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三章『花、盛る』
その五
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適当な屋台で昼餉を済ませて七本屋に戻ると、閑散とした店の奥から女性陣の賑やかな声がしてきた。声の数からして、姉御とリツと、紫蔓さんもいるのだろう。
「あらぁ、坊やたち。ちょうどいいところに帰ってきたわね」
出迎えにやってきた紫蔓さんはやけに足取りが軽く、ほくほく顔だった。間違いなく特別いい事があったのであろうことが見て取れる。
「ただいま戻りました。なにかあったんですか」
「女の愉しみといえば決まってるでしょ~♡」
「なんだよ。勿体つけたような言い方して」
「まあまあ、来てみなさいよ。今ならいいものが見られるわよぉ」
紫蔓さんは泣きぼくろのある右側の目を閉じて悪戯っぽく微笑むと、残りの二人がいるであろう店の奥までおれたちを手招いた。
「まあ! やっぱりこの口紅、リツさんにぴったりでしたね」
「そう? 変に浮いたりしてないかしら?」
「とんでもありません。むしろ、このお色が一番似合っていますよ! ――あ、お二人とも、お帰りなさいまし」
珍しく興奮気味の姉御が、おれたちの存在に気づく。そして、背を向けていたリツにも後ろへ振り返るように促した。
「あら、お帰りなさい。貴方たちも出かけてたのね」
「…………」
「ゎぉ…………」
おれのみならず、唯助までも振り返ったリツの姿に口をぽかんと開けていた。
いや、なんだこれ。異次元すぎる。なんだこの美しすぎる人間は。人間なのか、この超絶美人は。九尾の狐が男を惑わすために化けた姿じゃないのか。それともここは世界三大美女コンテスト決勝戦の会場なのか。はたまたリアル見返り美人図(正面バージョン)か。
深紅の口紅や頬紅で彩ったリツは、かの弱竹のかぐや姫もかくやとばかり思われる美貌だった。市松模様を描いた黒地のモダンな浴衣が、彼女の魅力をより一層引き立てている。もはや世界中の男を釘付けにしてやまない艶姿と言っても過言ではない。
「お? 男子ウケも良さそうねぇ」
「そうかしら。単にものすごく驚かれているだけにも見えるけど」
昨日見た朝顔柄の浴衣も勿論似合っていたし、列車で見た赤い薔薇のドレス姿も加えて、おれはリツの衣装チェンジを三連続でお見舞いされている。そろそろ胸がときめきに耐えられなくなって死ぬんじゃなかろうか。心臓がキュンキュンどころかギュルンギュルンと凄まじい悲鳴をあげていそうだし、超軽い発作の一つくらいは起きているかもしれない。いや多分起きてる。死因:胸のときめき、マジでありうる。
「私の持っている浴衣ではやはり大きいですし、せっかくのお祭りですからリツさんに似合うものをと思いまして、貸浴衣のお店に行っていたのです」
「そしたらま~ぁ盛り上がっちゃって。三人でお化粧もして遊んでたのよ」
三人は「ね~!」と声を揃えて言えるくらい、すっかり仲良くなっているらしい。まだここに来て一日しか経ってないにもかかわらず恐ろしい早さで打ち解け、そのうえこんな美女を生み出してしまったのか、この女性陣は。ありがとうございます、女神たちのお恵みに感謝します、とおれは心の中で手を合わせ天を仰いだ。
「にしてもリツちゃん、いいわねぇ。その口紅、深い赤色でぐっと華やかになるわ」
「もし良ければ差し上げましょうか? わたくしはそれがあまり上手く使いこなせなくて……」
「いいの? これ、ものすごくいいやつじゃない?」
「いいんです。リツさんがよろしく使ってくださるなら、持っていってくださいな」
「本当はお洒落大好きなんでしょ? 真面目にお勤めするのも立派だけど、たまにはお粧しして気分を上げなきゃね~♡」
