貸本屋七本三八の譚めぐり ~熱を孕む花~

茶柱まちこ

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二章『童女遊戯』

その五

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「昨晩のこと、誰も覚えてないのかしら?」
「あの様子じゃ、覚えてないんだろうな。もしくは夢だと思っているか」
 禁書の悪戯に巻き込まれていた列車の乗客は、何事も無かったかのように目覚めた。玩具の夢を見たとか、金髪の女の子が出てきたとか、同じ夢を見た者同士で囁き合っている様子も見受けられたが、禁書の仕業だと気づいているのはおれたちだけのようだった。
 誰かが怪我をしたとか、何かが壊れたとか、そういった現実への作用が皆無だったのなら、譚本の夢を見せられていたのと大差ない。事の次第を理解しているおれとしても、夢を見ていたのに近い感覚だった。
 とはいえ。実際のおれはほとんど眠ることもできていない。おかげで欠伸が止まらなかった。隣のリツも禁書の中で一度寝落ちしたとはいえ、まだ眠気が残っているようで、口を手で押さえながら小さく欠伸をしている。
 車窓に目をやれば、濃紺の空には次第に赤みが差し始めていた。
「そろそろ頃合いだし、朝日でも拝んでくるか」
 リツと共に乗降口に出て、土の匂いがする空気を肺に取り込みつつ、また一つ欠伸をする。
 視界を駆け抜けていく畑の緑は、陽の光を薄衣のように纏っていた。
「今思えば、ガキの時に唯助がお化けだなんだと騒いでいたのも、ああいう手合いだったのかもしれないな」
「そんなことがあったの?」
「ああ。あいつ、そういうのに好かれやすい体質らしくて」
 八歳の頃から愛子になっていた唯助は、先天干渉者のおれ以上に譚を引き寄せやすい体質だ。しかし、おれたちは世間離れしていたのもあって、引き寄せているモノの正体が分からず、『お化け』と認識していたのだ。棚葉町でおっさんの世話になり始めてから、ようやくそれらが本になる前の譚や禁書の毒だったのだと気づいた。
 当時のおれはとにかく変なモノに好かれやすい唯助を守るために、それらを片っ端から殴り飛ばしていた。(お化けを物理的に殴っている時点でもう色々とおかしいことに気づくべきだという指摘は受け付ける。)ただ、もしあのお化けたちの中に、あの女の子のようなただ遊びたいだけの禁書がいたなら、少し可哀想なことをしていたのかもしれない。今更ながら、そう思ったのだ。
「禁書ってやっぱり人間から生まれてんだなぁ」
「どうしたの、唐突に」
「いや、あの子がリツと遊んでるの見てたら、弟や妹たちと遊んでたの思い出してさ。まあ、夏目家とはもう縁を切ってるんだけどな」
 禁書の女の子と和解(?)した後、リツはその子としばらく戯れていた。リツを人形のようにして着せ替えしたり、ままごとをしたり、西洋カルタで遊んだり。その時の光景が、夏目家にいた弟や妹たちと遊んでいた思い出と重なったのだ。
「おれ、棚葉町に来る前の譚は好きじゃなかったんだ。散々嫌な思いをしたし、唯助のことも傷つけちまった。でも、悪いことだけじゃなかった。弟や妹と戯れてた時は結構おれも楽しんでたなぁって」
 来る日も来る日も鍛錬ばかり、成長するにつれて娯楽は減る一方。不条理な跡目争いに、価値観の凝り固まった親戚連中。そんな嫌な譚が浮かび上がるから、いっそ無かったことにしたいとさえ思っていた。けれど、楽しい思い出が一切なかったわけではない。――それを思い出しただけで、憎むばかりだった自分の譚を、ほんの少し受け入れられたような気がした。
「譚本ならまだしも、禁書に感謝する日が来るなんて思わなかったな」
