9 / 13
9話
しおりを挟む
会長が全校生徒の前に立って選手宣誓をする。
そして大きな歓声とともに体育祭は開催された。
「先輩!」
「あ!響也!」
響也が俺のところに向かって走り出してくる。
「ずっと先輩いなくて、みんな暇してましたよー!」
「ごめんごめん、生徒会の仕事が忙しくてさー」
俺は手を合わせながら軽く謝る。
「まあ、しょうがないですけど。あれ?先輩目の下に隈できてないですか?」
「実は今日が楽しみでよく眠れなかったんだよねー」
「先輩もなんですね!僕も初めての体育祭で寝付けるのに時間かかりましたよ⋯!」
「響也ー!」
後ろから響也を呼ぶ声が聞こえた。
「あ、すみません先輩。そろそろ僕がする種目が始まるみたいなので行きますね!」
「応援するねー、響也!」
「先輩も頑張って下さい!応援してます!」
そのまま響也がいなくなるのを見届けると、俺は生徒会役員のテントの中に入って椅子に座った。
テントの中には俺以外の誰もいなかった。
テントから早速始まった競技の試合を観戦する。
一種目目は玉入れだった。
玉が一つ入っていくたびにみんなの応援の声がだんだんと大きくなる。
みんな笑顔で楽しそうだ。
頑張った甲斐があって俺は嬉しくなった。
俺もみんなと同じように全力で応援して、体育祭を楽しむ。
もう一種目目も終わり二種目目が始まる。
響也の番が来て、頑張って走っている姿を応援する。
その次に水樹も走る。
水樹は響也と同じ種目だったようだ。
二種目目も直ぐに終わった。
三種目目は今年は借り物競走をするようで、準備をしている。
毎年変わる面白い競技もこの体育祭の楽しみの一つだ。
因みに去年は3人で1組になり、フラフープの中に入って走るフラフープリレーだった。
準備が終わるのを待っていると俺のクラスの委員長から声がかかった。
急いだ様子で焦った表情をしていた。
「どうしたのー?」
俺は理由を聞いた。
「借り物競走に出るはずだったメンバーが一人、腹痛で出られなくなったんだ⋯⋯。だから渚、代わりに出てくれないか」
申し訳なさそうに頼んでくる。
個人競技ではどの種目にも出場しない俺しか頼む人がいなかったんだろう。
「分かった。俺が出るよー」
「ありがとう!渚、本当に助かる!」
「いいよー」
そう言いながら次の出場者たちが並ぶ場所へと案内された。
「じゃあここで待っておいてくれ。頑張れよ!」
「りょーかいー!」
運動場を見るとコースが整えられてきていた。
準備しているところを眺めて待っていると蓮と光希が来た。
「なんで渚がいるんだ⁉︎」
内心とても気不味いがいつも通りに接してみる。
「一人、体調不良で出られなくなって俺が代わりに出ることになったんだよー」
「蓮!俺、渚と同じチームは嫌だ!」
何言ってんの?
クラス同じだからしょうがないでしょ。
「じゃあ私と変わりますか?」
「えっ!いいの?ありがとう、蓮!」
「い、いえ。こんなことでいいのなら」
蓮が頬を赤らめながら答えている。
いやいや、勝手に何やってんの?
「これで渚に勝てるな!」
光希が俺に一瞥しながらふんっと鼻を鳴らす。
もう俺は無視することにした。
構うだけ無駄だしな。
「位置について、よーい⋯⋯」
手を地面につき右足を後ろに引く。
腰を上げてスタートの合図が聞こえて来るのを待つ。
「ドン!」
声が聞こえるとともに俺は走り出した。
スタートはいい感じだ。
後ろから走ってくる音が聞こえる。
途中の地点にあるカゴの中にはいくつか折りたたまれた紙が入っていて、俺はその中から一つを適当に引いた。
紙を開いて中に書かれていた文字を見る。
そこには『赤いコーン』と書かれていた。
俺は周りを見渡してその在処を探す。
割と直ぐ近くにあって、俺はその場所へと走り出した。
コーンを手に取りゴールへと一直線に向かう。
思っていたよりもコーンは大きくて持ちながら走るのは案外難しい。
もう少しでゴールに一着で着くところだった。
後ろを見るとものすごい勢いで誰かが光希を抱えて俺を抜かしゴールした。
俺もそれに続いてゴールした。
そして、光希を抱えて走っていたのは会長だった。
全員がゴールにつくとアナウンスが結果を読み上げ軽くインタビューをする。
「1位は成沢くん!どんなお題でしたか?」
「お題は生徒会長だった!案外簡単なお題だったな!」
「会長を相手に簡単とは中々の大物ですね!続いて2位の佐倉くん!お題は何でしたか?」
「俺は見ての通り赤いコーンだよー!いやー、勝てると思ったけど悔しいねー!」
「残念でしたね。では続いて3位の──⋯⋯」
三種目目が終わり一旦お昼休憩となった。
今日は外から沢山の人がきていて食堂が開いていないので、持参した弁当を校舎裏の隅っこで黙々と食べた。
周りには俺以外の誰もいないから久々に落ち着くことが出来た。
