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帝国への亡命
第44話 罠と婚約者
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~レグゼリア王宮・私室~
この国の王であるレグルス・コルディニスに要請されて魔物や盗賊、そして反逆者を次々と討伐していった。その度に謁見の間にて讃えられたが、僕の心には嬉しさなんて微塵もなかった。
討伐任務の合間合間に僕は婚約者であるレグルス・アルカンジュの元に何度も足を運んだ。今もドアをノックしてアルカンジュに部屋へ入れてもらってるのだが、今回も徒労に終わることだろう。
なぜなら、彼女と僕は絶望的に相性が悪いからだ。彼女の性格は基本的に明るく活発的だ。王族なのに気取った喋り方もしないし、異世界出身の僕からしたらこの王宮で最も話しやすい部類だと思う。
容姿も完璧だ。”獅子”に該当するレグルスに相応しき黄金の髪を後ろで束ね、瞳は青、顔は造形美という言葉じゃ足りないほどに整っている。その上スタイルも完璧で彼女が婚約者と言われたら、僕も悪い気はしない。
だけど、彼女は僕を見ていない。
そう気付いたのは婚約パレードの後だった。彼女はいつも諦めた顔をしている……王に言われるままに婚約し、そして遠くない未来に結婚し、子供を産む。そんな彼女は抑圧され、籠の鳥であることを悲しんでいる。
僕だってそんな事くらい察しがつく、映画に出てくるお姫様の典型的な悩みだろうから。だから僕は話しかけて解決しようとした。
「アルカンジュ、見てご覧──これが勇者の剣だ。これでいつも王国を守ってるんだよ」
黒騎士カイロによってこれが聖なる武器でなく、闇の武器であることは知っている。それでもこの国が崇める色は黒だから、僕はそう言う体で語りかけた。
今の彼女には希望を見せるべきだと思ったからこそ”未来の夫は勇敢な国の守り神”というポーズを取ったんだ。
「あなたの言葉は何故だか軽く感じるよ。それにその剣、偽物だよね?王族はみんな知ってることよ。だって、魔族幹部と取引してそれを先先代の王が受け取ったんだもの。国の象徴として黒をメインに持っていくように、その頃から国教に圧力かけたわけだからね」
なんということだ。釈迦に説法とはこの事か!なのに僕はいかにも”自分、できるやつです”オーラを見せつけていたのか!
「はぁ、表向き仲良くしてるポーズだけでいいよ……。だから部屋に入れてあげたんだし、使用人がそれを見れば仲がいいって噂だけでも流れるでしょ?う~ん、でも外でも見せる必要もあるわね。──あ、そうだ!気晴らしに剣の稽古に付き合ってくれない?」
「いいけど、僕は勇者だよ?怪我するかもしれないじゃないか」
「”やってみなければわからないだろ?”」
「諦めまくってる君の台詞とは思えないな」
「昔、王宮に来てた黒髪の男の子と遊んだ時に言った言葉なんだけどね。当時は気に入って何度も使ってたけど、大きくなってこの言葉を実現させることが難しいって知ってからは久しぶりに使ったよ」
やれやれ、少し茶色いけど同じ黒髪の僕にそれを言うのかね。
仕方なく、中庭で剣の稽古を始める。互いに対等な立場にするために刃を潰した練習用の長剣を持つ。それでも勇者の僕が全力で振り切れば、腕を落とすくらいはできるから気を付けなくてはいけない。
距離を取って互いにどちらが先に動くか緊張が走る。
剣を折るか衝撃波で吹き飛ばせば諦めるだろう。そう考えていたら彼女が先に動いた。速度も普通、しかも単純な刺突攻撃、僕は勇者スキル”ウェポンブレイク”で剣を壊そうとする。
ウェポンブレイクは武器ランクC以下の武器を強制的に破壊する非殺傷無力化スキル、今の状況にはうってつけだった。
だがアルカンジュは指の力で持ち手を逆手持ちに切り替え、武器破壊を回避してそのまま一閃を叩き込もうとした。空を切る音が明らかに殺傷能力を有していたので咄嗟に防御スキル”マイティガード”を使ってしまった。
無属性で構成された6角形の魔力板がアルカンジュの一閃を防ぎ、互いに距離を取った。
「あらら、もう少しで私は自由の身になれたのに」
そう言って苦笑するアルカンジュに僕は戦慄する。彼女の剣速は常人と思えない程にかけ離れており、防御スキルを使わなければ胴が半分以上もっていかれた可能性が高い。それに、自由の身って……婚約者である僕の不慮の死じゃないかっ!