 禁書と言っても、元は人の譚から生まれた譚本だ。彼らの根源は人間と同じなのだ。そうでなければ、こんな懐かしい思い出を想起させられることもないだろう。良きにつけ、悪しきにつけ、禁書とは人の譚を写し出す鏡と言えるのかもしれない。
「それなら、私もあの子には感謝しないとね。私もあの子と遊んでいる時に、急に思い出したことがあるの」
「本当か!」
「多分、小さい時の記憶だから、曖昧なんだけど……」
 リツは頭の中を探るように、額に手を当てて答える。
「私、きっと姉がいたんだと思う。姉と遊んでいた時のことを思い出したの。向こうは私のことを『りっちゃん』って呼んでいたし、私も『姉さん』って呼んでいたから。姉さんの名前は思い出せないけど、でも間違いないと思う」
「おお、やったじゃん! じゃあ、もしかしたら姉ちゃんも、リツのことを探してるかもしれないってことだよな!」
「ええ。そうだとしたら、とても心配させているわね。きっと……」
 リツは首から提げたペンダントを握り締めて、どことも言えない遠い空を見ていた。その横顔は、晴れやかとは言い難いものだ。
 しかし、リツを保護してからはや三ヶ月、記憶に関する動きはこれまでほとんどなかったのだから、家族についての具体的な情報を思い出したのは収穫としてかなり大きい。
「なら、こっちからも探せばいいじゃねえか。灯堂っていう名前の女の人をさ。そしたら、リツの姉ちゃんに会えるかもしれないぜ?」
 何者かに襲われていたリツの事情を考慮すると、大々的に情報提供を求められないのが痛手ではある。けれど、『灯堂』なんて珍しい苗字を持つ女性はそうそういないだろうし、これだけでもかなり探しやすくなったはずだ。
「……そうね、前向きに考えましょう」
 リツも気を持ち直してくれたらしい。
 気づけば列車は畑道を抜け、うっすらと海の青が見えてきた。目的地はすぐそこだ。
「そろそろ駅に着く頃だし、降りる準備しようぜ」
 そう言いつつ、荷物が置いてある車両の中へ戻ったその直後だった。
「どうしてそれを持ってきたの!」
 車内の一角から、ヒステリックな女の叫び声が聞こえる。車両中に響く音量だったから、当然、そちらへ振り向いたのはおれたちだけではなかった。
 見れば、叫び声の主と思わしき女は、下を向いてじろっと何かを睨んでいる。その視線の先にいたのは、胸に抱いた何かを庇うようにして身を縮めている子供だった。
「そんなのろくな物じゃないんだから、捨てて来なさいって言ったでしょう!」
「で、でも、おっかぁ……あっ!」
 子供が必死に抱きかかえていた物を、母親が無理やり取り上げる。遠目から見えたそれは、西洋風の装丁をした絵譚本だった。表紙には見覚えのある金髪とワイン色の服を着た女の子が描かれている。
「待っ――」
 おれは思わずその親子に駆け寄ろうとしたが、リツが後ろから袖を掴んで引き戻した。
「お、おい、リツ!」
「落ち着きなさい、私たちが介入できる場面じゃないわ」
「けど……!」
 今にも泣きそうな顔で必死に本を取り返そうとしている子供を、黙って見ているなんてできない。あまりにあの子が可哀想だ。けれど、リツはおれの腕と肩をしっかり押さえて離さなかった。
「騒ぎになって乗客に顔を覚えられたら、旦那様に迷惑がかかってしまうわ。耐えて」
 リツの冷静な囁きに、はっと我に返る。同時に、本を取り上げた母親は、それをそのまま車窓から投げ捨ててしまった。
 あっ、と声が出そうになるのを、すんでのところで抑える。捨てられた本がどうなったのか、おれたちのいる位置からは分からない。けれど、大事な本が取り返しようのないところに行ってしまったのを見て、子供はついに声を上げて泣き出した。
 周りの大人は後味悪そうな顔で目を背けたり、憐憫の目を向けるなどしている。しかし、その中に声をかける者は誰一人としていなかった。無論、おれもその中の一人だった。

 *****

 早朝から甚だ嫌なものを見てしまった。しかも、よりにもよって本屋が軒を連ねる棚葉町へ行く前にだ。
 結局、列車を降りるその時まで、本を捨てられたあの子の泣き声がおれの頭から離れることはなかった。
「どう、渡せた?」
「おう、間に合った」
「そう。良かったわね」
 子供があまりに不憫でやきもきしていたおれの背中を、神様とやらはそっと押してくれたのかもしれない――泣いていたあの子は列車を降りるとき、持っていた巾着を落としたのだ。
 勿論、おれは巾着を拾い上げて、一も二もなくあの子を追いかけた。
「あの巾着袋になにかしていたみたいだけど、何をしたの」
「持ってたキャラメルを忍ばせてやった。やつが運良く残ってたんでな」
「泣いてないやつ?」
「越午じゃ飴が熱で溶けるのを『』って言うんだぜ」
「……泣いていたあの子への小粋なシャレってこと?」
「そこまで考えてねえよ。あの子がちょっとでも元気出せればいいなって思っただけ」
 こんなの越午の子供でも分かりにくいしな、と、おれは取り出した飴玉を指で弾く。空中に打ち上げられた飴玉を口でかぷっととらえると、水飴の甘さの後に、少し遅れて辛味が舌を刺激した。
「まだ飴を持ち歩いてたのね、貴方……」
薄荷ハッカ飴は何かと便利なんだ。喉に良いし、眠気覚ましにもなる。なんとなく気分も落ち着くしな。いるか?」
「遠慮するわ、薄荷は苦手なの。辛いし、口の中が冷たいし」
「まぁ、確かにそうだな」
 薄荷の鋭い香りが鼻に抜ける。朝の風を吸い込むと、確かに口の中が氷を含んだように冷たく感じた。
「いいことをした、なんて思ってる?」
 どこか軽い足取りでいたおれの胸を、リツは薄荷の香り以上に鋭い言葉でぶすりと突いてくる。
「……キャラメルを仕込んだのはおれの自己満足だよ。でも、
 リツからお説教をするときのような視線を感じたので、おれは毅然とした態度で答える。別に彼女と対立しようとしている訳ではないが、ここで素直に説教されたくなかったのだ。
「確かにあの子は可哀想だったけど、あのお母さんを悪者扱いするのは筋違いよ?」
「分かってるよ。あんたの言いたいことは」
 リツはおれの返答を意外に思ったらしく、僅かに驚いた顔をしていた。まあ、普段がガキっぽいおれが言ったのだから、そうなるのも無理からぬ話だろう。
 しかし、おれだってそこまで甘々な思考をしているわけではない。あの母親の本を捨てるという行為を間違っていると誹るつもりはおれにはないし、母親とておそらく子供のためにしたことなのだから、間違っているとは露ほども思っていないだろう。周りの大人たちもまた同じように考えたから、子供が可哀想だと感じても、親子の仲裁には入らなかったのだ。
「けどよ、譚本ってこうまで受け入れられないものなのかね」
 おれはリツの考えに一石を投じるつもりで、あえて問いかける。
「リツ。お前も、あんまり譚本をよく思わない方か?」
「……貴方から見れば、そうなのかもね。あの絵譚本に罪はないけれど、禁書化していたら少なからず怖いと思うもの。仮に私があのお母さんの立場だったとしても、同じようなことをしていたと思う」
「ふーん……」
「思うところがあるの?」
「人間と譚本が共存するのは、それほど難しいことなのか? って思ってる」
 おれは禁書の悪影響を受けにくい先天干渉者だから、この考え方は驕りといえるのかもしれない。
 世の中にはどうしようもなく危険な禁書という存在があるし、それらが人間に及ぼす影響もどれだけ脅威的なものなのか、それくらいは分かっているつもりだ。しかし、それでも。危険だからといって全ての譚本をひとからげに遠ざけてしまうことが、正しい対応だと言えるのだろうか。なんとか上手くやっていくことはできないものなのか。
 そんなおれの問いかけに、リツは難しい顔で返す。
「残念だけど、険しい道のりだと思うわ。譚本の出版社を興そうとしている旦那様の前では、口が裂けても言えないけれどね」
「……そっか」
 多くの人が犠牲になった藤禁事件、禁書回収部隊の第一隊長が殉職したとされる『羅刹女』の辻斬り事件を思い浮かべれば、おれよりもリツの意見の方が一般的と言えるだろう。これらの事件が起きたことで、譚本の評判は帝都を中心に悪くなる一方だ。現に、たまに上京して街を歩いていると、譚本に対する悪評もそれなりに耳にする。
「不愉快にさせてしまったかしら」
「いや、気にしてねえよ。答えさせたのはおれの方だし」
 かく言うおれ自身も譚本の禁書に惑わされて死にかけたことがある。だから世間一般が譚本に抱いている嫌悪感も、その理由も、分からないではない。
「ただ、この先はその価値観を表に出さない方がいい。棚葉町の住人の中には、譚本が好きな人も結構いるからさ」
 まして、おれたちが今から行くのは譚本専門の貸本屋・七本屋だ。店主のおっさんに至ってはただの譚本好きではなく、筋金入りの本の虫だ。あの変人の長説法なんてリツには堪えるだろうし、余計な刺激は避けるべきだ。
「……肝に銘じておくわ」
「おう。気ぃ遣わせて悪いな」
「いいえ、大事なことよ。忠告してくれてありがとう」
 リツは特に何ら感情のこもっていないような声で礼を言った。
 悪い意味でこんな表現をしたわけではない。リツはおそらく、人一倍冷静な女だ。ちょっとやそっとの刺激で感情を荒らげることはない。今のやり取りからしても、彼女が事実と感情をきちんと分けて考えているのが分かる。
「……あのさ、リツ。さっき、列車の中で止めてくれてありがとうな」
 先に歩き出そうとしていたリツは、ピタリと足を止めて、おれの顔をまじまじと見ていた。
「……おれ、なんか変なこと言った?」
「いえ、それにお礼を言われると思っていなかったから。てっきり、冷血女って思われているのかと」
「そこまで物わかりの悪いガキじゃねえよ」
 互いの思想の違いはさておき、あの場でリツが下した判断は正しかった。彼女の的確な判断に助けられたということは、おれも理解している。
 おれはどうにも感情を抑えるのが苦手だから、さっきの列車でのやり取りも、蒼樹郎さんに迷惑がかかるというところまで頭が回らなかったのだ。感情を刺激された時、そのまま体が動いてしまうのがおれの欠点だし、そこの手綱をリツはしっかりと持ってくれた。もし、おれがあの場で母親を止めていたら、顰蹙ひんしゅくを買ったのはおれの方だったかもしれないのだ。
「……やっぱり、私ももらっていいかしら。薄荷飴」
「え? でも、薄荷は苦手ってさっき言ってなかったか?」
「いいの。気分が落ち着くんでしょう?」
「まあ、そうだけど。じゃあ、はい」
「ありがとう」
 リツはおれの手から飴玉を受け取って口に含む。眉間に皺が寄ったのは、それから僅か一秒後だった。
「ゔっ」
「大丈夫か? 辛くて駄目そうなら吐き出してもいいぞ?」
 リツはおれの気遣いを拒むように、そのまま再び歩き出す。悶えながらも吐き出さないように口を押さえていたが、あれでは落ち着くどころか却って落ち着かなそうだ。
 ふと、リツの黒髪の隙間から彼女の耳が見える。ほんの少しだけ赤いような気がした。


 二章『童女遊戯』・了
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