普通の勇者とハーレム勇者

リョウタ

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6章 勇者と、魔族と、王女様

エピローグ 〜よく分からない関係〜

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一方その頃、松本孝志はとある部屋の前で立ち往生していた。何を隠そう彼は今、これまでの人生で一番悩んでいる最中だ。



──この部屋に入りたくない。
けど奥本が倒れた時、あのまま放置する訳にはいかなかったので治療できる人を探しに行った。
直ぐパーティー会場で呑気に佇んでたマリア王女を見つけたお陰で、迅速に対応して貰えたけど……そこから何も音沙汰がない。

幸い死傷者こそ出なかったらしいが、事後処理とテ・レ・サ(俺は悪くない)の壊した城の修復作業に忙しいから仕方ないだろう。
だけど、その後どうなったのかは非常に気になる。相手が好きとか嫌いとかに関係なく、自分が関わったからにはそれからどうなったのかちゃんと知っておきたい。
人の生き死に関しては、ほんのちょっとのすれ違いで一生消えない傷に成るから……それを俺は父さんの一件で身をもって味わっている。
だから俺は奥本がその後どうなったかを確認する為、わざわざ橘の部屋の前に来ていた。


よりによって何故ヤツの部屋かって?
もう時間が遅いから、女性であるマリア王女や中岸さんを訪ねる訳にはいかないからだ。
ユリウスさんが居ればあの人を頼るけど、絶賛裏切り中だし、オーティスさんは見つからないし、アリアンさんもアレで一応は女性のカテゴリーだから夜遅くに訪ねる事はしたくない。

いや普通に明日まで待てば良いだけの話なんけど、気になって眠れない。
だから仕方なく、同性で尚且つ一番無礼しても悪いと思わない橘の部屋に来た訳よ。我ながら浅はかな考えだぜ。


「迷ってても余計に遅くなるだけだ……ふぅ~」

俺はそこから更に数分ほど迷ったが、時計の針が二十二時になったのが目に入る。
このままだと寝不足になってしまうと覚悟を決め、断腸の思いで橘の部屋をノックした。


すると、扉の向こうから直ぐ返事が返って来た。


「──誰か解らないが何のようだ?……全く、夜遅くに非常識な奴だよ」

……全くもっっってその通りです!!でも眠れないから来ました!!
しかしまさか橘に正論言われる日が来るとは……今の俺に生きてる価値ある?

孝志は自分を責めながらも、ノックしてしまった以上は後には引けず対応する事にした。


「え~と……松本だけど、こんな時間に申し訳ない……ちょっと時間いいか?」

「ええッッ!?ま、松本!!?……直ぐに開けるから何処へも行くなよ!!?」

俺が名乗りをあげると、扉の向こうが急に慌しくなり始めた。なんか必死だけどもしかしてコミュ症かアイツ?

それから少ししてゆっくりと扉が開かれた。


「……は、入れってくれ。折角来たんだから、こ、コーヒーでも飲むと良い」

「あ……はい」

あらぁ?
扉越しで奥本の症状を教えてくれれば良い。本当にそれだけで良いんだけど……もしかして中で面と向かって話をする流れか?コイツと二人っきりでぇ~?えー地獄じゃね?


──心で悪態付きながらも、雄星に押し切られる形で孝志は中へと入ってしまった。
いつもの彼なら嫌な事だと強引に帰っただろうが、どうも向こうの世界の連中相手には自身の素を出す事が出来ないらしい。孝志はメンツを気にするみみっちい男だ。


──────────


──はぁぁぁぁ~~……面倒くさいな……バイトや受験面接よりも嫌だ。帰りたい。何が悲しくて橘なんぞと二人っきりでコーヒー飲まなきゃいけないだよ。

でも自分から訪ねた以上、黙って帰ると橘に非常識なヤツだと思われ兼ねない。それだけは死んでも嫌だ。橘にマウント取られたらこの世界じゃ生きて行けない。
だから帰らずに耐えよう。明日からも笑って生きていく為に──


「松本、コーヒーに砂糖は9個で良いかい?」

「あ、うん………………え??!!」

なんでコイツ俺の適量知ってんの?俺好みの分量聞かれたの初めてなんだけど?

