上 下
161 / 217
6章 勇者と、魔族と、王女様

恋する少女じゃいられない 〜穂花サイド〜

しおりを挟む

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

~穂花サイド~

──私は魔王城に居ます。
今はフェイルノートさんと一緒に、部屋のバルコニーから星空を眺めてる──うん、とっても綺麗。
孝志さんは星空なんて観る人じゃないけど、いつか一緒に肩を並べてこの景色を観れるといいなぁ。

ううん、孝志さんと一緒なら例え星空じゃなくても構わない。極端な話、そこら辺に落ちてる石ころでもダイヤモンドに変わります。孝志さんが隣に居るならね!これぞ孝志さんマジック!ああ大好き……大好きなのに……いつ会えるんですか。なんで引き裂かれないといけないんですか、ただ一緒に居るだけで嬉しいのに。後は手を繋いだりだとか、抱っこして貰ったりだとか、添い寝して貰ったりだとかもして欲しい。この世界に来てから勇気出して一生懸命アピールしてる……なのに離れ離れって…………そうか、ユリウスか……ユリウスですね……あの男が悪いのか……その所為で……私はこんな酷い目に──

──孝志さんと別れてもう2日が過ぎようとしてますけど、体感だと200年くらい経っています。
夏休みや連休なんかは弘子ちゃん経由で孝志さんの家に遊びに行ったり、弘子ちゃんが遊べない時は家の前で張り込みしてたりと、会えない日は有りませんでした。何故か頻繁に兄を見掛けましたが、もしかして私をストーカーしてたんですかね?ストーカーとか最低な事を平気で出来るあたり兄は異常です。死ねば良いのに……兄の分際で孝志さんの周りをウロチョロしないで欲しい。



「……なぁ?穂花よ……そろそろ部屋に戻らぬか?星空なんて見とっても面白くないじゃろ?」

「あっ!フェイルノートさん、ごめんなさい、少し考え事をしてました!」

「クフフ……当ててやろうか?……松本孝志の事を想っておったのじゃろ?」

「ええぇぇぇぇッッッッ!!!???どうして解ったんですかぁぁッッ!!!!?!」

「いや……お、驚き過ぎなのじゃ……お主と一緒に居れば誰だって解るじゃろうに……」

「そ、そんな事は……ないと……思いますよ……」

それは困ります……孝志さんにこの気持ちを知られるのにはまだ心の準備が要ります……今はまだ知られたくない。
幸い、孝志さんには女っ気が全く無いので、無理に動かなくても彼女が出来る感じが有りませんので安心です。この世にはあんな素敵な人の魅力に気が付かない節穴が多く居て助かりますよ……お陰で私の独り占めです!!

──そう……橘穂花はまだ知れない。
穂花がユリウスに連れ去られてから、孝志を取り巻く女性関係は劇的に進展している。
テレサ然り、アルマス然り、更には男女問わず手当たり次第の人物達と孝志は関係を深めている。
穂花と獣人国へ旅立つ前と比べて、孝志は仲間を増やし、親密な関係の付き合いをどんどんと広げているのだ。
知れば穂花は発狂するかも知れない。


「……それではそろそろ部屋に入りますか──ッ!!ちょっと見てください!!フェイルノートさん!!」

フェイルノートと一緒に部屋へ戻ろうとする穂花は、最後にもう一度星空を見上げた。すると星空の一角が目に留まる。
穂花はフェイルノートを引き留め、そこを指差した。


「──観て下さい!フェイルノートさん!あの星座っぽいの、孝志さんっぽくないですか!?」

「気でも触れたか小娘……全然似てないじゃろ」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

「いや分かったッ!!似ておるからッ!!アレは松本孝志だからッ!!無言で見つめるのは辞めるのじゃッ!!」

──こ、怖過ぎるわ、この小娘……でも此奴は勇者で妾の弱点じゃから下手に手出しも出来ぬし、それ以上に怖いから仕掛けようとも思わん。
ユリウスは本当に人を観る目がない奴じゃのう~……この小娘は松本孝志と引き離したらダメじゃろ!!
今も松本孝志には似とらん星を観てうっとりしてるわい!!妾は早く部屋の中に入りたいんじゃがのう。


「──ねぇフェイルノートさん……恋ってした事ありますか……?」

「唐突じゃのう……うむ……して来なかった事もないぞ?」

「ええッ!?本当ですか!?」

身を乗り出して食い付いてくるのじゃ……こんな姿を見れば普通の少女なのじゃが、松本孝志が関わると人が代わりよるわい。本当に可笑しな娘じゃのう。


「だ、誰ですか!!?──って私が聞いても解りませんよね……あははぁ~……」

「う~ん……言っても解らん事も無いと言うかぁ……」

「解らないことも無い……ですか……?」

「そうじゃ……まぁ何と言うか……妾が恋焦がれてた男性は……兄様じゃ……」

「はぁぁ~~?兄ぃ~~?」

「お、お主、心底蔑んだ目で観るよのう……兄という単語に恨みでもあるのか!?」

「めちゃくちゃ有りますよ」

穂花は肩を落としていた。
まさか自らの兄以外に、兄弟愛を語る人物が現実に存在するとは想ってなかったらしい。
白い目でフェイルノートを見詰めた。普段から雄星にダル絡みされてる穂花にとっては、兄妹愛とかそう言った類の話は禁句なのである。

しかし、兄妹愛を語る同性の意見に興味は有るらしく、穂花は少し踏み込んだ話を聞く事にした。


「その兄様って、どんな人です?」

「うむ……とても優しくて!!強くてなぁ!!……そしてなそしてな!!とてもカッコイイのじゃ!!」

フェイルノートは、まるで小さな子供が話をする時の様な口調で話をした。
本気で兄の事が好きらしい……無論、穂花には理解し難い話だった。


「それだけじゃのうてな!【全知全能】という凄いスキルも持ってたんじゃぞ!!今まで色んな世界を渡り歩いて来たんじゃが、全知全能持ちは兄様以外に出会った事が無いのじゃ!!」

全知全能ってなんでしょうか?
いやでも、聞いても解らないでしょうし、聞かない事にしよう……うん。


「………そうですか。あっ!そう言えば、その兄様って人とは一緒じゃないんですか?」

これを聞いてフェイルノートは肩を落とした。
穂花も軽はずみで無神経な事を聞いてしまったと後悔したが、フェイルノートは沈黙する事なく穂花の疑問に答える。


「……うむ。ちょっと妾的にも許せない話なのじゃが……妾の産まれた世界の神はどうしようも無く臆病の屑でのう……全知全能を恐れて、兄様を別の次元へ飛ばしてしまったのじゃ」

「別の次元……ですか?私達のパターンと似てますね」

「多分同じじゃ……だから妾と──兄様の親友だったティタノマキアと手分けして兄様の行方を探してたのじゃ……だけどその内、変な女神と出逢って千年近くも眠らされてた訳なんじゃ……まぁ八つ当たりでモノを壊しまくった妾も悪いんじゃが……」

「……さっきは兄妹愛を馬鹿にしてしまいましたけど、とても悲しい話ですね……封印される前に、お兄さんとは逢えましたか……?」

フェイルノートは首を振る。


「会えずして時間だけが過ぎてしまったのじゃ。心当たりとしては、とても時間の進みが緩やかな世界に飛ばされたと聴いたのじゃ……それでもアレだけ時間が経てば寿命で死んでおるじゃろうよ」

「え?フェイルノートさんって不死でしたよね……?お兄さんは違ったんですか……?」

「うむ。妾とティタノマキアは兄様を探してる最中に、魔神と契約を結んだのじゃ。どうしても勝てない敵が居ったからのう。じゃから兄様は普通の人間なのじゃ……だから流石に生きてはおらんよ」

「そうですか……ごめんなさい、悲しい話を思い出させてしまって……」

二人とも表情が暗い。
穂花は、兄妹関係の話なんてたかが知れてると甘く見ていたのだが、フェイルノートに聴かされた兄妹愛の話はとても重く、そして報われない悲話だった。


「そう暗い顔するでないぞ?希望がない訳ではないのじゃ」

「希望ですか?」

「そうじゃ。全知全能のスキルはのう、未来を見通す力が基本なのじゃが、もう一つ【魂の転生】という隠し能力が有るのじゃ」

「魂の転生……?」

「そうじゃ。つまり記憶は残らぬが、兄様の魂は消える事なく、違う肉体へと受け継がれ続けるのじゃよ……だからいずれはその魂を持つ者を見つけるのじゃ!」

「……その……見分けは付くんですか?」

「いや全く無理じゃ」

「それだと結局はダメって事じゃないですか!?」

「前途多難じゃろ?……じゃがまぁ昔話はこの辺にして、そろそろ部屋へ戻るか」

「はい……そうですね……」

「いや、よう考えたら夜も遅いし、自分の部屋で休むわい……じゃあまた明日──」

「何を言ってるですか?次は私の番ですよ?」

「………え?」

「とぼけないで下さい。自分が恋バナを披露したなら、今度は私の番ですよ?」

「え……?そんなルール知らんのだが……?と言うか散々聞かされたわいっ!!松本孝志検定が有れば間違いなく特級合格じゃぞ!?それでもまだ足りんのか!?」

「……はい……まだ氷山の一角に過ぎません」

「マジなのか」

言っても聞かなそうじゃ……またあの地獄の時間が始まるのか……もう松本孝志については知り尽くしとるぞ……もう聞きとう無い……!!

「ほ、ほどほどに頼むのじゃ……」

「いいえ……倍プッシュです……骨も残しませんよ……?」

「きょ、狂気の沙汰じゃ……!!」


結局、フェイルノートが解放されたのは明け方……今から六時間後の事だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

処理中です...