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6章 勇者と、魔族と、王女様
雄星の考え
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~雄星視点~
橘雄星は名残惜しい気持ちを抱きつつ、会場を立ち去っていた。
言い寄って来た令嬢達や、優しい言葉を掛けてくれてた貴族達の本心を知ってしまった以上、とても彼らと一緒に居る事なんて出来なかったようだ。
「──ちっ、ふざけやがって……!」
──アイツらと同じだ。
子供の頃仲が良かった男共も、自分の好きな女子が俺に惚れた途端に離れて行きやがった……そんな奴ら全く一緒。
告白されてそれを断っても、アイツらは結局何も解ってはくれなかった。
「だから男と連むのは昔から嫌なんだよ……!」
いや、でも今回は女達にも裏切られてしまった。女に裏切られたのは初めてだ。しかもよりによって、この世界で勇者は何をしても許されると教えてくれたマリスタの裏切りに遭うとは夢にも思わなかったぞ……!
「クソッ!」
思わず悪態が漏れてしまう。
アイツらと一緒に居るのが嫌だから抜け出してしまったけど、松本には穂花の事も聴き出さなければ成らなかったんだ……そして何より──
「──命を助けて貰ったんだ、せめて一言礼くらい言わなくちゃ……」
だからこそあの貴族連中には腹が立つ……!松本に恩知らずだと嫌われたらどうしてくれるんだッ!?
松本の事なんて、き、嫌いだが……奴の方は俺の事を気に入ってる節がある。
だってそうだろう?
他の男共は俺が話し掛けてやっても無視するのに、奴だけは俺の話を遮る事なく真剣に聞いてくれた。男子とあんなに話が出来たのは小学校のとき以来だ。
本当は穂花を連れ去った件でクレームを入れたかったのだが、話をしてる内に『松本に任せておけば大丈夫だな』と思えてしまった。
よく考えたら悔しい話だけど、そう思ってしまったんだから、それはしょうがない。
「──お~い!雄星~!!」
「……あ、良かった……」
「由梨……それと美咲か……」
しばらく一人で歩いていた雄星だったが、由梨と美咲が後を追い掛けて来たようだ。
二人は途中から彼が居なくなってる事に気付き、後を追って会場を抜け出して来たのであった。
──由梨は解るが、なんで美咲まで……
俺が怒ってるのは分かっている筈なのに、少しは時間を空けようとは考えられないものか……やれやれ。
そう思いながら美咲へ視線を向けると、気不味そうに逸らされ更に萎える雄星だが、身体がまだ少し痛むので文句を言うのは控える事にした。
そして合流した三人は静かに廊下を歩いて行く。
美咲は後ろで俯きながら黙って二人の後に続き、由梨は雄星の隣で彼の顔色を伺ういながら、意を決してある事を尋ねた。
「雄星……何も言わなくて良かったの……?」
「……何がだい?」
「松本くんに……声を掛けなくて良かった?」
「ああ、その事か……松本を囲む奴らに紛れてしまうと、僕まで奴らと同類だと思われ兼ねないからね。けど穂花が居ないのも気になるし後で訪ねるとしよう──それに勇者同士なのだから、後で幾らでも話せる機会はあるだろ?」
「そ、そう……良かった」
由梨はてっきり孝志が嫌いだから、彼を無視するつもりで抜け出したと考えており、それは恩人の孝志に対して流石に酷いと思っていた。
しかしそれは違うんだと分かって嬉しそうに笑う。
「由梨……身体は大丈夫なのか……?」
「えぇぇ!?──あ、うん、大丈夫だけど……?」
「……そうか……無事で何よりだ」
「あ、う、うん!!ありがとう!!」
そう言われて由梨は思わず顔を赤くした。
まさか心配の言葉なんて掛けられると思ってもなかった様で、その気遣いに思わず目に涙を浮かべる。
明王に追い詰められ、本当に怖い思いをした辛い1日だったけど、今の一言で報われた気持ちとなった。
「(……ほ、本当に嬉しい……後で松本くんに自慢しちゃお!なんたって松本くんと私は卍だからね!)」
─────────
城には普段、大勢の人達が勤めており、少し歩けば必ずメイドや近衛兵と鉢合わせになる。
しかし今は緊急事態なので、例の会場以外には人っ子一人残ってはなく、広い廊下を三人は延々と歩き続けた。
いつまでも歩き続けている理由は簡単……三人とも普通に迷子なのだ。しかも誰とも会わないから聴くことも出来はしない。だけど雄星は迷子を認めたくはないので黙って歩き続けていた。
「……出口、遠いね」
「……!?──ああ、迷子ではないけど、随分遠くに玄関が有るみたいだ……やれやれまったく」
由梨には雄星が強がってる事など重々承知している。
しかし、何処かに敵がまだ潜んでいるかも知れない状況で、アテもなくこのまま進み続けるのは非常に良くないと判断した。
なので怒られるかも知れなかったが、二人を守る為ならと、勇気を出してある事を提案した。
「い、一旦戻らない?戻り道は覚えてるから……」
「何故戻る必要がある?迷子ではあるまいし」
「いや、ね?松本くんも今頃は開放されてるかも知れないし、お礼を言うチャンスかもよ?」
「………確かにそうだな。決して迷子では無いけど、ヤツに言いたい事があるし、戻るか」
「……う、うん!」
──聴き分けいいなぁ。明日は血の雨が降りそう。
外を出歩かないようにしなきゃね。
由梨は失礼な事を考えながらも、雄星が大人しく従ってくれた事に安堵するのだった。
因みに本当に血の雨は降ると思っているので、明日彼女が外を出歩く事は無いだろう。
そんな時、背後から美咲が雄星に話し掛けた。
「わざわざ礼を言う必要無いと思うよ?」
「……どうしてだ?」
「美咲ちゃん?」
雄星は不機嫌そうに返答し、由梨の方は困惑した様子で振り返る。
「いや、なんていうか……松本酷いヤツだからさ」
「ちょ、ちょっと!!美咲ちゃん!!」
それは聞き捨てならない言葉だった。
あの時、由梨は本当に死を覚悟していた。
そんな所へ助けに来てくれた孝志には、心の底から感謝しており、全てが終わった今も感謝の気持ちは全く消えていない。あの恩はいつか絶対に返すと由梨は胸に誓っているくらいなので、恩人への今の発言を由梨は黙って聞き流す事が出来なかったようだ。
「いや、由梨は気絶してたから気が付かなかったと思うけど、アイツ由梨が気絶した後も、直ぐに動こうとしなかったんだよ?」
「だからそれは作戦を建ててたんだよ!実際に全員助かったじゃない!」
「な、なんでそんなに怒ってるの……?……でもだって、アレだけ強かったら作戦なんて関係ないじゃん。私は真っ先に助けた雄星の方が凄いと思うよ」
「……美咲ちゃん」
(負けちゃった雄星を励ましたい気持ちは解るけど、だからって彼を悪く言うのは違うと思うし、絶対に逆効果だよ?だって──)
隣の雄星の表情を観て由梨は確信している。明らかに怒っている顔なのだから、今のは間違いなく逆効果だと言う事を──
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