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新生活編
第98話 元村長シュテン
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あれから2週間が経った。
赤の節も終期。朝晩の気温も少しずつ下がってきた。ユキノの世界で言うところの"秋"という時期と同じなんだとか。
このエスクート世界でも大昔は春夏秋冬というものがあったが、帝国は夏がない、王国は冬がない、などの理由により、世界中の教科書から四季という言葉が消え去ってしまった。
使われていたとしても、スキル名に混ざってたりする程度だ。
だが、ここ"エデン"は王国と帝国を隔てる"死の谷"の中間層に存在するため、赤の節になれば夏となり、青の節になれば冬となる。
四季があると聞いたユキノは嬉しそうにしていた。反対に、ロイがあまり嬉しそうにしていないことに対してユキノは不思議に思っていた。
「ロイさんは四季、嫌いなんですか?」
「面倒だろ、極端に暑くなったり寒くなったりするんだろ? ダリィよ……」
王国に隣接する影の村で育ったロイにとって、帝国の気候はあまり体に合わなかった。最近は慣れてきたのに、また暑さがくると思うと、どうしても気落ちしてしまう。
「でもでも、その時期にしか見ることができない景色は、とても綺麗なものですよ?」
「戦いしかしてこなかった俺が、楽しめるのか?」
「でしたら! 戦い以外のことは私が教えてあげます! 他にも楽しいことがいっぱいあるんです。パーティのみんなと共有できたら、きっと幸せになれますよ!」
ユキノは太陽のような笑顔で、それでいて大袈裟なほどの身振り手振りで表現していた。
この笑顔をいつまでも見ていたいな、そう思えてきた。
「それは置いといて、いい加減1人で寝れないか?」
土地を手に入れて、一区切りついた今だからこそ再度説得を始めている。当然ながら駄々こねるがな。
「嫌です!」
その返答にロイは頭を抱える。
「俺は男なんだ。お前のその──胸とか、吐息とか、色々揺さぶられちまうんだよ」
もうこうなったらハッキリ言うしかない、そう思って具体的に例を挙げてみたのだが、頬を赤くするだけでいつもみたいにショートすることはなかった。
ユキノは毛布から顔だけ出して言った。
「……私のこと、嫌いになっちゃったんですか?」
「いや、違うって!」
「じゃあ、構いませんよね! さてさて、今日は遅いからもう寝ましょう?」
「……」
ロイ、3回目はあさっり敗北となった。
そのまま差し出された手を取って、一気に毛布に引き込まれてしまった。
「ロイさん、私は──ううん、私達はあなたを逃がしませんよ。絶対に1人にしませんから」
ベッドの中でユキノはロイを抱き締めた。少しだけ抵抗されたが、その日は珍しく、ロイも背中に手を回していた。
昨日まであった幸せが唐突に奪われる恐怖、それが二の足を踏ませている。一緒に旅をする中で、ユキノ達女性陣はそれに気付いていた。
もうロイを1人にしてはいけない、そう考えたユキノ達は少しずつ外堀を埋めていこうと誓い合っていた。
☆☆☆
みんなが寝静まった頃、シュテンは鍛冶場を借りてあるものを作っていた。
「むふふふふ、これも影の一族のためじゃ。それにしても、ロイはワシに似ておる。ワシのような失敗をしないように、影から手助けせねば……影だけに、な!」
ふと鎚を打つ手を止めて、過去の失敗を思い返す。
シュテンは昔、影の村を飛び出した。冒険者としての名を馳せ、最終的にはAランクパーティにまで成り上がっていた。
そしてそのパーティはシュテン以外、女性ばかりで全員と恋仲になる寸前だった。
強いリーダーは複数人の妻を娶る、そう珍しい話ではなかったが、シュテンは恋仲になるかならないかの曖昧な関係を楽しむべく、誰1人として選ばなかった。
女性達はハーレムでも構わない、そう主張したが、それでもシュテンは1人として選ばなかった。
「その結果、自然とパーティは崩壊……今では寂しい余生を過ごすのみじゃ。大切な忘れ形見にそんな思いはさせられん。これで少しは進展すればええがのぅ……」
シュテンの鉄を打つ音は深夜まで続いていた……。
赤の節も終期。朝晩の気温も少しずつ下がってきた。ユキノの世界で言うところの"秋"という時期と同じなんだとか。
このエスクート世界でも大昔は春夏秋冬というものがあったが、帝国は夏がない、王国は冬がない、などの理由により、世界中の教科書から四季という言葉が消え去ってしまった。
使われていたとしても、スキル名に混ざってたりする程度だ。
だが、ここ"エデン"は王国と帝国を隔てる"死の谷"の中間層に存在するため、赤の節になれば夏となり、青の節になれば冬となる。
四季があると聞いたユキノは嬉しそうにしていた。反対に、ロイがあまり嬉しそうにしていないことに対してユキノは不思議に思っていた。
「ロイさんは四季、嫌いなんですか?」
「面倒だろ、極端に暑くなったり寒くなったりするんだろ? ダリィよ……」
王国に隣接する影の村で育ったロイにとって、帝国の気候はあまり体に合わなかった。最近は慣れてきたのに、また暑さがくると思うと、どうしても気落ちしてしまう。
「でもでも、その時期にしか見ることができない景色は、とても綺麗なものですよ?」
「戦いしかしてこなかった俺が、楽しめるのか?」
「でしたら! 戦い以外のことは私が教えてあげます! 他にも楽しいことがいっぱいあるんです。パーティのみんなと共有できたら、きっと幸せになれますよ!」
ユキノは太陽のような笑顔で、それでいて大袈裟なほどの身振り手振りで表現していた。
この笑顔をいつまでも見ていたいな、そう思えてきた。
「それは置いといて、いい加減1人で寝れないか?」
土地を手に入れて、一区切りついた今だからこそ再度説得を始めている。当然ながら駄々こねるがな。
「嫌です!」
その返答にロイは頭を抱える。
「俺は男なんだ。お前のその──胸とか、吐息とか、色々揺さぶられちまうんだよ」
もうこうなったらハッキリ言うしかない、そう思って具体的に例を挙げてみたのだが、頬を赤くするだけでいつもみたいにショートすることはなかった。
ユキノは毛布から顔だけ出して言った。
「……私のこと、嫌いになっちゃったんですか?」
「いや、違うって!」
「じゃあ、構いませんよね! さてさて、今日は遅いからもう寝ましょう?」
「……」
ロイ、3回目はあさっり敗北となった。
そのまま差し出された手を取って、一気に毛布に引き込まれてしまった。
「ロイさん、私は──ううん、私達はあなたを逃がしませんよ。絶対に1人にしませんから」
ベッドの中でユキノはロイを抱き締めた。少しだけ抵抗されたが、その日は珍しく、ロイも背中に手を回していた。
昨日まであった幸せが唐突に奪われる恐怖、それが二の足を踏ませている。一緒に旅をする中で、ユキノ達女性陣はそれに気付いていた。
もうロイを1人にしてはいけない、そう考えたユキノ達は少しずつ外堀を埋めていこうと誓い合っていた。
☆☆☆
みんなが寝静まった頃、シュテンは鍛冶場を借りてあるものを作っていた。
「むふふふふ、これも影の一族のためじゃ。それにしても、ロイはワシに似ておる。ワシのような失敗をしないように、影から手助けせねば……影だけに、な!」
ふと鎚を打つ手を止めて、過去の失敗を思い返す。
シュテンは昔、影の村を飛び出した。冒険者としての名を馳せ、最終的にはAランクパーティにまで成り上がっていた。
そしてそのパーティはシュテン以外、女性ばかりで全員と恋仲になる寸前だった。
強いリーダーは複数人の妻を娶る、そう珍しい話ではなかったが、シュテンは恋仲になるかならないかの曖昧な関係を楽しむべく、誰1人として選ばなかった。
女性達はハーレムでも構わない、そう主張したが、それでもシュテンは1人として選ばなかった。
「その結果、自然とパーティは崩壊……今では寂しい余生を過ごすのみじゃ。大切な忘れ形見にそんな思いはさせられん。これで少しは進展すればええがのぅ……」
シュテンの鉄を打つ音は深夜まで続いていた……。
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