135 / 217
6章 勇者と、魔族と、王女様
孝志と雄星
しおりを挟む俺は重い足取りで廊下を歩いている……それも9名にも及ぶ大人数でだ。
来た時は僅か三人だったのにいつの間にか三倍に膨れ上がった……どうしてこうなるの?
因みに転移してから数分ほどしか経っていない。
にしても面子がまぁ酷い。
勇者二人、王女一人、元魔族幹部が二人、メイド三人、見ず知らずの少女が一人。
イカれた組み合わせのグループとしか思えない。
購入したRPGソフトの中身がこれだったら棄てるね。
そして何が一番キツイかって?
さっきから橘のボケが、うざ絡みしてくるのがマジでダルい。再会してからずっと俺に向かって喋り掛けてくるんだけど?
「──松本、この剣を見てくれ……ほら、光輝いてるだろ?カッコよくないか?」
「うん、すごいな……」
「そしてこの靴……ほら靴だよ、靴。なんか魔力を安定させたり出来るらしい……良く分からないけど、まぁとにかくすごいだろ?」
「おお、いいね。ハハ」
「そしてこれがハイポーションだ。魔法使いみたいな女の人に声を掛けたらくれたんだ……青くていいだろ?」
「おお~、透明な青……はは」
「そして松本観てくれ!この護身用に暗殺者の少女から貰った黒塗りのダガーを!命を刈り奪る……形をしているだろう?」
「お、かっこいいーねーははは」
──もうウザいウザいウザいっ!!クソボケカス!!
どうでも良い自慢話ばっかりして来やがってっ!!殺すぞっ!!
それに何がハイポーションだよ、俺は獣人国へ出発する前に10本近く用意したわ!!
……ダメだ血管壊れそう。
コイツと話してると本当に頭おかしくなる。
絶対面倒臭い事になるから、他のヤバい奴らと話す時みたいにモノを言うのも嫌だし、どうしようか……?
俺はこの中で一番頼れそうなアルベルトを観た。
本当はダイアナさんの方が頼れそうな気がするけど、あの人に迷惑を掛ける訳にはいかない。
目が合ったアルベルトは俺に近付き小さく耳打ちをしてきた。
──因みに橘雄星はいまだ自慢話を続けている。
『──主人様……どうされましたか?』
『いや、こいつ煩いからどうにかならんか?』
『え?あんなに話してらっしゃるのに、仲が良いのでは無かったのですか』
『絶対に良くない』
『そうでしたか…………ではどうしましょうか?』
『う~ん……そうだなぁ~……』
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』
『──殺しますか?』
『………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………止《や》めとこう』
『こ、これ以上ないほどお悩みでしたね』
これ以上ないほど悩んださ。
でもやっぱり嫌われてるとはいえ穂花ちゃんの兄だし、流石に殺すのはちょっと気が引けてしまう。
それに此処に橘が居るという事は、今魔族と戦って居るのは中岸さんと奥本と言うことになる。
中岸さんはまともな人なので、早く助けに向かった方が良いな。
仕方ないので、俺は橘の自慢話に耐えながら先を急ぐ事にした。
………………
………………
いや待てよ?
コイツもしかして、まだマリア王女の存在に気付いて無いんじゃないか?
あの王女は雄星を観た途端、上手いことメイドの後ろに隠れやがったからな。
どうせ今の俺の状況を観て陰ながら笑ってんだろ?
なぁ、おい?そうなんだろう?
……恨まれそうだけど、ここは卑怯王女に押し付けるか。
「──そう言えば橘くん!僕たちマリア王女と一緒にいるんだ!」
「なに?!本当か!!」
「ふぁっっ!!?」
喜ぶ橘、驚く王女。
マリア王女は驚いた後で凄い殺気篭った目で観てきたが、もう本当に精神が限界だから後は頼む。あとで土下座するから。
そしてマリア王女の存在に気付いた橘は、マリア王女に駆け寄った……
……が、マリアの前に居たど変態メイド二人が、橘の前に立ちはだかりそれを阻止する。
「……誰かと思えば、僕を裏切った二人じゃないか?よく僕の前に顔が出せたね?」
「それはこちらの台詞です、橘様。貴方の王族への無礼の所為で私たちは随分な目に遭いましたよ?」
「そうっすよ、刺激を求めて近付いたけど、あんたのは刺激のジャンルが違うっす」
「いや、人の所為にしないでくれるかい?君たちの場合、自業自得だろ?」
「「!!??」」
事実そうなのだ。
珍しい橘からの正論に二人は反論出来なかった。
ライラとケイトが怯んだこの隙に、橘雄星はマリアへ近付こうとするが、ここで孝志にとって予期せぬ事態が発生する。
「た、橘様!」
「ん?なんだいマリア?」
「ぐっ!(呼び捨て腹立つ!)」
でも怒りで我を忘れてはダメよ!
私をこんな勇者に売った松本孝志に復讐しなきゃいけないのだから……!
「──松本孝志様は、まだ貴方と話たりなそうよ?」
「ッ!?なんだって!?本当か!松本!」
「ふぁっっ!?」
なんでこっちに来るの!?
俺よりもあっちを優先しろよ!マリア王女見た目だけは凄く良いだろう!
──しかし孝志の願いとは裏腹、何故か嬉しそうに孝志の所へ戻ってゆく橘。
さっきとは真逆で、今度は孝志が殺気を籠めてマリアを睨むが、これこそ正真正銘、孝志の自業自得なので一切同情は出来ない。
「やれやれまったく……そんなに僕が知りたいなら教えてやろう……僕が君と比べてどれだけ凄いのかを」
「…………あざっす」
結局、マリアから自分へ興味の移り変わった雄星の話を、孝志は目的地まで聞き続けるハメになってしまった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
~ダイアナ視点~
「エミリア、話さなくて良かったの?」
私は知っている。エミリアが孝志様をずっと気にかけている事を。
でもようやく会えたと言うのに、この子は横目に観るだけで自分から話掛けようとはしない。
なので気になってエミリアに直接聞いてみました。
「……うん、私は勇者さまと比べて全然凄くないから」
「エミリア、孝志様はそんなこと気にしませんよ?」
推測ではなく確信を持てる。
孝志様はエミリアみたいな真面目な子が相手なら、優しく接してくれるでしょう。
なのにエミリアはぶんぶん首を振った。
「……婆さま、私は……今はまだ、こうして勇者さまの近くを歩けるだけで幸せです。そんなの絶対に無理だと思ってましたから、えへへ」
「……エミリア」
エミリアは恋する少女の眼差しで、橘様の話を虚な目で聴いている孝志様を見つめていた。
それを観て私はようやく気付かされた……エミリアが抱く感情はてっきり尊敬や憧れかと思っていたけど、あの目を見る限り何かがキッカケで、孝志様に恋してしまったようです。
しかし、相手が勇者さまだから無理だと、孫娘の気持ちを否定する訳にはいかない。
流石に橘様が相手だと考えますが、孝志様なら……
「エミリア……孝志様といつか話せると良いですね」
「…………婆さま…………うん!!」
私はエミリアの祖母として、この子に出来る限り協力しましょう。
0
お気に入りに追加
4,044
あなたにおすすめの小説
妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします
リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。
違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。
真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。
──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。
大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。
いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ!
淑女の時間は終わりました。
これからは──ブチギレタイムと致します!!
======
筆者定番の勢いだけで書いた小説。
主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。
処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。
矛盾点とか指摘したら負けです(?)
何でもオッケーな心の広い方向けです。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
やっぱり幼馴染がいいそうです。 〜二年付き合った彼氏に振られたら、彼のライバルが迫って来て恋人の振りをする事になりました〜
藍生蕗
恋愛
社会人一年生の三上雪子は、ある日突然初恋の彼氏に振られてしまう。 そしてお酒に飲まれ、気付けば見知らぬ家で一夜を明かしていた。 酔い潰れたところを拾って帰ったという男性は、学生時代に元カレと仲が悪かった相手で、河村貴也。雪子は急いでお礼を言って逃げ帰る。 けれど河村が同じ勤務先の人間だったと知る事になり、先日のお礼と称して恋人の振りを要求されてしまう。 ……恋人の振りというのは、こんなに距離が近いものなのでしょうか……? 初恋に敗れ恋愛に臆病になった雪子と、今まで保ってきた「同級生」の距離からの一歩が踏み出せない、貴也とのジレ恋なお話。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる