ずっと夢を

菜坂

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2話

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ふと思い出した。 

前世のことを。

「⋯⋯せんぱい!佐倉先輩!聞いてますか⁉︎」

俺の名前を呼ぶ声が聞こえて現実へと意識が戻る。

「う、うん。ごめんごめんー。聞いてる」

「じゃあ、今僕が言ったこともう一回言ってみて下さい」

「⋯⋯え、えーと。今日の運勢はかに座が良かった?」

「全然違いますよ!しょうがないですね。もう一回だけ言いますよ!実は明日、転校生が来るらしいんですよ!この学園に!」

「転校生?」

「そうらしいんですよ。珍しいですよね。こんな時期に転入してくるなんて」

「そうだねー」

軽く返事をする。

「それより先輩、このあとの放課後暇ですか?」

小さな声で俺に聞いてくる。

「ごめんねー?今日はちょっと忙しいから無理かな」

色々頭の中整理したいし。

「⋯⋯そうですよね!先輩は生徒会役員で忙しいんですし。なんかすみません」

「んーん。全然いいよ。何か用があった?」

「いえ、何も。ただみんなで遊びたかっただけなので!」

「よし、じゃあそろそろ失礼するね」

そう言い残し俺はその場から去った。


そしてそのまま生徒会室へと向かった。

ガラガラとドアを開ける。

「お疲れ様ー!」

目の前には静かに仕事をしている生徒会長と優雅にお茶を飲む副会長の蓮。
そしてお菓子を一緒に食べている双子の庶務がいた。

ここにいるメンバー以外に書記がいるが今はいないようだ。

「相変わらず忙しそうだねー。会長は」

俺はそう言いながら席について机の上にあったお菓子を手に取る。

このお菓子は生徒会の経費から降りている。

「今日のもおいしそう」

そのまま口に持っていく。

「ありがとうございます。今日はダージリンティーなので、バームクーヘンを用意しました」

「どうしたの?今日はめっちゃ気分良さそうじゃん」

「そう見えますか?」

「それはねー!今日副会長は恋しちゃったんだよ!」

「そうなんだよ!転校生に惚れちゃったんだよ!」

双子が分かりやすく僕に理由を教えてくれた。

「えっ?まじで?詳しく聞かせてよ!蓮!」

「その、門に転校生を迎えに行ったとき彼に言われた言葉がどうも頭から離れなくて⋯⋯」

蓮は頬を火照らせながら話す。

「で?何言われたの?」

「僕の前では笑わなくていいよ、と」

「⋯⋯え」

どこかで聞いたことがある台詞。

「どうかしましたか?」

「い、いや、なんでもないよ。それにしてもあの蓮が恋に落ちたのかー。応援するな!」

「ありがとうございます」

「じゃあ、ちょっとしたいことあるからもう帰るなー」

「分かりました」

そのまま僕俺は生徒会室を出て寮にある自分の部屋へと向かった。

部屋につき、俺はベッドの上に座り込んだ。


⋯⋯やっぱり、小説の中の世界だよな。ここは⋯⋯。

『舞ノ沢学園~僕と生徒会』

兄の部屋にあった小説だ。

前世の俺は冒頭部分しか読まなかったようだけど。

その表紙にあったイラストには僕含め生徒会のメンバーと転校生の姿が描かれていた。

そして、裏表紙には誰かと転校生が手を繋いでいる絵があった。


にしても、前世の僕と今の俺全然性格が違うな。

自分で言うが俺はかなりチャラい方だと思っている。

髪は染めていて金髪だし、耳には合わせて3つもピアスがついている。
それに加えて面倒くさがり屋だ。

に対して前世の僕はきっちりした真面目なタイプだった。
⋯⋯優秀な兄に近づきたいという思いもあっただろうけど。

「奏兄⋯⋯」

⋯⋯!今俺は何を⋯⋯。

自分でも無意識のうちに前世の兄、いや最愛の人の名を呟いていた。

⋯⋯生まれ変わっても奏兄への思いは変わらなかったんだな。

そう思った。

奏兄も俺みたいにこの世界に生まれ変わってないかなー⋯⋯。

そうありもしないことを心の中で願った。




───────

教室のドアを開けて自分の席に座った。

「珍しいな、佐倉が教室に来るなんて」

クラスメイトが話しかけてきた。

「いや、ちょっとは顔を出そうと思ってさー」

「そうなんだ。まぁいつも来てくれたっていいんだけどな!じゃあ席に戻るな」

生徒会に入っていると、授業は出なくてもいい。出ても良いが。
面倒くさがり屋の俺が生徒会に入った大きな理由だ。

チャイムがなり、担任の先生が教室のドアを開けて入ってきた。

先生は生徒たちから親しみを込めて「ヤマセン」と呼ばれている。
本名は佐山茂信さやましげのぶというごつい名前のくせして、見た目はキラキラしたホストみたいなちぐはぐな教師である。

因みに俺の入っている生徒会の顧問でもある。



ヤマセンと一緒に一人の生徒も入ってくる。
「転入生を紹介するぞー。ほら自己紹介しろー」

「はじめまして!成沢光希です!みつきって呼んで下さい!よろしくお願いします!」

パチパチと拍手が鳴った。

転校生はやっぱりあの小説の表紙と同じ姿をしていた。

ボサボサとした黒い髪に大きな眼鏡をかけている。

やっぱ絶対あれカツラだろ。

あんなにボサボサとした髪は見たことがない。

「よし、じゃあ席は──あそこだ」

そう言ってヤマセンが指した指の先は俺の隣の空いている席だった。

「よろしく!」

転校生は隣にいた俺に大きな声で言った。

「おー!早速仲良いな!折角だから佐倉、この学校を案内してやれ!」

「えー」

面倒くさい。

あとなんか関わりたくない。

「ありがとう!佐倉!下の名前はなんて言うんだ?」

なんか勝手に感謝してるし⋯⋯

「俺は佐倉渚さくらなぎさ。こっちもよろしくー」

「分かった!じゃあ渚って呼んでいいか?」

なんか俺に対して馴れ馴れしいな。
見た目がチャラいからか?

「好きに呼んでいいよー」

「分かった!渚!僕もみつきって呼んでいいよ!」

「おっけーおっけー光希」
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