「確かに。そういうことなら、お言葉に甘えて貰っちゃおうかしら」
「そうよ、貰っちゃいなさい! さて、次は音音ちゃんの番よぉ」
「わ、わたくしはいいですよ! 元々リツさんの服を選んでいただけですし、お見せするみや様だっていませんし……」
「駄目よ、私だけお洒落させてもらうなんて不公平だわ。それに、男のためだけに粧すなんて勿体ない。お洒落はなにより自分のためにするものなのよ」
蚊帳の外で惚けているおれたちなどお構いなしに、きゃっきゃと盛り上がりを見せる女性陣。しかし、リツはあんなふうにも笑えたのか。いつも澄まして表情をあまり崩さないリツが、こんなにも楽しそうに破顔しているのを見ると、実にグッとくる。これがいわゆる萌えという感情なのだろうか。
「……おれ、一瞬恋に落ちかけたかも」
「駄目。落ちてくんな」
「兄ちゃんのけち」
これ、町の人間に見せて大丈夫だろうか。姉御もリツとは系統の違う美人だし、美女二人に夜の祭りを一緒に歩かせようものなら悪い虫がうじゃうじゃ寄ってきそうだ。しかし、自由に着飾り思いのままに町を歩くという女性の愉しみに水を差すのも野暮だし、はてどうしたものか。
「音音ちゃんの前に、リツちゃんの髪も可愛く結っちゃいましょ! ちょうと似合いそうな簪があるのよ~」
「本当? ぜひ見せてほしいわ」
仕方ない、ここはおれがしっかり見張って害虫駆除に徹する他ないだろう、と一人勝手に闘志を燃やしているおれのもとへ、姉御がふと歩み寄ってくる。
「あの、世助さん。一つ確認なんですが」
「どうした?」
耳の近くでそっと囁いてくる姉御。リツと紫蔓さんが少し離れたところで話を弾ませているのを確認すると、姉御は再びおれに耳打ちしてきた。
「世助さんってやっぱりリツさんのことが好きなんですか?」
「ン゙ン゙ッッ!」
なんてこと確認してくるんだ、あんたは! と喉の奥から叫びそうになったのを、慌てて口を押さえて飲み込む。
「なん、えっ!? なんで!?」
「なんでと言われましても……見ればすぐに分かると言いますか」
「そ、そんなに分かりやすいのか……!?」
「ええ、かなり」
頬をぺたぺた触って確認する。特段頬が熱いわけでもなかったが、汗の量が異常だった。多分、これは姉御のせいだろう。
「世助さんたらリツさんにずっと見とれていましたもの。こう、ぽやぽや~んって感じの、恋する男の子って顔でした」
姉御の説明では自分が一体どんな顔をしているか微塵も想像できないが、そんな可愛い擬音がつくのは違和感が強すぎてつらいものがある。おれはリツのことになると途端に馬鹿になり、ぽやぽや~んどころかドドドドドという知性の欠片もない変態的感情の大瀑布が起こるのだ。こんなものが『恋する男の子』なんて生優しい表現で片付けられるような代物であるはずがない。
「あー……姉御。このことはくれぐれもおっさんには……」
「ええ、他言無用ですよね。勿論ですとも。幸い、リツさんご本人も気づいていないようですし。人様の恋の熱に水を差すような野暮は致しません!」
「……理解が早くて助かるよ」
姉御のキラキラした目が眩しくて、すごく申し訳ない。そんな純粋な心で恋路を応援している弟分がよもやこんな救いようのない変態馬鹿野郎だとは思うまい。さっきとは別の意味で心が痛くなった。
*****
……なにがどうしてこうなった?
夜闇をものともしない提灯の明かりが棚葉町の大通りを照らす中、誰かに投げかけられるでもない問いがおれの頭の中をぐるぐると回り続けている。
「んんー頭がキンキンする!」
――なんでこんな美人がおれの横でかき氷を食ってるんだ!? いや、前々からリツとは一緒に行動していたし、今に始まった事じゃないけどさ!!
