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7章 普通の勇者とハーレム勇者

押し付け

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殺伐としていた王国と聖王国の対談は、賢者オーティスの機転でどうにか仕切り直すことができた。

アルマス2とネリー第一王女。
口が悪く、勝気でキツイ性格の二人──そんな者同士が代表としてぶつかったのだから、この場が荒れに荒れたのは必然だったのかも知れない。


「……良かった」

呟いたのは聖王国の騎士ランスロット。
状況が落ち着き、この場で最も安心して胸を撫で下ろすことが出来たのは、このランスロットである。
客人として出向いた立場で騒動を起こし、それが原因で成果を得られなかったとなれば、自身をアルマス2の目付役として送り出してくれたヤン老師に面目が立たなくなってしまう所だった。
彼がこの中で一番まともだ……クズだが。



「では、会議を仕切り直したいと思う……宜しいですかな?」

「う、うん……」

偉そうな初老の貴族が一人の少年に声を掛けた。
ネリーに代わり、これからはその少年が王国側の中心人物となる。


──その人物こそ日本出身の男子高校生・松本孝志17歳。彼がラクスール王国の代表に抜擢された。

オーティスの思い付いた作戦とは、先の王国決戦でラクスール側から絶大の信頼を得ている孝志に場を委ねること……ネリーにこのまま任せるより遥かにマシだと判断したようだ。

無論そんな提案、いくら勇者とはいえ本来であれば受け入れられる筈はない……しかし、カルマを打ち破り王国を救った功績はあまりにも大きく、特に王宮内での評判は非常に良い。故に誰も反対などしなかった。


当然、それでも本人はそんな大役務まらない、無理だと断っている。

それも必死で──

──しかしアリアンを中心に孝志への信頼が無駄なほど厚く『孝志なら大丈夫』と言って聞いてくれない。
孝志を抜擢したオーティスはもちろん、奥本美咲も、ましてやネリー王女までもがツンデレっぽい感じで賛同してしまっていた。


………


………


──嫌な予感はやっぱり的中しやがった……
オーティスの野郎が思い付いた提案は、俺にこの会議を任せる事だった……ふざけやがって……もぉ~……

さっきまでの騒々しい雰囲気は無くなったけど、この鎮静化は生贄によって成り立つのだ……そう、僕という可哀想な生贄でね……オーティスの野郎マジで覚えてとけよ。
助けてくれた恩があるから一目置いてたのに……許せない。でもあの時は助けてくれてありがとう。


「松本孝志……何か困った事があっても、私に聞いて頂戴ね?ふん……期待してるわよ?」

ネリー王女が赤い顔をしながら激励?の言葉を掛けてくれる。本当にビンタされた時とは別人だ。ぶっちゃけ今は好感が持てたりする。


「あ、どうも」

「ふ、ふんっ」

また、ネリー王女が発言した通り、俺の補佐を彼女が務める事になった。
それなら王女がやれと思うかもしれないが、向こうの偽アルマスとの相性がトコトン悪いらしく、ネリー王女が取り仕切ろうものなら狂犬の如く勢いで噛み付かれてしまうのだ。


「やっぱりイカれてるよな、この国……」

この世界に来て頭おかしい出来事には絶え間なく遭遇して来たが、この状況が今までで一番酷い。

だって俺単なる男子高校生だぜ?そんな人間に国同士の話し合いを任せるか?事件だぞこれ。
そもそも俺に外交とか出来ない、この国の事とか全然知らないし……解ってる事といえばラクスールの民の頭がヤバイってこと位だ。

──孝志は今一度、相手側を確認する。
向こうはアルマスのそっくりさんと、幸薄そうな美幼女と、強そうな騎士の三人だけ。


(国王さん、マリア王女、ブローノ王子……あとはユリウスさんが居れば、全力で止めてくれたんだろうけど、生憎この場には倫理観の欠如しか人間した居なかったらしい)

周りを見渡してもラクスール王国側でまともそうなのは、権力を持たないメイドくらい……後は変人三人と大嫌いな女が一人だ。頼れそうな人物すら居ない。
そもそも孝志は集まり事の幹事や、発表で人前に立つのが好きではない。始まる前から気が滅入っていた。


(まぁそうだな……早い話、こうなったのは俺のミスだ。大変そうだからと着いて行くべきではなかったな。あそこでコーヒーを飲みながら寛いでるべきだった……痛恨の失態だわ、マジで)



──俺とネリー王女は二人並んで大きめのソファーに座り、真後ろにアリアンさんとオーティスさんが立っている……この二人は何かあった時の護衛だ。そして奥本はメイド達と同じく、後方付近に退避させられている。

そして対面に聖王国の使者だ。
偽アルマスと小学生くらいの女の子が同じような感じのソファーに座り、白い甲冑を身に付けた爽やかな騎士がその二人の後ろに控えている。

それが室内の風景だ。


………


………


……あれ?皆が俺に注目してるけど、もう始まってるのか……!?始まりの合図くらいしてくれよ……あと失敗しても怒らないでね?


「聖王国からお越し頂きまして、ありがとうございました……本日はどのようなご用件で?」

とりあえず、俺は向こうの要求を確認する事にした。ある程度の要求なら聞き入れるつもりで居る。
嫌がってたのを強引に任せたんだから、変な要求受け入れちゃっても文句言わせないからな?


「ふん、まともな奴が出てきたじゃない……そうよ、そうやって謙ってればいいのよっ!」

偽アルマスうぜぇ……態度も腕を組みながらだし、聖王国って神々しい名前の割りに教養のない国なんだな……まぁアレを使者にするくらいだし当然か。
俺の場合は煽られるのには慣れてるから大丈夫だけど、ネリー王女だったらキレてもおかしくはない。
それくらい酷い、酷すぎる。

やっぱり面倒そうな相手だし、予定通り適当に要求を呑んで話を終わらせるか……それで王国側が不利になろうが、かまへんかまへん。

「なんなりとお申し付け下さい。何でも差し上げましょう……!この松本孝志がねっ!」

「話が早くて助かるわ──私達の要求はただ一つ……アルティメット・マスターズ・スペシャルの引き渡しよ」

「なるほどそう来たか」


──まさかの要求に唖然とする孝志。
そんな彼を他所に、隣で大人しく話を聞いていたネリー王女が、怒りに満ちた表情で立ち上がった。


「だからっ!そんな良く分からないスペシャル、知らないと申してるでしょ!?」

「はっ!何を言ってるのっ!街中で透明化できる魔族に襲われてた映像を確認したのよっ!それは間違いなくアルティメット・マスターズ・スペシャルよっ!」

「………」

そうか……あの事件がキッカケか……アルマスが見つかった原因も俺じゃん。て事はつまり?この状況は俺が招いたのか?

……まさかオーティスさんの提案で自分のケツを拭く事になるとは……そうとは知らずオーティスの野郎呼ばわりしてすいません。
面倒な事を押し付けられたんじゃなくて、普通に俺の客だったわ。


──孝志が反省している中、二人の口論は激しさを増して行く。


「だから知らないわよっ!もう国へ帰りなさいっ!そして二度と敷居を跨ぐんじゃないわよっ!」

「何ですってぇ~?癇癪起こすんじゃないわよっ!この貧乳っ!!」

「ヌォオッッ………がはっ……ひ、貧乳ぅ~……き、気にしてる事を……あぁ……」

あ、ネリー王女ダメージ食らってる。
あの手の文句には弱いのね。


「松本孝志……後は任せなさい……」

「え?任せろってことで良いの?」

ネリーはそれに黙って頷いた。相変わらずの言語障害だがもう孝志は突っ込まなかった。

偽アルマスの隣にいる幼女は何かに怯えた様子でずっと黙っており、その後ろの騎士も立場上発言する事は出来ないみたいだ。こちら側のアリアンさんとオーティスさんも然り。
つまり、偽アルマスとの一騎打ちとなる。


「えっとぉ……あるてぃめっとますたーずすぺぃしゃる?」

精一杯惚けてみせる。その名前には心当たりしかないけど、絶対に言わない方が良い。
俺の発音が気に障ったのか、偽アルマスは怒りで顔を真っ赤にする。

「アルティメット・マスターズ・スペシャルよっ!何そのふざけた発音はっ!」

「すいません。でも全く聞き覚えのない言葉でして」

「そんな筈ないでしょ?!」

「ほ、ほんとなんですよっ!そんなマスターズ知らないですし、関わった事もないですしっ!本当に1ミリ足りとも心当たりが有りません……だいたい何すかそれ?変な名前だなぁ!!」

「……………変な名前って言い方が気になるけど、ほんとに知らなさそうね……」

「……ツヴァイ、もう帰ろ?映像が残ってるから見間違いじゃないとは思うけど、代表の人がアレだけ知らないって言うんだから、きっと王宮の人達とは関係ないんだよ」

「そうか……しら……?」

「うん、あれで嘘だったらランスロット並の屑だよっ!」

「そ、そうよね」

「言い過ぎですよ二人とも」

ランスロットの抗議を無視し、ツヴァイとフローラは話を進める。フローラの場合はアリアンが怖くて単に帰りたいだけだが、アルマス2は孝志の熱意に揺らぎ始めている……案外素直な性格なのだ。


「………おっ」

なんか良い流れだぞ。俺の迫真の演技力で完全に騙されてるぜっ!!

いやあんな演技信じるなよ……純粋馬鹿かな?


「王宮に居るという考えは早とちりだったのかしら?」

このアルマス2の呟きにネリーが反応をみせる。

「いや、早とちりで済むと思ってるの!?此方が嘘を言ってると決め付けた高圧的な態度、今すぐ謝りなさいよ!!」

今のネリーの言葉にその場の全員が頷いた。
しかし、誰もが『お前が言うな』とも思った。

ただ、そう言われても謝るのは嫌らしく、アルマス2は何度も首を横に振る。彼女は宮殿で大事に扱われて来た……その所為でプライドが高く、謝ることに死ぬほど抵抗があるようだ。


「い、嫌よ……!」

「ツヴァイ……流石に謝ろう?」

「グググッ……!」

「アルティメット・マスターズ・スペシャル2様……やはり謝罪しましょう!」

「いやさっき謝らなかったアンタには言われたくないから、死ねクソが」

「……ですよね。さっきからもう酷い」


──それから5分ほど使者の三人は話し合った。
会議中に身内同士で話し合うなど、マナー違反以前の問題だが彼女等に関しては最早何も言うまい。そしてランスロットはそれに付き合わされる。

……そして話し合いの末、アルマス2は嫌そうに立ち上がり、歯軋りは立てながら頭を下げた。


「……わ、悪かったわ……」

「わかれば良いのよ、分かれば……!!おーほほほほっっ!!」

貧乳と言われた腹いせか……ネリーは謝罪するアルマス2を見て高らかに笑う。


「ぐぬぬ……!」

「あ、ネリー王女……あまり煽らないで……」

だって本当は全部知ってるんだもん。
怒りで肩を震わしながら頭を垂れてるけど、本当は謝る必要ないんだから……だって嘘ついてるの俺だからね。


……まぁいいか。
この話は墓場まで持って行こう……どうせこれからおばあちゃんの城で裕福にひっそりと暮らすし、今を乗り切れば如何とでもなるだろう。聖王国とも関わらなければ良いし。


──こうして、全てが丸く収まった……



ように思えた……


まさにその時だった──


──部屋の入り口付近が急に騒がしくなり始める。
皆が注目する相手を、アルマス2から部屋の入り口へと変えた。


「……アリアン嬢……知らない気配が二人……そして一つはかなり大きいぞ……」

「ああ、わかってる」

孝志達に気付かれないよう静かに、アリアンとオーティスは戦闘体制を整える。それはランスロットも同じだった。

……そして兵士達が制止する声も聞かず、その相手は勢いよくドアを開け放つ。



「──孝志ぃ~~!!会いたかったぁ~!!一日も会えないなんて辛くて死にそうだったよぉ~!!すきすきチュッチュッ!!」

「……………」

目が合った瞬間、思いっきり抱き着いて来た女を孝志は黙って受け止める。そして続くように残った一人もこの場に顔を覗かせた。

「ごめんね~孝志ちゃ~ん!!アルマスが今すぐ会いたいって聞かなくてぇ~……貴方の部屋で待てなかったみたいなのぉ~どんだけ~!」

「……アルマス……アレクセイさん……」

「アルマス嬢……それに……ミスターアレクレイ……」

「何故此処に?!それに気配が……」

「あらん?オーティスとアリアンも久しぶりなんだけどぉ~!うれしぃ~いぃ~!!」

相手は孝志の良く知ってる人物達でアリアンとオーティスも面識がある相手……ただ、何らかの方法で気配を変えていた為、その姿を観るまでアリアンとオーティスは正体を見破れなかったらしい。


──二人に会えたのは嬉しい……嬉しいけど……もっと落ち着いた時に会いたかった……だって……アルマスが登場した所為で俺の嘘がバレた。
頭まで下げさせたというのに……いやもう怖すぎて偽アルマスを見る事が出来ない。

だって……めっちゃ殺気飛ばして来るんだもん。
騙して本当にごめんね?



あとアルマス……頬っぺた舐めるんじゃないよっ!




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