動揺を隠してなんとか答える。
「あはははは……そんなに強いとは思わなかったよ」
「でしょ?でも最近、カイロが私とやるの嫌がるからストレス溜まってたのよね」
アルカンジュは再度剣を構える。
え?まだ続けるの!?と抗議を言わせないかのように稽古という名の死闘が始まる。今度は下からの斬り上げ、それに対して今度は本気でウェポンブレイクを決めようと剣を打ち下ろす。
剣と剣が接触してアルカンジュの武器が壊れ、僕は内心やった!と叫ぶが割れた破片が時間を巻き戻すかのように元の形に戻り、アルカンジュはそのまま地面に手をついてバク転をする。その時、地面についた手が茶色の魔方陣を生み出し、その場所から岩でできた槍が何本も飛んできた。
「くっ!”ライトミッショナリー”」
光属性の魔力が光のベールとなって槍を防ぐ。
「どお?驚いたかしら」
「……ハァ……ハァ……姫とは思えない……よ……」
アルカンジュが再度剣を構えたところで手を鳴らすような音が聞こえてきた。
パチ、パチ、パチ
「ああ~さすがは姫様、相変わらずヒヤヒヤする剣術だぁ。だ・け・ど、うちのハルトをあんまり苛めないでくれませんかねえ?」
現れたのは、黒騎士カイロだった。
「はぁ、もういいよ。私の負けだしね」
「理解が早くて助かります。ハルト君の怪我は私めが治しておきますので、あなた様は自室へとお戻りください」
「どうして?」
「お昼頃に王様からあなた様へ頼み事があるそうで、使いの者が来るみたいなんです」
「わかったわ」
アルカンジュはそう言って去っていく、カイロは僕の側に来て肩から一本槍を抜いた。
「────っ!」
「もう少し防御スキルが早かったら完全に防げたのにな。だけど魔方陣を見逃さなかったのはよくやった。バク転する姫様に気を取られて串刺しになっててもおかしくなかったからな」
戦闘経験のない僕だったら殺られていた可能性が高い、婚約者なのに僕への扱いが酷すぎじゃないか?
「でも、君は試合では勝ってたさ。あの手の試合は剣が折れたら負けだからな、一度でも折れた姫様の負けってことなのさ」
やっぱりアルカンジュとの結婚生活なんて無理だ。クソッ!サリナ、ユキノ、どこにいるんだよぉ~!
「カイロさん、僕は王なんて無理だ!」
「いや、断れば良かっただろ、稽古。強いから暴力女に見えているけどな、断れば無理は言わんし普段は貞淑な姫様だろ?」
そう、彼女にこんな1面があるなんて思わなかったからこそ稽古を受けたんだ。僕の剣のレベルはすでに130を超えている、なのにこの敗北は一体なんなんだ?レーヴァテインを使わなければこんなに僕は弱いのか?
「さてハルト君、君にだけ言うべきことがある。帝国との国境付近で多数の反逆者を見つけたからそこに行ってもらう」
「また要請ですか……いつまで王様の指示を受けなくちゃいけないんだ!?」
「ここは堪えてくれよ。俺様がきちんと場を用意するからさ。あ、それと……言いづらいんだが、同行者がいてな、あの姫様も気晴らしに連れていってほしいっていう────」
僕はそれを聞いてカイロの言葉が頭に入らなくなった。さっきの王様からアルカンジュへの頼み事は恐らくそれだろう。まさか彼女と行動を共にしなくちゃいけないなんて……。
「ダメだこりゃ、放心してやがる。男のプライドが傷ついたんだ、無理もねえか。あ、あ~ハルト君や!」
カイロが目の前で指パッチンを何度もする。
「いい情報もあるんだ。反逆者っていうのがどうやら影の一族らしいんだ。上手く人質にすればユキノちゃんたちを無傷で手に入れられるかもしれん」
「本当ですか!?」
「ユキノちゃんの隣に赤い目の男が立ってたろ?多分アイツの一族だと思う。俺様の予想だとユキノちゃんたちは鍛冶の村あたりにいるはずだからな。奴等が到着する前に影の一族を捕獲すりゃあいいんだ」
「ですが、それって……」
浄化前の僕だったら考えもせずに身を委ねていただろう、だが人質となると……。
「四の五のいってる場合じゃねえぞ?もしかしたら、あの影の坊主にユキノちゃんが奪われてる可能性も低くねえ。これ以上汚される前に、救ってやろうや勇者様よ!」
そうだサリナもユキノも、僕の彼女じゃないか!どうせ反逆者の一族、人質に取ったところで問題ない、よしやるぞ!