……え……怖……なんなのコイツ。


──孝志は恐怖のあまり身体を震わせた。
毒殺されるんじゃないかと急に不安となった孝志は、コーヒーを淹れる雄星の動向を観察する。

すると、孝志はある事に気が付いた。


「(自分のにも同じくらい砂糖を入れてる……まさか橘……アイツも俺と同類なのか?)」

これまで友達と喫茶店やファミレスに行く度、自身の使用する砂糖の分量に文句を言われる事があっても、共感される事は一度も無かった。
それで少し寂しい思いをしていた孝志だったが、遂に見つけてしまったのだ……自身と同じ味覚を有する人物を。
しかし、それが橘雄星だったのが残念らしく悲しそうに俯いた。


「用意出来たぞ──な?!どうして悲しそうな顔をしている??」

淹れたコーヒーを孝志の前に置きながら、雄星は気が付いた疑問を投げ掛ける。


「いや、一生打ち解ける事が出来ないと思ってたヤツと、殆どの人と馬が合わなかった趣味を共有してしまった気分なんだ……」

「そうか……」
(ふん、松本にここまで嫌われる奴が居る何んてな……よっぽど素行が悪いんだなそいつ……どうせアリアンだろ)

「ああ、そうなんだ」
(なんか見当違いな事を考えてそうだけど放っておこう……でもこれ以上、共通の趣味が見つかるようなら狂人のアリアンさんに言付けてやる)


──二人ともアリアンに斬られて仕舞えば良いのに。
二人は互いに面と向かってコーヒーを啜るが、今直ぐにでも帰りたかった孝志は、わざわざ雄星の部屋を訪れてまで確認しておきたかったことを単刀直入に聞く事にした。


「奥本さんの容体はどうだった?」

「ん?──ああ、もう元気そうだよ。俺も直接観たわけじゃ無いけど、由梨がそう言ってた」

「……そうか」

──よし、死ぬような状況じゃないと分かった以上、長居は無用だ!!今すぐにでも帰ろう!!うんとっとと帰ってしまおう!!
俺はまだ熱い甘くて美味しいコーヒーを強引に飲み干し、そのまま勢い良く立ち上がろうとした……しかし、立ち上がる直前に橘に気安く声を掛けられてしまう。


「……調子は、ど、どうだい?」

「え?!あ、おぉう……良い感じ」

「馬車には乗ったかい?」

「うん、まぁ」

「乗り心地はどうだった?」

「快適だったかな」

「そうか」

「まぁ」

「………」

「………」


──お見合いかな?
もう何も話すこと無いなら無理に引き留めるなよ。嫌がらせのプロか。


「昨日は夕飯に何食べた?」

「自分で作ったスクランブルエッグとウインナー」

「……何故自分で作ったんだ?」

「……いろいろあって」

別にいいだろ自分で作っても、なんだよ文句あんのか?
それにさっきから何の質問だよ!!特に何も無いなら解放してくれますか?

俺が内心イラついてると、突然、橘は神妙な顔付きになった。


「……高校に入学したばかりの頃……名前は忘れたが、同級生の男子二人が女子の居ない教室で、俺の悪口を言ってたの覚えてるか?」

「……ん?……ああ、あったなそんな事も」

「あの時、偶然通り掛かったから廊下で話を聴いてたけど……他の奴らがその二人に同意してる中、お前一人だけが俺の事を庇ってくれたんだ」

「……まぁ……な」

そうだよ!!庇っちゃったよ!!
だって入学したばかりで橘をよく知らなかったし、女に囲まれてるって理由だけで人の陰口を叩くアイツらが気持ち悪かったんだもん。
橘を知った今は庇ったりしないと思う……多分。

ってかコイツ聴いてやがったのか?
通りで次の日から男子達に対する橘の態度がキツくなった訳だ……そう考えると案外可哀想な男かも知れん。
あの時までは女共と常に一緒だっただけで、男共に嫌な態度を取ったりして無かったんだからな。


「嬉しかったんだ、あの時──だから……テストでお前を上回って、自分に自信を付けたら御礼を言うつもりだったのに……お前はいつも順位が俺より上だった……クソッ!」

「え?なんかごめん」

小声すぎて最後の『クソッ!』以外聞き取れなかったけど、クソッ!って言う事は文句だよな?どうして急に怒ったのか……相変わらず意味わからん奴だぜ。

とりあえず何か適当な理由を付けて帰ろう。


「じゃあ、明日俺の誕生日だからこの辺で失礼するよ」

「何を言ってる?君の誕生日は26日前に終わっただろ?」

「………どど、ど、どうして俺の誕生日を知ってるの?!しかもそんな正確に…!」

「まぁね」

「まぁねって……」

怖すぎだろコイツ。
アレか?向こうだと俺の個人情報って筒抜けだったりするのか?それとも、もしかしてコイツにストーカーされてたりする?


…………


…………


いやまさかな!!
偶に二人分の視線を感じる時はあったけど、気の所為って事で解決してんだよ俺の中で──だってあんま深く考え過ぎると怖いじゃん?


「そう言えば穂花はどうした?」

「……ユ、ユリウスさんと一緒に居るよ」

ユリウスさんが裏切り連れ去ったと言う話は、取り敢えずマリア王女にだけ話して彼女の判断を仰ぎたい。兄妹だから真実を話して良い気もするが、相手が橘だと騒ぎが大きくなる可能性もある。
ここは無難にユリウスさんと一緒に居るとだけ伝えておこう……一応、嘘ではないからな。


「そうか……それより何故、穂花を無理矢理連れて行くような真似をした?許せない!!」

「急にどうした?情緒不安定か?」

「……ちょうちょ?なんだそれは?アゲハ蝶か?」

──やっぱ阿保だなコイツ。

しかし俺は此処から1時間以上、橘雄星の話に付き合わされる事となった。


──────────


「──じゃあソロソロ部屋にモドルネ」

「あ……まだ言いたい事が山ほど有るんだが……まぁ良いだろう」

時計を観ると、時刻はもう直ぐ0時に差し掛かろうとしている。
とんでもない、俺の大事な睡眠時間がゴリゴリと削られている。まさか仲良くもない奴にこんな時間まで引き留められるとは思ってもみなかった。

俺はふらふらと立ち上がり地獄部屋を出る事にした。


「ま、待て!!………さ、最後に一つだけ良いか?」

「……ドシタノ」

えぇ……まだ何かあんの~?もう良い加減に解放してくれぇ……!!

俺は仕方なく振り返る。すると橘は気色悪くモジモジしながら言葉を発した。


「……きょ、今日は……ありが……とう……」

「ん……………んん!!?」

思いがけない言葉に俺は目を見開く。
ただでさえ目は冴えて居たのに、今ので完全に目が覚めた。今日はもう絶対に眠れない。
でもまさか、橘が礼を言ったのか……?


「さっきは、松本が助けてくれなかったら、死んでたと思う……だからあり、ありがとう……それとあの時も……」

「………ど、どういたしまして」

「あと由梨から聞いたんだが、目を覚ました美咲も何かお前に謝ってたそうだ」

「そうか」

だったら最初から恩知らずなこと言わなきゃ良いのにな。
一言謝ったからと言って、これまでに蓄積された彼女へ対する負の評価は覆らないけど。
でもまぁ……後からでも謝ってくる辺り、俺が思ってたより屑ではなかったかも知れない。


「そ、それじゃ……もう行くね?」

「あ、ああ……」

また引き留められても嫌なので、俺は急いで部屋を後にした。まだ何か言いたそうにしてたけど俺が振り返る事は無かった。


──橘と別れた俺は、此処から少し離れた自室を目指し廊下を歩いていた。
広過ぎるこの宮殿は、同じ建物だと言うのに部屋を行き来するだけで数分ほど時間を有する。

歩きながらさっきまで橘と話していた事を思い返す。
俺の中で橘雄星という男は、屑でウザくて嫌な奴だと思っていたけど、俺の中で評価を改める必要があるみたいだ。


そうだな……
橘は屑でウザくて嫌な奴じゃない………

アイツは──






──純粋にキモイ奴だ。それ以下でもそれ以上でもない。なんかやたら俺のこと詳しかったし、やっぱりどう考えてもキモいわ。

本当に顔が勿体ない。


………


………それともう一つ。


さっきまではあんなヤツ助けなくて良いと思ってたけど、今は……そんな事もない……かな?
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