『あんな美人、この町にいたっけ……?』
『いやぁ、観光客だろ……』
『どこかのご令嬢がお忍びで来てるのかも?』
『女優さんじゃない?』
『お母、あのお姉ちゃんきれいだねぇ』
周囲から向けられる視線の数が多すぎて恐怖だ。厳密にはおれに向けられたものではないとはいえ、こんなにも数多くの人間から見つめられる経験をする日が来ようとは。当の本人は外野のことなど微塵も気にしていないのに、おれはかき氷の上にのせられた餡子の味も分からなくなっている始末で、なんだか滑稽だ。無味無臭の冷たい物体をちみちみ食っているおれの横で、リツは満足気に空の器へ匙を置いた。
「ふう、美味しかった。かき氷なんて初めて食べたわ」
「そう、良かったな」
おれはリツのその発言はさして気にならなかったが、周囲の人々はどよめいた。
『かき氷を初めて食べた!?』
『それこそ初めて見たわ、そんな人!』
『やっぱりご令嬢なのよ、深窓のお嬢様なんだわ!』
美女が一言発しただけでこの騒ぎもどうかと思うが、それだけ人の関心を引き付けてなお平然としているリツもすごい。リツの美貌はおれの贔屓目などではなく、正真正銘のものなのだと改めて思い知らされる。
「そうだ、世助。私、射的がやってみたいわ。景品の中に可愛い置物があったの」
「ん? あぁ、いいよ」
呆けた状態だったおれはリツの声に意識を引き戻され、一拍遅れて返事をする。
『……あの茶髪は彼氏か?』
『どうだろう。彼氏にしては若すぎない?』
『けど、あいつ絶対に気があるだろ。どことなくぎこちないし』
『そりゃあ、あんな美人を前にしたら誰だって緊張するもんじゃないの』
……そろそろ野次馬たちが鬱陶しくなってきたので、聞こえてるぞ、と念を飛ばすように視線をやった。第一、人の一挙一動にいちいち騒ぎ立てるなんて失礼だと思わないのか。みっともない真似をするなと怒るおれの睨みは多少効いたのか、リツやおれに注目していた野次馬の半分はさっと目を逸らしてそそくさと去っていった。
「どうしたの、そんな怖い顔して」
「なんでもない。じゃあ、その射的の店を探すか」
「ええ、行きましょう」
リツはすっくと立ち上がり、未だ向けられている視線を意に介すこともなく颯爽と歩き出した。
「こんばんは、一回遊んでいいかしら」
「おっ、おぉ……いらっしゃい……」
先ほどまで威勢よく子供たちに接していた射的屋のおやじが、リツを見た途端しぼんだ花のようにしおらしくなった。盛り上がりを見せていた子供たちも、リツを見上げながら目を丸くしている。
なにせ、今のリツは自分に似合う浴衣を着て、化粧もしっかりして、いつもの美貌へさらに磨きがかかっている状態なのだ。いきなりこんな美人が現れたら動揺して言葉が出てこなくなるのも仕方あるまい。
店のおやじはリツの後からやって来たおれの方にも気づくと、一度は別の方向へ気をやったものの、再びこちらを見て驚いたようだった。
「お、お前! 確か去年も来たよな。七本さんとこにいた、見た目そっくりな茶髪の双子だろ?」
「ん? あぁ、覚えてたんだ?」
よく見ると、おやじの顔にはうっすら見覚えがあった。去年、ヤケを起こして家を飛び出し、憂さ晴らしに祭りの射的屋に立ち寄ったが、ここだったのか。その時のおやじは確か、仲間と共に賭け事の話をしたり、酒を飲みながら店番をしていたか。
「お前らの見分けがつかなくて混乱しちまったからなぁ。ありゃよく覚えてるよ。射的の上手い方が紫のボウズだっただろ?」
「おお、すげえ。ほんとに覚えてる。そうそう、七本屋にずっといる方がおれの弟な」
「そうか、そうだったか。いやしかし、片方が髪を切ったんならもう間違わねえな!」
おやじは大口を開けて笑うと、調子づいた口調のままにコルク銃を持ったリツの方を暗に示しながら、
「隣にいるのはもしかして?」
と、意味深な視線でおれに聞いてきた。
「仕事の同僚」
「またまたァ、そんなこと言ってホントは――」
「同僚だから。ただの仕事仲間だから」
「いやに主張するじゃねえか、ええ?」
ごつごつと肘で小突いてくるおやじにやめろと言い、おれは押し返す。
そりゃおれだって胸を張ってリツのことを彼女だと言い張りたいし、勘違いされてもいいと思っているが、それはあくまでおれの都合だ。リツにとっては迷惑千万な話だろう。第一、おれとリツでは容姿に差がありすぎる。卑下するほど悪い顔ではないとは思っているが、リツが平均を大きく上回りすぎなのだ。おれの顔面偏差値がせいぜい五十前後だとしたら、リツは確実に八十は超えているであろう絶世の美女だ。
……怖い! 震え止まんない! 改めて冷静に考えるとおれ凄いことになってないか!? そんじょそこらの女優とも格が違う美女の横に、なんで田舎モンのおれがいるんだ!? なんで唯助も姉御も気を遣っておれたちを二人にしちゃったかな、本当に!!
