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7章 普通の勇者とハーレム勇者
聖王国の使者
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~ランスロット視点~
「ではこちらでお待ちを。直ぐにネリー第一王女の準備が整いますので……失礼します」
ダイアナの案内でアルマス2、フローラ、ランスロットの三人は客室へ通されていた。
ネリーの素晴らしき大ポカにより緊急でダイアナがもてなす事になったが、流石は長年王宮に勤めて来たメイドだけあり、バタバタした雰囲気など一切観られない。
その姿には護衛の為ダイアナの後ろに控えていたアリアンも感心していた。
「ご案内感謝致します」
「…………」
「…………」
ランスロットしか御礼を言わない。フローラは人見知りによる怯えで声が出なかっただけで悪意は無いが、アルマス2に至っては100%悪意の塊。自分が一番偉いと信じ切ってるので、わざわざ礼の言葉など述べたりしないのだ。
例えそれが使者という立場であっても……このブレなさはアルマスにも似た所がある。アルマスも大抵の相手に対しては塩対応なのだ。
「……連れの二人の御無礼をお許し下さい、マダム」
「いえいえ、お気になさらず」
ダイアナはニコニコ笑いながら三人の側を離れた。こんな程度でダイアナは不快に思ったりしない。雄星に比べたらアルマス2もフローラも可愛い物である。
それでも聖王国側にとっては恥ずべき身内の失態だ。
流石に今のは無礼が過ぎると、二人を注意しようとしたランスロットだったがここでフローラの異常に気が付いた。
「フローラ様……?」
「あわわわ……あわわわわわ……」
──フローラ様……どうされたのでしょう?
怯え方が尋常では有りませんね……人見知りによる怯えとは違います……まるで命の危機に相対してるみたいな……?
「ら、らら、ランスロット……!!あ、あれ、あ、ああ、あの女の人……!!」
「ん?彼女がどうかされましたか?」
フローラ様の指差す方向には、剣聖と名高きアリアン・ルクレツィア殿が立ってらっしゃる様ですが……かの剣聖がどうしたと言うのでしょう?
「あ、あの人……私を切った人……覚えてるもん……ずいぶん成長してるけど、あの射殺すような目……!!真っ赤な髪の毛……!!そしてあのオーラは絶対に本人だもん……!!」
「え?気の所為では?」
「きっとそうだよ!!ううぅ~……ランスロットぉぉぉ……」
「ランスロット自害はよ」
「アルティメット・マスターズ・スペシャル2様は黙ってて下さい──というよりフローラ様……あちらの剣聖殿があの時の少女だと確証があるのですか?」
「確証……はないけど……あそこまでそっくりさんは居ないよぉ~……だって見た目だけじゃなくって、戦闘力も全く一緒だもん……私の【龍眼】だとそういうステータスも見れるんだもん……」
「自ッ害!!自ッ害ィ!!」
「………」
マズイな……このままでは本当に自害させられてしまう。
しかし、フローラ様の被害妄想には参ったものだ。あのときフローラ様を斬り付けた少女が丁度良く王城に居て、尚且つ、この待合室で一緒になる筈が無いでしょうに──
ふぅ~……相手に対して失礼ですが、ここは私が一肌脱ぎましょう。このままだと冤罪に死ぬ羽目になりそうですからね。
「……私がそれとなく聞いて来ましょう」
「え……?大丈夫?」
「はい、聞くだけなら問題ありません」
「ううん、そうじゃなくて……もしあの人がそうだったら自害だよ?」
「…………」
「残念だったわねランスロット。ま、介錯は任せなさい」
フローラ様……何故こんなに殺意が凄いのでしょうか?
あと、アルティメット・マスターズ・スペシャル2様は先程から何なのだ?逆に斬り殺してしまうぞ?