暖かく日差しに当てられて俺は段々と意識がボンヤリとしてきた。
少しぐらいいいかな。
ピンと張っていた糸が緩むように俺はゆっくりと眠りに落ちていった。
目を覚ますと俺はベッドに上で横たわっていた。
周りにはいつもの見慣れた俺の部屋が広がっていた。
俺、あのまま寝ちゃったのか。
「起きたのか、佐倉」
その声の主は委員長だった。
「なんで委員長がここに⋯⋯?」
「俺が佐倉を運んだからだ。部屋の鍵は寮長から貸してもらった」
「そうなんだー。ありがとう委員長」
「それより佐倉、これはどういうことだ?」
委員長は数枚のプリントを手に取りながら低い声で俺に問いかけた。
俺は慌てて委員長が手に持っていたプリントを取り返した。
「見た⋯⋯?」
俺は恐る恐る問いかける。
「ああ」
「ちゃんと持ち出しの許可は得てるよー?」
「そういう問題じゃないだろ!まさか佐倉は今日まで一人で全部の仕事をしていたのか?」
「いやー、まぁ⋯⋯うん⋯」
誤魔化す言葉を直ぐに見つけられず俺は素直に答えた。
「はあ⋯⋯」
委員長は小さくため息をついた。
今静かなこの場所ではその声が思っているよりも響く。
俺は委員長と目を合わせられず下に俯いたままだ。
「俺のせいなのか⋯?」
委員長は申し訳なさそうな声色で何故かそんなことを聞いてきた。
俺は顔を上げて委員長を見た。
委員長は眉を下げて表情さえも申し訳なさそうにしていた。
「そんなわけないだろ!」
俺はそんな表情をされるのが許せなくて思わず声を荒げた。
委員長は驚いた顔をした。
「委員長のせいじゃないよー」
俺は強く出てしまった言葉を取り繕うようにいつも通りに語尾を伸ばして言い直した。
「最近暇だったから、ついでにしただけだよー」
俺は笑顔をつくる。
苦しい言い訳だとは思うが、これぐらいしか言うことが思いつかなかった。
「ごめん⋯⋯。今日は佐倉も疲れているだろうから明日また話をさせてくれ」
委員長はそう言って部屋から出て行った。
「はあ⋯⋯」
部屋に一人残された俺は大きくため息をついた。
そして大きな歓声とともに体育祭は開催された。
「先輩!」
「あ!響也!」
響也が俺のところに向かって走り出してくる。
「ずっと先輩いなくて、みんな暇してましたよー!」
「ごめんごめん、生徒会の仕事が忙しくてさー」
俺は手を合わせながら軽く謝る。
「まあ、しょうがないですけど。あれ?先輩目の下に隈できてないですか?」
「実は今日が楽しみでよく眠れなかったんだよねー」
「先輩もなんですね!僕も初めての体育祭で寝付けるのに時間かかりましたよ⋯!」
「響也ー!」
後ろから響也を呼ぶ声が聞こえた。
「あ、すみません先輩。そろそろ僕がする種目が始まるみたいなので行きますね!」
「応援するねー、響也!」
「先輩も頑張って下さい!応援してます!」
そのまま響也がいなくなるのを見届けると、俺は生徒会役員のテントの中に入って椅子に座った。
テントの中には俺以外の誰もいなかった。
テントから早速始まった競技の試合を観戦する。
一種目目は玉入れだった。
玉が一つ入っていくたびにみんなの応援の声がだんだんと大きくなる。
みんな笑顔で楽しそうだ。
頑張った甲斐があって俺は嬉しくなった。
俺もみんなと同じように全力で応援して、体育祭を楽しむ。
もう一種目目も終わり二種目目が始まる。
響也の番が来て、頑張って走っている姿を応援する。
その次に水樹も走る。
水樹は響也と同じ種目だったようだ。
二種目目も直ぐに終わった。
三種目目は今年は借り物競走をするようで、準備をしている。
毎年変わる面白い競技もこの体育祭の楽しみの一つだ。
因みに去年は3人で1組になり、フラフープの中に入って走るフラフープリレーだった。
準備が終わるのを待っていると俺のクラスの委員長から声がかかった。
急いだ様子で焦った表情をしていた。
「どうしたのー?」
俺は理由を聞いた。
「借り物競走に出るはずだったメンバーが一人、腹痛で出られなくなったんだ⋯⋯。だから渚、代わりに出てくれないか」
申し訳なさそうに頼んでくる。
個人競技ではどの種目にも出場しない俺しか頼む人がいなかったんだろう。
「分かった。俺が出るよー」
「ありがとう!渚、本当に助かる!」
「いいよー」
そう言いながら次の出場者たちが並ぶ場所へと案内された。
「じゃあここで待っておいてくれ。頑張れよ!」
「りょーかいー!」
運動場を見るとコースが整えられてきていた。
準備しているところを眺めて待っていると蓮と光希が来た。
「なんで渚がいるんだ⁉︎」
内心とても気不味いがいつも通りに接してみる。
「一人、体調不良で出られなくなって俺が代わりに出ることになったんだよー」
「蓮!俺、渚と同じチームは嫌だ!」
何言ってんの?