「あ、当たった!」
「ほぉ、お姉ちゃんやるねえ!」
視線を戻すと、先ほどリツが指をさしていた棚の下にキャラメルの箱が落ちていた。
「世助、あげる。キャラメル好きでしょ?」
「別に好きだから持ち歩いてるわけじゃ……うおっ!?」
わざとリツから視線を外しているおれは、彼女からぐいっと腕を引き寄せられてバランスを崩しかけた。
「ほら、貴方もやってみなさいよ。せっかくなんだし楽しみましょ」
「お、おぉ」
リツには申し訳ないが、おれはもう射的どころじゃない。頭にあるのは眼前の景品よりも、腕に感じるリツの柔らかな感触、それと髪から香る甘い匂いだけだ。もうおれの腕に当たってるコレが何なのか確かめるのが怖くて、リツのほうを見ることができない。
「わ、分かったから、離して。撃ちにくい」
なんとか平静を保ちながらリツに離れてもらう。しかし、銃を構えたものの、おれの体はカチンコチンに硬直して、手だけがガタガタ震えている有様だ。
「兄ちゃん鉄砲が震えてる~」
「兄ちゃんビビり~?」
「うッせえ、ビビりじゃねえや!」
大人の事情など知りもせず、好き勝手に囃し立てる子供たち。この程度で腹を立てるのも些か大人気ないが、今のおれには心の余裕がないので、つい言い返してしまう。しかし、怒りの力が加わったのが逆に良かったらしく、震えていた手に力が入って銃身が固定された。撃ち出されたコルク弾は僅かに狙いから逸れたものの、ドロップスの缶を倒した。
「ちぇー一発で当てやがった」
「ビビりじゃなかった」
「たりめーだ。おら、好きなやつ持ってけ」
「おーやったー!」
受け取ったドロップスの缶を子供たちに渡し、やいやい言うのを黙らせた。不甲斐ない話だが、これ以上なにか言われたらおれの平静が保たれない気がしたのだ。
「子供に優しいのね」
「一人じゃ食べきれねえからな、リツにも後で好きなのやるよ」
「ありがとう、じゃあ後で貰うわ」
リツがもう少し難しそうなものをと次の的を定めている間に、店のおやじがおれに話しかけてきた。
「兄ちゃん、今年は『双撃ち』は来ないのか?」
「双撃ち? なんだそれ」
「七本さんのことだよ。あいつは毎年祭りの終わり頃に来ては、銃を二丁構えて景品全部撃ち落としていきやがる。集まった野郎どもがそれで賭けをしていくまでがここの恒例行事なんだよ」
あのおっさん、そんな二つ名が付けられていたのか。しかも全部撃ち落として賭け事をするなんて、年甲斐もなくはしゃぎすぎじゃないか。
「おっさんは来ねえよ。仕事が入っちまったんだ」
「あちゃぁ、なら今年は中止かぁ。それとも兄ちゃん、七本さんの代わりに撃って賭けてくか?」
「やらねえよ。おやじ共だけで勝手にやってくれ」
「え~やらないの~?」
そう言ったのは子供たちではなく、なんと予想に反してリツだった。
「なんだよ、猫なで声なんか出して」
「なんだと思う?」
……リツはいたずらに媚びを売るような女ではないと思うが、きゅるんと可愛らしく向けられた上目遣いにはあからさまな下心を感じる。
「……魂胆を聞こうか」
「あの可愛いぬいぐるみ、取ってくれないかしら♡」
「…………」
「世助のほうが上手でしょう? ねえ、一個だけ。駄目かしら?」
駄目だ、可愛い。あの猫のぬいぐるみよりもしっかり可愛こぶったお前の方が何億倍も可愛い。このまま喋るとリツへの変態的な想いがうっかりダダ漏れになってしまいそうだったので、おれは一度スゥー……と深く息を吸った。
「……おやじ、一回分払ったら何発まで撃てる?」
「五発だな」
リツが欲しいという猫のぬいぐるみは、両手に収まるくらいの大きさだ。菓子箱よりもさらに難易度は上がるが、上手く狙い通りに当てられればバランスを崩せるだろう。
リツのおねだりで焚き付けられたおれは、五発で一つの景品を落とすだけでは歯応えがないと踏んだ。
「五発じゃ多い。三発で落としてやる」
「おぉ、言いやがったな? 女の子の前で失敗はできねえぞ?」
「心配すんな。失敗しねえから」
「だはは! いいねぇ! 好きだぜ、そういうの!」
男とは実に単純な生き物である。
「あらぁ、坊やたち。ちょうどいいところに帰ってきたわね」
出迎えにやってきた紫蔓さんはやけに足取りが軽く、ほくほく顔だった。間違いなく特別いい事があったのであろうことが見て取れる。
「ただいま戻りました。なにかあったんですか」
「女の愉しみといえば決まってるでしょ~♡」
「なんだよ。勿体つけたような言い方して」
「まあまあ、来てみなさいよ。今ならいいものが見られるわよぉ」
紫蔓さんは泣きぼくろのある右側の目を閉じて悪戯っぽく微笑むと、残りの二人がいるであろう店の奥までおれたちを手招いた。
「まあ! やっぱりこの口紅、リツさんにぴったりでしたね」
「そう? 変に浮いたりしてないかしら?」
「とんでもありません。むしろ、このお色が一番似合っていますよ! ――あ、お二人とも、お帰りなさいまし」
珍しく興奮気味の姉御が、おれたちの存在に気づく。そして、背を向けていたリツにも後ろへ振り返るように促した。
「あら、お帰りなさい。貴方たちも出かけてたのね」
「…………」
「ゎぉ…………」
おれのみならず、唯助までも振り返ったリツの姿に口をぽかんと開けていた。
いや、なんだこれ。異次元すぎる。なんだこの美しすぎる人間は。人間なのか、この超絶美人は。九尾の狐が男を惑わすために化けた姿じゃないのか。それともここは世界三大美女コンテスト決勝戦の会場なのか。はたまたリアル見返り美人図(正面バージョン)か。
深紅の口紅や頬紅で彩ったリツは、かの弱竹のかぐや姫もかくやとばかり思われる美貌だった。市松模様を描いた黒地のモダンな浴衣が、彼女の魅力をより一層引き立てている。もはや世界中の男を釘付けにしてやまない艶姿と言っても過言ではない。
「お? 男子ウケも良さそうねぇ」
「そうかしら。単にものすごく驚かれているだけにも見えるけど」
昨日見た朝顔柄の浴衣も勿論似合っていたし、列車で見た赤い薔薇のドレス姿も加えて、おれはリツの衣装チェンジを三連続でお見舞いされている。そろそろ胸がときめきに耐えられなくなって死ぬんじゃなかろうか。心臓がキュンキュンどころかギュルンギュルンと凄まじい悲鳴をあげていそうだし、超軽い発作の一つくらいは起きているかもしれない。いや多分起きてる。死因:胸のときめき、マジでありうる。
「私の持っている浴衣ではやはり大きいですし、せっかくのお祭りですからリツさんに似合うものをと思いまして、貸浴衣のお店に行っていたのです」
「そしたらま~ぁ盛り上がっちゃって。三人でお化粧もして遊んでたのよ」
三人は「ね~!」と声を揃えて言えるくらい、すっかり仲良くなっているらしい。まだここに来て一日しか経ってないにもかかわらず恐ろしい早さで打ち解け、そのうえこんな美女を生み出してしまったのか、この女性陣は。ありがとうございます、女神たちのお恵みに感謝します、とおれは心の中で手を合わせ天を仰いだ。
「にしてもリツちゃん、いいわねぇ。その口紅、深い赤色でぐっと華やかになるわ」
「もし良ければ差し上げましょうか? わたくしはそれがあまり上手く使いこなせなくて……」
「いいの? これ、ものすごくいいやつじゃない?」
「いいんです。リツさんがよろしく使ってくださるなら、持っていってくださいな」
「本当はお洒落大好きなんでしょ? 真面目にお勤めするのも立派だけど、たまにはお粧しして気分を上げなきゃね~♡」
