ずっと夢を

菜坂

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1話

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ずっと夢を見ていたい。
そう思っている。
だってそこには君がいるから。


─────



「ねぇ、奏兄そうにいそろそろ僕たちのことお母さんたちに話そうよ」

「そうだね、そろそろなのかな⋯⋯」

「うん、それにずっと隠し続けのも裏切ってるみたいで⋯⋯」

「⋯⋯よし、じゃあ明日話すか!」

「ありがとう!奏兄」





────その翌日兄は不慮の事故で亡くなった。



心にぽっかりと大きな穴が空いたようだった。

兄の葬式が終わった後も魂が抜けたような感覚のままだ。

「ねぇ、話ってなんだったの?」

母が僕に問いかける。

「昨日奏ちゃんと一緒に話があるって言ってたじゃない」

母の声は少し震えている。

「なんでもないよ」

僕はそう答えた。



──────



さくちゃん、そろそろ学校に行きなさいよ」

奏兄が亡くなってそろそろ1ヶ月が経つ。

あの日以来僕は何をするにも活力が湧かず、ずっと自分の部屋に引きこもっていた。

「そういえば奏ちゃんの部屋片付けようと思うけど何か残しておいて欲しいものとか咲ちゃんのものとかある?確認しといてね」

「分かった」

僕は奏兄の部屋に早速向かった。

部屋に入って早速目につくのはベッドだった。

僕はベッドに入って寝転んだ。
少しだけ奏兄の香りを感じる。

落ち着く匂いだ。

そのまま僕はいつのまにか眠りに落ちていた。


─────


「ふわぁ」

目が覚めた。

辺りを軽く見回す。
いつもと違う景色だ。

そういえばあのまま寝ちゃったのか。

目線を本棚にやるとある小説のタイトルが目についた。

『舞ノ沢学園~僕と生徒会~』

何だこれは。

その小説を手に取る。

珍しいな。
奏兄がこんな小説を読んでいたなんて。

僕は自分の部屋に戻ってその小説を読み始めた。





─────


僕は成沢光希なるさわみつき
今日、僕はこの舞ノ沢学園に転入する。

「ふう」

僕は緊張でバクバクした胸を落ち着かせるために大きく一息吐いた。

「よし!いくぞ!」

覚悟を決めて僕は門に手をかけた。

「あれ?開かない!」

ぐっと力を精一杯いれて門を引っ張っても開かなかった。

「⋯⋯どうしよう」

この高さなら⋯⋯

登れるかな?

「よいしょっ、あとちょっと」

門の上に手をかけ身体を引っ張る。

よし、いけそうだ。

「うわっ」

少し気が抜けてバランスを崩した。
そのまま僕の身体は地面に叩きつけられた。

⋯⋯はずだった。



⋯⋯あれ?痛くない?

僕は受けるはずだった衝撃を感じなかった。
そっと目を開けた。

「大丈夫ですか?」

僕は、今声をかけてくれた人に横抱きで受け止められていた。

「う、うわあぁぁ」

僕は驚いて、叫んだ。

「すみません、直ぐ下ろしますね」

「ごめんなさい、ありがとうございました!」

僕を助けてくれた人は綺麗な笑顔のまま僕を優しく下ろしてくれた。

「いえ、こちらこそすみませんでした。あなたは、転校生ですよね?」

「はい!成沢光希です!みつきって呼んで下さい!」

「私は副会長の野崎蓮のざきれんです。裏門にいると聞いていたのですがいなかったのでどこにいるかと思い、探しました。正門と間違えたようですね」

「裏門?そーいえばそー言われたような⋯。ごめんなさい!間違えちゃいました!」

「まあいいです。転校初日で分からなかったでしょうし。しょうがないです。まずは、職員室へ案内します。ついて来て下さい」

そのまま僕は副会長と一緒に歩き出した。

それよりずっと気になっていることがある。

「蓮って呼んでもいいですか?」

「はい。構いません。同学年ですので敬語も使わなくて構いませんよ」

「ありがとう!蓮!あと、ちょっと質問あるけどいい?」

「はい。大丈夫です。聞きたいことがあれば気軽に聞いてください」

「なんで、蓮はずっとハリボテの笑顔のままでいるの?僕の前ではそんな表情してなくてもいいよ!」

「⋯⋯それは⋯そうですね。そうします」

蓮がそう言った直後僕の唇に何かがあたった。

そして、目の前には蓮の綺麗な顔があった。

「⋯⋯え?」

「すみません。つい。さぁ行きますよ」

蓮はハリボテじゃない綺麗な笑顔でそう言って僕の手を引いた。

「⋯⋯え?」

僕はその言葉しか出てこなかった。



─────



パタンと僕は本を閉じた。

何これ?

主人公はいきなり人の言われたくないようなこと言うし、副会長ってやつもいきなりキスとかするし。

これ以上の続きを僕には読む気がなかった。

それにしてもこれ、BL小説だよな?
奏兄が読んでるとは驚いた。

僕にはまだまだ奏兄の知らないこといっぱいあったんだな⋯⋯。

「はぁ」

と僕はため息をついた。

奏兄を思い出すだけで胸が苦しくなる。

これでも前までは直ぐに泣いていたから少しは落ち着いてきたんだな。と実感する。


「咲ちゃん、ご飯できたよ!」

その言葉を聞いて僕は一階のリビングへと降りていった。



明日からちゃんと学校行くか。そう思った。



その日の夜夢を見た。

奏兄がいる夢。

『好きだよ。咲』

そう言って欲しい人はもうどこにもいない。

『僕も奏兄がすきだよ』

『ありがとう。でも俺の方が好きかな』

『僕の方が好き!』

『そうだね、じゃあどっちも好き』

『うん!』


「好き」

無意識に小さく口からでたその言葉。

でももう届かない。



─────



「じゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃい」

そう母と挨拶を交わし僕は家を出た。


久しぶりに学校に行く。

勉強ついていけるかな?

そんな不安を募らせつつ僕は道路を渡り学校へと向かった。


キィーー


車のブレーキ音が聞こえた。

その直後ドンッと何かと何かがぶつかる鈍い音が鳴った。

そのまま僕の意識はなくなった。
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