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後日談
姉side
しおりを挟む「ホントに申し訳ございませんでした」
私は今、額を床につけて深く土下座をしている。
「謝って済むと思うなよ」
「でも!」
私は言い訳をしようと言葉を紡いだ。
「ん?」
しかし、私の言葉は目の前にいる弟に遮られ、紡がれることはなかった。
「イエ何も。ゴメンなさい⋯」
「まあまあ、落ち着いて拓真。お姉さんも悪気があったわけじゃ⋯」
「落ち着いていられるか!悪気も何も、この姉貴のせいで俺たちは別れることになっちまったんだぞ!」
目の前にいる私の弟は私に対して怒りを露わにしている。
「聞いてるのか、姉貴!」
「ハイ、すみませんでした」
私は謝ることしか出来なかった。
「ったく、俺ちょっと買い物行ってくるから姉貴はそこで反省しとけよ」
「何買うの?僕もついて行くよ」
弟の恋人である涼太くんが拓真に声をかけた。
「すぐそこのコンビニで買ってアイス買ってくるだけだから、ここで待っといて」
拓真は涼太くんの額にチュッとキスをして家を出て行った。
「何よもー。私と全然態度が違うじゃない!」
「ゴメンなさい。拓真が⋯」
涼太くんは顔を赤らめている。
「涼太くんが謝ることじゃないよ。それに私も悪かったと思ってるしさ。あの時は本当にごめんね、涼太くん」
私は軽くため息をついてあの時あったことを思い返した。
────
「あっ、あん、うぁッ」
「ほら、イけよ」
二人が行為を行っている声が聞こえる。
───壁越しに。
そう、私の部屋は拓真の隣にあるのだ。
初めてその声が聞こえた時には、私は歓喜した。
ずっと拓真から好きな子の話をきいて、応援していたからだ。
良かったね、拓真。
私は少し滲んだ涙を手で拭いながら、耳にヘッドホンをつけた。
流石に最中の声を聴いてはいられない。
何より、弟のヤッている声を聞きたくはない。
私は静かな世界でそっと目を閉じ、そのまま寝た。
それ以降も、家に帰ると拓真と相手がいてヤッていた。
私は部屋に荷物を置くなり直ぐに外へと暇を潰しに行った。
極力音を立てずに。
これが1ヶ月前までの話。
我が弟ながら若いなと思う。
よくそんなにもできるものだ。
拓真たちは平日ずっとしているのだ。
私が家に帰るともう声が聞こえる。
幸い、私たちの両親は共働きで帰りも遅い。
だから拓真も部屋に連れ込んでできるのだろう。
しかし、私が家にいることを忘れているのではないか。
私は自分の部屋で、スマホをスピーカーに繋ぎ音楽を流した。
もちろん、音量はマックスだ。
どうだ。これで、私がいると分かっただろう。
曲が終わったところで私は隣の部屋に耳を澄ました。
「アッ」
⋯⋯まだ聞こえる。
そんなにヤりたいというのか。
それに対抗して次はラジオ体操の音楽を流した。
たまには健全な運動をした方がいい。
曲が終わったところでまた耳を澄ませてみると⋯⋯
「アンッ」
⋯⋯これは、最終手段を使うしかない。
私は行為が終わるのを待ち、涼太くんが帰る時間を見計らった。
涼太くんが玄関から出ていくのを見て、私は彼を追いかけた。
「ねぇ、涼太くん、ちょっと話があるんだけど⋯」
私は涼太くんを喫茶店に誘った。
店で彼が席に座ったのを確認すると、私は話を切り出した。
「涼太くん、あなた拓真とは別れた方がいいわよ」
涼太くんは困惑を見せた。
「えっと……どうしてですか?」
「だってあの子浮気ばっかりしてるもの。この間も他の女の家に泊まって朝帰りしてきたのよ?信じらんない」
「そう、なんですね」
もちろん、全て嘘だ。
私はまだまだ言葉を紡ぐ。
「『あいつとセックスしたら気持ち良すぎて癖になりそうだ』とか、『あいつは俺がいなくちゃ生きていけないんだよ』とか……まるであなたが拓真の性欲処理係みたいじゃない」
「⋯⋯」
「とにかく、私はあんなクズみたいな弟を持った覚えはないわ。だから別れなさい」
涼太くんの顔は曇ってゆき次第に瞳が潤んでいた。
私は心が痛んだ。
流石に言い過ぎたかなと後悔が押し寄せる。
直ぐに嘘をついたことを謝ろうと思ったが、放心状態の涼太くんに話しかけることはできなかった。
そして、その次の日から拓真の部屋から二人の声が聞こえることはなかった。
計画は成功したといえるのだが、少しモヤモヤとしたのもが私の中に残った。
しかし、その後大学受験などで忙しくなりそんなモヤモヤを気にしている暇はなかった。
大学に入学するのを機に私は一人暮らしを始めた。
生活も落ち着いて、余裕ができた頃に拓真から連絡が来た。
珍しいな。拓真から連絡が来るなんて。
内容は明日私の家に来るということだった。
当日になり、家のチャイムが鳴った。
「久しぶり、拓真」
玄関を開けて、拓真に中に入ってもらおうと手招きをする。
拓真の後ろを見ると、涼太くんがいた。
「涼太くん⋯」
「お久しぶりです」
涼太は軽く会釈をする。
あの日以降涼太くんと会うことはなかったので、とても気まずい。
とりあえず2人には家の中に入ってもらい、カーペットが敷いてある、床に座ってもらった。
間には小さな机が挟まれてある。
2人がそろって、どうして私のところに来たのか。
理由は薄々分かっていた。
そして私は頭を床につけ土下座をした。
「ホントに申し訳ございませんでした」
そして冒頭に戻る。
涼太くんと2人きりになり、暫く無言が続いた。
静寂に終止符を打ったのは涼太くんだった。
「あの、どうしてあの日、僕にあんなことを言ったんですか」
涼太くんは、おそるおそると喋る。
「実は、ずっと二人の声が聞こえ続けて耐えられなくなったの⋯」
「⋯⋯声って?」
「してる声」
涼太くんは一気に顔を紅く染めた。
「な、な、⋯⋯」
涼太くんは口をぱくぱくさせる。
「き、聞こえていたんですか?!」
私は首を振り、こくりと頷く。
ガチャッとドアが開く音がした。
拓真が帰ってきたようだ。
「拓真は知ってたの?」
涼太くんは強張った顔で拓真にむかう。
拓真は突然涼太くんに責められて驚いている。
「何が?」
「その、僕たちのしてる声が聞こえてたって⋯」
「あー⋯」
拓真は露骨に目を泳がす。
どうやら拓真は、私が声を聞こえていたことに気付いていたみたいだ。
「⋯どうして、言わなかったの?」
「⋯お前とヤるのを止めたくなかったから」
「だからって、お姉さんに迷惑かけちゃうダメに決まってるでしょ!」
その通りだと思う。
「ごめんな、涼太」
「お姉さんに謝らないと」
「すまなかった、姉貴」
「本当にすみませんでした」
「いや、私の方こそ本当にごめん。私の言葉のせいで2人が別れちゃったわけだし⋯⋯」
「いえ、僕たちにも非があったと分かったことですし、もうこの件はなかったことにしましょう!」
「ありがとう!涼太くん!」
申し訳ない気持ちが残りつつも涼太くんが許してくれたことでだいぶ気持ちが軽くなった。
「涼太は優しいな。姉貴のことを許すなんて⋯」
「そもそもの原因は拓真がずっと盛ったことでしょ!僕はふつうにお家デートとかしたかったのに⋯⋯」
「涼太も喜んでじゃねーか」
拓真は涼太くんの口にキスをした。
そして、そのまま舌を入れ込み⋯⋯
「んん、た、くま、おね、さ、のまえで、、」
さすがに弟とその恋人のこんな姿はみたくないものだ。
「じゃ、私外出とくね。汚したら綺麗にもどしてね」
そう言って財布の入った鞄を持ち家を出た。
時間がかかりそうなので、ウィンドウショッピングでもして時間を潰そう。
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