こうして、ハルトは意気揚々と国境遠征に向けて準備を始めたのだった。
この国の王であるレグルス・コルディニスに要請されて魔物や盗賊、そして反逆者を次々と討伐していった。その度に謁見の間にて讃えられたが、僕の心には嬉しさなんて微塵もなかった。
討伐任務の合間合間に僕は婚約者であるレグルス・アルカンジュの元に何度も足を運んだ。今もドアをノックしてアルカンジュに部屋へ入れてもらってるのだが、今回も徒労に終わることだろう。
なぜなら、彼女と僕は絶望的に相性が悪いからだ。彼女の性格は基本的に明るく活発的だ。王族なのに気取った喋り方もしないし、異世界出身の僕からしたらこの王宮で最も話しやすい部類だと思う。
容姿も完璧だ。”獅子”に該当するレグルスに相応しき黄金の髪を後ろで束ね、瞳は青、顔は造形美という言葉じゃ足りないほどに整っている。その上スタイルも完璧で彼女が婚約者と言われたら、僕も悪い気はしない。
だけど、彼女は僕を見ていない。
そう気付いたのは婚約パレードの後だった。彼女はいつも諦めた顔をしている……王に言われるままに婚約し、そして遠くない未来に結婚し、子供を産む。そんな彼女は抑圧され、籠の鳥であることを悲しんでいる。
僕だってそんな事くらい察しがつく、映画に出てくるお姫様の典型的な悩みだろうから。だから僕は話しかけて解決しようとした。
「アルカンジュ、見てご覧──これが勇者の剣だ。これでいつも王国を守ってるんだよ」
黒騎士カイロによってこれが聖なる武器でなく、闇の武器であることは知っている。それでもこの国が崇める色は黒だから、僕はそう言う体で語りかけた。
今の彼女には希望を見せるべきだと思ったからこそ”未来の夫は勇敢な国の守り神”というポーズを取ったんだ。
「あなたの言葉は何故だか軽く感じるよ。それにその剣、偽物だよね?王族はみんな知ってることよ。だって、魔族幹部と取引してそれを先先代の王が受け取ったんだもの。国の象徴として黒をメインに持っていくように、その頃から国教に圧力かけたわけだからね」
なんということだ。釈迦に説法とはこの事か!なのに僕はいかにも”自分、できるやつです”オーラを見せつけていたのか!
「はぁ、表向き仲良くしてるポーズだけでいいよ……。だから部屋に入れてあげたんだし、使用人がそれを見れば仲がいいって噂だけでも流れるでしょ?う~ん、でも外でも見せる必要もあるわね。──あ、そうだ!気晴らしに剣の稽古に付き合ってくれない?」
「いいけど、僕は勇者だよ?怪我するかもしれないじゃないか」
「”やってみなければわからないだろ?”」
「諦めまくってる君の台詞とは思えないな」
「昔、王宮に来てた黒髪の男の子と遊んだ時に言った言葉なんだけどね。当時は気に入って何度も使ってたけど、大きくなってこの言葉を実現させることが難しいって知ってからは久しぶりに使ったよ」
やれやれ、少し茶色いけど同じ黒髪の僕にそれを言うのかね。
仕方なく、中庭で剣の稽古を始める。互いに対等な立場にするために刃を潰した練習用の長剣を持つ。それでも勇者の僕が全力で振り切れば、腕を落とすくらいはできるから気を付けなくてはいけない。
距離を取って互いにどちらが先に動くか緊張が走る。
剣を折るか衝撃波で吹き飛ばせば諦めるだろう。そう考えていたら彼女が先に動いた。速度も普通、しかも単純な刺突攻撃、僕は勇者スキル”ウェポンブレイク”で剣を壊そうとする。
ウェポンブレイクは武器ランクC以下の武器を強制的に破壊する非殺傷無力化スキル、今の状況にはうってつけだった。
だがアルカンジュは指の力で持ち手を逆手持ちに切り替え、武器破壊を回避してそのまま一閃を叩き込もうとした。空を切る音が明らかに殺傷能力を有していたので咄嗟に防御スキル”マイティガード”を使ってしまった。
無属性で構成された6角形の魔力板がアルカンジュの一閃を防ぎ、互いに距離を取った。
「あらら、もう少しで私は自由の身になれたのに」
そう言って苦笑するアルカンジュに僕は戦慄する。彼女の剣速は常人と思えない程にかけ離れており、防御スキルを使わなければ胴が半分以上もっていかれた可能性が高い。それに、自由の身って……婚約者である僕の不慮の死じゃないかっ!
動揺を隠してなんとか答える。
「あはははは……そんなに強いとは思わなかったよ」
「でしょ?でも最近、カイロが私とやるの嫌がるからストレス溜まってたのよね」
アルカンジュは再度剣を構える。
え?まだ続けるの!?と抗議を言わせないかのように稽古という名の死闘が始まる。今度は下からの斬り上げ、それに対して今度は本気でウェポンブレイクを決めようと剣を打ち下ろす。
剣と剣が接触してアルカンジュの武器が壊れ、僕は内心やった!と叫ぶが割れた破片が時間を巻き戻すかのように元の形に戻り、アルカンジュはそのまま地面に手をついてバク転をする。その時、地面についた手が茶色の魔方陣を生み出し、その場所から岩でできた槍が何本も飛んできた。
「くっ!”ライトミッショナリー”」
光属性の魔力が光のベールとなって槍を防ぐ。
「どお?驚いたかしら」
「……ハァ……ハァ……姫とは思えない……よ……」
アルカンジュが再度剣を構えたところで手を鳴らすような音が聞こえてきた。
パチ、パチ、パチ
「ああ~さすがは姫様、相変わらずヒヤヒヤする剣術だぁ。だ・け・ど、うちのハルトをあんまり苛めないでくれませんかねえ?」
現れたのは、黒騎士カイロだった。
「はぁ、もういいよ。私の負けだしね」
「理解が早くて助かります。ハルト君の怪我は私めが治しておきますので、あなた様は自室へとお戻りください」
「どうして?」
「お昼頃に王様からあなた様へ頼み事があるそうで、使いの者が来るみたいなんです」
「わかったわ」
アルカンジュはそう言って去っていく、カイロは僕の側に来て肩から一本槍を抜いた。
「────っ!」
「もう少し防御スキルが早かったら完全に防げたのにな。だけど魔方陣を見逃さなかったのはよくやった。バク転する姫様に気を取られて串刺しになっててもおかしくなかったからな」
戦闘経験のない僕だったら殺られていた可能性が高い、婚約者なのに僕への扱いが酷すぎじゃないか?
「でも、君は試合では勝ってたさ。あの手の試合は剣が折れたら負けだからな、一度でも折れた姫様の負けってことなのさ」
やっぱりアルカンジュとの結婚生活なんて無理だ。クソッ!サリナ、ユキノ、どこにいるんだよぉ~!
「カイロさん、僕は王なんて無理だ!」
「いや、断れば良かっただろ、稽古。強いから暴力女に見えているけどな、断れば無理は言わんし普段は貞淑な姫様だろ?」
そう、彼女にこんな1面があるなんて思わなかったからこそ稽古を受けたんだ。僕の剣のレベルはすでに130を超えている、なのにこの敗北は一体なんなんだ?レーヴァテインを使わなければこんなに僕は弱いのか?
「さてハルト君、君にだけ言うべきことがある。帝国との国境付近で多数の反逆者を見つけたからそこに行ってもらう」
「また要請ですか……いつまで王様の指示を受けなくちゃいけないんだ!?」
「ここは堪えてくれよ。俺様がきちんと場を用意するからさ。あ、それと……言いづらいんだが、同行者がいてな、あの姫様も気晴らしに連れていってほしいっていう────」
僕はそれを聞いてカイロの言葉が頭に入らなくなった。さっきの王様からアルカンジュへの頼み事は恐らくそれだろう。まさか彼女と行動を共にしなくちゃいけないなんて……。
「ダメだこりゃ、放心してやがる。男のプライドが傷ついたんだ、無理もねえか。あ、あ~ハルト君や!」
カイロが目の前で指パッチンを何度もする。
「いい情報もあるんだ。反逆者っていうのがどうやら影の一族らしいんだ。上手く人質にすればユキノちゃんたちを無傷で手に入れられるかもしれん」
「本当ですか!?」
「ユキノちゃんの隣に赤い目の男が立ってたろ?多分アイツの一族だと思う。俺様の予想だとユキノちゃんたちは鍛冶の村あたりにいるはずだからな。奴等が到着する前に影の一族を捕獲すりゃあいいんだ」
「ですが、それって……」
浄化前の僕だったら考えもせずに身を委ねていただろう、だが人質となると……。
「四の五のいってる場合じゃねえぞ?もしかしたら、あの影の坊主にユキノちゃんが奪われてる可能性も低くねえ。これ以上汚される前に、救ってやろうや勇者様よ!」
そうだサリナもユキノも、僕の彼女じゃないか!どうせ反逆者の一族、人質に取ったところで問題ない、よしやるぞ!
こうして、ハルトは意気揚々と国境遠征に向けて準備を始めたのだった。
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