クラス同じだからしょうがないでしょ。
「じゃあ私と変わりますか?」
「えっ!いいの?ありがとう、蓮!」
「い、いえ。こんなことでいいのなら」
蓮が頬を赤らめながら答えている。
いやいや、勝手に何やってんの?
「これで渚に勝てるな!」
光希が俺に一瞥しながらふんっと鼻を鳴らす。
もう俺は無視することにした。
構うだけ無駄だしな。
「位置について、よーい⋯⋯」
手を地面につき右足を後ろに引く。
腰を上げてスタートの合図が聞こえて来るのを待つ。
「ドン!」
声が聞こえるとともに俺は走り出した。
スタートはいい感じだ。
後ろから走ってくる音が聞こえる。
途中の地点にあるカゴの中にはいくつか折りたたまれた紙が入っていて、俺はその中から一つを適当に引いた。
紙を開いて中に書かれていた文字を見る。
そこには『赤いコーン』と書かれていた。
俺は周りを見渡してその在処を探す。
割と直ぐ近くにあって、俺はその場所へと走り出した。
コーンを手に取りゴールへと一直線に向かう。
思っていたよりもコーンは大きくて持ちながら走るのは案外難しい。
もう少しでゴールに一着で着くところだった。
後ろを見るとものすごい勢いで誰かが光希を抱えて俺を抜かしゴールした。
俺もそれに続いてゴールした。
そして、光希を抱えて走っていたのは会長だった。
全員がゴールにつくとアナウンスが結果を読み上げ軽くインタビューをする。
「1位は成沢くん!どんなお題でしたか?」
「お題は生徒会長だった!案外簡単なお題だったな!」
「会長を相手に簡単とは中々の大物ですね!続いて2位の佐倉くん!お題は何でしたか?」
「俺は見ての通り赤いコーンだよー!いやー、勝てると思ったけど悔しいねー!」
「残念でしたね。では続いて3位の──⋯⋯」
三種目目が終わり一旦お昼休憩となった。
今日は外から沢山の人がきていて食堂が開いていないので、持参した弁当を校舎裏の隅っこで黙々と食べた。
周りには俺以外の誰もいないから久々に落ち着くことが出来た。
暖かく日差しに当てられて俺は段々と意識がボンヤリとしてきた。
少しぐらいいいかな。
ピンと張っていた糸が緩むように俺はゆっくりと眠りに落ちていった。
目を覚ますと俺はベッドに上で横たわっていた。
周りにはいつもの見慣れた俺の部屋が広がっていた。
俺、あのまま寝ちゃったのか。
「起きたのか、佐倉」
その声の主は委員長だった。
「なんで委員長がここに⋯⋯?」
「俺が佐倉を運んだからだ。部屋の鍵は寮長から貸してもらった」
「そうなんだー。ありがとう委員長」
「それより佐倉、これはどういうことだ?」
委員長は数枚のプリントを手に取りながら低い声で俺に問いかけた。
俺は慌てて委員長が手に持っていたプリントを取り返した。
「見た⋯⋯?」
俺は恐る恐る問いかける。
「ああ」
「ちゃんと持ち出しの許可は得てるよー?」
「そういう問題じゃないだろ!まさか佐倉は今日まで一人で全部の仕事をしていたのか?」
「いやー、まぁ⋯⋯うん⋯」
誤魔化す言葉を直ぐに見つけられず俺は素直に答えた。
「はあ⋯⋯」
委員長は小さくため息をついた。
今静かなこの場所ではその声が思っているよりも響く。
俺は委員長と目を合わせられず下に俯いたままだ。
「俺のせいなのか⋯?」
委員長は申し訳なさそうな声色で何故かそんなことを聞いてきた。
俺は顔を上げて委員長を見た。
委員長は眉を下げて表情さえも申し訳なさそうにしていた。
「そんなわけないだろ!」
俺はそんな表情をされるのが許せなくて思わず声を荒げた。
委員長は驚いた顔をした。
「委員長のせいじゃないよー」
俺は強く出てしまった言葉を取り繕うようにいつも通りに語尾を伸ばして言い直した。
「最近暇だったから、ついでにしただけだよー」
俺は笑顔をつくる。
苦しい言い訳だとは思うが、これぐらいしか言うことが思いつかなかった。
「ごめん⋯⋯。今日は佐倉も疲れているだろうから明日また話をさせてくれ」
委員長はそう言って部屋から出て行った。
「はあ⋯⋯」
部屋に一人残された俺は大きくため息をついた。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
王道学園のモブ
四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。
私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。
そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~
白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。
そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!?
前世は嫌われもの。今世は愛されもの。
自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!!
****************
というようなものを書こうと思っています。
初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。
暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。
なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。
この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。
R15は保険です。
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
眠り姫
虹月
BL
そんな眠り姫を起こす王子様は、僕じゃない。
ただ眠ることが好きな凛月は、四月から全寮制の名門男子校、天彗学園に入学することになる。そこで待ち受けていたのは、色々な問題を抱えた男子生徒達。そんな男子生徒と関わり合い、凛月が与え、与えられたものとは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる