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6章 勇者と、魔族と、王女様

戦いが終わって気を抜く奴ら

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カルマを倒した後、逃げ出したマリスタさん以外の貴族達に結局囲まれてしまっていた。
好感度低い連中だから、いい加減に文句の一つも言ってやろうかと思っていた矢先、頼れる男が会場の扉を開けこの場所に現れた。


「──お待たせして申し訳ありませんッ!!主人!!」

「お、アルベルトかっ。無事だったん?」

「はい!それにお役目通り皆を御守り致しましたっ!褒めて下さいっ!」

「良くやった!!あと良いタイミングで来てくれた!流石はアルベルトっ!持つべきはやっぱりアルベルトだな!」

「おおおぉ!最上級の褒め言葉をありがとうございます!……ところでアッシュは?」

「あ?うん、あそこで倒れてる、命に別状は無いけど」

「……あのマヌケめ…!」

「怪我人だから優しくな……」

性格的に合わない貴族連中の相手に嫌気が差していたので、俺はこれを機にその場から抜け出し、アルベルトの元へ向かう事にした。
それでも着いてこようとする者も何名か居る様だが、リーシャさんに注意されおずおずと引っ込んだ……プライドの高い貴族が言うことを聞くって事は、リーシャさんもかなり位のある貴族かも知れない。

因みに、アリアンさんの名前を使った脅し文句が通用したのはマリスタさんだけだった。
他の人は仲が良いなら寧ろ紹介してと言われる始末である。相手は狂人なのにみんな怖くないのか?
狂ってやがるこの世界。


──俺が側に向かうとアルベルトは嬉しそうに笑った。そしてマリア王女達も少し遅れて入って来る……良かった、全員無事そうで一安心。


「勇者さまっ!」

「わっと…!」

ダイアナさんのお孫さんが真っ先に飛び込んで来たのは意外だった。
バランスを崩したら危ないので抱き留めてしまったが、相手はちびっ子だしセクハラにはならないよな……?そもそもこの子から来たわけだし。

と言うかいつの間にこんな懐かれたんだ?
この子とは接点ない筈だけど……もしかしてダイアナさんが紹介してくれたんだろうか?

そういえば、この子には初対面から親近感を覚えてたんだよな。なんと言うか、可愛いらしい子なんだけど普通な可愛さが有るというか。
ちょうど美形と普通の間の俺みたいなポジション?
最近、俺の周りには引くレベルの美人と、異常に可愛い子しか居なかったから現実的で本当に新鮮味を感じる。


だからすげぇ嬉しい。へひひひ。


──現実味溢れる相手に抱き着かれた孝志は凄くデレてしまった。思わず少女の頭を撫でてしまう程に。
撫でられた事で我に返ったエミリアは、真っ赤に染まった顔を上げ孝志を見上げる。


「ゆ、勇者さま!ち、違います、私ってば何てことを……!」

「気にしないで、ほらもっと頭を撫でてあげよう、はは」

「はぅ~……」

『……………』

セクハラに近い。いやもう普通にアウト。
それを目の当たりにしたテレサも絶句である。
そして、いい気味な事にその現場をマリアに観られてしまったのである。


「なんすかマリア王女」

彼女は孝志の側に近付くとこう言い放った。




「………ロリコン?」

「……!!ち、ちげーしっ!急に変なこと言ってビックリさせないでよねまったく……」

「絶対にそう違うと言い切れる?」

それは力強い口調だった。
あまりの圧に孝志は思わず考える……本当に違うのかを、自分の交友関係やこれまでの出会いを片っ端から思い返した──




………テレサ


………穂花ちゃん


………シーラ


………この子


………少女騎士団



うん!何も問題ないなっ!!


「大丈夫ですよマリア王女、警察に捕まる様な事はしてません。それに深い関係にあるのは二人だけです」

「深い関係が二人っ!!?」

「あ、やべ」

「誰か憲兵を呼んで来てっ!犯罪者が此処にいるわっ!幼女キラーよっ!異世界からロリコン勇者がやって来たんだわっ!」

「「かしこまりました」」

「な、何てこと言うだアンタ…!──おい!メイド二人!本当に呼びに行こうとするんじゃないっ!」

俺はライラとケイトを必死に止めた。
冗談じゃない!俺はロリコンじゃないんだ絶対にっ!あとテレサは見た目幼いけど、年齢的にはそんな幼くないぞ!?それを今から証明してやるっ!!


「(テレサって歳いくつ?!)」

『ど、どうしていきなり…?お、女の子に年齢聞くのは、マ、マナー違反だと思うよ…?』

「(そうかも知れないけど、この女に分からせないといけないから、お願い教えてっ!ロリコン勇者になっちゃうこのままだと確実にっ)」

『えぇ……でも……急にそんな……ねぇ?』

え?なんで頑なに教えてくれないの?
女性ならではのこだわりが有るんだろうか?

「(分かった、じゃあコレだけは教えて!テレサって結構な歳だよな?!)」

穂花ちゃんは14歳だしそこまでロリ感はない。テレサが年齢さえ白状すれば普通の勇者に戻れる筈だ。


『………う~うん、テレチャよんちゃいだよ』

「(嘘だッッ!!)」

『だって~……歳はまだ知られたくないんだも~ん』

「(そこを何とか頼む!テレサ!)」

『……ッ』

「(ん?テレサ?)」

『……………ばぶぅ』

「(あ、赤ちゃんになってますやん…)」

ダメだ、年齢の話になるとテレサ口を割らない……ってか幼児退行するなぁっ!
でもどうしようロリコン扱いはやだ!


「──で?孝志様?弁明は?」

「……てかよく考えたら別に言わなくても良くない?」

「どうして王女の私に向かってタメ口なのかしら?」

「めんどくさっ、この女っ!」

これからどう言い逃れようか……と、エミリアちゃんに抱きつかれながら俺がマリア王女と揉めていると、リーシャさんの回復治療が完了した橘がやって来た……そしてエミリアちゃんを見ながら徐に口を開く。


「……松本、何をやってるんだ?」

「急にどうしたの?」

「彼女困ってるじゃないか。今すぐ離れるんだ」

「わ、私ですか?全然困ってません!適当なこと言わないで下さい!」

「……くっ!お子様が……!──そもそも松本に抱き着く許可は取ってあるのか!?」

「「どこに!!?」」

エミリアちゃんと声がハモった……マジで何を言ってるだこのクソ馬鹿は。
そう言えば、ちょっと前にもこんなやり取りがあったな。確かあの時は穂花ちゃんと一緒に居た所を引き離されたんだっけ?
俺にへんな恨みでもあるんかコイツ。


──その後は話し合いを重ね、孝志は何とかマリアを納得させる事が出来たとか出来なかったとか。

また、雄星とエミリアは終始険悪だったという。
その光景をダイアナと戦闘メイド二人は微笑みながら見守っていた。


──────────


「──ぐっ……かはっ……ああん?何があったんだ?」

「ようやく目を覚ましたか、アッシュ」

「アルベルトの旦那?」

孝志達が口論している頃、アルベルトは横たわるアッシュの側に居ついていた。だが心配してると言うより彼に対して呆れてる様子だ。


「何をやってるんだアッシュ。まさか親衛隊如きに遅れを取るとはな……!主人様にもしもの事があったらどうするつもりだったんだ!」

流石のアッシュも言われるのは仕方ないとバツが悪そうにしている。しかし、彼とて負に落ちない事があった。


「……負けちまった事はすまねぇ──けど俺は親衛隊に負けた訳じゃねぇーぞ?……チラッとしか見えなかったが、アレは多分、カルマだぞ」

「……!!!何だと!?しかし奴は……」

言いながら、アルベルトの脳裏にある考えが浮かんだ。超スピードで来たとしてもアルベルトに監視されてるカルマが、気付かれず此処へ辿り着くのは不可能な事だ。現に、今現在改めて確認してもカルマは遠く離れた位置から動いて居ない。

また、アッシュが嘘を付いてるとも考えられなかった。ヤンキーは誰もが驚くほど正直な男だからだ。
故に、導き出される答えは一つしかない。


「──アイヌスが、カルマに化けて居たのだな…」

アルベルトの裏切りを知ってるであろうカルマがビギニングアイズを対策する為に、自身に成り変わったアイヌスをあそこに配置し、自身は前もって王宮内に隠れて居たのなら瞬間的移動の説明が付く。

……だがそうなってしまうと、説明付かない事が新たに生み出される。それは何故、アルベルト達が勇者側に寝返った事がバレたのかという点である。

(警戒した方が良いかも知れんな)


──アルベルトは更に警戒心を強めた。
すると、治療の為アッシュの隣に並べられてた由梨がこのタイミングで目を覚ましたようだ。


「う~ん……あ、あれ?」

「おっ、嬢ちゃんも目ぇ覚ましたみたいだな!」

「え~と、ヤンキーさん?」

「やめろヤンキー言うのはッ!──そんな事より、俺たち負けちまったみてぇだぜ?」

「…!そ、そうだった!敵のお爺ちゃんは!?ま、松本くんはっ!?」

「あそこだぜ」

アッシュは口論を続ける孝志の方を指差した。
彼やリーシャが無事な事に安堵した由梨だったが、意外な人物が孝志と一緒に居ることに驚きを露わにする。


「ゆ、雄星っ!?どうして松本くんと一緒に居るの!?」

本当にびっくりしたようだ。由梨は眼を何度も擦りながら二人を見比べる。しかし覆りようのない現実だ。
そして二人は口論になってる様だが、どこか嬉しそうな雄星の姿に由梨の孝志へ対する嫉妬心が増幅する。

「穂花ちゃんだけじゃなく、雄星まで……ほんとに松本くんってばズルイよ……でも──」

──男子とあんな言い合う雄星初めて見たかも……うん、ずっと居なかったもんね男の友達。
ムカツクけど、松本くんには少し感謝かな?


由梨は邪魔せずその光景を眺める事にした……が、少し離れたところで悲しい表情で佇む美咲の姿を発見する。

「アッシュさん、それから……」

「アルベルトだ」

「あ、はい……アルベルトさん、私、彼女の所に行って来ます。美咲は雄星と喧嘩してるから、一人だと可哀想なので……それでは失礼します」

由梨は二人に別れを告げ美咲の所へと向かう。
人間との社交的なやり取りに違和感を覚えるアルベルトだが、アッシュは適応力が割と高く、手を振りながら去って行く由梨に手を振り返していた。


「……やはり人間には慣れん」

「はは、そんなこと言って、人間に付き従ってんじゃねぇーかよ旦那は」

「強いお方だから従ったまでの事だ」

「そうかよ、魔王には従わなかった癖に……そんな旦那が強いからって人間の下に着くとかやっぱ意外だわ……なんの心変わりだぁ?」

「ふふ……主人様風に言えば、なんとなく……かな?」

「クク、何となく……ねぇ~」

「うむ、加えてミイルフ的に言えば、ビビッときた感じ……みたいな?」

「ははは、全然わかんねーわ!」

「ふふははッッ!」

アッシュとアルベルトは笑い合いながら話をした。二人ともまさかこんなに話が合うとは思っても居なかった。
今までは、ただ同じ十魔衆に属してるだけの関係でしか無かったが、これなら上手くやれる……二人は互いにそう思うのであった。




──だが、そんな空気が一変する。


「アッシュ……」

「ああ、来たようだぞアルベルトの旦那」

アッシュとアルベルトの二人は、孝志の攻撃で穴の空いた壁を見上げた──すると、そこには今さっき撃退された筈のカルマの姿があった。

あの攻撃で服はボロボロになっているカルマ……だが、ダメージを負っているにも関わらず、彼の放つ威圧感は先程までとは比べ物にならないほど禍々しいモノとして辺りに撒き散らされている。




「──さぁ、第二ラウンドを開始しよう……最強の勇者よ」

「……カルマよ」

「なんだいアルベルト、裏切った分際で」

「それは良いんだが、もっと声を張り上げないと聴こえないぞ?」



「……第二ラウンドをぉぉッッッッ!!!開始しようッッッ!!!!」

皆んなが一斉にカルマの方を向いた。






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