──ランスロットは身内に強い不信感を抱きながらも、問題を解決する為アリアンの元へ向かった。
彼女はランスロット達と距離間を保ちつつ、入り口付近に立っていた。
「──アリアン・ルクレツィア殿……話したい事が御座います……少しお時間頂けないでしょうか?」
「はい、構いません。私にお答え出来る事ならば何なりと……」
客人に対しては実に丁重で、言葉遣いや立ち振舞いにも品性がある。孝志が観れば間違いなくひっくり返るだろう。
ますます彼女では無いと思ったが、自身の冤罪を晴らすためにランスロットは仕方なく確認を取る事にした。
「ありがとうございます──では失礼を承知でお聞きしますが……幼少期に邪竜と交戦した経験など御座いますでしょうか?いやぁ~有りませんよね?」
「ええ如何にも!以前にその邪竜と戦った経験が有りますわ。まさか聖王国の騎士様よりそのような話を聞かされるとは思いもしませんでしたわ!」
「………今なんと?」
「邪竜と戦った事が有ります。それも小さな時に」
「……本当ですか?」
「はい。騎士殿もそれを誰かに聞き、こうして確認されてるのでは?──しかし、あまり知られてない話なので驚きましたわ。いや負けてしまったので恥ずかしい限りです……」
「……負けた……でありますか?」
「はい……どうにか邪竜の腹に傷を付けるのが精一杯でした……いやぁ~本当に強かったですね。また再戦したいものです……ふふ」
「……………………………なるほどそう来ましたか」
「騎士殿?」
「いえ、なんでもありません。では失礼します」
「はい此方こそ……ごゆっくりふふふ」
ランスロットはアリアンに対し深々と頭を下げフローラとアルマス2の元へと戻った。
「……ランスロット、どうだった?」
恐る恐るフローラが訪ねる。自分の勘違いであって欲しいとせつに願いながら……それはもう天に祈りを捧げながらである。
……それからランスロットは1秒ほど目を強く瞑ると、何やら覚悟を決めフローラの質問に答えた。
「勘違いでしたよ」
「え!!ほんとうに!?」
「ええ、間違いありません。彼女は邪竜など知らないと言ってましたし、生まれも育ちも王宮らしいです。それと虫も殺せぬ善人だとか。それから竜種恐怖症だとも言ってましたよ」
「竜種恐怖症!?そんなのあるんだ!!」
変な恐怖症に驚きながらも、フローラは人違いだった事に安堵した。
「フローラ様……謝って頂きたい」
「……え?」
「……ですから、先ほど私を疑ったこと謝って頂きたい」
「え、あ、確かにごめんなさい」
「まったくです。もう二度とこの話はしないで下さいね?もちろん失礼なので彼女にも確認したりしません様に!」
「うん、わかった……気を付けるね」
フローラ様は心から反省されてる様子なので心苦しいが、是に腹は変えられない。こんなことで死にたくないのだ。名誉ある戦死ならば兎も角、口約束で自害だなんて不名誉にも程がある。
というよりも何故居るのだ!?普通居てはダメでしょう!?絶対に居ないって自信満々に言ってしまいましたよ!!私ってば恥ずかしい!!
まぁ良いでしょう……この話は墓場まで持って行く事にしましょ──って何!?
──ランスロットはバランスを崩し倒れそうになった。何故なら腰に掛けてあった聖剣が急に重くなったのである。
「……聖剣【クレラント】が……急激に重くなりました……どうしてなのでしょう……?」
「……大丈夫?」
ランスロットも不思議な現象に首を傾げ、フローラは心配そうにする──しかし、アルマス2だけは違った。心底蔑んだ目でランスロットを見ながら彼に声を掛ける。
「……ランスロット……あんた嘘吐いてるわね?」
「え?なんの事です?」
「これはあらゆる知識を蓄えた私しか知らない事だけど、アンタの聖剣クレラントは持ち主が嘘を付くと重くなる仕組みなのよ……知らなかったでしょ?」
──ランスロットは驚きを隠せない。クレラント装備時は一度も嘘を吐いた事が無かった為、そのデメリットについて本当に何も知らなかったのだ。
「………え、ランスロット、嘘付いたのに、私を謝らせたの?」
「クズね。もう本当に死ねべきよ」
「…………」
「ちょっと?何とか言ったらどうなの?」
ランスロットは窮地に追い込まれた。
フローラもアルマス2も明らかに目が死ねと言っている。また、さっき謝らせた事でフローラからは凄まじい怒りを買っており、最早言い訳の利かない状況に陥ってしまっている。
……なのでランスロットはいっそのこと開き直る事にした。
「いえ、そん約束した覚え有りませんが?」
「「はぁ!!??」」
二人はとんでもないことを言い出すランスロットに詰め寄った。
「言ったもん!!自信満々のドヤ顔で言ったもん!!」
「いえ記憶に御座いません。第一、百歩譲ってその様な約束をしてたとしましょう?──死ぬのはおかしいのでは有りませんか?いくら何でも重過ぎますよ」
「……自分から言った癖に!!私を連れ出す為に言ったくせに!!あの強気な一言を信じて神殿の外へ足を踏み出したのに!!裏切り者!!嘘吐き!!」
フローラが涙ながらに語るのでランスロットの心は大きく抉られる。
でも彼は決して折れなかった。
だって自分の命が掛かってるのだから。
「ランスロット……いやクズスロット……アンタ最低だわ」
「アルティメット・マスターズ・スペシャル2様……私の何処が最低なんですか?本当に言った覚えがありませ──ぐぉ!?クレラントがかつてないほど重くなりました!!」
「あ~あ……もう使えないわね、その聖剣……」
「……確かに、ここまで重ければとても振れそうに有りませんね。これはもう手放すしか──って軽!手放す決断をした途端に軽くなりましたよ!!」
「いや持ち主が屑なら剣も屑かよ」
アルマス2は呆れ顔をする。
しかし、フローラはそれどころでは無かった。
何故ならランスロットが嘘を付いたという事はつまり──
「……ひぃ」
──アリアンがトラウマである事が確定した。
最早フローラにとってランスロットの自害など割とどうでも良くなっており、今はアリアンの存在にただただ恐怖する。
「ランスロット……アンタこれからどうするの?」
「私は死にたくないんですよ、ただそれだけです。例え屑や裏切り者と罵られようとも私の意思は変わりませんよ」
「聖王国ってほんとロクな人間が居ないわね」
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