ずっと夢を

菜坂

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9話

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会長が全校生徒の前に立って選手宣誓をする。

そして大きな歓声とともに体育祭は開催された。


「先輩!」

「あ!響也!」

響也が俺のところに向かって走り出してくる。

「ずっと先輩いなくて、みんな暇してましたよー!」

「ごめんごめん、生徒会の仕事が忙しくてさー」

俺は手を合わせながら軽く謝る。

「まあ、しょうがないですけど。あれ?先輩目の下に隈できてないですか?」

「実は今日が楽しみでよく眠れなかったんだよねー」

「先輩もなんですね!僕も初めての体育祭で寝付けるのに時間かかりましたよ⋯!」

「響也ー!」

後ろから響也を呼ぶ声が聞こえた。

「あ、すみません先輩。そろそろ僕がする種目が始まるみたいなので行きますね!」

「応援するねー、響也!」

「先輩も頑張って下さい!応援してます!」

そのまま響也がいなくなるのを見届けると、俺は生徒会役員のテントの中に入って椅子に座った。

テントの中には俺以外の誰もいなかった。


テントから早速始まった競技の試合を観戦する。

一種目目は玉入れだった。

玉が一つ入っていくたびにみんなの応援の声がだんだんと大きくなる。

みんな笑顔で楽しそうだ。

頑張った甲斐があって俺は嬉しくなった。

俺もみんなと同じように全力で応援して、体育祭を楽しむ。

もう一種目目も終わり二種目目が始まる。
響也の番が来て、頑張って走っている姿を応援する。
その次に水樹も走る。

水樹は響也と同じ種目だったようだ。


二種目目も直ぐに終わった。

三種目目は今年は借り物競走をするようで、準備をしている。

毎年変わる面白い競技もこの体育祭の楽しみの一つだ。

因みに去年は3人で1組になり、フラフープの中に入って走るフラフープリレーだった。


準備が終わるのを待っていると俺のクラスの委員長から声がかかった。

急いだ様子で焦った表情をしていた。

「どうしたのー?」

俺は理由を聞いた。

「借り物競走に出るはずだったメンバーが一人、腹痛で出られなくなったんだ⋯⋯。だから渚、代わりに出てくれないか」

申し訳なさそうに頼んでくる。

個人競技ではどの種目にも出場しない俺しか頼む人がいなかったんだろう。

「分かった。俺が出るよー」

「ありがとう!渚、本当に助かる!」

「いいよー」

そう言いながら次の出場者たちが並ぶ場所へと案内された。

「じゃあここで待っておいてくれ。頑張れよ!」

「りょーかいー!」

運動場を見るとコースが整えられてきていた。

準備しているところを眺めて待っていると蓮と光希が来た。

「なんで渚がいるんだ⁉︎」

内心とても気不味いがいつも通りに接してみる。

「一人、体調不良で出られなくなって俺が代わりに出ることになったんだよー」

「蓮!俺、渚と同じチームは嫌だ!」

何言ってんの?
クラス同じだからしょうがないでしょ。

「じゃあ私と変わりますか?」

「えっ!いいの?ありがとう、蓮!」

「い、いえ。こんなことでいいのなら」

蓮が頬を赤らめながら答えている。

いやいや、勝手に何やってんの?

「これで渚に勝てるな!」

光希が俺に一瞥しながらふんっと鼻を鳴らす。

もう俺は無視することにした。

構うだけ無駄だしな。


「位置について、よーい⋯⋯」

手を地面につき右足を後ろに引く。
腰を上げてスタートの合図が聞こえて来るのを待つ。

「ドン!」

声が聞こえるとともに俺は走り出した。

スタートはいい感じだ。

後ろから走ってくる音が聞こえる。

途中の地点にあるカゴの中にはいくつか折りたたまれた紙が入っていて、俺はその中から一つを適当に引いた。

紙を開いて中に書かれていた文字を見る。

そこには『赤いコーン』と書かれていた。

俺は周りを見渡してその在処を探す。

割と直ぐ近くにあって、俺はその場所へと走り出した。

コーンを手に取りゴールへと一直線に向かう。

思っていたよりもコーンは大きくて持ちながら走るのは案外難しい。

もう少しでゴールに一着で着くところだった。

後ろを見るとものすごい勢いで誰かが光希を抱えて俺を抜かしゴールした。

俺もそれに続いてゴールした。

そして、光希を抱えて走っていたのは会長だった。

全員がゴールにつくとアナウンスが結果を読み上げ軽くインタビューをする。

「1位は成沢くん!どんなお題でしたか?」

「お題は生徒会長だった!案外簡単なお題だったな!」

「会長を相手に簡単とは中々の大物ですね!続いて2位の佐倉くん!お題は何でしたか?」

「俺は見ての通り赤いコーンだよー!いやー、勝てると思ったけど悔しいねー!」

「残念でしたね。では続いて3位の──⋯⋯」


三種目目が終わり一旦お昼休憩となった。

今日は外から沢山の人がきていて食堂が開いていないので、持参した弁当を校舎裏の隅っこで黙々と食べた。

周りには俺以外の誰もいないから久々に落ち着くことが出来た。


暖かく日差しに当てられて俺は段々と意識がボンヤリとしてきた。

少しぐらいいいかな。

ピンと張っていた糸が緩むように俺はゆっくりと眠りに落ちていった。





目を覚ますと俺はベッドに上で横たわっていた。

周りにはいつもの見慣れた俺の部屋が広がっていた。

俺、あのまま寝ちゃったのか。

「起きたのか、佐倉」

その声の主は委員長だった。

「なんで委員長がここに⋯⋯?」

「俺が佐倉を運んだからだ。部屋の鍵は寮長から貸してもらった」

「そうなんだー。ありがとう委員長」

「それより佐倉、これはどういうことだ?」

委員長は数枚のプリントを手に取りながら低い声で俺に問いかけた。

俺は慌てて委員長が手に持っていたプリントを取り返した。

「見た⋯⋯?」

俺は恐る恐る問いかける。

「ああ」

「ちゃんと持ち出しの許可は得てるよー?」

「そういう問題じゃないだろ!まさか佐倉は今日まで一人で全部の仕事をしていたのか?」

「いやー、まぁ⋯⋯うん⋯」

誤魔化す言葉を直ぐに見つけられず俺は素直に答えた。

「はあ⋯⋯」

委員長は小さくため息をついた。

今静かなこの場所ではその声が思っているよりも響く。

俺は委員長と目を合わせられず下に俯いたままだ。

「俺のせいなのか⋯?」

委員長は申し訳なさそうな声色で何故かそんなことを聞いてきた。

俺は顔を上げて委員長を見た。

委員長は眉を下げて表情さえも申し訳なさそうにしていた。

「そんなわけないだろ!」

俺はそんな表情をされるのが許せなくて思わず声を荒げた。

委員長は驚いた顔をした。

「委員長のせいじゃないよー」

俺は強く出てしまった言葉を取り繕うようにいつも通りに語尾を伸ばして言い直した。

「最近暇だったから、ついでにしただけだよー」

俺は笑顔をつくる。

苦しい言い訳だとは思うが、これぐらいしか言うことが思いつかなかった。

「ごめん⋯⋯。今日は佐倉も疲れているだろうから明日また話をさせてくれ」

委員長はそう言って部屋から出て行った。

「はあ⋯⋯」

部屋に一人残された俺は大きくため息をついた。




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