うべき敵はあの弓を持ったゴブリン!
再び剣に風を付与して加速する。飛んでくる矢は剣で斬り払い、弓を持つゴブリンとすれ違いざまに胴を薙いだ。
ゴブリンの身体からは血飛沫が上がり、力なく倒れる。ルフィーナが倒したゴブリンが最後の魔物であり、戦闘は無事に勝利という結果に終わった。
ロイの元に戻ったルフィーナは、戦闘前の勢いとは反対に借りてきた猫のように大人しくなっている。
「……後でテスティードに戻って治療してもらえよ」
「お、怒らないのですか?」
「何が悪かったのか、あんたは理解してるんだろ?」
「……はい」
「じゃあ俺から言うことは何もない。もう暗いし、今夜はここでキャンプをする。魔除けの香を焚いといてくれ」
「……はい」
ゴブリン達の死体から魔石を抜いて血の処理をする。そして魔除けの香を焚いたところで、リーベスタから食事の用意が出来たと言われた。
テスティードの中でパンとスープを受け取って席でそれを食べる。
ビッグラットをただの一振りで殲滅させ、銀髪のダークエルフと死闘を繰り広げたパーティと肩を合わせて戦うことが出来る。1人1人が英雄といっても過言ではないほどの強さ、それらと並んで戦うことに浮かれていた。
帝国騎士は集団戦のスペシャリスト、それなのに騎士学校で習ったことも忘れて1人で突貫した……。
ルフィーナは己の慢心に恥ずかしさを覚えて食事の手が止まっていた。それを見かねたリーベスタが声をかけた。
「ルフィーナさん、誰にでも失敗はありますよ。次からは私たちと共に戦ってボスの信頼を回復させていけばいいんです」
「そう、だな……うん、私が付いてきて良かったって、そう思われるように頑張るよ」
「はい、その意気です! それでですね、もし戦闘になったときは──」
その後、ルフィーナとリーベスタ達は戦闘時の役割や隊列などを話し合った。
テスティードの車外でユキノと焚火をしていたロイは、ルフィーナ達の奮起の様子に少し笑みを溢した。
「ルフィーナさん、立ち直れそうですね」
「そうだな、フレミーはルフィーナの弱さを自覚させるために俺たちに同行させたのかもしれない。そういった意味では、一歩前進ってところか」
「ふふ、ロイさん……なんか嬉しそう」
「何で嬉しそうになるんだよ。これから魔族領域に少しだけ入るだろ? それを考えるとむしろ困ってるくらいだ」
「魔族領域ってそんなに強い魔物がいるんですか?」
「都市から離れるほどに魔物は強くなる傾向にある。だからルフィーナ達には早く連携を確立してもらわないとまずいんだ」
「なるほど、それも含めてさっき戦わせたんですね……」
「ま、俺達も偉そうなことは言えないけどな」
「え、私たち……連携はできてると思ってますけど?」
「ユキノは肝心なところで、すってんころりんとコケるからなぁ、それが心配で心配で……」
「そ、それは最初の頃の話じゃないですかぁ~! 意地悪言わないでくださいよぉ~」
ロイとユキノはじゃれ合いながらもテスティードへと戻り、次の日に備えて寝ることにした。
Tips
魔術剣士・ジョブ
近~中距離で活躍するアタッカー。自身の得意な属性を全身に付与して戦う為、様々な魔術剣士が存在する。ルフィーナの得意属性は風なので、移動時は風がスラスター代わりとなって速度を増幅させている。
ルフィーナの場合は精霊術も使えるため、後衛で味方に強化を配ることもできる。それ故に前衛から後衛まで隙のない役割を担える。
──帝都インペリウムを出発して1週間が過ぎた。
テスティード前方にゴブリンが3体ほど往生している。ロイは並走するテスティードに”止まれ”の合図を出して戦闘体勢に入った。
ゴブリンはすでにこちらに気付いているらしく、棍棒や錆びた剣を盾に打ち付けて喜んでいる。
ロイ達は降車してルフィーナ達に攻めるように指示を出した。
子供でも単体であれば何とかなるレベルの魔物、魔族領域に入る前にルフィーナの戦い方を把握しておきたかった。
「ここは私1人に任せて下さい。あの程度の小物、リーベスタの力を借りるほどでもありません!」
「おい、ちょっと待て!」
ルフィーナはロイの制止を聞かずに突貫した。
「はああああああああっ! 【ウインドブレード】!」
魔術剣士であるルフィーナは剣に風の魔力を付与して斬りつけた。「ぎゃっぎゃ!」とゴブリンは驚きながらもそれを木の盾で受ける。
当然ながら木の盾はバラバラに砕けてゴブリンの腕も傷を負った。よしっ! とルフィーナが追撃を加えようとした次の瞬間、右脚に鋭い痛みを感じて体勢を崩した。
傷んだ箇所を確認すると、矢が刺さっていた。さーっと血の気が引いていく、ここでルフィーナは気付いた。
──罠に嵌った、と。
体勢を崩したルフィーナに向けて2体目のゴブリンが棍棒を振り上げた。【ウインドシールド】で頭部を守ろうとするが、痛みと衝撃は脇腹に走った。
横合いに吹き飛んだルフィーナは”4体目”が岩陰にいるのが見えた。もっと慎重に行動していればこんなことにはならなかったのに……。
後悔も虚しく更に追撃を加えようとするゴブリン。だが、リーベスタが間に入ったことでルフィーナは致命傷を負うことはなかった。
「ルフィーナさんは早く体勢を立て直してください!」
「わ、わかった!」
起き上がり、バックステップしたあとポーションで応急処置を行った。ゴブリンに殺されかけたという恥辱を首を振って払拭し、剣を構えた。
リーベスタ達は剣と棍棒、そして盾のゴブリンを攻撃している。ならば、自分が狙うべき敵はあの弓を持ったゴブリン!
再び剣に風を付与して加速する。飛んでくる矢は剣で斬り払い、弓を持つゴブリンとすれ違いざまに胴を薙いだ。
ゴブリンの身体からは血飛沫が上がり、力なく倒れる。ルフィーナが倒したゴブリンが最後の魔物であり、戦闘は無事に勝利という結果に終わった。
ロイの元に戻ったルフィーナは、戦闘前の勢いとは反対に借りてきた猫のように大人しくなっている。
「……後でテスティードに戻って治療してもらえよ」
「お、怒らないのですか?」
「何が悪かったのか、あんたは理解してるんだろ?」
「……はい」
「じゃあ俺から言うことは何もない。もう暗いし、今夜はここでキャンプをする。魔除けの香を焚いといてくれ」
「……はい」
ゴブリン達の死体から魔石を抜いて血の処理をする。そして魔除けの香を焚いたところで、リーベスタから食事の用意が出来たと言われた。
テスティードの中でパンとスープを受け取って席でそれを食べる。
ビッグラットをただの一振りで殲滅させ、銀髪のダークエルフと死闘を繰り広げたパーティと肩を合わせて戦うことが出来る。1人1人が英雄といっても過言ではないほどの強さ、それらと並んで戦うことに浮かれていた。
帝国騎士は集団戦のスペシャリスト、それなのに騎士学校で習ったことも忘れて1人で突貫した……。
ルフィーナは己の慢心に恥ずかしさを覚えて食事の手が止まっていた。それを見かねたリーベスタが声をかけた。
「ルフィーナさん、誰にでも失敗はありますよ。次からは私たちと共に戦ってボスの信頼を回復させていけばいいんです」
「そう、だな……うん、私が付いてきて良かったって、そう思われるように頑張るよ」
「はい、その意気です! それでですね、もし戦闘になったときは──」
その後、ルフィーナとリーベスタ達は戦闘時の役割や隊列などを話し合った。
テスティードの車外でユキノと焚火をしていたロイは、ルフィーナ達の奮起の様子に少し笑みを溢した。
「ルフィーナさん、立ち直れそうですね」
「そうだな、フレミーはルフィーナの弱さを自覚させるために俺たちに同行させたのかもしれない。そういった意味では、一歩前進ってところか」
「ふふ、ロイさん……なんか嬉しそう」
「何で嬉しそうになるんだよ。これから魔族領域に少しだけ入るだろ? それを考えるとむしろ困ってるくらいだ」
「魔族領域ってそんなに強い魔物がいるんですか?」
「都市から離れるほどに魔物は強くなる傾向にある。だからルフィーナ達には早く連携を確立してもらわないとまずいんだ」
「なるほど、それも含めてさっき戦わせたんですね……」
「ま、俺達も偉そうなことは言えないけどな」
「え、私たち……連携はできてると思ってますけど?」
「ユキノは肝心なところで、すってんころりんとコケるからなぁ、それが心配で心配で……」
「そ、それは最初の頃の話じゃないですかぁ~! 意地悪言わないでくださいよぉ~」
ロイとユキノはじゃれ合いながらもテスティードへと戻り、次の日に備えて寝ることにした。
Tips
魔術剣士・ジョブ
近~中距離で活躍するアタッカー。自身の得意な属性を全身に付与して戦う為、様々な魔術剣士が存在する。ルフィーナの得意属性は風なので、移動時は風がスラスター代わりとなって速度を増幅させている。
ルフィーナの場合は精霊術も使えるため、後衛で味方に強化を配ることもできる。それ故に前衛から後衛まで隙のない役割を担える。
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