「確かに。そういうことなら、お言葉に甘えて貰っちゃおうかしら」
「そうよ、貰っちゃいなさい! さて、次は音音ちゃんの番よぉ」
「わ、わたくしはいいですよ! 元々リツさんの服を選んでいただけですし、お見せするみや様だっていませんし……」
「駄目よ、私だけお洒落させてもらうなんて不公平だわ。それに、男のためだけに粧すなんて勿体ない。お洒落はなにより自分のためにするものなのよ」
蚊帳の外で惚けているおれたちなどお構いなしに、きゃっきゃと盛り上がりを見せる女性陣。しかし、リツはあんなふうにも笑えたのか。いつも澄まして表情をあまり崩さないリツが、こんなにも楽しそうに破顔しているのを見ると、実にグッとくる。これがいわゆる萌えという感情なのだろうか。
「……おれ、一瞬恋に落ちかけたかも」
「駄目。落ちてくんな」
「兄ちゃんのけち」
これ、町の人間に見せて大丈夫だろうか。姉御もリツとは系統の違う美人だし、美女二人に夜の祭りを一緒に歩かせようものなら悪い虫がうじゃうじゃ寄ってきそうだ。しかし、自由に着飾り思いのままに町を歩くという女性の愉しみに水を差すのも野暮だし、はてどうしたものか。
「音音ちゃんの前に、リツちゃんの髪も可愛く結っちゃいましょ! ちょうと似合いそうな簪があるのよ~」
「本当? ぜひ見せてほしいわ」
仕方ない、ここはおれがしっかり見張って害虫駆除に徹する他ないだろう、と一人勝手に闘志を燃やしているおれのもとへ、姉御がふと歩み寄ってくる。
「あの、世助さん。一つ確認なんですが」
「どうした?」
耳の近くでそっと囁いてくる姉御。リツと紫蔓さんが少し離れたところで話を弾ませているのを確認すると、姉御は再びおれに耳打ちしてきた。
「世助さんってやっぱりリツさんのことが好きなんですか?」
「ン゙ン゙ッッ!」
なんてこと確認してくるんだ、あんたは! と喉の奥から叫びそうになったのを、慌てて口を押さえて飲み込む。
「なん、えっ!? なんで!?」
「なんでと言われましても……見ればすぐに分かると言いますか」
「そ、そんなに分かりやすいのか……!?」
「ええ、かなり」
頬をぺたぺた触って確認する。特段頬が熱いわけでもなかったが、汗の量が異常だった。多分、これは姉御のせいだろう。
「世助さんたらリツさんにずっと見とれていましたもの。こう、ぽやぽや~んって感じの、恋する男の子って顔でした」
姉御の説明では自分が一体どんな顔をしているか微塵も想像できないが、そんな可愛い擬音がつくのは違和感が強すぎてつらいものがある。おれはリツのことになると途端に馬鹿になり、ぽやぽや~んどころかドドドドドという知性の欠片もない変態的感情の大瀑布が起こるのだ。こんなものが『恋する男の子』なんて生優しい表現で片付けられるような代物であるはずがない。
「あー……姉御。このことはくれぐれもおっさんには……」
「ええ、他言無用ですよね。勿論ですとも。幸い、リツさんご本人も気づいていないようですし。人様の恋の熱に水を差すような野暮は致しません!」
「……理解が早くて助かるよ」
姉御のキラキラした目が眩しくて、すごく申し訳ない。そんな純粋な心で恋路を応援している弟分がよもやこんな救いようのない変態馬鹿野郎だとは思うまい。さっきとは別の意味で心が痛くなった。
*****
……なにがどうしてこうなった?
夜闇をものともしない提灯の明かりが棚葉町の大通りを照らす中、誰かに投げかけられるでもない問いがおれの頭の中をぐるぐると回り続けている。
「んんー頭がキンキンする!」
――なんでこんな美人がおれの横でかき氷を食ってるんだ!? いや、前々からリツとは一緒に行動していたし、今に始まった事じゃないけどさ!!
『あんな美人、この町にいたっけ……?』
『いやぁ、観光客だろ……』
『どこかのご令嬢がお忍びで来てるのかも?』
『女優さんじゃない?』
『お母、あのお姉ちゃんきれいだねぇ』
周囲から向けられる視線の数が多すぎて恐怖だ。厳密にはおれに向けられたものではないとはいえ、こんなにも数多くの人間から見つめられる経験をする日が来ようとは。当の本人は外野のことなど微塵も気にしていないのに、おれはかき氷の上にのせられた餡子の味も分からなくなっている始末で、なんだか滑稽だ。無味無臭の冷たい物体をちみちみ食っているおれの横で、リツは満足気に空の器へ匙を置いた。
「ふう、美味しかった。かき氷なんて初めて食べたわ」
「そう、良かったな」
おれはリツのその発言はさして気にならなかったが、周囲の人々はどよめいた。
『かき氷を初めて食べた!?』
『それこそ初めて見たわ、そんな人!』
『やっぱりご令嬢なのよ、深窓のお嬢様なんだわ!』
美女が一言発しただけでこの騒ぎもどうかと思うが、それだけ人の関心を引き付けてなお平然としているリツもすごい。リツの美貌はおれの贔屓目などではなく、正真正銘のものなのだと改めて思い知らされる。
「そうだ、世助。私、射的がやってみたいわ。景品の中に可愛い置物があったの」
「ん? あぁ、いいよ」
呆けた状態だったおれはリツの声に意識を引き戻され、一拍遅れて返事をする。
『……あの茶髪は彼氏か?』
『どうだろう。彼氏にしては若すぎない?』
『けど、あいつ絶対に気があるだろ。どことなくぎこちないし』
『そりゃあ、あんな美人を前にしたら誰だって緊張するもんじゃないの』
……そろそろ野次馬たちが鬱陶しくなってきたので、聞こえてるぞ、と念を飛ばすように視線をやった。第一、人の一挙一動にいちいち騒ぎ立てるなんて失礼だと思わないのか。みっともない真似をするなと怒るおれの睨みは多少効いたのか、リツやおれに注目していた野次馬の半分はさっと目を逸らしてそそくさと去っていった。
「どうしたの、そんな怖い顔して」
「なんでもない。じゃあ、その射的の店を探すか」
「ええ、行きましょう」
リツはすっくと立ち上がり、未だ向けられている視線を意に介すこともなく颯爽と歩き出した。
「こんばんは、一回遊んでいいかしら」
「おっ、おぉ……いらっしゃい……」
先ほどまで威勢よく子供たちに接していた射的屋のおやじが、リツを見た途端しぼんだ花のようにしおらしくなった。盛り上がりを見せていた子供たちも、リツを見上げながら目を丸くしている。
なにせ、今のリツは自分に似合う浴衣を着て、化粧もしっかりして、いつもの美貌へさらに磨きがかかっている状態なのだ。いきなりこんな美人が現れたら動揺して言葉が出てこなくなるのも仕方あるまい。
店のおやじはリツの後からやって来たおれの方にも気づくと、一度は別の方向へ気をやったものの、再びこちらを見て驚いたようだった。
「お、お前! 確か去年も来たよな。七本さんとこにいた、見た目そっくりな茶髪の双子だろ?」
「ん? あぁ、覚えてたんだ?」
よく見ると、おやじの顔にはうっすら見覚えがあった。去年、ヤケを起こして家を飛び出し、憂さ晴らしに祭りの射的屋に立ち寄ったが、ここだったのか。その時のおやじは確か、仲間と共に賭け事の話をしたり、酒を飲みながら店番をしていたか。
「お前らの見分けがつかなくて混乱しちまったからなぁ。ありゃよく覚えてるよ。射的の上手い方が紫のボウズだっただろ?」
「おお、すげえ。ほんとに覚えてる。そうそう、七本屋にずっといる方がおれの弟な」
「そうか、そうだったか。いやしかし、片方が髪を切ったんならもう間違わねえな!」
おやじは大口を開けて笑うと、調子づいた口調のままにコルク銃を持ったリツの方を暗に示しながら、
「隣にいるのはもしかして?」
と、意味深な視線でおれに聞いてきた。
「仕事の同僚」
「またまたァ、そんなこと言ってホントは――」
「同僚だから。ただの仕事仲間だから」
「いやに主張するじゃねえか、ええ?」
ごつごつと肘で小突いてくるおやじにやめろと言い、おれは押し返す。
そりゃおれだって胸を張ってリツのことを彼女だと言い張りたいし、勘違いされてもいいと思っているが、それはあくまでおれの都合だ。リツにとっては迷惑千万な話だろう。第一、おれとリツでは容姿に差がありすぎる。卑下するほど悪い顔ではないとは思っているが、リツが平均を大きく上回りすぎなのだ。おれの顔面偏差値がせいぜい五十前後だとしたら、リツは確実に八十は超えているであろう絶世の美女だ。
……怖い! 震え止まんない! 改めて冷静に考えるとおれ凄いことになってないか!? そんじょそこらの女優とも格が違う美女の横に、なんで田舎モンのおれがいるんだ!? なんで唯助も姉御も気を遣っておれたちを二人にしちゃったかな、本当に!!
「あ、当たった!」
「ほぉ、お姉ちゃんやるねえ!」
視線を戻すと、先ほどリツが指をさしていた棚の下にキャラメルの箱が落ちていた。
「世助、あげる。キャラメル好きでしょ?」
「別に好きだから持ち歩いてるわけじゃ……うおっ!?」
わざとリツから視線を外しているおれは、彼女からぐいっと腕を引き寄せられてバランスを崩しかけた。
「ほら、貴方もやってみなさいよ。せっかくなんだし楽しみましょ」
「お、おぉ」
リツには申し訳ないが、おれはもう射的どころじゃない。頭にあるのは眼前の景品よりも、腕に感じるリツの柔らかな感触、それと髪から香る甘い匂いだけだ。もうおれの腕に当たってるコレが何なのか確かめるのが怖くて、リツのほうを見ることができない。
「わ、分かったから、離して。撃ちにくい」
なんとか平静を保ちながらリツに離れてもらう。しかし、銃を構えたものの、おれの体はカチンコチンに硬直して、手だけがガタガタ震えている有様だ。
「兄ちゃん鉄砲が震えてる~」
「兄ちゃんビビり~?」
「うッせえ、ビビりじゃねえや!」
大人の事情など知りもせず、好き勝手に囃し立てる子供たち。この程度で腹を立てるのも些か大人気ないが、今のおれには心の余裕がないので、つい言い返してしまう。しかし、怒りの力が加わったのが逆に良かったらしく、震えていた手に力が入って銃身が固定された。撃ち出されたコルク弾は僅かに狙いから逸れたものの、ドロップスの缶を倒した。
「ちぇー一発で当てやがった」
「ビビりじゃなかった」
「たりめーだ。おら、好きなやつ持ってけ」
「おーやったー!」
受け取ったドロップスの缶を子供たちに渡し、やいやい言うのを黙らせた。不甲斐ない話だが、これ以上なにか言われたらおれの平静が保たれない気がしたのだ。
「子供に優しいのね」
「一人じゃ食べきれねえからな、リツにも後で好きなのやるよ」
「ありがとう、じゃあ後で貰うわ」
リツがもう少し難しそうなものをと次の的を定めている間に、店のおやじがおれに話しかけてきた。
「兄ちゃん、今年は『双撃ち』は来ないのか?」
「双撃ち? なんだそれ」
「七本さんのことだよ。あいつは毎年祭りの終わり頃に来ては、銃を二丁構えて景品全部撃ち落としていきやがる。集まった野郎どもがそれで賭けをしていくまでがここの恒例行事なんだよ」
あのおっさん、そんな二つ名が付けられていたのか。しかも全部撃ち落として賭け事をするなんて、年甲斐もなくはしゃぎすぎじゃないか。
「おっさんは来ねえよ。仕事が入っちまったんだ」
「あちゃぁ、なら今年は中止かぁ。それとも兄ちゃん、七本さんの代わりに撃って賭けてくか?」
「やらねえよ。おやじ共だけで勝手にやってくれ」
「え~やらないの~?」
そう言ったのは子供たちではなく、なんと予想に反してリツだった。
「なんだよ、猫なで声なんか出して」
「なんだと思う?」
……リツはいたずらに媚びを売るような女ではないと思うが、きゅるんと可愛らしく向けられた上目遣いにはあからさまな下心を感じる。
「……魂胆を聞こうか」
「あの可愛いぬいぐるみ、取ってくれないかしら♡」
「…………」
「世助のほうが上手でしょう? ねえ、一個だけ。駄目かしら?」
駄目だ、可愛い。あの猫のぬいぐるみよりもしっかり可愛こぶったお前の方が何億倍も可愛い。このまま喋るとリツへの変態的な想いがうっかりダダ漏れになってしまいそうだったので、おれは一度スゥー……と深く息を吸った。
「……おやじ、一回分払ったら何発まで撃てる?」
「五発だな」
リツが欲しいという猫のぬいぐるみは、両手に収まるくらいの大きさだ。菓子箱よりもさらに難易度は上がるが、上手く狙い通りに当てられればバランスを崩せるだろう。
リツのおねだりで焚き付けられたおれは、五発で一つの景品を落とすだけでは歯応えがないと踏んだ。
「五発じゃ多い。三発で落としてやる」
「おぉ、言いやがったな? 女の子の前で失敗はできねえぞ?」
「心配すんな。失敗しねえから」
「だはは! いいねぇ! 好きだぜ、そういうの!」
男とは実に単純な生き物である。
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